2019/07/21

魔法優等生の身体を奪ってみたら


書いてみました。
入れ替わってみたらその身体には秘密が…みたいな展開は好きです。





くっそー。
魔法実技試験の結果が出た。
長い廊下の壁がうにょうにょとうごめいたかと思うとその黒い点が文字を形成していく。名前と得点数が浮き出てくるのだ。

その一番右端、1位に現れたのはキリカ・オルドリッジ。
ヒューマンでありながら祖父のエルフの血が混じったクォーター。
類まれなる才能とその魔力の高さは教師の間では10年に1人の天才と呼ばれている。

私、プラナ・エイブラハムの順位は…2位。
彼女と同学年になったが最後、あらゆるテストで彼女の背中を追いかけ続ける羽目になっている。
今回の試験もかなりの自信があったというのに。

笑顔で周りから称賛を受けている彼女を睨む。
エルフの血を引いた彼女のその容姿は誰もが羨むほどの美しさを持っている。
目の下にクマを作っている私と違ってその顔には疲れなどまったくない。

(…なによ。私だって…頑張っているのに)

今回の試験だって睡眠時間をギリギリまで削って試験対策に費やしたというのに。
努力だけなら彼女よりしている自信はある。

(生まれ持ってきた才能ってわけ?…ふん)

私だってヒューマンであれど、過去には異種族の血が混じっている。
…彼女と違って精霊にあまり好かれていないドワーフ、だけど。

(彼女の血が、身体が…。そうよ。私だってエルフの血を引いてさえいれば彼女なんて足元にも及ばない、最強の魔法使いになるはずよ)

私はそう考えると、自分の寮の部屋踵を返した。

---


「プラナ…さん、でしたよね。なにか御用でしょうか?」

私の呼び出しに何1つ疑うことなく応じたキリカ。
人気の少ない、校舎の隅。
ここなら多少の魔法を使ったとしても見つかることはない。

「…1位、おめでとうキリカ。私もかなり頑張ったのだけれど」
「そちらこそ、2位でしたでしょう?素晴らしいと思いますよ」
「…私とあなたの差はなんだと思う?」
「…はい?」

キリカは首をかしげる。

「私は寝ている時間1秒すら惜しんで毎日毎日頑張ってきたのに、あなたにかなわない。なぜだと思う?」
「それは…私も一生懸命やっておりますし…」
「そんな血色のいい顔をしといて?」
「…えーと…なにがおっしゃりたいのでしょう?」

困惑した顔。
なにやら相手が怒っているようだ、と気がついたようだ。

「私とあなたの差。それは…」
「それは…?」
「身体よ!」

プラナは背中に仕込んでいた魔法薬の瓶を引き抜き、地面に叩きつける。
パン、と割れた魔法瓶は空中にその中身を飛散させる。

濃い青い魔力の霧が2人を覆っていく。
プラナが作った魔法薬は同じ魔法薬を吸い込んだもの達の魂を入れ替える、かなりの高難度の薬だ。
実際の戦闘では簡易なシールドで防がれてしまうため実用性はないが学校の中、しかも不意打ちとあればシールドの展開は間に合わない。

プラナは目の前のキリカが咳き込んでいるのを確認する。
ここまでは思惑通り…!

身体の中から自分の魂が、弾かれて出ていこうとしている。
本能で抑え込もうとするその抵抗を、わざと緩めると
プラナの口から白いオーラが飛び出し、キリカの口へ飛び込んだ。

「かっ…はっ…」

シールドの展開は間に合わなかったものの、とっさに反応して自分の魂を魔力で抑え込んでいたキリカだが、口に飛び込んで入り込んでしまった魂には虚を突かれた。

1つの身体の中に魂は2つ存在できない。
勢いよく入り込んできた魂の反動で、キリカは自分自身の魂の抑え込むことができず、自身の身体から手放してしまった。


---

「ふ…ふふふ…」

眼の前にはプラナ・エイブラハム。
"自分"だった身体が立っている。
その顔は俯いており、まだ意識は戻っていないようだ。

「眼の前に私がいるということは…成功したみたいね」

"ミラー"の魔法を唱え、自分の顔が"キリカ"になっていることを確認する。

(うふふ…手に入れたわ。エルフの血を引いた身体を…!)

