「わかりませんか?この牧場…いや学園は超富裕層に新しい若さ、人生を提供するために存在しているのですよ」
…何を言っているの?
「この企業が持つ技術。それは人と動物、そして人と人を入れ替えることができるのですよ」
「財がどれほどあろうと、老いた身体では何の意味もない。長く生きたいが、そこに老いがあるのであれば意味がない。財を投げ売って望むのならば」
「人は永遠に生きることができる」
人の身体を奪ってそんなことをしているなんて。
動物のVR体験、と銘打っておいて、実際やっていることは到底許されることではなかった。
「VR体験なんだ、って言われていれたからこんなことになってるなんて思いもしなかったでしょうし、反抗なんて考えることはないでしょう?」
もし投影メニューが表示されなければ早く陰謀に気がついてみんなで抵抗していた…かもしれない。
でも今私は知ってしまった。
「…知ってしまった、じゃあどうするのかしら」
…この人、私の考えていることがわかるの?
まさか。
「まさか。そのとおりよ。あなた達の思考はすべてモニタリングされ、私達のインターフェースに表示されているわ」
…じゃあ皆に伝えて、世間に公表して…。いや…ちがう。
「ふふふ。そうよね。他の動物にされたお友達にどうやって伝えるのかしら。そしてどうやって世間に伝えるの?私達は豚にされています、って?」
そう。私達はこの身体に押し込められた時点でできることが大幅に制限されているのだ。
檻から出ることも、この牧場から抜け出すことも、そしてそこから街へたどり着き…人々に私達が元人間であることを伝える。
途方もない数多くの無理難題が積み重なっている。
「…私としてもこの身体を返す気はないわ。私にはもう帰る身体はないの。私の身体に入ったのは豚の意識で、その数分後には安楽死。今は骨となってお墓のなか…よ」
それでも…私の身体を返して。
「そう、じゃあ頑張ってみると良いわ。ちなみに良いことを教えてあげましょうか」
…。
「あなた達にあてがわれた動物達には特徴があるの。年を老いていたりとか色々原因は違うけども…。共通しているのは」
-余命は1年。
「あなた達はもう半年前に家畜と入れ替わった。個体差があるとはいえあとどれくらい生きられるかしら?ふふ、インターフェースを改めて見るともう反応がない個体も数体いるわね。お友達、残念だわ」
そんな。このままだとあと半年…で私は死ぬの?
時々身体が動かしにくいと感じることはあったけど、まさかそれが慣れていない身体とかそういう理由ではなく、この身体に限界が来ているのだとしたら。
もう、余り時間がない。
「さ、勝手に脱柵した豚さんには罰を受けてもらわないといけないわね」
いつの間にか背後には、見慣れたクラスメイト達が立っていた。
いや、間違いなく彼らも。
「じゃ、連れて帰ってあげて」
あっという間にクビに縄をまかれ小さな鉄格子の檻へ押し込められてしまう。
抵抗する暇もなく私はあっというまに残されていた自由を奪われてしまった。
「じゃあ、さようなら豚さん。今度は抜け出しちゃ駄目ですよ」
満面の笑顔で"私"はそういった。
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