2019/01/28

遥か彼方からの侵略(?)

ー地球

宇宙人らしきものが襲来してきてはや数年。
人類は必死に抵抗…したのは最初の1ヶ月ほどだけだった。

何しろ敵に対してそんな攻撃も通用しなかったからだ。
ワープホールから出てきた物体に対して地球人類が生み出したミサイルで傷1つつけることができなかった。
地球は侵略されたも当然だったのだ。
…だが地球人は未だに普通に生活をいている。
子供は学校へ行き、大人は働く。
その風景の中に宇宙人の姿はない。
なぜならワープホールから生き物が出てきたことはなかったからだ。


テレレーテレー♪
とある場所に大音量でコミカルゲームチックな音楽が流れ出す。
その瞬間、ピタリと皆が立ち止まる。
車も電車もすべての物体が停止し流れ続ける音楽以外に音を出すものがなくなった。
この音楽が聞こえる範囲にいると、音楽が流れている間は何故かすべての活動を停止してしまうらしく、ジャンプしていたらその場で落下せずに固定され、慣性がある物体もその場に留まり続けるのだ。
ミサイルが効かなかったのも当然である。
範囲に入ったミサイルは空中でピタリ、と止まってしまったからだ。

(い、いや…来ないで…!)
(や、やめてくれええ)
(ひええええ)

ピタリと時が止まったように固まる人々の意識は覚醒したまま。文字通り身動き一つできないまま心の中で叫び続ける。

停止した人々ブウウウウウンという低い音と共にはるか上空に黒い切れ目が出現する。
その切れ目からにゅっと1本の柱が現れる。その大きな柱の先端に物を挟むようなアームがくっついている。

音楽は鳴り続ける。
アームがグオングオンという音をたてながら、穴と一緒に移動を始める。
音楽がなり始めたときに上を向いていない限り、顔が動かせない人類は自分の真上のクレーンが来ていないかどうか、把握するすべがない。
自分のところにクレーンが来ないことを祈るしかないのだ。

クレーンはとある少女の真上で停止した。
近くの高校の制服を着た登校中の女子生徒だ。
数人の友達と笑顔でおしゃべりした表情のまま固まっている。
ピピピ…という音を発しながらクレーンが降下を始める。
ガシャンとアームが開いたアームが閉じて…女子生徒をガッチリと挟み込んだ。

細いウェストに引っ掛けたクレーンは上昇を始める。
歩行中の体勢のままの固まった少女は笑顔のまま空高くもち上がっていく。

(いやあ、いやああああ!!)

少女の心の叫びは誰にも届かない。
視界がクレーンとともに空へ昇っていく。

クレーンはそのまま女子生徒を掴んだままワームホールの中へ姿を消す。
そのワームホールがすっと消えると音楽が鳴り止んだのだった。

体の自由を取り戻した人は慌ててその場から離れていく。
連れ去られた少女の友人は泣きそうな顔で警察へ通報をする。
とはいえ警察が来ても彼女が見つかることはない。
それは地球人は皆わかっていることだった。

正体不明に来襲者に対して手出しすることができない。
研究者が集まって検討しているが効果的な対策は生み出されていない。
されるがまま、攫われるがまま日常生活を続けるしかないのだ。

ーーー

(ここはどこなの)

アームに掴まれたまま暫く運ばれていた女子高生。
名前を瑞希(みずき)という。

瑞希は真っ白い空間の中をアームと共に移動する。
その間も身体を一切を動かすことができず、心の中でどれだけ叫んで泣き叫ぼうと、笑顔は1ミリも崩れず、涙もこぼれない。

どれくらいたっただろうか。
ふっと周囲の景色が変わる。
どこか狭い筒の中に出たかと思うと、アームが瑞希を手放したのだ。

(あっ)

離されれば当然、重力に従い瑞希の身体は落下する。
長い筒の中をヒューと落ちていく。
その間も身体は一切動かず、近づいてくる地面に対して瑞希はその姿勢のまま落下したのだった。

(…いた…くない?)

