「浄化の光よ、悪い心を封印せよ!」
杖から発せられた虹色の光が、黒い瘴気を纏った敵を包み込む。
わたしのこの魔法は敵を疲れさせなければ効果を発揮することができないんですが、当たれば問答無用の強さを誇るんです。
今回は捨てられた廃車に取り付いた悪霊さん。街中の車を煽ってくる暴走車になってしまっていたんですが、浄化の光が消えたあとに残ったのは鉄特有の光沢や硬さとは無縁な、表面がモコモコ、モフモフとした綿が詰まった車のぬいぐるみさんでした。
世に生まれた悪霊は、光の世界の裏返し。
安易に滅すればまたどこかで歪が生まれ、世界のバランスを崩してしまうので、
私の魔法は悪霊さんを消すことはありません。
このぬいぐるみの中には暴走した悪霊さんがそのまま閉じ込められているのです。
「ふー。こうすれば悪霊さんももう悪いことできないですね。おもちゃ屋さんに転送しておきましょ」
杖を振ってワープゲートを呼び出し、ぬいぐるみをそこへ放り込んだ。
無垢な心の持ち主である子供の手にわたり、共に遊べば悪霊は少しずつ少しずつ、世界に溶け込むように消えていきます。
そうすることで世界に影響を与えることなく、平和がもたらされるのでした。
明日も明日で悪霊さんは生まれてきます。
人々の不安な心が重なれば重なるほど、強力な悪霊さんが出てきます。
どこかの国で内紛があったり、大きな事件が起きるとその影響はすぐに現れちゃうのです。
私に与えられた役目はみんなを更に不安にさせないように、秘密裏に悪霊さんを封印することだけなのです。
だけど、その役目はある日突然、私が望まない形で終わりを告げたのでした。
ーーー
「浄化の光よ、悪い心を封印せよ!」
どこかに油断があったのでしょうか。
日々の戦いの中で慣れが出てしまったのでしょうか。
敵が疲弊していた"演技"をしていたことに気がつくことができなかったのでしょうか。
床に伏せていたはずの敵がパッと立ち上がり、その大きなお腹をガバリ、と開いたのでした。
開いたお腹の中にあったのは…鏡。
私の魔法は光…。
そう、その私の発した浄化の光はきれいに反射され、私に直撃したのでした。
身体に感じる違和感。
喉が乾き始めたのを筆頭に、身体中から水分が蒸発していく感覚。
手が、足がどんどんと単純化していきます。
指がすべてくっついてただの1つの塊となってしまい、握っていた杖はカランカランと音を立てて床に落下しました。
足もぐぐぐ、と関節がなくなっていきます。
身につけていた魔法少女服も、リボンも、髪の毛も、皮膚も。
すべてが同じただの"布"に変わっていきます。
(だ…だめ…止めないと)
このままだと私はぬいぐるみになってしまいます。
なんとかして杖を拾い上げればなんとかなるかもしれません。
床に落ちた杖を探して…私は絶望しました。
(そ、そんな)
そこに落ちていたのは見慣れた杖の形をした…ぬいぐるみでした。
先端についていたハート型の宝石も、きれいな天使の羽も全てが綿と布の塊に変化してしまっていたのです。
(だ…め…もう身体が、動かない)
とうとう私の身体からすべての人間の部品が失われました。
そして全く動けなくなった私の身体は、ギュギュと徐々に身体が小さくなっていきます。
ポトリ、杖と同じように地面に落ちた私。
天を仰ぐようにして転がっている私の身体は、自分の意思では1ミリも動かすことができません。
となりに転がっている杖も、そこから魔力を一切感じません。
(これってもしかして…)
負けた?
どれだけ叫ぼうと、魔法を唱えようとしても、何も起きません。
ザッザッと、こちらへ近づいてくる足音。
悪霊が近づいてきているというのに、抵抗するすべがもはやありません。
今までのぬいぐるみは全てどこかのおもちゃ屋さんに並べてきました。
…私もその末路を辿るしかないのでしょうか。
ああ、そっか。もう涙も流せないのか。
私は変わり果てた身体の中で絶望に包まれたのでした。
-続く-
さっそく読ませていただきました!
返信削除キャラ設定も少しづつ変化させられてく描写が本当に素晴らしいです…!!
杖も魔法も無力化され意識はあるもののどうしようない様子がたまらないですね…!
ここからどうなってしまうのか全く想像もつきませんが楽しみにさせていただきます~!