生徒は例外なくこの寮に卒業まで在籍することが求められており、みな親元から離れてはじめての生活をここで行う。
理由は自立や協調性を育む…と表向き建前はそうなっているが、実際は魔法の訓練を行うために生徒以外に被害を出さないため、という裏の事情もあるのだった。
女学生寮のとある一室。
部屋にはそれぞれペアになる家具が中心を対象に設置されており、二人部屋のようだ。
並べられたベッドには小さな膨らみが2つ。寮生だ。
…が、その膨らみは"人"にしては小さすぎた。
どうみても握りこぶし大の大きさだろうか。
何故かと言うと…。
(あー。変身魔法とけちゃってる)
ハナはまどろみの中、起こってしまった現象を確認する。
四肢の感覚はない…どころか頭や胴の感覚も一体化してしまっているように感じる。
(えーと、詠唱詠唱…)
心の中で呪文を詠唱し、精神力を高めていく。
(変身魔法発動…!変身対象は…"ハナ")
変身対象に"自分自身"を想像して魔法を発動する。
ベッドの中の小さな膨らみがぐぐぐっと膨張したかと思うと枕程度の大きさまで膨れ上がり、そこから細い手足が進化するようににょきにょきと生えてくる。
人間のような形に変化したそれは、最後に首と頭が生えてきたことで完成した。
「…ふー。やっぱり寝てしまうと維持できないなあ」
ようやく喋られるようになったハナははぁ、とため息をつく。
実はこれは変身魔法の特訓の一貫なのだ。
魔法使いたるもの、どのような状況でも対処できるべし、という信念を掲げたこの学校は訓練も過酷なものとなっている。
パーティーが全滅しかけても最後まで諦めない精神を育てるため、実際の訓練も現実に起きうる状況を元に構成されている。
「変身魔法、というものは攻撃にも使われます」
教師が言っていたセリフだ。
敵を無害なものに変化させ、そのまま放置したり潰したりしてしまうことがある。
知能が高い魔物ほど真っ向からぶつかり合い、血で血を洗うような争いを避け、そういった搦め手でパーティを襲うのだ。
今回はそのシチュエーションを再現しての訓練となる。
「ハナさんは…なにに変身するでしょうね」
そういった教師は、魔法防御障壁を解除したハナに向けて変身魔法を容赦なくかける。
手足があっという間に縮退し、顔と胴体が一体化、シュルシュルと白くなりながら縮んでいく身体。
対象を指定した変身魔法はイメージも魔力もより多く必要とされるため、クラスメイト全員にかけるには教師とはいえ負担が大きい。
そのため変身イメージを対象者の深層意識に訴えかけ変身させる変則的な魔法を使用する。そうすることで魔力も少なくてすむ。
教師が投げかけたイメージは"無力"。
ハナが思い浮かべてしまったのは…。
ハナは気がついたとき、床をコロコロところがるキレイな楕円の形をした卵に変化していた。
教師はさらにその状態のハナへ魔法をかける。
「固定化魔法です。これから1年の間、ハナさんはいかなる解呪呪文を受け付けず、また、変身魔法がとけることはありません」
その状態から動くためには自身にさらに変身魔法を上掛けするしかない。
ハナは1ミリも動かない身体に困惑しつつも、3日間かけてようやく"元の身体"になる変身魔法をかけることに成功した。
魔法に成功してようやく自由になったハナがあたりを見回すと、半分ぐらいの生徒はすでに変身魔法を成功させていた。
…もう半分の生徒はまだ、机の上のクッション座布団の上にさまざまな小物として置かれたままだったが。
生徒の殆どは自力では動くことができない"無力"な存在へと変化していた。
お人形さんやぬいぐるみが多いようだが、中には風変わりな変身となってしまった生徒もいるようだ。一番面白かったのは私のルームメイト、サラだがこれは後で述べるとしよう。
変身魔法は持続させるのが難しい。
集中していないと維持できないし、変身しているだけで魔力はじわじわと減っていく。
教師が言うには息を吸うように維持できるようにならないとお話にならないという。
最初のうちは授業を受けているときにボロボロと変身がとけてしまう生徒が続出した。
ハナもようやく日中は変身を維持できるようになったが、寝ている間にもとに戻ってしまうことがまだまだ日常だ。
ハナは隣で寝ているクラスメイトのベッドを眺める。
そのクラスメイトもまた同じように変身がとけてしまっているようだ。
ハナはため息をつきつつも毛布をめくりあげる。
そこから現れたのは…男性の…性器。
ルームメイト、サラが想像してしてしまったのはおちんちんだったのだ。
男遊びが好きだった彼女にはさもありなん、といったところか。
人間の皮膚のような本物のような質感。
それもそのはず、おもちゃなどに変わったのではなく、本物の"性器"なのだった。
卵そのもので感情や行動を表に全く出せないハナと違って、サラのそれは少し変化できる。寝ているか、起きているかの判別にしか使えないのだが。
先端までしわしわの皮膚に覆われたそれは根本にある2つの睾丸の上にヘタリ、ともたれかかるように垂れ下がっている。
サラが起きると、この部分がムクリと立ち上がり、皮膚から露出したソレが顔を出す、といった寸法だ。
ハナは時計を見る。
授業開始まであまり余裕がない。
もはや変身できないからといって遅刻が許される時期ではない。
教師の魔法お仕置きを考えると気分が憂鬱となる。
先日もハナとサラがうっかり遅れてしまったときはふたりとも石化され廊下に飾られてしまったのだ。
「起きてー…サラ」
恐る恐るサラの身体に触る。
サラとわかっていても、異性のソレに触れるのはかなり勇気がいる。
チョンと触ってもサラはピクリとも反応しない。
彼女は一度眠るとなかなか起きない。
覚醒魔法を使用してもいいのだが、今日1日の魔力を考えると朝から消費することは避けたい。
ツン、と強めに突っついてみる。
ピク、と竿が反応した。
(あ、気がついたかな…?)
ちょっとおもしろくなってきたハナは強めに握ったり、さすったりしてみる。
徐々に大きくなっていくソレはようやく包まれた皮膚から顔を出したのだった。
「起きた起きた。サラ、はやく変身しないと遅れちゃうよ」
聞こえているはずのサラに声を掛ける。
耳や鼓膜がなくなっていても、音は問題なく聞けるのだ。
ぐぐぐぐ、と膨張していく身体。
睾丸から2つの脚が生え、竿から両手が生えていく。
皮膚から顔をだした部分が、サラの顔へ変化していった。
「おはよう、サラ…って顔赤いよ?熱でもあるの?」
「…ないけど」
ちょっとムスッとしたサラ。
あとから聞いたところによると感覚器もそれ相応になっているから、ということで起こすときは気をつけてくれ、と言われてしまった。
どうやらその…射精をしてしまうと魔力が大幅に排出されてしまうので変身ができない状態になってしまうらしい。
とかいいつつ私も気をつけないといけないことがある。
無精卵なので孵ることはないのだが、温めすぎてしまうと中が固まってしまうことだ。
固まってしまうと物凄い眠気が襲ってきてしまい、意識を失ってしまう。
布団ぐらいなら大丈夫なのだが、日中の運動中に卵に戻ってしまうと…残念なことになってしまう。
固定化魔法のおかげでしばらくするともとに戻るのだが、これが実践であれば私はゆで卵として生を終えることになってしまうのだ。
改めて変身魔法を攻撃として使うことの有用さと恐怖を身を持って感じるのだった。
実習終了まであと半年。
偉大なる魔法使いになるための道ははるか遠くにあるのだった。
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