2019/01/31

騎士の努め

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あむぁいおかし様のところに掲載されていたイラストのSS。
書きたい衝動が抑えられず書きました。
(名前は変えてます)



「アルヴィン様…」
「…。その名前で私を呼ぶのは避けてください…」
「あ。ごめんなさいっ。…つい」

王女の後ろにピタリと警護するように歩く、いかつい鎧を来た男が王女にたしなめられている。
男の名前はアルヴィン、若くして王国の騎士団長に上り詰め、王女の専属護衛の任務を任される俊英。
そしてその男に守られているのが国王の愛娘、王女クリエである。
王国一美しいと言われる光に反射して輝く長い髪と、女王から受け継いだその美貌をもつ彼女は国民からの人気も高い。

「私達が入れ替わっていることは知っているのはあなたの父上…国王だけ。万が一誰かに漏れれば、問題が大きくなりかねません…何度も申し上げているでしょう」
「…そうでした。以後気をつけます」

2人はいまお互いのその身体を交換しているのだ。
1ヶ月程前に国王から言い渡された命令はアルヴィンにとって、今でも信じられないものだった。

ーーー

「…衰弱の呪い…ですか」
「うむ…妻もその呪いには抗えなかった。クリエを産むにあたって、その呪いが発言したのだ。クリエをなんとか残せはしたものの…その後はベッドから出ることも叶わず…死んだ」

玉座の間ではなく、王の個室に呼ばれたアルヴィンが何事かと行ってみればそこには王女クリエが同席しており、王家にかけられた呪いについて明かされたのだ。

「その呪いが、クリエ王女にもかかっている…ということでしょうか」
「…ざんねんながらな。千年前の大戦、王国勝利と引き換えに掛けられた忌まわしく呪いなのだ。我が血筋に関わった女性は長くは生きられぬ」
「…なんという嘆かわしい」
「儂は諦めてはおらん。千年で魔術の研究も進んだ。各国の持つ知識を集めれば呪いを解けるやもしれん…。だがそれには」

時間が足りない。

アルヴィンは王女に視線をやる。
うつむいたままの彼女は、幼い頃から身体が弱く、同年代の女性と比較すれば身体の線も細い。

「これでは成人まで生きられぬだろう。だが一つだけ方法がある。王家の秘術を使えばその呪いの発現を遅らせることができる…のだ」
「なんと。このアルヴィン、王女の為であればこの命捧げる覚悟があります」

王の前に跪くアルヴィン。

「…この方法はクリエにはもう説明してある。クリエもアルヴィンであれば…という条件で受け入れると言った」

王女クリエがコクリ、と小さく頷く。
アルヴィンは顔を上げその方法を問う。
王はゆっくりとその重たい口を開く。

「アルヴィンに任せたいのは…」

ーーー

「…で、アルヴィン。用件はなんですか」

毅然とした口調と姿勢を取り直した王女クリエ(アルヴィン)が背後の騎士アルヴィンへ問う。

「その…体調はいかがでしょうか」

アルヴィンが恐る恐ると言った感じでクリエに話しかける。

「体調…ですか。今のところは問題ない…です」

アルヴィンはゆっくりと己の身体を動かし、痛みなどが無いことを確認すると、王女の口調を意識して答える。

この身体に入って早1ヶ月。
呪いの遅延方法とは王女の身体に"男"の魂を入れることだった。
これにより身体にはびこる呪いの進行スピードは半分に抑えられ、解除のための研究時間を稼げるのだ。
…そして万が一、呪いを解除できぬままこの身体が死ぬことになっても王女はその身体で生き続けることができる、という算段だ。
とはいえ、どこの馬の骨とも知らぬ男と入れ替えるわけにもいかず、王女の身体を預けることができるに足る男としてアルヴィンが選ばれたのだった。

呪いによりどれだけ運動しても鍛えられることがないこの身体は、この廊下を少しでも走れば息が切れてしまうほどの脆弱なモノだったが、王女としての責務…(といっても勉強やお茶会なのだが)を果たす分には問題がない。
想像していた以上にひ弱な身体に、当初は驚いたもののなんとか日常生活は問題なくこなせている…と思う。

アルヴィン(クリエ)はほっと息をつく。

「そうですか。本日の公務は現在我が国を訪問中のタル国王のご息女とのお茶会だけですが、もし体調に異変がありましたらすぐにお伝え下さい」
「…わかった」

クリエ(アルヴィン)は自身の姿を見下ろす。
お茶会用に仕立てられた紫色のドレスは締め付けもゆるく動きやすいデザインだが、肩から大きく開いており、その華奢で美しい肌を惜しげもなく晒している。
今日は温かい日ではあるが、あまり長時間この格好をしていたら風邪をひいてしまうかもしれない。

「…羽織るものを用意しておいてくれ」
「はい」

アルヴィン(クリエ)はうやうやしく頭を垂れると、少し離れたところに待機していた侍女を手招きし、クリエが使っているお気に入りの羽織を取ってくるように命ずる。侍女はパタパタと小走りで走っていった。

「意外とサマになってるじゃないか」
「ナヨナヨしていると…アルヴィンの名に傷がついてしまいますから」
「なるほど。では私も王女の名に泥を塗らないようにしなければいけませんね。…でも」
「?…でも?」

クリエ(アルヴィン)は足元を指差す。

「この踵が高いハイヒールというものはどうにも辛いのですが。なんとかならないか?」
「なりませんね」

アルヴィン(クリエ)が意地悪く笑う。

「だが、これでは庭園につく前に疲れてしまうぞ」
「そうですか?それでしたら私が抱えて運んで差し上げても構いませんが」

アルヴィン(クリエ)は両手で大きな物を抱えるジェスチャーをする。
その仕草から自分が運ばれる様子を想像してしまい、顔を赤くするクリエ(アルヴィン)。

「い…いや。それはいい。自分で歩く」
「そうですか?いつもベッドには運んで差し上げてますのに…遠慮しなくても」
「そ、それは寝る前になると、この身体が疲れ切ってて…」

クリエの身体は1日中活動できるほどの体力を持ち合わせていない。
就寝前には全身から力が抜けてしまうほどに疲れていることが多いのだ。

「ああ、みなさんから見られるのが恥ずかしいとかですか?」
「アルヴィン!?」
「冗談です。ちょっとからかいたくなったのです。可愛らしいので」
「…王女…いえ、アルヴィン。やめてください」

顔を真っ赤にして俯くクリエ(アルヴィン)。

「あまり考えたくないのだが、だんだんこの身体に染まっていってる気がします」
「王女の中身が男だとバレずにすみますね。いいことです」
「あなたも私に染まってませんか、アルヴィン?」
「…かもしれませんね」

ビシ、と騎士の敬礼をわざとらしく見せつけてくる。
それを見てクリエ(アルヴィン)は笑う。
自分の姿とはいえ元気に振る舞えるクリエに安心したのだ。

(願わくば呪いが解け、お互いがもとに戻れる日が来ると良いが…)

2人の行く末は神のみぞ知る。





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