2018/12/14

高原さんと憑依能力 (3)

パチリ、と目を覚ます。
部屋は暗く、静まり返っている。

(たしか高原さんの妹に憑依をして…どれくらい持つかを試すためにそのまま…)

だが今の感覚はわかる。
線の細い、女性の体ではなく元の自分の体だ。
どうやら戻ったはずみで自分の身体が起きたのかもしれない。
時計を確認しようと起き上がろうとする。

(いつのまにか毛布がかけられてる…)


どうやら高原さんが抜け殻の身体にもちゃんと毛布をかけてくれていたよう…だ?

「んんっ…」

となりから甘ったるい、小さな声。
と同時に感じる、右腕に何かが絡みついている感触。

「た…た、高原さん!?」

あ、やばい。
焦って大声を出してしまった。
慌てて左手で口を抑える。

どうやら僕は高原さんのベッドに寝かされていたようだ。
そしてそのベッドには高原さんも潜り込んでいて…。
いやまあこのベッドは高原さんの物だから潜り込んでいるのは僕なのだが。
高原さんは僕の右腕を抱え込むように寝ているのだった。

「ん…?あ、…ああ起きたのか」

むくり、と起き上がる高原さん。
どうやら寝起きは良いようだ。

「ふむ…3時か」

時計を見ると午前3時。

「美々と入れ替わったのが夕方だから…9時間程だね。意外と長いじゃないか」
「そ…そうですね」
「これなら憑依して家まで帰って物を持ってくるまで余裕があるな」
「う…うん、ところで高原さん」
「ん?なんだい?」
「い、いつまで抱きついておられるのでしょうか」

おっと、これは失礼と言いながらも右腕を解放しない高原さん。

「すまない、今日は寒くてね…風邪をひかせては悪いと思ったんだ」
「それはありがとうございます…」
「朝食までまだ4時間ほどある。もう少し寝ていても構わないよ」

今、高原家を追い出されても行き場がない。
友達の家に泊まることになっている手前、家に帰るわけにもいかないし、ネカフェなどこのあたりにはない。

「…というかあまり騒がしくして美々に起きられても困るから、できればこの体勢でいて欲しい」

最初から選択肢はなかった。
というか先程よりも高原さんの身体がこちらに密着して来ている気がする。

「…あの」
「今日は寒いから隙間があると寒いんだ」
「…ですかね」
「それに油断をすると憑依されてしまうかもしれないからな」
「しませんって…もう、寝ますよ」
「…うむ。私も少し非現実に直面してハイになってるかもしれないな」

…ここでちょっといたずら心が芽生える。
記憶通りであれば…うん、いけそうだ。

「…君?どうしたんだい?」

高原さんが僕の身体を揺するが返事はしない。
寝ている演技をし続けた。

「………もう寝てしまったのかい?寝付きがはやいな」

ガチャリ
急に部屋のドアが開く。
高原さんがビクリとした後、瞬間で動き、枕を僕の頭の上に叩きつけるようにかぶせた。

「…お姉ちゃん?」
「み、美々…!?ど、どうしたんだ?」

高原さんの声が少し上ずっている。
流石に少し驚いたようだ。

「さっきなんか男の人の大きな声がして…」
「…そ、そうなのか?どこから?」
「わかんない。家の近く」
「戸締まりをしてあるから大丈夫だと思うが…一応確認しよう」

高原さんは僕が布団から見えないようにうまく起きる。
部屋の明かりをつけずに外へ出て、廊下の明かりをつけ、家中の施錠を確認して回った。

「…うん、大丈夫だ」
「よかった…でも怖いから一緒に寝ていい?」
「ん…あ、ああもちろん構わないよ」
「じゃあお姉ちゃんの部屋で…」
「あーいやー。美々の部屋がいいな、たまには!」

高原さんがこんなに慌てている様を始めてみたかもしれない。
思わず笑みがこぼれてしまう。
笑っている美々の顔をみて、高原さんがしてやられた、という顔をする。

「………ハメられたよ」
「高原さんだって僕をからかったでしょう」

そう、僕は再度美々へ憑依したのだった。
高原さん両手をあげて、降参のポーズを取る。

「からかう…いや、そんなつもりはなかったのだがそう感じたのなら、すまない」
「…寝ている僕を抱きまくらにするなんて、それ以外の何者でもないでしょう」
「それ以外にもあるのだが、まあ今回はそういうことにしておこう」
「………?」
「ひとまず美々をベッドに入れてきてくれるか」
「はーい、じゃあねお姉ちゃん」

手を振って笑顔で妹の部屋に戻る、横目にみた高原さんの顔は苦笑いをしていた。
ベッドに入り、元に戻るために僕が取っているポーズを取る。
ふっと意識が一瞬途切れ、天井の景色が変わった。

目の前には高原さんの顔。
ずしり、と感じる重み。いや、そこまでは重くないのだけど振りほどくにはつらい重さ。
高原さんが馬乗りになって僕にのしかかっていた。

「あれ、あまり驚かないんだね」
「驚いていいんですか…本当に妹さん起きちゃいますよ」
「む、それは困るな」

するり、と僕の隣に入り込むと先ほどとおなじように寝ることになった。

「…僕と高原さんってこんな仲でしたっけ?」

少なくとも今日(いや昨日か)まで日常の会話をしたこともないようなクラスメイトだったと思うのだけど。

「何を言ってるんだい。私と同じぐらい、私の身体の事を知っているくせに」
「いや、まだ憑依時間は1時間に満たない…ですよ。それに時間でいったらもう美々ちゃんのほうが」
「む、それはちょっと妬けるな」

ぐぐ、と身を寄せてくる高原さん。

「いいじゃないか。私は君のことが気に入ったんだよ。能力も含めてね」
「…美人の高原さんにそう言われるのは悪い気はしませんけどね…」
「だろう?」
「こんなことしなくても、ちゃんと舞島さんのことはやりますよ」
「…む、私がそんな打算でスキンシップをしている、と思われるのも尺だ」
「ちがうんですか?」
「さて、どうだろう」

…普通であれば軽蔑されて然るべきことを僕はしていると思うんだけど。
女の子の身体に憑依して好き勝手しようと思えばできてしまうわけだし。
やはり高原さんは他の女子とは変わっているのかもしれない。

「あ、そうだ7時には窓から出ていくのを忘れないように。美々には幻滅されたくないのでな」

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