私の名前はアミ。
私立小学校に通う4年生です。
最近一番仲良しのお友達のミユちゃんの様子が少しおかしいのです。
休み時間になっても席をたつことなく、自分の席でこわばった顔で座り続ける"みあ"ちゃん。
珍しい表情でずっと見ていたくなりますが、困っているのであれば手を差し伸べるのが親友でしょう。そう、当然のことなのです。
「みあちゃん、今日は元気ないねえ?」
「あ…う、うん…」
近寄って話しかけてみれば、もじもじと身体を揺らしながら、スカートの裾をキュッと押さえる。
視線はこちらに向くことはなく、うつむいて下を見つめ続けている。
「おトイレ?いっしょにいく?」
「え…?あ…い、いや。いいよ大丈夫」
どうみても我慢しているようにしか見えないですけどね。
トイレに行きたくない理由はわからないけれど、次の授業まで我慢するのは身体によくないですよ?
「私がトイレ行きたいから、ね?」
「え…うん…じゃあ」
手を差し伸べるとおずおずと握り返してくるみあちゃん。
いつのも元気天真爛漫な彼女らしくないのは、なにか悩み事でもあるのでしょうか。うふふ。
なぜか女子トイレの入り口で入るかどうかを躊躇しているみあちゃんの背中を押して、強引に中へ入ります。
背中を押して、あわあわとしているみあちゃんを個室へ押し込むようにすると、ソロリ…と扉がしまりました。
私はその隣の個室に入って、静かに便器へ腰掛けることにしましょう。
だって私は1つ前の休み時間にトイレに行ったばかりですからね。
別にすることがないので適当に時間を潰します。
「ごめん…うう」
隣からみあちゃんの声が聞こえます。
どうして謝っているのでしょうか。
音姫を押さずにしているので、チョロチョロと便器に落ちる水の音が丸聞こえです。うふふ。
どうやら終わったようなので私も立ち上がり、使っていない便器に水を流します。
「ありがとう、ついてきてくれて」
「あ…うん、こちらこそ…ありがとう」
「変なみあちゃん」
みあちゃん、よくよく見ればスカートをパンツに挟んでしまっていますよ。
制服のチェックスカートの下、お尻を覆っている白い下着があらわになってしまっています。
「みあちゃん、スカート」
「え?あ…うわぁ!」
慌てて挟まれたスカートを直すみあちゃん。
顔を真っ赤にしてうつむいてしまいます。
「よかったね、トイレから出る前で。男子に見られてたらからかわれるし」
「………」
「制服に乱れがないか、チェックしてあげるね」
「え…?」
みあちゃんの周りをくるくるとまわり、おかしなところがないか確認してあげます。
「うん、胸元のリボンもきれいに結べてるし、スカートもちゃんと膝が隠れるぐらいの長さ出し…あ、その靴下かわいいですね、ワンポイントのうさぎさんがキュートです。自分で選んだんですか?」
「そ…そうだよ」
「大丈夫、どこからみてもかわいい女子小学生に見えますよ!」
「え、あ…うん………ありがとう」
なにやら複雑そうな表情でお礼を言われてしまいました。
何故でしょうね、うふふ。
ーーー
「はい、じゃあこの問題を…みあさん」
算数の授業中、日付と出席番号が一致したために当てられ、はっとした顔で立ち上がり、前に出るみあちゃん。
先週習い始めたばかりの2桁の割り算の式が黒板に書かれています。
じっと黒板を眺めていたみあちゃんはおずおずと数字をかき始めます。
(ああっ。ちょっと大きすぎますよ)
割り算の筆算で最初に立てた数字が大きすぎます。
気がつくでしょうか。
だけどみあちゃんはその大きな数の商のまま、計算を進めていき…。
もちろん途中で数字がおかしくなるので解けなくなります。
「…あ、あれ…?」
「大丈夫ですか、みあさん?」
「え…はい。ちょ、ちょっとまってくださいね。お…おかしいな」
黒板の隅に小さく掛け算を書き始めます。
ようやく、立てた数字がおかしいことに気がついたようです。
「じゃあ、みあさんはそのまま解いていてね。次の問題を~」
ああ。時間がかかりすぎたのか、次の問題も並行して始めてしまいました先生。
でもおかげで注目の視線が逸れたことで、緊張が溶けたのか、落ち着いてゆっくりと計算をしていくみあちゃん。
ようやくぴったりな商をみつけて、あまりの数字がでたことでほっとするみあちゃん。
チョークをおいて戻る時に私と目が合いました。
私はひらひらと手を振りましたが、なぜかみあちゃんは顔を真っ赤にして早歩きで自分の席に戻っていき、顔を覆います。
すばやく解けなくて恥ずかしかったのでしょうか。
でもしょうがないですね。みあちゃんは運動が得意だけどお勉強がちょっと苦手な女の子なのですから。…うふふ。
ーーー
『今日の"私"、どうだった?』
「えぇ。とても可愛らしかったですよ。スカートを気にしすぎてましたね」
夜。
私は日課である"みあちゃん"との通話を楽しんでいます。
