2019/11/18

自由に入れ替われる2人

「ちょっと!!」

ドン、と大きな音と叫び声と共に教室の扉が開く。
そこにはゼエゼエと顔を赤くしつつ息を切らせた男子生徒。

その男子生徒の視線の先には、男子生徒に混じってスマホで遊んでいる女子生徒の姿があった。ポニーテールな髪型のその少女は一般的には美少女、と呼ばれて差し支えないほどの見た目をしている。

「お、サツキ悪い悪い!休み時間にゲームするって約束だったんだけど、急にウンコ行きたくなっちゃってさあ」

サツキと呼ばれた男子学生はその汚い言葉をあっけらかんと口にする少女(ユキ)を呆れた顔で見る。
周りの男子生徒たちはそのやり取りをいつものことだと思って気にしていない。
ヒソヒソと耳元でささやくサツキ。

(いいから!早くもとに戻しなさい!)
(いまそれがさ、いいところなんだよ。休み時間終わったら戻すからさあ)

そう言いながら椅子に乱雑に座っていた足を組み直す。
そこからチラリと健康的な太ももが露出する。
男子生徒たちの視線はその一瞬を見逃さない。

(ち、ちょっと。スカートから見えちゃうから…!)
(あー。わかった、わかったよ)

女子生徒が目をつぶって何かを念じる。
その数秒後、女子生徒が再び目を開き、現状を確認すると慌ててスカートの裾や姿勢の乱れを正した。
机の上に置かれたスマホをサツキが受け取ると、引き続いてゲームを続ける。
仲間の学生たちは、ゲームを代わりにやっていたいつもののこと、と思っている。

そう、サツキと呼ばれた男子生徒と、この女子生徒。
この2人はお互いの身体を交換できてしまうのだった。

家が隣で幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた2人。
その能力に気がついたのは小学生の頃。
そして高校生になった今に至るまでその不思議な現象は続いている。

「またゲームを代わりにやってあげたの?ユキのお人好しにもここに極まれりね」
「え…うん、そ、そうね」
「いい加減ビシっと言ってあげなきゃダメよ?」

ユキは男たちの群れから離れていつもの友達のところへ戻る。
そしていつもどおりに幼馴染への苦言と愚痴を展開するのだった。
ユキがその能力に対して本気で嫌がらないのには理由がある。
実はこの能力はどちらか一方が願い、もう片方が許諾しなければ発動しない入れ替わりなのだ。
今日は入れ替わった瞬間に男子トイレでパンツをおろした状態で座っているのにはさすがに驚いたのだが。

---

(…サツキ。今日から…いい?)

その数日後の夜。
ユキはベッドに寝ている状態で願う。
入れ替わりたい、と。
その願いは隣の家の幼馴染の脳内に届く。

徳田サツキはユキのその願いを断ったことはない。
返事の声が聞こえることもなく、そのまますっと入れ替わりは完了した。
どうやらサツキはテレビを見ながら筋トレをしていたようだ。
飄々としているようで、こうした自己鍛錬を欠かしていない。
寝る気満々だったユキだが、運動しはじめたばかりの身体はその欲求が0に近い。
しかたなくユキはサツキから聞いている筋トレの内容をこなすのだった。

(ん…。ああ、もう寝るところだったのか)

一方のサツキは急に真っ暗になって、シンと静まり返った部屋で横になっていることを把握する。
部屋は十分に温まって入るが、冷え性なユキの足先は冷たい。

「まったく…靴下履けっていつもいってるのに」

クローゼットから靴下を数枚取り出して履く。
その最中にじんわりと感じめた、お腹の痛み。
これが明日にでもなれば、歩くことすら苦痛になる痛みへと発展する。

ユキはその活発な見た目とは裏腹に、身体がそこまで強くない。
…そして生理がとてつもなく辛い。
薬が効きにくい体質なのか、痛み止めを飲んでもあの状態である。
思い返すだけで憂鬱にはなるが、サツキは弱音を吐かない。
なぜならこれは約束だから。
数年前に始まった生理が辛くて辛くてベッドの中で泣いていた彼女を守るために結んだ約束だから。

ユキの辛いときにはいつでも身代わりになる。
この入れ替わりの能力を使ってもいい、俺は拒否しない。
だが、そんな一方的な犠牲の押し付けはユキは承諾しなかった。
だから代わりに俺は、いつでもユキの身体を使わせてくれ、と言った。

