2018/11/13

シリコンボディの不思議(2)

「さ、どれがいい?」
「ど…どれがいいっていても…」

目の前に並べられた不思議なシリコンの山。
心臓がバクバクと音を立てている。
ああ、今俺は興奮してしまっている。
恐らく残りのパーツも、今俺がつけているお尻のように、まるでその身体になったかのような感覚が得られるのだ。
夢のような出来事が目の前で起きている。

「ま、胸とかは最後のお楽しみにしようか。まずはこれかな」

佐伯さんが持ち上げたのは脚のパーツだ。
大きなお尻に合うように大きな…でも柔らかい太ももをかたどっている。

「鏡見たらわかるけど、やっぱり脚も男性と女性じゃ違うからね」

佐伯さんが俺の隣に並び、鏡の前スカートをまくりあげて太ももをちらりと見せる。
確かに違う。
男性はどうしても肌が荒々しく、そして発達した筋肉と膝の骨の形が、ゴツゴツした印象を与えてしまう
そしてなにより女性のシルエットが作り出す、太ももの間の三角形ー柔らかな曲線で構成されたその三角形は男では作りえない物だ。

今俺の腰は女性のものと寸分違わずとなっており、脚の付け根も若干広がっているようにみえるがそれでも佐伯さんの脚には程遠い。

「じゃ、どうぞ」
「お…おう…」

ずしりとしたシリコンを受け取る。
ベッドに腰掛け、女装するときに履くタイツと同じように履いていく。
足の爪先にシュッと空気が抜ける感触。それは足首を通って膝へ。
フィットした先から順番に空気が抜けていき、身体に密着していく。
ゴツゴツした脚は、柔らかな脂肪に包まれた女性の脚で覆われていく。
太ももまで上げきると、佐伯さんは付け根の部分と先程履いた腰の部分を重ねるようにあわせていく。
継ぎ目となる部分に佐伯さんの指が当たるたび、少し熱が発生してゆく。
佐伯さんの指が離れると、その継ぎ目がわからないぐらいに密着していた。

「こうするとシリコン同士が癒着してくれるの。細かいところもこだわってるでしょ」
(あ、あれ…これ脱ぐ時はどうするんだろう)
「脱ぐ時は刃をすこし入れるだけで取れるから、安心して」
「あ、そ…そうなんだ」

脱ぐ、という言葉に少し動揺する。
佐伯さんが両方の太ももを触り終えると、完璧に腰と脚の部分がキレイに1つに合体した。

「どうかしら、女性の脚は」

先程みた佐伯さんの太ももより…良く言えば健康的…だが少し肉付きが良すぎる気がする。
すこし動くたびにお尻から太ももへフル、フルと波のように動く。

「まあそれはお尻の形に合わせるとそうなっちゃうから…。ほら、歩いてみて」

言われたとおりに歩いてみる。

「お…?おお?」

バランスが取れず、倒れてしまいそうなところに佐伯さんが肩を貸してくれた。
お尻がぷるん、と揺れるようにしか歩けないのだ。

「骨格まで影響があるから、慣れるまではちょっときついかも。体全体でバランスをとるようにして」
「う…うん」

映画やテレビでモデルが歩くようなイメージで歩く。
クイ、クイとお尻が左右に振れるがなんとか全身の筋肉を使って制御する。

「なんとなくわかった」

何度もお世話になっている鏡をふたたび見る。
先程でも十分に女性に見えたシルエットがさらに…いや下半身だけで言えばもはや寸分違わず女性のものにみえる。
気をつけを取るような姿勢で両手で太ももの両サイドを撫でるように触ってみる。
ムチリ、とした柔らかい感触が返ってきた。

「ふふ、その脚も気に入ったみたいね。それなら短いスカートを履いても、ストッキングを履いてもバレないよ」

短いスカート。
家の中でも履いたことがない。…いや、正確には1度だけあるのだが鏡に写った自分がみっともなくてそれ以来履いたことがなかった。
そうか、この姿ならそんな格好もできるんだ…。

「残りも着ちゃえば…晶君が諦めていたモノ、なんでもできちゃうよ」
「…」
「水着とか?」

水着、という言葉に心がさらに暴れだす。
水着に興味がなかった、といえば嘘になる。
だが水着がどうしても間延びして見えてしまうこと、さらに股間からお腹にかけて、どうしてもできてしまう隙間がスカートと同じくみっともなさすぎて、着ることを封印していたのだ。

「ま、水着も用意してあるけど、まだ肩が男の子だからね」

逆三角形で肩幅が広い状態では見た目がまだ悪い。

「とりあえず素足はアレだから、これ」

佐伯さんがわたしてきたのはカラフルなストライプの靴下。
それもタダの靴下ではない。脚を覆う部分が長い。

「ニーハイソックス…?」
「あ、持ってた?」
「うん、姉さんのが…あるけど」
「ま、どっちでもいいよ」
「せっかくだしこれにするよ」

スルスルと履いていく。
これで下半身だけ見れば、町中で見かける女性の格好になった。

「さて、次はウェストだけど…これはちょっとキツイかも」

腹巻きのようなウェストのシリコンは明らかに細い。

「ヒップが90cmに比べてウェストは58cmだからねー」

俺のウェストは華奢な方とはいえ70cmはある。

「最初は息苦しいかもだけど…どうする?」

俺にはもう断る理由はない。ここで止めるなんて選択肢はありえない。
シャツを脱いで手を上に上げる。
佐伯さんは俺に服を着せるような形でウェストのシリコンを両手と頭にかぶせていく。

