2019/02/28

あらゆる行動がライセンス化された国で、ライセンスがすべて奪われた学生のお話 (上)

この国ではすべてに置いてライセンスが必要だ。

運転は当然、あらゆる職業それぞれにライセンスが存在する。
もっと言えば、学校へ通うのも、勉強をするのも、買い物をするにもライセンスが必要だ。すべては許可制なのである。
許可を得て皆は進学し、就職していくのだ。

ライセンスを持たずにその行為をおこなえば、それは重大な違法行為となる。
違法行為をした代償は…。

「ふたばくん…。君はこの本を読むライセンスを持っていないようだが」
「…そ、それは…その」

進路指導室。
先生と私を挟んでいる机の上に置かれていたのはファッション雑誌。
表紙には要閲覧ライセンスと書かれており、ライセンス種別番号が記載されていた。
学生にこのライセンスが降りることはなく、みんな目下隠れて読んでいたのだが、運悪く見つかってしまったのだ。

「これは完全な違法行為です、違法行為をしたらどうなるか、わかってますよね?」
「み、みんなもやっていることですよ!?なんで私だけ!?」
「みんなもやっているなら、それはそのうち罰せられます。今、私はあなたについて離しているのです」
「うっ…」
「他人もやっているからやっていい、ということにはなりません。この国では過去の経験から長らく全てをライセンス制にするという方法で秩序を保ってきたのです」

ガラリ、と進路指導室に入ってきたのは…ライセンス省の役人。
ライセンス違反は確認された時点でライセンス省により処罰がくだされる。

「…あなたの所持しているライセンスの90%を停止します」
「…そんなっ!?」

私のライセンス端末があっという間に書き換えられる。
ディスプレイに表示されていたライセンスがどんどんグレーアウトしていく。
「高校生」や「買い物」「自転車」…他にも多くのライセンスが無効化されたのだ。

「ルールを守れないものに権利はありません」

そう、役人は冷たく言い放つと出ていった。

「…高校生のライセンスが停止されましたので、今この時点ではあなたはこの学校の生徒ではありません。高校生ライセンスに追加付与される「制服」ライセンスも同じく停止状態ですので、制服は脱いでください」
「え…。いま、ココでですか!?」
「また違反を重ねる気ですか?」
「…そんな、そんなひどいこと」

「大丈夫です。着替えならそこに用意してありますから」

教師が指を指した先にはダンボール箱。

「年に数人はライセンス停止になりますから。そういった用に置いてあるんです」

さ、どうぞ、と更衣室に押し込まれる。
ダンボールの中にあったのは…。

「え、なにこれ…!?」

赤ん坊が着るようなロンパースとオムツだった。

「なにって…。あなた、ライセンス見ました?」

慌てて端末を起動してライセンスを確認する。
衣服ライセンスの殆どが停止されていたのだ。

「あなたは今、シャツやズボン、スカート…下着のライセンスが停止されているのですよ。あなたの今所持しているライセンスで身につけられるのはそれだけです」

生まれた時に付与される基本ライセンス。
これは最低限の人権を守るため、いかなる場合でも停止されることはないのだが、ライセンス違反者の見せしめの為に、屈辱的な格好をさせる罰としても活用されているのだ。

「いつまでその格好でいるのですか?裸で帰ってもらっても構わないんですよ」
「…そんな」
「それともまた違反を重ねますか?」

私は仕方なく、制服を脱ぎ、用意された衣服を身につける。
上下一体のロンパースはオムツを付け替えやすいように股の部分に大きなクロッチがついている。オムツは…どうすればいいのだろうか。

「ああ、オムツを履くかどうかで悩んでますか?」
「………」
「まあそこはあなたの自由にしてもらって構わないんですが…トイレのライセンスもあなたにはありませんよ?」
「へ…?」

端末に表示されているのは灰色になっているトイレ使用のライセンス。
自分でトイレができるようになりはじめる2-3歳時に与えられるライセンスすら停止されているのだ。
トイレの扉を開けるためには端末認証が必須で…ライセンスがなければ当然扉は開かない。

「…しておいたほうが懸命だと思いますがね」
「ライセンスの停止って…どれくらいなんですか…」
「さあ。ライセンス省の処分期間はマチマチですから…短くても3ヶ月」
「さ…三ヶ月!?」
「三ヶ月、漏らさない自信があるのなら、どうぞ」
「………」

私は涙目になりながら、十年以上も前に卒業したはずのオムツを、自分の意思で身につける。
ロンパースの前を閉じれば、そこには下半身がこんもり盛り上がって、若干股が開き気味の情けない格好の完成だ。

「はい、では制服はこちらで預かっておきますね。ライセンスが復帰した際にまた、お返ししますので」
「………」

ーーー

この後、親が迎えに来て私は車に載せられる。

「ああ、情けないったらありゃしない」

母は涙声だ。
高校生にもなる娘が違法行為をして情けない姿で立っていたのだから。

「ねえ、なんでこんなのに私、載らないといけないの…」

こんなの、とは車の後部座席に設置されたチャイルドシートだ。
チャイルド、といいつつ私が座れるぐらいの大きなものだが。
すっぽりと身体を多い、自分では外せない位置にある複数のベルトが私の身体を拘束している。
そのせいでほとんど身動きがとれない。

「なにいってんだ。今のお前には車に載れるライセンスがないんだよ…。ない場合はチャイルドシート必須って法律、知っているだろう?」

父が運転しながら教えてくれる。
そうだった。チャイルドシート未着用の事故が増えたから、近年のライセンスに変更があったのだった…。
そうか、私はいまこうやって固定されなければ車に乗れないのか。

家に帰ればさらにライセンス社会を体感せざるを得なくなった。
リビングに用意されていたのは大きめのベビィベッド。
父が私にそこへ入るように命じる。

「え…いやよ。そんな。私は赤ちゃんじゃないのよ…。ライセンスがないだけで」
「ライセンスがない、ということはそういうことなのだ。…お前は私達も犯罪者にしたいのか?」
「え…」

「幼稚園」以上の教育機関ライセンスを持たない人は、家でも「高校生」以上のライセンスを持つ人の監督下にいなければいけない。そして勝手に行動できないよう…つまりその子がライセンス違反を侵さないよう囲いに入れておくのが認められている。
もちろん一人部屋など認められるわけがない。
これを破れば罰せられるのは…両親なのだ。

「ライセンス省の役人が抜き打ちでくることも考えられる。ちゃんと従いなさい」
「……」

仕方なく私はベッドに入る。
父は天井を閉じると、そこに鍵をかけた。
まるで檻のようだ。

「せめて、本だけでも…」
「…わかった。おい、母さん」
「はい」

母親が書籍を数冊抱えて持ってきたのだが…。

「ってこれ、字がない…絵本じゃない」
「当たり前でしょう。活字を読むライセンスが止められてるのよあなた」

2 件のコメント:

  1. 立場変化をライセンスという形で行うとは、アイデアに脱帽です。
    ふたばの徹底した赤ちゃん扱いにも自然と説得力が出てきますね。
    「上」ということはすでに続編が…!?

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  2. すっかり赤ちゃんとして扱われるのが最高ですね(笑)

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