その成立した約束をユキは律儀に守ってくれる。
だから、どんなタイミングでも俺の入れ替わりの願いを承諾してくれる。
俺はその能力を悪用するつもりはない。まあ、たまに好きな子をいじめるような、そんないたずらを仕掛けることもあるが。プールでの入れ替わりのときは戻ったときには少し泣きそうな顔をしていた。あれは悪いことをした。

ユキもそれをわかっていて受け入れる。
俺がユキの身体で真に酷いことはしない、という信頼がそこにはある。
俺はユキが入れ替わりを躊躇しないように、良心の呵責を覚えないように適度な入れ替わりを要求する。

「うー…いたっ…」

お腹をさすりながら、ゴロリ、と回転して楽な姿勢を探す。
うーん、そうだ次の入れ替わりの時は普段ユキが着ないような服を着てみようかな。フリフリのドレスなんか意外とお人形さんみたいで可愛いんじゃないだろうか。
そんなことを考えて気を紛らわさせ、睡眠に入るのだった。

2019/11/12

特攻スキル

俺はどうやら死んだらしい。
真っ白な地面とどこまでも続く地平線。
空も雲ひとつない、それどころか太陽も見当たらない…だが明るい。

そして目の前には面積の少ない服…というより布をまとった少女。
なんだろう、ここはあの世なのだろうか。

「失礼ですね。ここは私の部屋であり、そして転生の間でもあるんですよ」

そうかい。
で、俺はいったいどうなったんだ?死んだのか?

「ええ、あなたは数分前に死亡しました。ただ転生の抽選に当たりましたので」

転生。
本当にあるとは思わなかった。漫画とか小説の中だけの話だと思ってたぜ。

「ええ、ただしこれから転生する先は色々問題を抱えている世界です」

それを俺になんとかしろと?
ただの高校生だった俺に?

「もちろんスキルは差し上げますよ。好きなスキルを選んでください」

ほう。俗に言うチートスキルというやつかな。
何があるんだ?

「特攻スキルがありますね」

特攻?

「あなたの世界で言うカミカゼ的なものではなくて、条件を満たすと問答無用で倒せるスキルです」

なるほど。どんな特攻があるのだ?

「対カエル・石化特攻とかどうです?」

カエル。
転生先にもカエルという種が存在するのか。

「どの世界もだいたいテンプレから作成されていますからね。下手に尖った生物を作るとすぐ世界が壊れてしまうので…」

なんだそれは。
というかそんな対カエル・石化特攻って制限きつくないか?

「でも問答無用で、触っただけで石化させられますよ。カエル化魔法を持った冒険者と組めば無双ができるでしょう」

…いや。どうせ魔王とかその幹部は耐性もってたりするんだろう?

「…そうですか。ではこれはどうでしょう。対寄生・即死特攻」

寄生虫とか、人に憑依する幽霊に聞くのか?

「いえ、寄生されている生物に効きます」

うん、だめでしょ。

「虫を操る冒険者と組めば…」

そんな漫画の中盤に出てくる能力者みたいな冒険者嫌だよ。
燃やされたり、毒を散布されて虫が使えなくなるのは予想できる。
というかロクな能力がないな。もっとマシなのないのか?

「私はニッチなファンデッキを作るのが好きでして」

知らねえよ。
俺の第2の人生、そんな奇抜なコンボデッキにしないでくれ。

「最近は万能能力より、尖った能力を渡すのが女神の間でブームなんですよ」

…。
女神は人を転生させて別の世界の問題を解決させるのが仕事なのか?

「どちらかというと娯楽ですかね。世界を作りすぎて問題が山積みなんですがこうするとうまく解決できるかもーって」

…もういいよ。
次の能力を教えてくれ。

結局、女神から最後まで隠し持っていた「敵のスキルをコピーする」という能力を奪い取るようにして俺は転生したのだった。

---

パッと世界が変わる。
白一色だった世界は緑が生い茂る草原に変わった。
その瞬間に殺気を感じて俺はかわす。

1人の小さな幼女が俺の脇を駆け抜けていく。
その手には小さなナイフ。脇腹を少しかすめたその刃が、皮膚の表面、その薄皮を切り裂く。白いシャツが薄っすらと赤く染まった。
交わされた幼女はこちらを向き直ると腰に挿していた太刀を引き抜く。
その佇まいはまるで達人のように見える。平和な世界の高校生だった俺では勝てる気がしない…が。

