Author : danna (だんな) / danna_story
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2020/08/11

寝るたびに何かが書き換えられていく呪い(1-3)

 なんだよこれ。

ある朝、洗面台の前に立った俺の目に写ったのは
昨夜と全く違う髪型をした俺だった。

肩まで伸びた髪の毛。
耳は当然のように覆い隠され、頬の輪郭を隠すほどに伸びた髪の毛は揺れると軽く触れてくすぐったい。
前髪はまっすぐ切りそろえられてぱっつんになっている。
髪の毛の質もツンツンの硬目だったはずの髪の毛は、細くサラサラの流れるような髪質に変わっていた。

まるでこれじゃあ女の子みたいな…。
とにかくこんな髪型では学校にいくわけにはいかない。
まわりから笑われてしまう。

俺はキッチンばさみを持ってきてバッサリと落とそうとするが…。

「な…なんだ?これ?」

まるでハサミが駄目になってしまったのかと思うぐらいに髪の毛が切れない。
バリカンを持ち出してみるが結果は同じだった。
見た目や触り心地は髪の毛そのものなのに、それを取り除こうとすることは一切できなかったのだ。

「おにい?さっきから何バタバタしてんの?」
「わ、うわ、見るなよ!」

慌てて髪の毛を手で隠そうとするが、そんな俺を見ても妹の亜紀は驚くことなく、訝しげな顔をするだけだった。

「…?なにしてんの、おにい?髪型決まらないん?」
「え…あ…?」

呆然として手をおろし、その髪型をあらわにしたが、亜紀の表情が変わることはない。まるでこの髪型が当然、いつもの日常と言わんばかりの態度だ。
そして気がつく。

(この髪型、亜紀とそっくりじゃないか)

髪型だけ瓜二つになっていることに気がついた。

「亜紀…。俺の髪…変だよな?」
「はぁ…?いつもどおりじゃん、なにいってんのさ」
「…そ、そうか…」
「早く場所交代してよね。おにいとちがって私は時間かかるんだからー」

そういいながら亜紀はリビングの方へ戻っていった。
俺は再度、恐る恐る鏡を覗くがそこにはやはりおかしな髪型をした自分が立っているのだった。

俺の髪型を見ても父親も母親も、何も言わない。
もしかして、家族全員、俺の髪型を普通だと思っているのか?

学校へ行っても問題ないのかもしれない、と思ったがさすがにその勇気は出せない…というかそもそも切ることもできない髪の毛に恐怖を覚えた俺は、体調不良を母親に伝え、休むことにした。

特に疲れていなくても、眠くなくても横になっていれば自然に睡魔がやってくる。
俺の意識はゆっくりと沈んでいった。

ーーー

…どこだここ?
あたり一面真っ暗闇。
光が一切っ見えないなか、自分の体だけははっきりと見ることができる。
夢の中だと言うのに髪の毛は…長くなったままだった。

「なんだよここ」

歩こうにも1歩先に道があるのかもわからない。
動くことを躊躇っていると…。

『おや、早いですね…』

聞いたことのない声が響いてきた。

『ま、契約は契約です。ここに来てしまった以上は遂行させていただきますが…』
「な、なんだよ。誰だよお前」
『おや、覚えていらっしゃらないのですか…。昨日も散々説明したでしょうに』
「…き、昨日…?」
『ああ、そうでした。人というものは夢を忘れやすく出来ているのでしたね。仕方ありません、今から説明することは忘れないようにしてあげましょう』
「は……?」
『依頼主様のご依頼により、あなたはここに来るたびに1枚カードを引く必要があります。そのカードに書かれている物が、あなたに降りかかります』
「い、依頼主?カード…?」
『では、どうぞ』

眼の前にカードが10枚ぐらいババ抜きのときのように扇状になってスッと現れた。

『引かない限りあなたは目が覚めることはありません。…この世界が気に入ったのならそれでも構いませんが』
「…まて、この髪の毛になったのは…このカードのせいだというのか?」
『ええ、あなたは昨日ここでその髪型になるカードをお引きになられました』
「こんな、女みたいな…」
『いえいえ、世間からみたら童顔気味のあなたにはお似合いの髪型だと思いますよ』
「…冗談じゃないぞ、依頼主ってやつのせいか…。誰だよ」
『昨日も申し上げましたが、それは教えられません。相当恨まれているようでしたがね』

そんなもの、心当たりがない。

『さて、カードをお引きください。前回みたいに数時間粘られても結果は同じですよ』

それきり、声は一切聞こえなくなってしまった。
残されたのは俺と、カードのみ。

………
……


どれくらい立っただろか。
暗闇の、音のない世界では時間の経過がわからない。
夢の中だというのに、どれだけ自分に痛みを与えてみても目が覚める様子はない。

ゲームの選択肢のように、選択するまで世界が止まっている、そんな感じだ。

「くそっ…」

俺は仕方なくカードに手を伸ばし、震える手で1枚引き抜く。

『衣服、を引かれましたか。ではそのとおりに』
「お、おい、待てー」

世界が黒から白に塗りつぶされていく。
俺もカードも、その光に覆い隠されてー。

「はっ…?」

目を覚ます。
いつもの天井、いつもの部屋だ。
風邪のときのように身体が汗だくになっていた。

いやにはっきりと覚えている夢だった。
俺はむくり、と起き上がる。

「衣服…ってこういうことかよ」

見下ろした視界に、見慣れない柄の布地が目に入った。
今日は制服に着替えなかったので、寝間着のまま寝ていたはず。
なのにいやにすべすべとした素材の服、全身を1枚の布地ですっぽり覆うような長い丈…。
スウェットの上下は見る影もなく、ワンピースのネグリジェに変化していたのだった。

