「だー!!!もう!」
電車を降りて家まで飛ぶように帰り玄関の扉を閉める。
部屋はエアコンのタイマーを入れておいたためポカポカ暖かい。
玄関前で着ていたスーツを脱いでハンガーに駆ける。
シャツもインナータンクトップも脱ぎ捨てて洗濯機の方向へ放り投げた。
背中に手を回しブラホックを外すと、ようやく肩紐やワイヤーの締めつけ感から開放された。その代償に支えていた機能を失い、胸から肩にかけてにずしりとした重力が発生する。
…ブラは…投げ捨てようとしてとどまり、籠に入っていた洗濯ネットに入れた。
「…あーもう、最悪」
小走りで帰ってきたために少し汗ばんでいる。
走ろう、と思ってもタイトなスカートでは歩幅が制限されるので本気で走ることはできない。
…靴もヒールが数cmあるのだ。
「…はー。本当なんでこんなことになってんだ」
寝室(といっても1kだけど)に入ると、スカートのホックを外し、降ろす。
スカートは皺にならないようにスーツと一緒にかけておく。
黒のタイツがつま先からウェストまでを包んでいる。
デニール厚めのタイツは暖かいのだが、「細く魅せる」とパッケージに書いてあったとおり着圧がものすごく強く、常に圧迫感を与えてくるのだった。
外にいる時は心強いタイツも、オフィスや家のような暖房が効いている部屋では軽く暑く、じんわりと汗湿っている感じすらする。
破けないように慎重に、かつ最速で脱いで放り投げる。
ベッドの隅にしわくちゃなタイツが乗っかった…放って置くと壁とベッドの隙間に落ちて見つからなくなるけど…改めて拾うのも面倒くさい。
足が直接部屋の空気にさらされ、ようやく全身が開放された。
ショーツ1枚の姿のままベッドへダイブ…したかったがソレをこらえ洗面所へ。あのままベッドで寝るとシーツに惨劇が起きるのだ。
…本来であれば服を脱ぐ前にするべきことなのだが。
ほぼ無意識にメイクを落としていく。
もう鏡に張られた付箋の手順を見る必要すらない。
メイクも落とし終わったので部屋に戻る…前に。
浴室を見てしまうと身体がムズムズとしてくる。
…まあそうだよな。
お風呂に入ってしまおう。
湯船を張る気力もないのでシャワーだけで済ます。
長い髪の毛を束ねてタオルで包み、濡れないようにする。
洗ってしまうと乾かすのに時間がかかりすぎるからだ。
今日は洗わなくてもいいや、と妥協する。
乱暴に身体を洗う。
前はおっかなびっくり洗っていたが、最近はなんとも思わなくなっている。
その大きな柔らかい胸に触れようが、なにもない股間を洗おうが、そこに特別な感情は沸かない。
15分そこそこ、ほぼ行水だ。
全身を拭き、用意してあった綺麗なショーツだけを履いて、ポカポカと温まった身体をそのままベッドへダイブさせた。
「いたっ」
胸が圧迫されて痛みが走る。
このあたりはたまにうっかりとやってしまう。
ちゃんと意識をしていないと目の前の2つの物体を忘れて行動しがちなのだ。
立ち上がる時にバランスを崩したり、狭い通路ですれ違う時に壁側に向くのを忘れて背を向けてしまい、相手に胸を当ててしまったりしまう。
もそもそと身体を動かして横向きに転がる。
バストが横に、鏡餅のように積み重なり、すこし不快感。
「…んー…あーどこだ」
枕の下やベッドの下あたりに手を回してもぞもぞと探す。
あった…ナイトブラだ。洗ってないけど…まだ大丈夫。
寝転がったままシャツを着るように身につける。
本来は立って整えてやるべきだけど…面倒くさい。
胸がホールドされて包まれている感じになる。
「ワイヤーは痒くてしょうがないけど…やっぱりこれは楽だなあ」
…これを着て会社に言ったらあいつに物凄い怒られたけど…。
あくまで寝ている時に崩れないようにするためのものだから、と。
毛布を引っ張り上げて身体を覆う。
お腹丸出しで寝るとお腹壊しやすいけど…今日は寒くないし大丈夫、多分。
ああ、昔なら帰ったら全裸になって1分以内にベッド直行だったのにな。
なんでこんなことになってんだか。
「…あいつが出張から帰ってくる前には掃除しないとなぁ…」
スマホを取り出して見るがあいつからメッセージはない。
すこしディスプレイが汚れてるのを見て、胸に押し付けてコシコシと拭く。
ナイトブラで綺麗に拭き取られたディスプレイを見て満足し、充電ケーブルにつなげて放り投げる。
加湿器に電源を入れて、「俺」はようやく眠りについた。
(続きません)
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