地面にゴツン、と当たった音がしたにもかかわらず痛みは一切感じなかった。まるで自分の身体から痛覚…いやすべての触覚が消えてしまったかのように。

筒の最下部に透明のカバーがかけられており、そこが出口なのか明かりが漏れてきており、明るく見える。

そこからにゅっと、大きな手が入り込んできたかと思うと瑞希の身体をガシッっと鷲掴みにする。
そのままぐっとすごい勢いで引っ張られたかと思うと、筒から出されたのだった。

ーーー

ーとある惑星

「おいおい、かわいい子を掴んだなー」
「ああ、ラッキーだな。運が良かった…名前は…ミヅキって読むらしい」

2人の男性(?)が筒の中から出てきた物を見て興奮している。
男性の手には制服を来た笑顔の少女が握られている。
少女の足元は円形の台座で固定されており、そこにこの星の言葉で読める彼女の名前が掘ってあった。

人形…いやフィギュアのように動けない瑞希だが、身体の質感はそのままで、柔らかい感触がしているようだ。
ちなみに瑞希が小さくなったわけではない。この宇宙人達が地球人に比べて身体のサイズがとてつもなく大きいだけなのだ。

「どこの星だっけ…?地球?聞いたこと無いな」

タイムストップキャッチャー、とかかれた筐体には「地球」とラベリングされている。

「こんな田舎のキャッチャーに導入できる星なんて未開の星ばっかりでしょ。簡単なミュージック型タイムストップに対抗する手段も持たない文明のさ」
「違いねえな。だが、たまにかわいい子が出てくるからたまんねえな」

男二人は瑞希をあらゆる角度から眺める。
スカートを指でつままれ、ぴらリと捲られる。
それでは満足できなかったのか、逆さまに持ち上げる。
スカートも重力によって逆さまにめくれ、白い下着が露となる。

「でもこの子はほんとかわいいな。部屋に飾ることにするわ」
「それがいい、それがいい。ああでも見ていたら俺も1体欲しくなったなあ」
「やってみろよ。この星は抵抗度0で初心者向けだぜ」
「よーし、やってみるぜ」

チャリン、という音と共にワームホールが生成され、そこへアームが侵入していく。

モニターには地球をはるか上空からみた映像が表示される。
ここから確認できるのは、生命反応の光点のみ。
文明度が高い星だと抵抗して動く点もあるが、この地球という星の生命体は
ピタリ、と動かない。

「どんな子が釣れるかわからないのがなー旧型キャッチャーの難点だよな」
「まあそれが楽しみでもあるだろ」

ポチリ、とボタンを押せばあとは自動でその生命体を掴み、ワームホールを通って帰還してくれるのだ。
ワームホールを通っていく間に色々な処理が、生命体には施される。
音楽がなくても動けなくなる強固な永久タイムストップ処理と、自立し続けるための記名式の土台の取りつけだ。

このタイムストップは身体の活動を一切停止する。ただし意識は停止することなく、生きづつけるのだが、そんなことは彼らにとっては些細なことである。
彼らにとってこのキャッチャーで取れるものは"人形"としか認識していないのだから。征服や侵略などといった大それたものでもない。そんな価値すら無い星の生物に対して権利などないし、それに対して可哀相だの不憫だ、という感覚すらもたない。そのへんのお祭りの屋台の景品との違いはなにもないのだ。

ゴトン。
筒の中にまた1人の少女が到着した。
だがー。

「あー、ダメだ。外れだわ」
「うわー、これはちょっとないな。ほんとに同じ地域を指定したのか?」
「くそー外れだわ。服はいっしょなのにな」

筒の中にいたのは瑞希と同じ制服を着た少女。
台座には亜里沙、と書かれている。
瑞希と違ったのはその化粧や姿勢だった。
亜里沙の髪の毛は金髪だが、頭頂部には若干の地毛の黒色が見えており、女子高生には不釣り合いな化粧で濃い顔つきをしていおり、下品に口を開け大笑いをしているところだった。
そして地べたに座っていたのかどうかは定かではないが、胡座をかいており瑞希のようにスカートをめくったりせずとも下着が見えていたのであった。

