2019/07/20

オーナーがバイト先の女子高生に入れ替えられてあれこれな話。

 うーん。
アイデアはよかった(と思っている)んですが、展開がイマイチでした。





「真理亜、今日もバイトなの?」
「へっへっへ、すまないみんな!私には欲しい服があるのだ!」

バーン、という効果音が似合いそうな両手を天に掲げるようにポーズを取る。
短いスカートがその勢いで捲れてちらりと下着が覗くが女子ばかりの学校ではそんなことは誰も気にしない。

「バイトばっかりしてたらテストやばくない?」
「うっ、それはそうだけど」

真理亜とその友達たちはキャッキャとその日の青春を謳歌している。
この間も英語赤点だったからなあ、とボヤく真理亜。
偏差値もそんなに高いわけでもなく、いわゆる素行不良な子が通う底辺に近い学校ではあるが真理亜はその中でもあまり出来が良くなかった。

「留年しない程度にしときなよー」

友達はそういうと連れ立って出ていく。

「これからカラオケ行くやつに言われたくねー」

真理亜が大声で叫ぶと、向こうからもアハハ、そりゃそうだー。と返ってくる。次は絶対行こうねー、と手をブンブン振って、真理亜は皆を見送った。

さーて急いで家に帰ってバイト先行かないと。
勉強道具がほとんど入っていないカバンを手に取り、帰路につく。
真理亜は数カ前から最近大きく進出し始めたコーヒーショップでバイトを始めた。
冬に向けてちょーかわいいコートを買うお金を貯めるのだ。

家について時計を見るとバイトが始まるまでに少し余裕がある。

「やっぱ今度から直接行がよかったかなー」

そうすれば働く時間が少し増えて給料も…。
そんなことを考えながらトイレへ向かう。

便器に座り、下着を下ろして…。

「えっ…?な、何だここは!?俺は一体…?」

真理亜の様子が一変した。
急にあたりをキョロキョロ見回し始める。

「な、何が起きている…?なぜ俺は、こんな格好を…」

自分の服装を見下ろして手がわなわなと震えている。

「む、むねが…?い、いやそれよりも股間が」

混乱しながら立ち上がろうとするが…
チョロチョロ…と出始めてしまった尿に、行動を止められる。
しばらく何もできずに座りつづけるしかない。
なにもない股間から即排出される水分の感覚は、いつものソレとは違っていた。

「し、下着まで女物じゃないか。一体全体何が起きて…」

仕方ないといったかんじで目を閉じながら下着を履き上げる。
ピッタリと何もない股間に張り付く下着の感覚に何故か慣れていないといった様子で身悶えしている。

「な?なんのいたずらだ…?髪の毛は長いし金髪だし…声もこんな高く…俺…女になってるのか?」

恐る恐る両手をその自身の胸部にある膨らみへ手を伸ばす。
ブラジャー越ではあるもののふよん、とした柔らかい感触が感じられた。

「誰が一体こんなことを…、い、いやそれよりもここはどこだ!」

徐々に出がすくなくなってきた。
そろそろ大丈夫だろうか。
早く状況を確認しなければ…俺は立ち上がろうとした。

立ち上がった直後、
ポカン…として立ち尽くす真理亜。

「ーあれ。あたし何しようとしたんだっけ」

というか、何を考えていたんだっけ。
首を傾げながらトイレで考えていたことは何だったか思い出そうとする。

「ま、いっか。大したことじゃないでしょ。バイト行かないと遅れちゃう」

真理亜はトイレから出ると部屋に戻り、
ラフな格好に着替えて家を出た。

「おはよございまーす」

コーヒショップの制服に改めて着替え直してバックヤードに顔を出す。
そこにいたのはこの店の店長であるミキコさんと、ショップオーナーのキヨヒコさんだった。
なにか打ち合わせをしていたようだ。
ミキコさんは倉庫に在庫を取ってきます、と言って部屋から出ていった。

「真理亜ちゃん。今日もギリギリだね」
「アハハ、サーセン。学校から走ってきたんですけどねー」

オーナーはいつもいつもチクリと釘を指してくる。
しう、なぜかいつも私を目の敵にしてくるのだ。
若くしてやり手で、もう十店舗も展開しているその手腕はすごいものではあるが、私ができない学校の生徒だからか、そのインテリっぷりと高圧的な態度で接してくるのだ。

「駄目だよ、お金をもらって働くんだからしっかりと時間の管理をしないと。俺は高校のときからー」

はい、始まった。
大した武勇伝でもないのにこういうアイデアでお金を稼いで自分で大学へ通って〜。

まだ数カ月のバイトではあるが話を覚えていまうほどに聞かされている。
(あーもう、うっざいな。ちょっと出来るからって…。女子高生はいろいろ忙しいんだよ。お前も一回…)

