2018/11/21

♂オークの呪い

のそのそと巨体な冒険者がとある街へたどり着いた。
人間より大きな体、突き出た牙に前にせり出した豚鼻。
体中から生えた獣毛からは野生の匂いが漂う。
オークだ。



とはいえ、今どきはオークだけではなく他のあらゆる種族が人間と交易をし、文明や技術の交流が行われているので、珍しいものではない。
その巨体故に人目を少しは引くものの、住人も他の冒険者も特に気にする様子はなかった。
とはいえ差別などがまったくないわけではない。

「…いらっしゃいませ」

宿屋。
店主が冒険者の姿を見て顔をしかめる。
体臭が強いオークは、ちゃんと清掃をしても匂いが少し残るため宿泊施設からはあまりいい顔をされない。
だが、オークは慣れているのか

「一番安い部屋でいい」

と話す。
店主は驚いた顔をする。
なぜならオークの口から出た声が、うら若き女性のような声だったからだ。

「ど…どうぞ」

鍵を受け取ったオークはそのまま宿屋の離れ…要するに表立って泊めるには憚られる種族を泊める建物へ歩いていったのだった。

ーーー

「ふう…」

どすん、とベッドに大股を開いて座るその姿に似合わない声。
芯の通ったような声から年齢を推測すればかなり若い、鍛えている女性を思わせる。

「この身体にもいい加減慣れては来たけど…辛いものね」

そう、オークの正体…は人間の女性。
しかも歴戦の勇士、光速の細剣を操るアーシャだったのだ。
魔族大戦終戦後、トレジャーハントを生業として生きてきたが、旧魔族領地にあるオーク遺跡にあった呪いをまともに受けてしまったのだ。
見た目はオークが持つのにはふさわしくない、豪華な光り輝く置物だったのだ。
それを手にとった瞬間、置物から大量の魔力が噴出、全身を覆うようにまとわりつき…受肉したのだ。
気がつけばオークに瓜二つな姿になっていた。

自分の身体がオークの中にあることは感じることができる。
鍛えられた肢体も胸もくびれもなに1つ変わることなく存在している。
だがそこから1mm外には巨大な筋肉と脂肪、そして毛に覆われたオークの皮が存在しているのだ。

これが終戦後でよかった、と思う。
種族間のいざこざが解決されていなければアーシャはその姿から人間文明では敵として認識され、魔族文明からはその声から敵と扱われていただろう。

ブルル、と鼻を震わせる。
決して鳴らそう、と思ったわけではない。
警戒心をとくと自然に出てしまうのだ。
鏡を見ればそこには人間の美的感覚からすればありえない醜さ。
大きく突き出た鼻は穴も大きく、鼻で息をしようとすれば数回に1回はフゴ、という声が漏れてしまう。

手のひらを眺める。
レイピアを握っていた白く細い手はない。
蹄のような太い指は、棍棒のようなものしか握れない。
大股開きでしか座れない筋肉が肥大した脚。
発達しすぎた筋肉は、スピードを殺してしまう。
スピードを活かしたレイピア捌きなど今はできるはずもなく、遺跡のガーディアン相手には巨大な戦斧を力任せに振るしかない。

アーシャは重い腰をあげると、湯浴みの準備をする。
硬い皮膚や毛が天然の鎧となるために装備は最低限で済むのが利点であり、屈辱でもあった。
もちろん女性体だったときにつけていた胸当てなどはつける必要性が皆無だ。
最小限の部位しか隠していない、粗末な腰布を取っ払う。

ボロン、という擬音がピッタリなぐらいの大きなイチモツが股間の間で揺れる。
そう、この厄介な呪いは♂オークなのだ。
人間文明で過ごしていくためには、このより一層臭う股間は手入れが欠かせない。
丁寧に湯をかけ、汚れを落とした。

次にアーシャは荷物を解いて中を確認する。
自分が女性だったことを忘れないための儀式。
人間だった時に着用していた軽鎧や布着だ。

今の自分の太腿と同じぐらいのウェストを持った、紙のように軽く感じる鎧。
銀色に装飾されたそれは、自分が一流の冒険者としてやってきた証だった。
懐かしく、そして悲しさを感じる鎧を手に持ち、うっとりと眺める。
…傍からみたらオークが女性冒険者を襲い装備を剥ぎ取った図そのものなのだが。

そしてその鎧から柔らかい肌が傷つくのを守っていた布着。
これもタダの布着ではない。清潔さと防御力を保つ魔力の糸で縫われた最高級品。
魔力で保護されているためにどれだけ乱暴に取り扱おうと悪臭や不潔さを感じることがない究極の一品。
そこからはほんのりと過去の自分の匂いが漂ってくる。
嗅覚に鋭敏なオークの鼻はその匂いを捉えて離さない。
高級な香水…いやそれ以上に甘く脳に突き刺すような匂い。
フガフガ、と鼻が鳴ってしまうのにもかかわらず匂いをかぎ続ける。

「んっ…」

先程洗ったばかりの部位に手が自然と伸びていき、敏感な部位を触ってしまい悶える。
すこし戸惑い、逡巡したが、その快感を忘れられずまたその巨大な手を股間に伸ばしていく。

「ふっ…ふっ……」

ゆっくりと撫でるように触っていた手が、徐々に激しく強く握り込まれていく。
息が荒くなっていき、そしてとうとう股間から白い液体を、その布着に大量に吐き出した。

「はぁ…はぁ…」

気ぐるみのようなものなのに、まるで自分が芯から♂オークになってしまったような
感覚。強い快楽を得る度に自分との身体との境界が曖昧になっていく。

「駄目だと分かってても…抗いにくいものね」

呪いを解除するためのアーティファクトを探す旅。
だが一向に進展は見られず呪いは徐々に強くなっていく。
ため息を付きながら布着を持ち上げると、ずるりと液体が滑るように落ちる。
布着はシミ1つない、キレイなままであった。
…どれだけ着用しつづけても清潔さを保ち続け、着用者を守り続けた布着は、いまやその本人の高ぶる性欲のはけ口…そして濃厚な精液のぶっかけ先の道具として使われているのであった。

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