「コピー・スキル!」

その瞬間、俺の目の前と少女と同じスキルが備わっていく。
剣術【達人】、瞬足、気配察知【上級】、回避【上級】
…よく初撃を躱せたな、俺。
いや、スキルレベルは十分高いように見えるけども、どうやらチート的なスキルは持っていないようだ。
落ちていた棒きれを拾って構える。
幼女が信じられないといった表情でこちらを見ていた。
そりゃ驚くだろうな。
一刺しでいけると思った相手が急に自分と同レベルの達人になったのだから。

研ぎ澄まされた感覚が幼女以外の気配を察知する。
幼女に対して太刀を向けつつ、後ろを振り向いた。

「新しい転生者かな?うかつだったね」

その男と目を合わせた瞬間、俺の身体はピクリとも動かなくなった。
見ただけで麻痺…?こんなチートスキルあるのか!?

「いやぁ、こんなスキル押し付けられた時はどうなるかと思ったけど、意外と使いみちがあるんだよねえ」

こいつも転生者…?

「ちなみに君、詰んでるから」

はっ…?
まさか…この傷?

目の視線だけをなんとか下へ向ける。
そこには信じられない光景があった。
高校生男子の平均並にあったはずの筋肉は消え失せ、ほっそりとした枝のような頼りない腕、骨と皮だけになってしまったような胸板。
それどころではない。
膝下までしか伸びていなかった草原の草は腰辺りまで伸びている…。
草が成長したのではない。自分の身長が現在進行系で縮んでいっているのだった。

「"妹化のナイフ"」

目の前の幼女がポツリと呟く。
…何そのふざけた名前。

「このナイフで切られた人間は、幼い少女に変化する。体格の適正化及び筋力の低下。そして"妹"属性の付与」

妹属性…?

「そして僕の能力。対妹・洗脳特攻」

は?

「妹属性を持った生物に対して、最優先の洗脳をかけることができるんだ」

普段なら使えなさすぎるスキルで一笑に付すところだが。
…見事にそのコンボは俺に刺さってしまっている。

「いやーこの世界に来て最初のダンジョンでそのナイフを見つけてね。手っ取り早くこの国の歴戦の将軍を妹にして、こうして新たに来る転生者を張ってたんだ。使えそうな能力を持ったやつがいたら手に入れるためにね…。で、君の能力は?」

…誰が答えるもんかよ。

「…"敵のスキルをコピーする"…です」

幼くなった声が、自分の口から勝手に発せられた。

「あはは。君が"妹"である以上、君の意思より僕の命令が優先されるからね。しかし使い勝手がありそうなスキルだね。あの女神、使えるスキルもってるじゃないか。採用」

採用…?

「そう、採用。今日から君は僕のパーティのメンバーだ。名前は…そうだな。リリィにしようか。君にナイフを刺したその子の名前はメルル…前はなんだっけオルランドゥとかごつい名前だったけど。そうだな。俺を兄、メルルを姉として認識しなさい」

「はい…お兄ちゃん。…メルルお姉ちゃん」

口が勝手に動き、身体も勝手に戦闘態勢を解いて、目の前の男に対して寄り添うように抱きついてしまう。
俺は必死にその目の前の男のスキル「対妹・洗脳特攻」をコピーして、使用してみるが…。
「妹」にしか効かないスキルは目の前の男にはもちろんのこと、姉として認識された"メルル"にも通用しないのだった。

「こら、勝手にスキルを使わない。お兄ちゃんが使ってもいい、っていうとき以外は使わないように」
「はーい、お兄ちゃん」

こうして俺の冒険は終了した。

2019/11/09

至高のコレクションを求めて

あるところに、とてもとてもおしゃれ好きな魔女がおりました。
彼女は美しく、そして可愛い服を魔法で生み出していきます。

しかし、彼女は悩みに囚われてしまいます。
自分の頭の中にある服のイメージを全て出し切ってしまったのです。
どれだけ頑張って生み出しても、今までに出したことがあるような服ばかり。

その悩みは日に日に増していきます。
もっと魅力的な、もっと綺麗な服が欲しい。
誰もが羨むような服を生み出したい。
魔女はたまらず森から飛び出しました。
数百年ぶりに城下町の上空を飛び回ります。

みんなが着ている服はどれも同じような既製品でした。
年月がたったことで大量に同じような衣服が出回るようなっていたのでした。
たまに見かけるお金持ちの貴族が着ている服も、彼女から見れば平凡で取るに足らないゴミにしか見えないのでした。

