「楓、一緒に帰りましょ」
「え、あ、うん。ちょっとまってて…み、美琴ちゃん」
放課後、HRが終わった途端にすぐ飛び込んできた美琴。
どうやら隣のクラスは早めに終わっていたらしい。
「おー、美琴さん。最近は前にもまして仲がいいね」
「えへへ、そうでしょ!」
「まるで恋人みたい」
「え?そうみえる?あはは」
クラスメイトの女子が美琴に話しかけてくる。
美琴の明るい性格ゆえに顔は広く、隣のクラスでも快く受け入れられている。
「ほら、早く早く」
美琴に手を引っ張られ、私はバランスを崩しながらも彼女の後についてゆく。
校門を出て二人きりになった途端、美琴は右手を絡めるように握ってくる。
「ちょ、ちょっと…」
「いいじゃない。昔はちゃんと手をつないで帰ってたのに」
「いや、あれは…」
美琴は意地悪そうな顔をする。
耳元にそっと口を近づけ、囁く。
「ー大丈夫、周りから見たら仲の良い女友達同士にしか見えないよ。キヨヒコ」
「お、おい…その名前は外では言わない約束ー」
右手にぎゅっと力を込められ、口ごもる。
しかたなく"俺"はその手を軽く握り返し、並んで帰り道を歩くことにした。
事件は数ヶ月前に起きた。
俺、キヨヒコと恋人の美琴、そして美琴の親友の楓。
3人で帰宅途中に俺と楓が事故に巻き込まれたのだ。
目を覚ました時、俺はと楓は病院で包帯を巻かれてベッドに横になっていた。
お互いの身体が、入れ替わった状態で。
ーーー
「調子はどう?楓」
俺…というか楓の身体には外傷はほとんどなく、すぐ退院となったのだが、一方の俺の身体は骨折がひどく一部は内臓にもダメージがあったため、まだ入院したままである。
月、水、金曜日にお見舞いに行くのが俺たちの今の日課だ。
「んー、大丈夫かな。元気だよ」
ニコリ、と俺の身体で笑う楓。
入れ替わった直後は憔悴しきっていた彼女も、今の状況をどうにか受け入れ、治療に専念している。
「"私"はちゃんと"私"をしてるのかな?キヨヒコ?」
「お…おう。大丈夫…だと思う、な。美琴」
「どうかなー。今日も足閉じて座るの忘れてたしなあ」
「…それは言わないって約束じゃなかったか」
入れ替わりのことは3人の秘密にしている。
これを公にすれば両親にさらなる心配をさせてしまうからだ。
俺の身体が回復次第、もとに戻る方法をなんとか探そうという算段。
…つまりそれまで"楓"として登校しなくてはいけなくなった俺は、十何年間の"男"としての生活を一時的に諦め、今時の女子高生というよくわからない生き方を強制させられているのだった。
「あはは…美琴ちゃんがいてくれて助かった、ほんと」
「それな…。フォローされまくりだよ」
男のガサツな生活では成り立たない女の子としての生活は、美琴がいなければ早々に破綻していただろう。
朝起きてからのやることや、お風呂での作業は男だった頃と比べると地獄のようにやることが多いし、1つ1つに丁寧さを求められる。
「まさか化粧する日が来るとは思わなかったよ…さすがに美琴にやってもらってるけど」
「あ、ほんとだ。上手いじゃない?」
じっと顔を見つめてくる楓。
鏡でもないのに"俺"の顔が目の前にあるというのは不思議な気分になるのと同時に、ちょっとドキドキする。
「うんうん、楓がすっぴんで学校行く、なんてちょっと嫌だからね」
「美琴ちゃんには感謝感謝、だよ」
「もとに戻ったときの為にちゃんと楓のイメージはできるだけ維持しとかないとな…って」
3人は幼馴染ではあるが、地味で目立たない俺や、活発ではあるが運動系の部活所属で着飾らない美琴と違って、楓はお洒落に人一倍の気を使っていた。
スカートの裾が変に折り目がつかないように座ったり…、あ、当たり前だが今の俺は女子の制服…楓が今まで着ていた制服をその身につけている。
「もうすぐリハビリが始まるし、それが終わったら退院だよ」
「…そうなんだ。おめでとう…っていうのもなんか変だよね」
楓と美琴が笑い合う。
俺は苦笑いをするしかない。本来であれば楓はもう学校へ通っているはずなのだから。
「じゃあ、今日は帰るね」
「うん、ありがとう」
楓に別れを告げて俺たちは病院をあとにする。
「…」
この状況になってから俺たち3人が揃っている時に敢えてしない会話があった。それは美琴と俺の仲のこと。
少し前ならどこどこへ行っただの、こんなことをしたとかしてたんだけど。
「楓のやつ、気がついてるのかな」
「…気にし過ぎだって」
ぎゅっと美琴の手が強く握られる。
身体は女になってしまったけど、美琴が好きだという気持ちは変わらないし、美琴も「外見が誰だろうと、キヨヒコが好き」と言ってくれた。
俺と美琴はその後、会話を交わすことなく当たり前のように美琴の家ヘ向い、彼女の部屋へ行く。
これからすることは楓にはとても言うことができない。
「ちゃんと私の言う通り、着てきた?」
「う…うん」
おずおずと制服を脱ぎ、その下に着ているシャツも脱ぐ。
楓がここにいたらなんて思うだろうか…とても見せられない。
楓の手入れが行き届いた肌が露となる。