ん?なんだっけ。
なんか前にも同じようなことを考えたような。
気のせいかな。

「じゃあ、今日も頑張りなさい。真・理・亜ちゃん」

ニヤリとした気持ち悪い笑み。
顔は悪くないと思うが性格的に受け付けないなあ。
バイト変えようかな、でも時給いいんだよな。
あー、カラオケ行きたいなあ。

そんな雑多なことを考えながら、私はバイトにとりかかった。

…ん。
「すいません、裏行ってきますー」

同僚にそう伝えてトイレへ向かう。
下着を下ろして便器に座り…

「…!?」

俺は気がつく。
トイレから出ようとしたのに…なぜまたトイレにいるんだ!?
そして股間からは尿が排出されて続けている。

「ど…ういうことだ」

落ち着け。
考えろ。
俺はさっきまで見知らぬ家のトイレにいて…今は…別のトイレ…?
自分を見下ろしてみれば先程の学校の制服ではなく、コーヒーショップの制服を着ていた。
なんだ…なぜ俺はウェイトレスをしていたんだ…?
この服装で愛想を振りまいてコーヒーを運んでいる直前の記憶が甦る。
俺という人格ではなく、真理亜という女の人格で。

意味がわからない。
一体全体どうしてこんな状況が…。

「……あれ?」

ハッと気がつく。
いけない、私ったらボーッとしてた?
忙しい時間帯だから早く戻らなきゃ。
いつのまにか用も足し終えていた私は、慌てて後始末をして外へ出た。

「真理亜ちゃん」

表に戻ろうとした時、背後から声をかけられる。
そこにいるのはオーナーのキヨヒコ。

「…なんすか?」
「いや、トイレでなにかブツブツ独り言がしてたもので、体調が悪いんじゃ、と思ってね」
「そんなことしてません。キモイっすよ、女の子のトイレの聞き耳立てるなんて」
「まさか。結構な大声だったよ。電話でもしてたのかい」
「…仕事中にそんなことしませんよ」

そうかい、とその特徴的なニヤケ顔を見せてくる。

「まあいいや、じゃあ頑張ってね。ウェイトレス」
「…言われなくても仕事なんでやりますよ」
「そうだね、それは君の仕事だからね」

なんなの、アイツ。ほんと嫌い。

---

徐々に自体が把握できてきた。
記憶にもやが掛かっているようで思い出すのに時間がかかるが…。

俺はあの後、バイトを夜までこなして家に戻ってきた。
シャワーを浴びる前に…とトイレに入ってきて…。

「…俺の意識は、この身体が排泄しているときだけ…か」

それ以外は真理亜、という人格に乗っ取られているのかわからないが、俺の意思は眠りについてしまうかのように記憶が途切れる。

(だけど…いまはちょっと時間が稼げる。考えろ…考えろ。どうしてこうなった…)

女性というのは身体の構造上、途中で止めるのは難しい。
そして膀胱の大きさも男性とは違うのですぐに終わってしまう。
だがいまは…。
真理亜は便秘気味だったのか、それが功を奏している。

(そもそも…俺は誰だ…?)

自分の名前を思い出すことができない。
いや、正確には思い出そうとすると「真理亜」という名前が思い浮かんでしまうのだ。

Prrrr

スマホが振動する。
このタイミングでかかってくる電話に俺はなぜかピンとくるものがあった。
多分この電話は俺に関係が…ある。

「…もしもし」
『やあ、真理亜ちゃん』

どこかで聞いたことがある声。
オーナーのキヨヒコだ。

『いや、いまは…キヨヒコさんかな?』

キヨヒコの声から発せられたキヨヒコ、という言葉が脳を駆け巡る。
バイト先のオーナー、目つきや言動があまり好きじゃないヤツ。
いや、違う。これは真理亜の記憶だ。
さらに過去の、記憶のもやの先に答えはあった。

「…お前…!真理亜だな…!」
『あは、ようやく思い出しましたか。キヨヒコさん?』
「お前…、俺に何をした?なぜ俺はお前になっている?なぜお前のように振る舞わされている…?」

早口で相手に質問をぶつけまくる。
そんな俺を嘲笑するかのように真理亜が答える。

『なぜって…あなたが言ったんじゃないですか。女子高生なんて責任感ゼロでお気楽に生きられてていいよなって。だったら体験してみればって思ったたので入れ替えてあげたですよ』

『まあ変な事されたら困るんで、あなたの記憶はトイレに行ってる間だけ戻るようにしてますけどね。たまに表に出してあげないと薄れて消えていってしまうので』

何を…何を行っているんだこいつ。
入れ替えた…だと?

『代わりにオーナー業はこちらでやってますので安心して女子高生やっててくださいよ。私ったら才能あるのかもしれませんね。来月にはさらに3店舗オープン予定ですよ』

楽しそうに話すキヨヒコの声。
こちらは頭が混乱してなかなか整理ができない。

『あー、まあ脳もお互いのを使ってしまってるから思考が追いつかないかもしれませんね、まあそろそろおトイレも終わるでしょうし、さよならですかね』

「ま、まて…!さっさと元に…」

ぽちゃん、と最後のひとかたまりが落ちた。

「…あれ?」
『真理亜ちゃん、トイレ中に電話はどうかと思うよ』
「…ってなんで私キヨヒコさんと電話なんてしてるんですか」
『バイトのことで聞きたいことがあったんだけど、出たのは君だからね。俺は悪くないよ』
「…さいっあく!」

通話終了ボタンを力強く押す。
あー、なんで私電話なんて出ちゃったんだろう。
あのバイト、辞めようかな…でもなんか辞めちゃいけないような気になるんだよね。

駄目だ駄目だ。気分が憂鬱になってしまう。
今度のカラオケはバイト休んでも参加しようっと。



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