2019/10/16

短編 無防備魔法少女

この世界に魔法少女は多く存在する。

その可愛らしくも美しい少女たちは、人類を脅かす魔人達を倒し平和をもたらす力でもあり、象徴でもあった。



軍事力として取り込もうとしている国の諜報機関から、場末のゴシップ雑誌の記者まで、その正体を明かそうとして動いている人は多い。
だがこの世界に数多くの魔法少女はいれど、その正体を知る人は誰もいない。

魔力豊富な世界の王から選ばれた少女達は魔法少女に変身することができる。
しかし漂う魔力が極端に少ないこの世界では、消耗した魔力は微々たる量でしか回復していかない。
強敵との戦いで予想以上に、そして既定値を超えた魔力を消費してしまった彼女たちは一体どうしているのだろうか。

「げっ。残量12マナ…?」

杖に表示された魔力残量を見て驚く。
転送にかかる魔力は30マナ。
半分以上も足りなくなってしまっている。

この世界では自然回復するマナは1日に1〜2。
魔人が次にいつ来るかわからない以上、魔法が使えない状態で過ごすのは許されない。

「他に仲間がいたら魔力を分けて貰うんだけどなぁ」

だが、付近にそういった魔力は感じられない。
ともかく、このままでは困る彼女は、自宅に戻る。
時間は22時。すでに家族は就寝しており静まり返っていた。
自室の鍵を確認してから、杖を掲げる。

「仕方ないわね…急速回復モード!」

シュン、という音と共に彼女の姿がかき消える。
無人となった少女の部屋。
先程と違うのは、そこに小さな人形が落ちていることだった。
これは杖に備わった機能で、使用者の身体を魔力吸収に特化した物体に変化させるものだ。
周囲の魔力を効率よく回収する材質となっており、また魔法少女であれば日常で消費してしまう基礎魔力と呼ばれるものも極限まで抑えることができるのだ。

代償としては既定値に回復するまで全く身動きできない、役立たずな状態に変わってしまうことだ。

「30マナまで…6時間。まあ全然マシね」

6時間では全くの無防備なため、動けなくても問題ない時間、そして誰も入ってこないようにする必要があったのだった。



そして別の場所でもまた一人の魔法少女が、魔人を相手に戦い勝利していた。
同じように苦戦した彼女。
真っ直ぐに一人暮らしのアパートへ戻り急速回復モードに入る。
シュン、という音ともにポトリと小さな魔法少女のフィギュアが落ちる。
台座がついており倒れないようになっており、その上で躍動感あふれるポーズを取ったまま固まっていた。

急速回復モードは使用する杖や魔法少女の魔力の質により変化する物が違うのだ。
共通するのは動けない、というだけ。

「がっはっは。やはりそうか」

倒したと思った魔人が部屋のドアをぶち破り入ってきたのだ。
だが只の人形と化した彼女はその武器である杖を出すどころか?戦闘態勢すらとることができない。
魔人の前で可愛らしい変身時のポーズを取ったまま、笑顔で静止しつづけている。

「我が主、魔人王の予想は正しかったわけだな」

まるべく長期戦に持ち込み魔力を消費させるという作戦に気が付かずまんまと罠にハマってしまった魔法少女。
人形の中で解除ししようとわめきたてているようだが、現実世界には何一つ聞こえない。

(くっ。でも幸いここは比較的魔力量が濃い…。既定値回復まであと数分…)

人形ではあるが安全配慮されたその機能は、焼いても燃えないし、ちぎろうと思っても引きちぎるどことか、潰したり、切ったりすることはできない。
魔人がそうこうしている間にもとに戻ることができれば、形勢逆転だ。

だが…。

プスっ。という音と共に身体には細い金属針を差し込まれた。
痛みは感じないものの、シリコンのような材質の皮膚に、針がズブズブと押し込まれる。

(一体、なにを…)

元に戻ったときに激痛が走るような物だろうか。
彼女はそう考え、戻った瞬間に撤退を最優先にすることを決める。
しかし。

あと数分、そう考えていたはずの魔力が、どんどん失われていくことに気がついた。
頭の中に浮かび上がる残り時間が壊れたように増えていく。

(え、30分…、1時間…20時間…)

3日、で止まったその表示だがそれから一向に減っていく様子が見えない。
まるで魔力を貯める機能がなくなってしまったかのように。

(まさかこの針が…!)

身体に埋め込まれた針はをよく見てみればその頭が少しだけ見えている。そこから薄っすらと濃い魔力の煙が出ていくのが確認できた。
身体が吸収した魔力をそのまま垂れ流しているのだ。

「げっへへ。これでもう戻れまい」

ガシッと片手で、身体を握られ持ち上げられる彼女。

「こうなってしまっては恐ろしい魔法少女も唯の子供の玩具だなあ!」

ブンブンと振り回され、逆さまにひっくり返されスカートの中を覗かれ、挙げ句壁にぶつけられても彼女は1ミリも動くことはできなかった。

もはやこの状態から打開する術は、他の魔法少女に助けてもらい、埋め込まれた針を抜いてもらうしかない。
だが、その希望もあまりに期待できそうになかった。
魔人はどこからか取り出した袋を開く。

「これは俺達の本部…基地へとつながっている袋だ。ここにお前を突っ込む」


袋の中にぽいっと捨てるように放り投げられる。
数秒間の落下した感覚の後、なにか積み上げられた物の上に落ちた感触から、坂から滑って転がり落ちる。

(う…嘘でしょ)
仰向けになった魔法少女の目に入ったのはその小高い山。
1つ1つの雑貨のよう小物が数多く積みあがっていた。
小物に共通しているのはどれも可愛らしい少女を模した人形だったこと。
まばゆい笑顔とポーズを取ったフィギュアだったり、きらびやかなドレスを身にまとった布製の人形だ。
数は目に入るだけで100を超える。

(まさか、これみんな…負けちゃったの?)


それから1ヶ月後。
世界から魔法少女は一人もいなくなり、魔人によって滅ぼされたのだった。

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