数時間後。
「…すいません、まさかご飯まで頂いてしまって」
『お姫様のお口にあうか、不安だったのだけどね』
(サラの貧乏舌なんだから大丈夫でしょ)
『なによ。失礼ね』
リラが着込んだ衣服の下からサラのくぐもったような声が聞こえてくる。
下着にされたリラは1週間何も食べていなかったので、食事を一口一口ゆっくり味わっていた。
「まあ…下着の姿だとお腹は減らないみたいだったのですけど」
(アップリケも減らないものね。ご飯を最後に食べたのはいつだったかしら…。お腹が減らないとは言っても食べたいという欲求はそのままだから困るわ)
『さて…。食べ終わったことだし、いろいろ実験したいのだけど』
「はい。何をすればよいでしょうか?」
『そうね。とりあえず下着を脱いでくれる?』
まずは脱いだら本当に元の身体に戻ることができるのか、
サラにはそこが重要だった。
なにせ魔力があっても、メルの魔道具の力があっても、当の本人が魔法について何も知らないということであれば、解決できる問題も解決できなくなってしまうからだ。
それどころかサラは何もできない、ただの布切れとして存在し続けなければいけなくなってしまう。
シュルシュル、と衣服を脱いでいき、マントと下着だけの姿となる。
「じゃ、じゃあ…脱ぎますね」
両手で下着の下に滑り込ませ、スッと下着を下げた。
ピタリ、とその姿勢で止まるサラ。
何処を見てるかわからない、焦点の合わない目になって数秒後。
「…あ。戻れたみたい」
下着を脱ぎかけの姿勢のまま、サラは自分が元の身体に戻ったことを確認した。
『そうみたいですね。私の視線がぐっとさがって…下着になってるのがわかります』
(ふむふむ。私の予想通り、着ているときだけ限定の魔道具みたいね)
「ひとまずは安心、かしら。さて次は…っとその前に服を着るわ」
裸マントの状態だったサラは慌てて衣服を着る。
次に、下着を机の上に丁寧に置いて、サラは知っている限りの鑑定魔法を使用して解析を試みる。魔法を唱える度にメルの艶めかしい声が頭の中に響いてくるが、無視する。
(はぁ…はぁ…サラ、もう、ちょっと無理…)
「んー。だめね。メルと一緒よ」
『一緒…とは?』
サラは説明する。
メルにどれだけレベルの高い鑑定魔法を唱えようと、素材がただの布、ということだけしか判別できなかったことを。
「姫様も、その…布切れってだけしか」
(巷の魔道具ならそれなりの特別な反応があるんだけどねぇ…。それだけあの銀色の魔獣が使う能力は特別ってことね)
「じゃあ次よ!次!」
サラは手に魔力を込めてメルを掴む。
ぐっとキレイに、マントから引き離されたメル。
(ちょ、ちょっとサラ?何を…)
メルの文句を無視して、サラはそのアップリケをー。
(ま、まってちょっとそれはー!)
『ひ、ひやああ!?』
ぐにっと、黒い下着に押し付けた。
2人の悲鳴がサラの耳を攻撃する。
「あら、だめかしら。中に入れてみようかな」
(むぐっーや、やめっ…汚ー)
ぽいっと下着の中へ放り込む。
「どう、入れ替わった?」
『い、いえ…なにも…変わってないと思います』
「だめかあ」
(なにすんの!さっきまであんたが履いてた下着に突っ込むとか!汚いでしょ!)
『ご、ごめんなさい…私、汚いですよね…』
(あ、違っ。姫様、違うんです!)
『ううっ…。人の汚れた部分を隠すような布切れですものね…』
(ち、ちがくて!汚いのはサラのお尻とかで!)
「失礼な」
サラは口を尖らせながら、アップリケを下着から取り出し、マントへくっつけた。
せめて拭きなさいよ…と愚痴るメルを無視する。
「となると、やっぱり人じゃないとだめってことかな?」
(たぶんね。…いえ、もしかしたら着用できるなら。例えば…人形とか)
「ふむ…でも人形に移っても動けないなら意味ないよね」
(そうでもないわよ。魔力があれば動かせなくもないわ)
「うーん、それでも普通のお人形じゃ動かすのに効率が悪すぎるわ。魔力に特化した人形じゃないと…でもそんな都合のいいお人形なんて、あるわけないしー」
『ありますよ』
「へ?」
(知ってるの?)
リラの予想のしなかった返事に驚く2人。
『ええ。たしかこの国から西へ…3つぐらい山を超えたところにある国なんですけど…私のお友達のアルカちゃんが持っていたと思います』
アルカちゃん。
聞いたことなあるようなないような。
サラとメルは首をかしげる。
(あ、もしかしてアルカ姫…のこと?)
「そういえばいたわね、そんな名前のお姫様」
確か数年前、大きな事件があって学校でも話題になっていたような。
『私、アルカちゃんとお友達で…。ちょっと前にそんなお話をしたばかりなんです。なんでも魔力で動く、アルカちゃんそっくりのお人形があるって。もしかしたら貸してもらえるかもしれません』
「…ま、1から作る時間と手間を考えたら…一か八か頼んでみるのもありね」
3人は翌朝、そのアルカ姫のいる国へ旅立つのであった。
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