ですが、魔女は気がついてしまったのです。
平凡な服を着ているだけの女性たちがとても輝いていることに。

魔女は街のハズレで洗濯をしている女性に目をつけます。
質素な服でところどころにはほつれがある服を着て、家事をこなしている姿。
服はみすぼらしいけど、やはり彼女はとても輝いて見えました。

魔女はつい我慢できずに、魔法を唱えます。
その対象はもちろん家事をしている女性。

きらきらと輝く光の塵が、彼女の周りを取り囲みます。
家事に集中していた彼女はその異変にようやく気が付きます。
いや、もしかしたらただのホコリと思ったかもしれません。

彼女がその光の塵に手を伸ばそうとした瞬間、その場から彼女が跡形もなく消えたのでした。
消えた彼女の代わりに地面に落ちたのは、鮮やかな赤い色のドレスでした。

魔女は地面に降り立ち、その赤いドレスを拾い上げます。
ドレスの形も、施された装飾もとてもとても満足がいくものでした。
赤いドレスが震えたように見えました。
いえ、もしかしたらただの風だったかもしれません。

魔女はその赤いドレスを腰にぶら下げていた小さな袋の中にしまいます。
その小さな袋は魔女の部屋にあるクローゼットにつながっています。
赤いドレスは彼女のコレクションの1つとなり、ラックに吊るされることになったのでした。

魔女はその場を立ち去ります。
残されたのは彼女の家事に使っていた道具だけ。
母屋のほうから女性の名を呼ぶ幼い男の子の声が聞こえますが、魔女はそんなことに興味はありません。
魔女は誰にも見られること無く、再び空に舞い上がりました。

次に目をつけたのは酒場の準備をしている若い女性でした。
仕事を終えた人たちを迎えるためにせっせと机を吹いたりしています。
魅力的に見えた彼女を魔女はためらいなく魔法を掛けます。

女性の姿があっという間に綺麗な青のスカートへ姿を変えました。
その青は魔女が今まで生み出したものより遥かに美しい色だったのでした。
魔女は満足そうにそのスカートを袋へ放り込みます。

「きゃ、きゃあああああああ!!」

おっといけない。
夢中になりすぎて誰かに見つかってしまったようです。
振り向けばカウンターの奥から驚いた顔で見ている女性がいました。
どうやらこの酒場のもうひとりの従業員のようです。

魔女はため息を付きます。
魔女にはその女性が魅力的には見えませんでした。
実際、その女性は先程の彼女に対して辛辣にあたり、イジメるようにこき使っていたのでした。
しかし見られたからには仕方がありません。
魔女は適当に杖を振り彼女に魔法をかけます。
ポトリ、女性がいた場所に落ちたのは汚い雑巾でした。

魔女はその雑巾をふわり、と魔法で浮かせると魔法をかけます。
こんなものはコレクションに必要ありません、でも無駄にするわけにもいきません。
雑巾はどこかの家庭の台所へワープしていきました。
魔女は満足気に頷きます。
これで彼女も新しい仕事に全うできるでしょう。
擦り切れ、破れてゴミとして捨てられるその時まで。

魔女は移動魔法を唱えます。
次の素敵な服を探しに行くために。

2019/11/03

失われている日常2

奈那に私の立場と姿を乗っ取られ、
私は小学5年生の少女という存在に改変された。
ご丁寧に彼女の"妹"という属性付きで。

2019/11/01

【Booth】冒険者が魔物の身体にされてしまったお話

(え…でない?)

無詠唱で念じるだけで発動するはずの魔法がでなかった。
殴られたせいでまだ精神集中できていないだろうか。
しかたなくリリアは手を掲げ、呪文を詠唱しようとして…

「ウキ…ウギッ!?」

その視界に映った自身の手、そして人語からかけ離れた鳴き声を聞くこととなったのだった。
腕にびっしりと生えた短い毛、そして人とは違う、木を掴むような動作に特化した長い手のひらと短い指はシワだらけだった。

リリアは自身を見下ろす。
つい最近、買ったばかりの魔力の込められた衣装は姿かたちもなくなっていた。
そこにあるのは腕に生えたものとおなじような茶色の短い獣毛で覆われた身体。
よくよく周りを見回してみれば森の背丈が高くなっている。
…いやこれは自分の背が小さくなっているのだ。
意識をお尻にやってみれば、長い尻尾が生えており、自分の意志とは関係なくゆらゆらとゆれているのがわかった。

リリアはそこで察する。

(私…ワイルドコングになっている!?)

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