2018/11/01

転生症 -ドワーフ-

僕は強くなりたかった。
だがどれだけ食事をしても背は高くならず、太らず。
どれだけ運動をして人並み以上の運動が出来るようになったというのに、
筋肉は見た目に影響を与えなかった。
童顔なのも輪に駆けていると思う。



そんな見た目なのでよくからかいの対象になる。
同年代の女子からは弟のような扱いを受け、街を歩けばそんな趣味を持った人(男性、女性を問わず)に声をかけられる。そんな感じ。

屈強な…とまではいかなくても見た目で損をしないまでに成長したかった僕は
一縷の望みにかけていた。
父親、母親共に遺伝でこれからの背格好に希望を持てないとなればもう1つしかない。
転生症だ。
僕は宝くじに当たる時に祈るのと同じように、寝る前には祈りを捧げ、選ばれるように願った。

そしてとうとう、僕の願いが届いたのか。
夢の中で異世界の住人からの声が聞こえたのである。

「我が種族、危機に瀕している。異世界の力を望む。いかがか」

ずいぶん直球なお願いだ。
過去の先人達の話を聞く限り状況の説明やこれからどうなるかの話があるはずなのだが。

「…我が種族、交渉は不得手なのだ。武力と鍛冶でいきてきた… ドワーフなのでな」

ドワーフ。
僕は想像をする。
背は高くないものの筋肉隆々、そこから無骨でヒゲが生えた風貌。
うん、悪くない。
少なくとも今の僕の環境を100%変えることができるだろう。

そこからドワーフはたどたどしくも現状と契約の説明を終えた。
契約の内容も聞いたことのあるものだった。
向こうの世界が平和になれば身体を返す儀式をし、そのときにお互いの同意があれば戻る。
要するに自身の姿を生贄にささげ、異世界の姿、そして異能力を得るという儀式だ。

「…いかがか」

ドワーフの問に僕は了承する。

僕に悩むところはない。

「了承した。…貴殿の協力に感謝する」

…向こうは僕が進んで交換したいと思っているなんてこれっぽちも思ってもいないだろうけど。
徐々に声が遠ざかっていく。
結局ドワーフの姿は最後まで確認できなかった。
…まあいいか、どうせ起きたら好きなだけ見ることができるのだから。


閉じた瞼に光が差し込む。
朝の冷えた空気が布団の隙間から入ってくるのを感じる。
そうだ。

僕はガバッと毛布を蹴り上げるように起き上がる。
その瞬間に感じたのは体中からみなぎってくる力。
いつもの数倍の活力が身体から湧き上がってくるのがわかる。

「すごい!…って…え?」

両手を目の前に掲げたときに感じたのは複数の違和感。
力が溢れているのにも関わらず、転生前と変わらないような白く細い腕。
いや、僕のときよりもより顕著になっていないか?

そして胸の辺りから感じたのは異物。
両腕の間に挟み込まれるようにして形を変えたのは…胸。
胸筋にしては柔らかすぎるし、身体から飛び出ているようなこれは…え?

そして最後に声。
変声期前よりも高く澄んだ声。
これじゃあまるで…。

慌ててベッドから降りて風呂場の鏡へ直行する。
鏡に映ったのは…。

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


半年後。

「ふふーん、ふーん♪」

僕は新しく購入した制服を来て、気分良く学校へ向かっている。
ちなみに元の制服が着れなくなったわけではない。
性別が合わなくなったからだ。
女子の制服を着て登校している。

まさかドワーフはドワーフでも、女性のドワーフだったとは。
この姿になってしまった直後は僕は酷く落胆した。
どうやら僕が交信した異世界のドワーフ、女性は背が低く、身体は顕著。
150cmぐらいの身長で交換前の僕と同じぐらいの身長だ。
顔も童顔…というか幼い感じで僕の問題はなんら解決していない。 

なによりも困ったのはこの胸だ。
身長や顔に見合わないサイズの巨乳を持ち主となってしまった僕は歩くたびにゆさゆさと揺れる違和感と戦い続けている。
クラスメイトからはますますマスコットキャラ扱いにされてしまい、女子だけでなく男子までもがちょっかいを掛けてくるようになった。
町中を歩くときも声をかけられる回数が増えた。なるべく胸が目立たないような服装をしてこっそりしているのだが、
やはり異世界の人種は目立つ上に、童顔と言っても美少女といって差し支えがない風貌をしている僕はどれだけ気配を殺そうとしても目立ってしまったようだ。

とはいえ数ヶ月もすればこの姿の生活には慣れてきた。
しばらくして逆に堂々としていたほうが声をかけられない、ということに気がついた(どうやらおとなしそう、という雰囲気が原因だったようだ)ので胸を張って…というわけではないがきっちりと歩いている。

身長や顔で余計に悩みが増えた僕だが…1つだけ嬉しいことがあった。
僕のときはどれだけ鍛えても筋肉が発達しなかったのだけども、この体は鍛えれば鍛えるほど(女性の範疇ではあるけど)見た目に反映されていく。
最近ではうっすらと腹筋が割れ、腕は筋肉の凹凸がはっきりと出てきたのだ。お尻もツンとツンと突き出すようなハリがでてきている。

どれだけ鍛えても女性らしさから逸脱することは出来ないものの(むしろアピールポイントが増えている)、自分の努力が反映されるという嬉しさには僕にはどうでもいいことだった。
女子からはせっかく可愛らしいのに鍛えることに対してちょっと不満の声が聞こえているけども、プロモーションがよくなっていくことで最近は羨ましい、私も頑張ろうみたいな声も聞こえている。
ムキムキにはしないで、と言われているが僕もそこまではするつもりはない。低身長童顔にあわせて可愛らしさとかっこよさの両立を目指して…って考えてしまったところで僕はどうやらこの身体に順応してしまったのだ、と思った。

最近では同じくドワーフの男の転生してしまった女性と知り合うことができた。
彼女は20代後半の会社員だったのだが今は建築関係の仕事でその力を存分に発揮している。
やはり種族の血がそうさせるのか、お互い見た瞬間に惹かれ合うものがあった。…僕がこの姿を求めていた、というのもあるかもしれないけども。
徐々に合う回数が増えていき、お付き合いを初めて…つい先日卒業したら結婚しましょう、とまで言われてしまった。

そういえば一度だけ彼女に落胆しなかったのか聞いたことがあるけどもどうやら「あのコスプレができる!」とまあそういう趣味のお方だったようであまり悲観はなかったようだ。…次のイベントでなぜか僕も一緒に行くことになったんだけど、何をされるかはまあ薄々予想はついている。

結婚までしてしまったらもうお互い元の身体に戻る儀式が起きても、受けないだろうなあとぼんやり思う。
おっと、1時間目は体育だ。さっと着替えてグラウンドへいかないといけない。
また何かあったら語ろうと思う。
じゃあね。

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種族:ドワーフ/女性 (元人間男性)
身体:イーリ(18歳)
身長:149cm
3サイズ: B98 W58 H90
能力:金属に対しての魔力付与(鍛冶)
種族特性:筋力強化(見た目以上の力を発揮できる)

イーリ
種族:人間/男性(元ドワーフ女性)
身体:僕
年齢:15歳
能力:?????(不明)
備考:一族を襲う敵に対抗するため僕と身体を交換した女性のドワーフ。異世界で同じく身体を交換した男性ドワーフとタッグを組み、種族の危機を救った。その後2人は結婚して子を成した。返還の儀式を行うことはなかった。
なお、男性ドワーフは高身長のクールな女性の姿だったという。

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