「おいおい…」

慌てて立ち上がりクローゼットを開け放つ。
どちらかというと白や黒のモノトーンで揃えていた俺のシャツやズボンは跡形もなく消え去っており、そこにあったのは色とりどりのひらひらとした布地の服や、スカートそして短すぎるショートパンツばかり。

一番端にかかっていたはずの黒の学生服は…紺色のセーラー服に置き換えられていた。

慌てて引き出しを引っ張る。
靴下は無難なものばかりだったはずなのに、どれもワンポイントやフリル、折返しがついた可愛らしいものばかりに。
そして下着は…すべて女物のショーツに変化していた。

「…ん…?」

そこでようやく、胸の周りを締め付ける違和感に気がつく。
なにかピッタリとしたものが張り付いているような感覚。
脇の下あたりに触れている布地がくすぐったい。

「まじかよ…」

男がつけるはずのない下着、ブラジャーがそこにはあった。
ぴったりと俺の身体にフィットしているサイズのものが。
当然だがカップ部分には空間ができていて、スカスカである。

履いていたトランクスも、当然とばかりにピッタリとフィットした女性者のデザインに変わっていた。女性では想定していない股間の膨らみのせいで、布地が変に伸びてしまっている。

『依頼主様のご依頼により、あなたはここに来るたびに1枚カードを引く必要があります。そのカードに書かれている物が、あなたに降りかかります』

謎の声の言っていたことを思い出す。
ここに来るたび…?
…これで、終わりじゃないのか。まさか、そんな。
 

いやいや、こんなのありえないだろ。

所持していた衣服がすべて女性物に変わってしまったクローゼットと呆然と見つめる。
眠っている間、ほんの数時間で誰かが入れ替えたというのだろうか。

「…しかしこれは」

見てられない。自分の女装姿というものは。
サイズはどうなっているのかしらないが、骨太で肩幅の広い男の体型というものが不格好に見えてしまう。
だが…着替え用にも。

「…なにかないかな」

すべてが女性物になっているとはいえ、ユニセックスなものがあるかもしれない。
引き出しをすべてあさってようやくTシャツのようなものを見つけた。
(丈が異常に長いけど…まあしょうがないか)

着ていたネグリジェを脱ぎ捨てると下着だけの格好となる。
なるべくその情けない格好を見ないようにして…とふと上のブラジャーを外せばいいのではないかと気がつく。

(そうすればとりあえずは…)

女性者の下着に対する知識は乏しいが、外し方ぐらいは…わかる。
手を後ろに回してなんとか引っ掛けてある部分を外すと、ブラジャー全体から感じていた身体の圧着感がふっと軽くなる。
…と当時に感じたことのない言いようのない不安が襲ってきた。

(なんだろう、コレを着ていないと頼りないというか)

いやいや。そんな馬鹿な。俺は男だぞ。
ブラジャーを視界に入れないようにしてベッドの方へ放り投げる。
取り出したTシャツは着てみると膝あたりまで伸びているいわゆるTシャツワンピースだったのだが、この際妥協することにした。

(っていうかパンツの類が全然ねぇじゃないか…)

ボトムはなぜかジーンズやハーフパンツといった物が存在せず、スカートや短パンのようなものばかりだった。
スカートを履くのは憚られたので、デニム素材の短パンを身につける。
Tシャツの下にすっぽりと覆いかぶされてしまって履いているかどうかわからないが、気持ちの問題だ。

…さて、時計を見れば12時近い。
親も仕事に出かけてしまっており、しんと静まり返っている。
リビングのテーブルの上にはお金が置かれておりコンビニとかでなんとかしなさい、と書いてあった。
…仮病だということがバレているということか。そりゃそうだ。

千円札をポケット(女物っていうのは不思議でまた異様に小さいポケットだった)にねじり込み、玄関へ向かう。

「靴もご丁寧にこれもレディースデザインになってるじゃねえか…」

スニーカーを履いて扉に手をかけたとき、身体全体が外へ出ることを拒否した。それに伴い襲ってくる不安感と羞恥心)

(な…なんだろう。なにかわからないけどこのまま出てはいけない気がする)

もちろんこの格好自体が普段している男の格好からかけ離れている、というものではあるのだが、髪の毛同様に誰もがその異常に気が付かない…というか日常と感じてしまうのであれば問題ないはずだ。
多少の不安はあるが、今この身体を覆っている不安はもっと別の物である気がした。

