2019/07/06

だんだん、徐々に、着々と。(2) -追記あり

1話

ああ。まずいな。
顔がにやけてしまう。
彼女のほうへ視線を向けるたびにそう思う。



今は水泳の授業。
全員が水着に着替えてプールサイドにいるのだが…。
誰もその異常な光景には気が付いていない。
そう、桜子さん本人でさえも。

気が付いているのは俺だけだ。
桜子さんの明らかに人の肌の色ではない艶めかしいピンク色が、水着の脇付近から見える。
胸を覆っている水着のパッドでは薄すぎるのか、その固いゴム乳首が水着を押し上げてその形を露わにしている。
重力に逆らえる弾力を持ったその胸はつん、と砲塔のように前を向いている。
そのシルエットはどうみても異常だった。

だがクラスメイトも当人もそのことを気にすることなく、授業を受けている。アイツの言う通り俺以外はその変化に気が付くことすらできないのだ。

あのダッチワイフは胸の部分はギッチリとゴムが詰まっていた。
ゴムの塊というのは比重が水よりあるために、浮くことはない。
ゴムボールが浮くのはその中が空洞だからだ。
…ちなみに女性の胸部分は水に浮くらしい。
本人は昨日とは違う、身体が浮かない感覚には違和感があるのか。
上手く泳げなくなっている自分に首をかしげている。

そこから自分の胸が変わっている、ということに気が付くことはないのだろうか、とすこし緊張したがその様子はなかった。
水に濡れて肌に張り付くようになった水着はその胸の形をより一層際立たせている。

(触覚とかどうなってるんだろうか。…帰ったらあいつに聞いてみるか)

俺は桜子の身体の交換を胸だけで終わらせるつもりはない。
これからどんな交換をしてやろうか…と妄想することにした。

水泳の授業が終わり、さっと着替えた俺は早々に教室に戻る。
すこしでも桜子の様子を確認しておきたいからだ。
なんでここまで桜子に執着するかって?そりゃあ答えは簡単だ。

「あ、キヨヒコ君」
「おう」

友人たちと雑談しながら教室に入ってきた桜子がこちらに気が付く。
桜子の表情が笑顔になり、友達に断りを入れてからこちらに寄ってくる。

「お弁当作ってきてあるから、お昼は屋上でね?」
「お、サンキュー。さすが桜子だな」
「え…へへ。彼女だもん、当然だよ」

そう、俺と桜子は付き合っているのだ。
相思相愛、クラスで知らない人はいない恋人同士だ。

(まあ、俺がこんな歪んだ性癖を持ってることなんて、桜子は知らないんだけどな)

幼い頃に流れていたテレビアニメのワンシーンだったか。
何気なく見ていたはずのその展開に俺はなぜか心がざわざわしたのを覚えている。
先程まで校庭で遊んでいたはずのモブキャラ達が、怪人の出す光線により物言わぬ石に変えられてその場に佇み続ける光景。
その数分後にはお決まりの展開でヒーロー達が怪人を倒して戻ってしまったのだが。

もし怪人を倒すことができなかったら…仮に倒しても戻らなかったとしたら。
暇があればそうやって妄想に耽るようになってしまった。
ネットを調べてみればそんなバッドエンドで終わる作品が多く、俺の性癖はさらに偏っていく。

…さて。

「ああ、そうだ。今日は俺の家寄ってかないか」
「えっ…?う、うん。いいよ」

桜子が少し顔を赤らめて頷く。
背後から桜子の友人たちがおおっ?とかヒューみたいな声を上げている。
その冷やかしに桜子は慌てて彼女たちの輪に、弁明しに戻っていった。

(さーて、放課後が楽しみだな)

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「おじゃまします」

桜子は礼儀正しい。
両親が留守だと知っていてもしっかりと挨拶をするし、靴はちゃんと整える。制服こそは今どきの女子高生らしくしているが、その揃えた前髪と肩まで伸びた染めたことのない黒髪は真面目さが滲み出している。
…胸部だけは女子高生らしかぬものを持っていたのだが…。

そんな桜子とはなんやかんや合って付き合うことになっている。
いっておくがこれは俺の努力の結果であって、あの変なツボの魔人(人ならざるものかもしれないが)の力ではない。

「お台所、お借りしますね」

桜子が慣れた感じで俺の部屋には直行せず、お茶を入れに行く。
その間に俺は部屋に戻ると、女性の乳房を露出させた人形をクローゼットの奥に隠す。
ツボは…まあいいか。窓際にそれっぽく飾っておこう。

『あるじよ』

ツボの魔人の声。
いつの間にか主人扱いされている。

「なんだ」
『あるじの命令は声に出さなくてもよい。心の中で念じるだけでな」

なんだこの魔人。
わかってるじゃないか。俺のしたいことが。

「そりゃ助かるな」
『構わぬ。私も楽しんでおるからな』

3話







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