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2021/01/03

長い間放置されて「命」を持ったマネキン2体とカップル

 「美冬のやつ、なんでこんなところに…」


スマホに届いていたのは俺の彼女、美冬からのメッセージだった。

部室棟の端にある演劇部の倉庫、そこで待っている、という内容だった。

そんな突拍子もないことをする彼女ではなかったはず…どちらかというと優等生で、恋人としての付き合いも節度がある…悪く言えば遅々として関係が進まないようなもどかしさもあるそんな感じだ。


期末テスト前ということもあり、部活動は一切行われておらず、人の気配はまったくせず静まり返った廊下を進む。

ちょっとだけ深呼吸をして倉庫となっている教室の扉に手をかける。

鍵はかかっていなかった。少しだけ音を立てながら扉が開いた。


「美冬」

「あ、やっと来てくれた。来なかったらどうしようかなーって思ってたよ」


窓際にある丸椅子に座っていた美冬はニコリ、と笑う。

真面目で通っている、学校では決してしない無邪気な笑顔。

お互いの家で勉強しているときとか、デートしているときとか。

そのときにしか見せない笑顔だった。


そんな笑顔を学校で見れることに俺は内心新鮮さと嬉しさを感じつつも、言いようのない、小さな不安は拭えなかった。


「急にどうしたんだ?鍵はどうやって?…なぜここに?」

「んー?演劇部のお友達に借りたんだよ。…たまには学校でもお話したいなって」

「………」


2人が付き合っていることはクラスメイトには言っていない。

登下校を一緒にすることはないし、クラスも違うので今のところはバレていない。公にするとからかわれるし、浮ついてしまうからと言って秘密にしようと言ってきたのは美冬なのだが。


「ね、そこ座って」


美冬が立ち上がり、大道具のソファへ向かう。

俺は頭をかきつつ、扉をしっかりと閉めてからソファへ。


多少…ホコリ臭い部屋を見回せば演劇で使うのであろう大道具や小道具が転がっている何種類ものカーテン、机、椅子、背景。

中には壊れてしまって処分待ちなのか放置されているのかわからない家具も転がっている。


ソファに腰を下ろす。

美冬も俺に密着するように座ると、俺の肩に頭を載せて体重をこちらへ預けてきた。彼女の小さな身体の感触と、心地よい重みを感じる。


俺の膝に彼女の手が載せられた。

学生ズボンの上から軽く触れつながら、きゅっと掴んでくる。

家でも、どちらかと言えば奥手で美冬から積極的にこうしたスキンシップをとってくることはあまりなかった気がする。


俺も健全な少年であり、もちろんそういった事をしたくないというわけではなく、どちらかと言えば興味があるほうだ。…だがコレはお互いの同意があってこそであり、俺は彼女の望むように付き合ってきたのだが。


「…なあ。本当にどうしたんだ?」

「別に…たまにはいいかなって」

「何か悩みでもあるのか?その…ご両親と喧嘩したとか」

「もう!じれったいなあ」


ぐいっと顔を近づけてくる美冬。

ふわり、とシャンプーの香りが漂ってきて俺の心臓の高鳴りは激しくなっていく。

これは、キス…できるのか?

美冬がこちらを向いたまますっと目を閉じていく。

艷やかな唇はほんの少しだけ開いており、俺がすることを待っている、そんな様子だ…が…。


ふと、なにかが気になった。

なんだろう、誰かに見られているようなそんな感覚。

どこかから、人の視線を感じるような。


「………?」


ふと、ソファの真正面、どこかしら壊れている小道具が積み重なった山の前にマネキンが目に入った。

マネキンを立たせる土台は割れてしまっており、立たせることができないようで粗大ゴミのように横たわっている。

何も衣服を身につけていないマネキンは日光によってその表面は紫外線焼けしており、いつから教室に存在しているのか、わからないほど古く感じられた。


なぜ気になったのか、といえばそのマネキンの顔…といっても無機質で滑らかな、目も鼻も口の位置だけがかろうじてわかるその凹凸が、はっきりとこっちを見据えていたからだった。


先ほど感じた視線はコレではないか、と思わせるほどにー


「ねえ、もう!待ってるんだけど…?」


苛立った感じで美冬がこちらを見ていた。


「あ、ああ…ごめん」


チュッと水分を含んだ音。

美冬は我慢できなかったのか、ほうけていた俺の頬に軽く口づけをする。


「これ、気になる?」


ソファから立ち上がり、俺が見ていたマネキンの前へ歩いてく美冬。


「いや、気になるというか…いろんな小道具があるなって見ていただけで」

「そうなの。確かに色々あるよね…この学校の演劇部は創立当初からあるみたいだし」


美冬が足元に転がっているマネキンを、スカートから伸びる綺麗な足でコツン、と蹴った。

バランスを失い、横向けでこちらを見ていたマネキンがバタン、と仰向けに転がった。


「おいおい、他人の部室の道具を荒く扱ったら駄目だろ」

「ーいいのよ。ここに積まれているのはそんな、十何年も使われることなく、捨てられることなく。誰も気にすることのないゴミの山なんだから」

「…詳しいな?」

「って演劇部の子が言ってたから」

「それでも蹴ったりしたらかわいそうだろ?」

「かわいそう、かな。そう思う?」

「…まあ」

「そっか。例えばこのもう1つのマネキンがあるんだけど」


美冬は部屋の隅に置かれているマネキンを指差す。

まだ使われているのだろうか、魔女の衣装を着せられて佇んでいるが。


「…いつか使うかもってずっと置かれているの。こんな埃っぽい衣装…もう誰も着ないのにね」


よくよく見れば表面はうっすらとホコリにまみれており、ところどころ虫食いのような穴があいていた。


「誰にも見向きをされず…ね?見てあげて」

「見てあげ…る?」

「ええ。ほら、マネキンにも表情があるのよ」


俺は美冬に引っ張られてマネキンの前に立たされる。

表情…といっても眼球や口があるわけでもないただのマネキンにそんなー。




その後、僕は美冬を強く抱き寄せ、彼女の唇を強く奪い、久しぶりの感覚を楽しんだあと、その部室を後にした。

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