あるところに、とてもとてもおしゃれ好きな魔女がおりました。
彼女は美しく、そして可愛い服を魔法で生み出していきます。
しかし、彼女は悩みに囚われてしまいます。
自分の頭の中にある服のイメージを全て出し切ってしまったのです。
どれだけ頑張って生み出しても、今までに出したことがあるような服ばかり。
その悩みは日に日に増していきます。
もっと魅力的な、もっと綺麗な服が欲しい。
誰もが羨むような服を生み出したい。
魔女はたまらず森から飛び出しました。
数百年ぶりに城下町の上空を飛び回ります。
みんなが着ている服はどれも同じような既製品でした。
年月がたったことで大量に同じような衣服が出回るようなっていたのでした。
たまに見かけるお金持ちの貴族が着ている服も、彼女から見れば平凡で取るに足らないゴミにしか見えないのでした。
ですが、魔女は気がついてしまったのです。
平凡な服を着ているだけの女性たちがとても輝いていることに。
魔女は街のハズレで洗濯をしている女性に目をつけます。
質素な服でところどころにはほつれがある服を着て、家事をこなしている姿。
服はみすぼらしいけど、やはり彼女はとても輝いて見えました。
魔女はつい我慢できずに、魔法を唱えます。
その対象はもちろん家事をしている女性。
きらきらと輝く光の塵が、彼女の周りを取り囲みます。
家事に集中していた彼女はその異変にようやく気が付きます。
いや、もしかしたらただのホコリと思ったかもしれません。
彼女がその光の塵に手を伸ばそうとした瞬間、その場から彼女が跡形もなく消えたのでした。
消えた彼女の代わりに地面に落ちたのは、鮮やかな赤い色のドレスでした。
魔女は地面に降り立ち、その赤いドレスを拾い上げます。
ドレスの形も、施された装飾もとてもとても満足がいくものでした。
赤いドレスが震えたように見えました。
いえ、もしかしたらただの風だったかもしれません。
魔女はその赤いドレスを腰にぶら下げていた小さな袋の中にしまいます。
その小さな袋は魔女の部屋にあるクローゼットにつながっています。
赤いドレスは彼女のコレクションの1つとなり、ラックに吊るされることになったのでした。
魔女はその場を立ち去ります。
残されたのは彼女の家事に使っていた道具だけ。
母屋のほうから女性の名を呼ぶ幼い男の子の声が聞こえますが、魔女はそんなことに興味はありません。
魔女は誰にも見られること無く、再び空に舞い上がりました。
次に目をつけたのは酒場の準備をしている若い女性でした。
仕事を終えた人たちを迎えるためにせっせと机を吹いたりしています。
魅力的に見えた彼女を魔女はためらいなく魔法を掛けます。
女性の姿があっという間に綺麗な青のスカートへ姿を変えました。
その青は魔女が今まで生み出したものより遥かに美しい色だったのでした。
魔女は満足そうにそのスカートを袋へ放り込みます。
「きゃ、きゃあああああああ!!」
おっといけない。
夢中になりすぎて誰かに見つかってしまったようです。
振り向けばカウンターの奥から驚いた顔で見ている女性がいました。
どうやらこの酒場のもうひとりの従業員のようです。
魔女はため息を付きます。
魔女にはその女性が魅力的には見えませんでした。
実際、その女性は先程の彼女に対して辛辣にあたり、イジメるようにこき使っていたのでした。
しかし見られたからには仕方がありません。
魔女は適当に杖を振り彼女に魔法をかけます。
ポトリ、女性がいた場所に落ちたのは汚い雑巾でした。
魔女はその雑巾をふわり、と魔法で浮かせると魔法をかけます。
こんなものはコレクションに必要ありません、でも無駄にするわけにもいきません。
雑巾はどこかの家庭の台所へワープしていきました。
魔女は満足気に頷きます。
これで彼女も新しい仕事に全うできるでしょう。
擦り切れ、破れてゴミとして捨てられるその時まで。
魔女は移動魔法を唱えます。
次の素敵な服を探しに行くために。
0 件のコメント:
コメントを投稿