「あ…なた…なんてことを」
「あら、気がついたのかしら。悪いわね…あなたの優れた身体…頂いちゃったわ」
「早く…もとに戻しなさい!」

プラナになってしまったキリカが、こちらを睨みつける。
だが…。

「残念ね。あの薬、1個しかつくってないの。戻そうと思っても戻せないわ」
「っ…!」

"プラナ"の顔は絶望に染ま…らなかった。
それどころかなにか、別のことを気にして慌てているように見える。

「そ…その、大丈夫?私の身体…」
「? 何を言ってるのよ。最高の身体じゃない。こんなに魔力も潤沢でーーーー!?」

ドクン、と心臓が大きく脈打つ。
身体がぐんぐんと熱くなっていく。

「な、なに…こ…の?」
「抑えて…!魔力を抑えるの!」
「抑える…?なにをいって…ああああああ!」

身体の中から溢れ出てくる魔力なんてプラナにとってはじめての体験だった。
心臓が破裂するかと思うようなその高まりを抑える術を知るはずもなく、プラナはその魔力を全身から放出する。

「はぁっ…はぁっ…」
「あちゃー。ダメだったか」

(身体が…うずくッ…)
プラナは感じたこともない魔力の高まりとその性の衝動に頭が混乱していた。

「私さー。たしかにエルフの血を引いてるんだけど」
「はぁ…はぁ…だけど…?」
「サキュバスの血も引いてるんだよね。ほら鏡」

プラナが唱えたミラーの魔法。
生成されたミラーを覗き込めばそこには"キリカ"は居なかった。
いや、よくよく見ればキリカの面影はある。
キリカが数年成長すればこんな顔つきに鳴るのではないだろうか。そんな大人びた顔つきだ。
だが、その頭からは角が2本、そして背中には大きな黒い翼と、長い尻尾。

「普段は無意識に魔力で抑え込んでいるんだけど…。入れ替わったらそりゃ抑え込めなくなるよね…。サキュバスの衝動」

制服はビリビリに破れ、そこから大人びた艶めかしい肉付きの脚や大きな胸が顕になっている。
全身から常に魔力を放出しているのがわかる、ただの魔力ではない。これは魅惑魔法だ。なにも意識せずに高度な魔法として漏れ出ている。

(サキュバスのパッシブスキル…)
教科書で読んだことがある。
サキュバスはそこに立っているだけで周りの人間をひきつけてしまうのだと。その目を見た人間の心を操ってしまうのだと。

「そうなっちゃうと数日は戻れないから…。頑張ってね」
「は?」
「だって、元に戻る魔法薬ないんでしょ?」

そうだった。
改めて作ろうと思っても数日はかかるだろう。
しかも高度な魔法薬は調合するのにかなり精密な魔力操作を要する。
だが…。

「ひんっ」

キリカの手が、プラナの腕に触れた瞬間。腕から全身にビリビリビリ、と快感が迸る。

「あーっ、ごめん。そうだよね…普通の人なら耐えられないよね」

ピクピクと身体が痙攣する。
い…ったの、私?
触られただけで?

こんな状態じゃ魔力の精密操作などできるはずがない。

「キ、キリカさん……薬、作っていただけませんか」

恥を承知で頼む。
自分で入れ替えておいてムシのいい話かもしれない。
だが、プラナはこのサキュバスの身体を使いこなすことはできない。
慣れる前に快感で死んでしまうかもしれない。
床に触れている手や脚の部分ですら快感を得てしまっている。

「えー。でも私、いますごい楽なんですよねえ。魔力張り続けなくてもいいなんて何年ぶりかしら」
「え、え…?」
「ちょいちょい…と」

キリカは両手から魔力を全身にまとわせる。
魔力の光がキリカを覆い…そして。

「はい、"私"に変身かんりょー」

そこにはキリカがいた。
プラナの姿からキリカの姿に変身したのだ。

「まあ、このままだとお互い困りますもんね。薬、作ってきますけど数日かかりますからその間はこの結界からでないでくださいね」

キリカが戻ってきたのはそれから1週間立ってからだった。
私はその間、サキュバスの衝動に翻弄され悶え苦しむことになったのだ。



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