そしてふと、先程ベッドに放り投げた下着のことを思い出す。
それを思いついた瞬間、身体が安堵に包まれる。
(…まじかよ)
まるで身につけ忘れていますよ、という警告のようだった。

………
……


決死の覚悟で再びブラジャーを身に着け直した。
玄関に手をかけると、今度はなんの抵抗も感じることなく扉を開けることができた。

(くそ、マジだった…)

下着を見に付けていないと外へ出歩く時に言いようのない焦燥感に襲われ続けるということか。
誰もいないか扉からひょっこりと頭だけを出し、近所の人がいないことを確認してコンビニへ出かけることにした。


誰かに知り合いに見つかったらどうしようか、と思っていたが、
家においてあった大きなマスクをしてみると…。

「…これはいいかもな」

髪型と服装だけを見れば少女のように見えなくはない、と考えマスクを身につけてみたが正解だったようだ。
目元がちょっと力強い感じがするのを除けば、女の子にしか見えなくもない。
正直そう見られる事自体抵抗がないわけではないが、「俺」という認識をされてしまうことは避けたかった。妹や両親だけまともに見えてしまっている可能性もあるのだから。
まあこんな髪型と服装をしてたら俺だと分かるはずも…

「おや?キヨヒコ君じゃないか」

会計のとき、店員に即バレた。
よくみれば近所のおじさんだ。
俺が返事ができないでいるとおじさんはニヤリと笑う。

(や、やっぱりこの格好は…)

「ははん、サボりだな?まあ受験が近いと言っても毎日毎日勉強ばっかりしたくないってのは理解できるからな。おっちゃんは黙っといてやるよ」

…どうやら赤の他人から見ても俺の服装や髪型は「正常」に見えるようだ。
安堵したような、そうでもないような複雑な気持ちで俺は帰路についた。

ーーー

結局なんの打開策もないまま時間だけが過ぎてしまった。
この格好のまま両親たちと夕飯を食べたが、いつもの数倍の速さで飯をかきこみ、そして逃げるようにして部屋に戻ってきた。

ベッドに腰掛けて床を見つめる。
…あの声は依頼者、とか言っていた。
俺をこんな目に合わしている依頼者に、この変な現象を止めさせるしかない。これ以上変になる前に…なんとかしないと。

思い出す限りではあの暗闇の世界に行ってしまうと、つまり寝てしまうと俺はあそこでカードを引かざるを得なくなる。
被害を抑えるためには寝ないようにするのが最善なのだが、そんなことは無理に決まってる。
あのとき目の前に現れたカードは10回ほどで引ききってしまう、そんな枚数だった。
…どんなことが書いてあるかもわからない、恐怖でしかない。

「くそ、どうしたらいいんだよ」

寝てはいけない、とわかってはいるが脳や身体は定期的に休みを欲する。
瞼は徐々に重くなっていき、身体は横になろうとする本能と、それに抗う理性でグラグラと揺れる。

(…ああ、だめだ。もう………)

ーーー

ぱち、と目を覚ます。
太陽が昇り、部屋に差し込んだ朝の光が部屋を明るくする。
いつもの部屋、いつもの天井。

(……なにもなかった?)

寝れば確実にあの暗闇の世界に行くわけではないのか。
俺は進行しなかった症状に感謝し、起き上がる。

「………?」

なにか違和感があった。
いや、髪の毛だったり身体にぴったりとくっついた下着だったり違和感だらけなのだが。
それ以上になにか違う、という違和感。

(…わからん。なんなんだ、一体…)

今日も仮病、というわけには行かないだろうな…。
いくしかないか、と頭を振って目を覚ましながら廊下へ出る。

「あ、キヨ。起きたの?珍しいじゃない」
「……あ?」

俺に話しかけてきたのは妹の亜紀…だった。
だけどその雰囲気、態度はどことなくいつもと違う。
いや、雰囲気だけではない。亜紀の見た目も違和感がある。

「亜紀、お、お前背伸びた?」
「お前~?」

俺のセリフに眉をぴく、と動かして怒りを顕にする。

「な、なんだよ」
「なんだよ、じゃない。キヨ、あんた姉に向かってそんな口聞いていいと思ってんの?」
「あ…姉?」

何を言ってるんだ、と言おうとして気がつく。
亜紀の身長が俺より頭1つ高くなっていることに。
周囲を見回す。

(亜紀の身長が高くなってるだけじゃない…。俺の身長も…縮んでる?)

縮んでいるだけではない。
腕や身体の線が、一回りも二回りも細くなって痩せている。

「まったく。ほら、早くご飯食べて準備しなさい。中学校遅れるわよ?」

いや待て、そんな事があってたまるか。
俺は高校生で…亜紀が中学生だったはずだろ?
いや、そもそも昨日俺はカードを引いていない。そんなこと覚えていない。

(…覚えてないだけで…引いたのか?)

考えてみれば最初の1回目(おそらく髪型の変化)も引いたときのことを覚えていない。
2回目は"説明のために覚えているだけ"の可能性。

「はは…そんな、馬鹿な」

俺はペタン、と座り込んだ。


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