お母様とお父様との約束で8時から9時までの1時間しか使えないので、たっぷりと楽しみます。
通話先からアハハ、と笑い声が聞こえます。
面白くてたまらない、そんな声です。
『そっかそっか。でもそれじゃあ"私"のフリはできてないみたいね』
スマホに表示される通話相手の名前は"みあちゃん"なのですが、スピーカーから流れてくるのは変声期を過ぎた男子中学生の声。
「そうですねえ、まだまだ女の子初心者、そのものでしたねえ」
『じゃあ明日もそのままにしておこっかな』
"そのまま"。
それはみあちゃんとそのお兄さんの身体の交換の事。
きっかけはなんだったか、ささいな兄妹喧嘩だったはず。
俺がお前の頃にはもうしっかりしていた、みたいなそんな感じの。
それにカチンときたみあちゃんは、どこから持ってきたのか、怪しげな魔術書を使って2人の身体を入れ替えてしまいました。
ただ身体を入れ替えただけではないのです。みあちゃんにされたお兄さんは、知識や能力を制限されて"みあちゃん"と同じレベルまで落とされています。さらに自分が"兄"であることを口に出すことができず、助けを求めることもできなくされているのです。
一方のお兄さんの姿を得たみあちゃんはお兄さんの知識は使えて、能力制限なしのやりたい放題。
『ちゃんと私のフリをした上で、"ちゃんと"できたら戻してあげるんだけどなあ』
「またそんな意地悪なこと…」
ちなみに私には正体がバレていることをお兄さんは知りません。
みあちゃんからは内緒にするように言われてますし、そっちのほうが面白そうですからね。
なぜ私が入れ替わりのことを知れたか、というと…。
『彼氏が困っているのを楽しんでるのはアミちゃんもでしょ?』
「う…それはそうですけど」
そう、私はみあちゃん家に遊びに来ているうちにお兄さんとお付き合いしていたのでした。みあちゃんには内緒だったのですが。
入れ替わったことでお兄さんの知識をつかえるみあちゃんは、その事実を知ってしまったのでした。
みあちゃんから入れ替わっていることを伝えられ、私はお兄さんが私の同級生になって四苦八苦しているところを観察する事にしたのでした。
女の子の体操服に着替える時に更衣室で顔を真っ赤にしているところ、普段着ないはずの薄手のワンピースを着せられてうつむきながら登校してくるところ、今日みたいにトイレをできるだけ我慢しようと耐えているのを眺めてはその仕草や困惑顔を楽しんでいます。
もうじきプールの授業も始まります。
一緒に学校で泳げるなんてすごい楽しみです。
…おっと妄想が進んでしまいました。
『アミちゃんにSの気があるとしったらお兄ちゃんどう思うかなあ』
「みあちゃん、からかうのはやめてください」
『あはは、ウソウソ。明日も引き続きお兄ちゃんと女子小学生生活を続けてくれていいよ」
「もう…まあ、楽しいのは否定しませんけど…」
ああそうだ。
休みにお兄さんの姿のみあちゃんとお出かけするのも楽しいかも知れません。
お家でおとなしくお留守番していなければいけない"みあちゃん"のことを考えるとちょっとゾクゾクしちゃいます。
見送りに玄関までついてくるところを想像するともうたまりませんね。
「で、みあちゃんはどうですか、中学校の生活のほうは」
『うん、楽しいよ!お兄ちゃんの知識があるから勉強も困らないし、男の子ってすごい運動ができるの!』
「それはよかったですね」
『あ、でもあれはびっくりしたかな』
「あれ?」
『お兄ちゃん、意外とモテるんだよ。今日もカラオケ行こうって女の子達に誘われちゃった』
「はて」
入れ替わる前のお兄さんからは普段そんなことがあるようなことは聞いてません。
内緒にしてたり、浮気だとしたら許せないのですが、これはおそらく…。
「それはみあちゃんが魅力的だからですよ」
『えー、そうなの?』
お兄さん、顔はそこそこよいし、決して魅力がないわけではないのですが、あらゆる女の子にモテるような人でもなかったはずです。いえ、私にとっては最高の彼氏なのですけどね?
多分みあちゃんの意識…性格と、お兄さんの身体の組み合わせがよりいっそう魅力的に映すのかも知れません。
そう言えばいまの乙女風味なみあちゃんの評判は、なかなか男の子からよいと耳にはさみました。
『ま、私が満足したら戻すからそれまでは"私"をよろしくね』
「はい、わかりました」
じゃあね、の声と共に通話が切られる。
お兄さんがいまこの瞬間にも家の中で"妹"としての生活を強いられていると思うと笑みがこぼれてしまいます。
ああ、早く休日がこないでしょうか。もう頭の中はみあちゃんのお家にお邪魔することで頭がいっぱいです。
他者目線からの入れ替わりとは、珍しいですね。
返信削除割り算に失敗したみあちゃん(お兄ちゃん)すこ…
おにいちゃん視点だとどうなっているのか、妄想がはかどります。