ぐっ、ぐっと上半身が締め付けられる。
佐伯さんがどうにかしてウェストまで下げようとシリコンの裾を引っ張っていく。
10分ぐらい格闘しただろうか。ようやくお尻のシリコンとウェストのシリコンが一致するところまで下がる。

「空気、抜けるよー」

佐伯さんがそういうとシュっと言う音と共に腰にものすごい圧力がかかる。
内臓が潰れてしまうのではと思うほどの圧力だったが、一瞬にして楽になった。
鏡を見るとウェストがキュッとしまった俺の姿があった。

「あは、さすがに上半身との不一致がいびつに見えちゃうね」

佐伯さんが笑う。
ウェストからバストにかけてのラインが漫画のような形になっている。
そうなっているというのに身体には一切の負担がかかっていない。
本当にどんな技術なんだろう。
そう悩んでいるうちに佐伯さんがお尻とウェストのシリコンを癒着させてしまった。

「じゃ、ショートパンツ、もうちょっと上に上げて」
「あ、そうか」

ウェストまでパンツを持ち上げる。
ぐい、っとお尻に食い込む感触があったが、フィット感がしっくりと着た。

「はい、ベルト」
「うん」

ベルトを手渡される。
(うわ、細)
腰に回したベルトで自分の身体が信じられないほど細くなっているのを感じる。
キュっとベルトをしめると少し緩かったパンツのウェストがぴったりと合わさった。

「これでスカートもちゃんと腰で履けるようになったよ」

ああそうだ。
男の時はウェストで履く、という感覚が違いすぎて困ったことがあった。
寸胴に近い体型ではウェストに引っ掛けるように履く、ということが難しかったのだ。しかしもうその悩みは消え去った。

「じゃあお待ちかね。上半身だよー」

自分の身体より一回り…いや二回りは細い、薄いシリコン。
胸部にはそれにはすこし不釣り合いな…だが形のよい2つの双丘がずしりとついている。

「バストはなんとEカップ。ちょっと重いかもだけど頑張って」

はやる気持ちを抑えてぐい、ぐいと着ていく。
長袖のようになっている腕もまるで細枝のように細く、手袋のようになっている手も小さく、細い。
自分の身体がそのシリコンを押し広げていくが…。

シュッ。

それも一瞬のことだった。
世界がすこし広くなったのかと思った。
いや、正確には自分の身体が小さくなったのだが。
もしかしたら身長もちょっと縮んだのかもしれない。

「わ、かわいいー」
「す、ごい…これが…」

俺、と声を出そうとして踏みとどまる。
そう、この姿はもう。

「わたし」

佐伯さんがニコリと微笑む。

「そう。その身体はもう晶ちゃんだよ」

ずしりとした、いままでにはあり得なかった重みが肩にかかってくる。
今まで見た目のシルエットを作るために、偽物の乳房で胸を作ったことはあったのだが、やはり本物は感覚が違う。
本当に身体の一部分である、ということが認識できる。
両手でその膨らみに触れてみる。
新品のクッションみたいな、いやそれ以上に柔らかい感触。
少し力を入れてみれば、指を包み込むかのごとく形を変え、だが確かな存在感と反発力が指へ返ってくると共に、自分の胸が押されている、という感覚も脳へフィードバックされている。 
上半身が更に華奢な…でも大きな胸はあって…背は低いけどお尻は大きくて、ちょっと太ももはむっちりしている。

「なんかちょっとバランス悪くない?」
「そう?ちょっとわたしの趣味入っちゃってるかも」
「…そうなんだ」

はい、と手渡されたのはブラジャーと小さめのシャツ。
前の自分なら着ることすらできないシャツ。
ブラジャーはさすがに佐伯さんにつけてもらった。
ぎゅっと大きな胸が固まるように持ち上げられる。
バラバラだった学生たちが整列したみたいな感じ。
そのままでも大きかった胸がより一層大きくなった気がする。

手渡されたシャツを被る。
よく見るとピッタリと身体に張り付くようなノースリーブのタンクトップだ。裾の方は少し短くなっており、そのまま着るとおへそが丸見えだ。

「イメージは夏の旅行!」
「うん…そんな感じがする」

太ももを惜しげなく露出したショートパンツに、肩を健康的にだして、大きな胸の形がはっきりと分かるぐらいにタイト。…そして極めつけには健康的なおへそと細いウェストを見せつけている。
男の身体であったら絶対できないような女装…いや…これはもう女装といっていいのだろうか。

「晶くん、顔ちっちゃいしそのままでいいから」

といって手渡されたのは軽く茶色がかった、ウェーブの入ったロングヘアのウィッグ。
付け方がわかるか、と聞かれたが、これはいつも女装しているときに似たようなものをつけている。
ウィッグを被ればそこには本当に海へ遊びにいくような少女が立っていた。

シュッ。

(? なんだろう、いまの音)

まあいいか。

「じゃあお出かけしようか」
「えっ」
「えっ…ってそのために着替えたんでしょ」
「ま…まあそうだけど」
「このまま家の中にいたらもったいないよ」

とはいえ、やはり身体を覆っている布が少ない状態で出かけるのには少し緊張がある。
もしかしたらバレてしまうのではないか、という恐怖だ。

「バレちゃわないかな…?」
「んー。いまの晶ちゃんを見て男だ、なんて思う人は100人いたら1人も思わないだろうね。わたしも含めて」
「そ、そう…」

顔が赤くなる。
緊張か、羞恥か。どちらのせいかわからない。両方かも。

「あ、でも声はバレちゃうかも」

低すぎないとはいえ、変声期を終えた男の声はどうしてもごまかせない。

「じゃ、シュッパーツ」
「お…ぉー」

0 件のコメント:

コメントを投稿