入れ替わりシチュ2本
1
「こんにちわ、朝陽先輩。遅かったですね」
「……お疲れ様です…"先輩"」
「こらこら、外では君が先輩で僕が後輩だよ」
放課後の文芸部の部室で2人きり。
ニコリ、とほほえむ"自分"の笑顔を見てこめかみを抑える。
「…いいじゃないですか。誰も来ていないんですし…。っていうかなんでそんなに慣れちゃってるんですか」
「いやいや、最初は悲観していたがよくよく考えたら何も問題ないな、と思ってね」
僕、霧雨太一は文化部所属の男子高校生だった。
昨日の部室の大掃除中に脚立から足を滑らせた部長の日向朝陽先輩の下敷きとなり…気が付けば身体が入れ替わっていたのだ。
今日1日はなんとか日向朝陽としてやり過ごせたのだが…。
(いや、やり過ごせてないか。授業全然わからなかったし)
というか、いま先輩は何て言った?問題ない?
「え?も、問題ない?」
「そうだ。私にとって女性というのは枷でしかなかったからね。私の夢は世界を旅することなんだが…」
女性であることで危険にさらされることはあり、国によっては宗教による制限、さらに身体は1月に1回不調になる…とつらつらと述べられた。
「え、つまり先輩は戻る気がない、ってことですか?今日は戻る方法を探そう、という流れだったと思うんですけど」
「そのつもりだが…君は嫌なのかな?」
「そ、そりゃそうに決まってるでしょう?」
「そうなのか、君は私に好意を寄せてくれていると思っていたのだが」
「…そうですけど。……だ、だからといって身体だけ寄こされてもこまります」
目の前の自分は首をかしげる。
なにか行き違いがある、みたいな表情だ。
「何を言っているんだ。私も君のことは少なからず好意を持っているんだよ。こうなった以上、君のことは一生面倒を見る気でいるよ」
「なっー」
「不便な身体を押し付けてしまったことには変わりがないからね」
両腕をつかまれ、まじめな顔でプロポーズされた。
顔がカッと熱くなる。
「な、なー」
「こちらとしては結婚しても構わないと思っているが、君がやりたいことがあるならそれを最大限サポートしよう。……女性に厳しい職業が夢だったのであればすまない、としかいいようがないのだが。それにー」
「そ、そ、それに?」
ムニッと慣れない感触が胸から伝わってくる。
視線を下げてみれば、制服の上から握るように置かれた手。
「もうすでにいろいろ楽しんでいるようだし…?」
おそらく僕の顔は真っ赤になっているのは間違いないだろう。
「な、なにを…言っているのか…」
「おや、私の自慢の1つがこの胸なのだが。昨日触っていないのかい?」
「………………………触ってないです」
「君は嘘を付くのが下手だね。私の身体を穢してしまった責任は取ってほしいかなぁ?」
自分の顔が近づいてくる。
僕は何も考えられなくなり、目をキュっと瞑った。
ーーー
2
「キヨヒコ。寒そうだね?」
「…おう、フタバ。ものすごく寒い。足が寒い」
「タイツ履いてんじゃん。あったかいでしょ?」
「こんなの薄いので満足できるわけねえだろ。そもそもスカートだってほとんど外気入ってくるし…女子はみんな文句言った方がいいぞこれ」
俺と入れ替わったフタバはニヤニヤしている。
女の子って大変でしょ、と言わんばかりの笑顔だ。
「ジャージはいていいか?」
「ダメ。私にズボラなイメージを付けないで」
フタバにぐいっと引っ張られ、背後から抱きしめられる恰好になる。
ペタペタとお腹周りを触ってくるフタバ。
傍から見たらカップルがイチャイチャしているだけに見えるだろう。
「おい、やめろよ」
「うんうん、ちゃんとウォーマーつけてお腹は暖かくしてるね。髪の毛も…ちゃんと手入れしてるし」
クンクンとにおいをかいでくるフタバ。
むず痒すぎる。思い切って離れようとするが、片手で抱え込まれてしまってされるがままの状態だ。
視界の端、車道をはさんで反対側にフタバと俺のクラスメイトがこちらを見ているのが確認できた。
「どう?女の子が大変だって身に染みた?」
「ま、まあ。身だしなみは男の数倍時間をかけているんだなってわかったよ。女子同士での品評会みたいな会話もこりごりだ」
事の発端は女はいいよな、男に比べて…というよくある会話だった。
ヒートアップしたフタバが変な骨董品レベルの本を使ってお互いの身体を入れ替えてしまったのだ。
「…で、いつ戻してくれるんだよ」
「んー、あと数日後かな。女子の一番大変なこと、教えてあげる」
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