美琴が買ってきてくれた黒をベースとした少し大人っぽいデザインの上下おそろいの下着。
さすがに恥ずかしくなってすこし隠そうとする姿勢になる。
「うんうん、よろしい」
美琴がニッコリ笑うと、同じように制服を脱ぐ。
「え…」
「えへへ、どうかな」
「どうって」
美琴が着ていたのは黒の下着。
というか今、俺が身につけているものとサイズは違いの全く同じものだった。
「ペアルックー」
「………」
俺は恥ずかしくなってしまって顔を背ける。
そんな俺の肩を美琴はぐっと押して、二人倒れ込むようにベッドへ。
女同士になってしまった今、運動部の彼女の力には抗うことができない。
美琴に両手を抑え込まれて、その肢体をじっと眺められている。
「…なんだよ」
「なにって。期待してるくせに」
「…楓の身体なんだぞ」
「もうそのセリフも何回も聞いた。楓もわかってくれてるって」
「………」
すっと美琴の顔が近寄ってくる。
普段であれば俺が主導権を握っているはずなのに、今は美琴が積極的にしてくる状況だ。
抵抗するすべがない俺は、瞳を閉じてその口づけを受け入れる。
唇と唇が触れ合ったかと思うと、ニュっと舌が口内へ侵入してくる。
そしてツンツン、と歯に軽いノック。
仕方なく隙間を開けるとそこから待ってましたとばかりに俺の舌に絡み合い始める。
少し前までは小さな可愛い舌だったのに、この身体になってからというもの、その舌は、自分のものと同じかそれ以上の大きさに感じる。
(んっ…)
そしてキスをされるだけで体中が火照っていくのは俺の身体では、なかった症状だった。血流がめぐり、ピリピリとすごい弱い電流が全身を覆っていく。
長い長いキスが終わると美琴は馬乗りのなったままこちらを見下ろす。
「はぁ…はぁ…」
「んふ、すっかり出来上がってるねー。"カエデ”」
「俺は…キヨヒコだよ」
「私の知ってるキヨヒコはこんなものぶら下げてたかなあ」
ムニュっとそのふくよかな双丘に手が伸びる。
「あんっ…」
「ほーら、その喘ぎ声のどこがキヨヒコなのよ」
この身体でこうしているとき、美琴はとても意地悪になる。
背中に手を回され、ホックを外されるとそこには美琴より大きな胸が現れる。
「まったく。彼女の胸より大きい彼氏なんて…ってもう出来上がってるじゃない」
あは、と笑う美琴。
ピンと大きく突き出た乳首が、美琴の前戯にどれだけ反応しているかを素直に伝えてしまっていた。
「うう…」
恥ずかしさと、楓への申し訳無さが心にのしかかるがそれ以上に、美琴と愛し合いたい、受け入れたいという気持ちが勝ってしまい、脳が何も考えられなくなる。
美琴がショーツの方へ手をのばす。
俺は引っかからないように、軽く腰を浮かせた。
………
……
…
ーーー
「ーって感じかなー」
「ふーん。本当にオンナを感じちゃってるね、キヨヒコ」
アハハ、という笑い声が病室を満たす。
今日は火曜日。
私が部活を遅くまでするから病室へ行かない日…となっている。キヨヒコにとっては。
私、美琴は部活を終えた後、軽くシャワーを浴び面会時間ギリギリの病室へ駆け込む。
挨拶もそっちのけでキヨヒコの姿をした楓の唇へキスをする。
「もう、美琴ちゃん。性急すぎ」
「ごめんごめん、我慢できなくて」
「うーん、まあいいけど。私の身体もちょっとそろそろ我慢できないし」
楓の悩みは、身体が治っていくに連れて高まっていく性欲だった。
普段感じたことのない、理性を奪いかねない男の凶悪な性欲に押し負けそうだったのだ。私の顔を見るとその欲求は更に大きくなっていったそうだ。
それを以前、それをキヨヒコが席を外しているときにこっそりと私へ告白してくれた。その悩む顔が愛しすぎて、キスをしてしまった。
そして立ち込める、ツンとした臭い。
慌ててキヨヒコが戻ってくる前に、早漏な身体の後始末をして…。
楓には明日また来るね、と伝えたのだった。
治りかけといえど激しい運動はできないので、基本的にはキスと、私が手で処理してあげるだけ…。
ようするに私は節操なく、二人を恋人にしてしまっているのだった。
キヨヒコの身体でそういうことをしてしまうことに対して、楓はキヨヒコに顔向けができないと考えていたようで、
「じゃあ楓の身体としてきていい?」という私の提案に対して、少し悩みながらOKをくれたのだった。…それはキヨヒコには伝えてないけど、そっちのほうが悩むキヨヒコが見れるから。
(まあ、中身は楓だけど…外見はキヨヒコだし)
キヨヒコには「外見が誰だろうと、キヨヒコが好き」と伝えてはいるが、別にキヨヒコの顔や身体が嫌いなわけではなく、むしろ好きである。
心がキヨヒコな楓の身体と、心が楓のキヨヒコの身体。
毎日楽しめて私はとても幸せ。
退院したら…この状況をキヨヒコに伝えて…そうね、3人でするってのも楽しいかもしれない。
「っていうわけで楓ともしちゃってたの」
って伝えた時、キヨヒコはどんな顔をするだろうか。
私はこれからの生活に思いを馳せ…幸せだと感じた。
0 件のコメント:
コメントを投稿