実は彼女は瑞希の同級生なのだが、清楚で優秀な瑞希を毛嫌いしており、攫われていった瑞希をざまーみろと仲間と大笑いしていたところだったのだ。

「下品だなー。オークションで売れそうにもない」
「くそ、今月のお小遣いがこんなクソみたいな人形に…」

瑞希の隣へ並べて置かれる。
瑞希も亜里沙もお互いが目の前にいることに気が付いたが、どうすることもできない。

「こんなん持って帰ってもな。返却ボックス入れるわ」
「そうだな」

返却ボックス。
不要な景品はここに入れることができる。
不満顔の男は亜里沙を乱雑に掴むとそのボックスに投げ捨てた。

ーーー

ー地球

夜中のとある公園に音楽もなく小さな穴が人知れず出現する。
直径30cmほどの人1人が通れるかどうかのサイズの穴からはアームが出現することはなく、代わりに小さな1つの物体がスッと吐き捨てられるように出現した。

ゴス、という音とも共に地面に衝突する物体。
あぐらをかき、大きな口をあけて笑う1人の少女が頭を下にして地面に倒れている。
そう、亜里沙は返却ボックスに投げ入れられ、元の地球に戻ってきたのだ。

だが、その土台に固定された身体はピクリとも動かず、静寂の公園のなかで倒れ続けている。
そう、わざわざタイムストップ処理を解除するような手間をかけることはなく、そのまま地球へ戻されたのだ。
亜里沙がどれだけ叫ぼうとしても口は動かない。
人気のない公園だが、明け方になれば誰かしら亜里沙を見つけるだろう。

だが、いまの地球人類にはタイムストップを解除する技術力はない。
このようにアームに掴まれ連れ去られた人の一部がこうやって発見されることがあり、通報されれば国の組織が回収にくる。
こうして固められてしまった人たちが佇み続ける倉庫が世界中にいくつもあるのだ。
研究が進み、いつか彼女たちをもとに戻せることを祈って。

ところで、善意の人に発見され国に回収されるのが一番マシな末路である。
捨てられる先が太平洋のど真ん中で、海に沈んでいくしかない運命にある少女もいた。水圧で潰れることもなく、暗い暗い深海へ沈んでいく身体。餌と勘違いしてよってくるグロテスク魚だけが彼女の行先を知っている。
活火山に投下され、マグマの中で悠久の時を生き続けている少女もいる。

そして悲惨なことに発見した被害者をそのまま持ち帰ってしまう人もいるのもまた一定数居る。
法律で誘拐とされる行為だが、動きもせず食べもしない彼女たちを家に匿われれば目撃されていない限りは痕跡が出ないために発見は難しい。
ピクリ、とも動かない彼女たちではあるが衣服や身体の柔らかさ…暖かさは人間そのものである。
つまり、鑑賞のため…または人には言えない行為をするための用途に使うことを目的として彼女たちを回収するのだ。
裏の世界ではそういった"実用的な人形"は高値で取引されることも多い。

公園に転がり続ける亜里沙の姿を1人の男が発見する。
服はボロボロで、髪にはハエが数匹とまっているような定住をもたない男性だ。
男はキョロキョロとあたりを見回し誰もいないことを確認すると
汚い大きな布で彼女を包み、自分のリアカーに載せてしまう。
売るのかそれとも…。
亜里沙はこの今の瞬間も泣き叫び、気がついてほしいと嘆願するが、身体は
笑顔で固まり続けている。
彼は彼女が生きているなど思いもしない。
彼女がどうなるかは彼に委ねられたのだが、国の倉庫に保護されることはないだろう。

ー終






瑞希

その後、獲られた男の部屋に数年間の間、飾りとしてたたずみ続けた。
その後、男の結婚の際に捨てられることになる。
その際に返却ボックスではなく、宇宙不燃物ごみとして出され、
タイムストップされたまま、宇宙ゴミステーションに投棄された。


亜里沙

ホームレスの男の住処に1ヶ月の間置かれていた。
男の用途を満たすためにあぐらの状態の彼女は常にうつ伏せのように頭を地面につけた状態で置かれていたという。

だが、生活に困窮した男によってすぐに闇市場へ流された。
(なお制服は男によって剥ぎ取られ、売り飛ばされた)
















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