2018/12/15

憑依キャンペーンにご応募いただきありがとうございます。


5人でグループになって歩いている女子高生。
繁華街を仲良くワイワイと騒ぎながら進んでゆく。
そのままとある大手のカラオケ店にゾロゾロと入っていった。

よし、今回はあの子達の中から決めるとしよう。
受付を済ませ個室へ入っていこうとする5人を背後からパシャリ、と撮影した。

「じゃあ当選おめでとうございますっと」

複数人写っているため誰になるかはランダムにはなるが問題はないだろう。
SNSで俺が勝手に開催したキャンペーンに参加表明してきた人から1人選ぶ。

「ポチ、っとな」

メッセージが送信されると共に、写真はスマホから削除された。

ーーー

5人で歌い合っている個室。
1人が立ってマイクを持っており、3人はそれにあわせてリズムに乗ったり手を叩いたりしている。
残りの1人は別の友だちからメッセージが来たのかスマホを開いていた。


「…当選おめでとうございます?なにこれ」

表示されたのは見慣れない宛先からのメッセージ。
また怪しげなサイトの勧誘だろうか。
はぁ、とため息を付きつつ削除ボタンに手を伸ばして…

ピクリ、と動きが止まった。
目の焦点が合わなくなり呆然とスマホを見つめ続ける。
差し出した人差し指はスマホにふれること無く、空を指し続けている。

「どったの、ゆったん?」

声をかけられて体を揺すられる。
はっと気がついたのか身体がビクリ、と震え、目に力が戻った。

「え…?あ…大丈夫…ってここ、どこ…?」
「は?なにゆってんの、ゆったん、カラオケじゃーん」
「どしたどした、寝ぼけてんのかー?」

ワイワイと囃し立てる女子高生たち。
ゆったん、と呼ばれたスマホを持つ女子高生は何が起きたか分かっていない、といった感じで目の前にある自分のスマホを覗き込む。

「当選…おめ……?ははっ、そういうことかっ」

わはは、と急に男臭い笑い方をしたために4人が怪訝な顔をする。

「?ゆったんどしたん、怖いよその笑い方」
「なんかおっさんみたい」

慌てて両手を振ってゆったんは否定する。

「あ、いや!ごめんごめん!ちょっとぼっとしてて…」

ゆったんが周り…4人を値を定めるかのように眺める。
その視線は顔、胸、そしてミニスカートから出ている脚を舐めるように動く。
女子ばかりで気が緩んでいるのか、少し下着が見えようと隠そうとしない。

「ちょ、視線エロくない?」
「まじでどうしたんだよ」
「あーごめん、ちょっとトイレいってくるわ」
「う、うん…」

ゆったんがすくっと立ち上がる。
その時も自分のむき出しの生足に視線が釘付けだったのを4人は気が付かなかったようだ。
スマホだけ持ったまま、部屋からでていくゆったん。

「…どうしたんだろ?」
「さあ…なんかスマホ見てたら急にあんな感じで」
「彼氏から言われたんちゃう?」
「あー。そういえば前もさー」

4人は先程のゆったんの奇行に気を止めることもなく、カラオケ会を再開した。

ーーー

「うひょー…まじで当選するとは」

間違えずに女子トイレへ入って鏡を覗き込んで発した一声は、女子らしくないものだった。
それもそのはず、今この女子の中にはどこの誰とも知らない男性が乗り移っているからだ。

「憑依キャンペーン、応募者から数名様に…って」

信じてはいなかったが面白半分で応募したのだった。
あの手のは応募数を見てみんな女の子になりたいんだ、という感覚を共有するだけのサービスというかイベントだと思ってたのだが。

鏡には長い髪を茶髪にきれいに染めた今どきの女子高生。
まつげはピンと長く、すっきりとした眉毛、少しだけ手を入れた薄い化粧。
うん、控えめに見ても美少女と言って問題ないだろう。
県内の私学高校の制服は有名なデザイナーがデザインしたもので、この制服目当てで入学する子もいたりする、特徴のあるブレザーだ。
あまり校則にうるさくないのか、スカートは太腿や膝がはっきり見えるほど短くなっている。
膝から下は黒のハイソックスで覆われ、靴は茶色のローファーだ。
オーソドックスではあるが、これぞ女子高生の見本といった出で立ちだ。

スマホを覗き込むと詳細が表示されている。
この子の名前や年齢、学校。
交友関係や親の情報が写真付きで。そして本人しか知りえないような情報も書かれている、どうやって手に入れたのだろうか。
…いや他人を憑依させることができる奴にこんな情報を得ることなんて、余裕なのだろう。

ひとまず先程いた4人の名前と顔を一致さえ、普段しているような会話を把握する。

「…さて、まだ大丈夫かな」

多分スマホを持って出てきたので、どこかに通話でもすると思われているはず。
すぐに戻らなくてもよいだろう。

トイレの扉に手をかけ、開かないことを確認する。

「おっほ…」

右手でがしり、と自分の胸を掴む。
制服とブラジャーでガードされてはいるものの、その上からでもわかるやわからさ。
空いた左手で短いスカートをチラリ、とめくりあげればそこには白い下着がピッタリと肌を覆っていた。

「意外とちゃんと鍛えてそうな子だな…」

出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいる体型だ。
手でそのシルエットを存分に堪能する。

「…ふっ」

なでているうちに敏感な箇所に触れてしまったのか、声が漏れる。
そう、よくよく考えてみれば声も今は少女のものになっているのだ。

「信じられねえなあ…40超えた冴えない男にこんな幸運が来るなんてよ」

ゲヘヘとゲスな笑いをする女子高生。
スマホには有効期限のようなものは記載されていない。

「…たしか満足するまで…だったか」

そんなものは永遠に来ないだろう。
あの老いた加齢臭のする身体に戻ることを考えたら、この身体で死ぬことがソレだ。

「そろそろ戻らないとあみっけ達、心配するからなー、げへへ。女の声でカラオケってのもやってみたかったんだよなー」

衣服の乱れを整え、髪の毛が崩れていないか確認する。
その仕草はまるで元から女子高生だったかのような動きだ。

「こりゃいいな、この子の振る舞い方もなんとなくだが、わかってしまうぞ」

普段の何気ない癖や会話など、頭の中を探れば温泉のように湧き出てくるのだ。

「そりゃそうか、この脳みそも今は俺が使っているんだもんなぁ…!」

まいったなあ、と全く困っていないのにつぶやく。

「じゃあな、優ちゃん。これからは俺が君の代わりにこの身体で生きていってやるから」

ガハハと笑いながらわざとガニ股でトイレから出てゆく。
こんな可愛い子がこんなはしたない歩き方をするのも、口汚く笑うのも、もはや俺のおもうがまま、自由なのだ。

-終-(続きません)

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