最近はどこもかしこも平等性が叫ばれてはじめ、受験にもその波は押し寄せてきていた。
「先輩、匿名受験ってなんですか?」
「なんだよ、お前も来年受験なのにそんなんで大丈夫か?いいか、匿名受験ってのはな」
僕は後輩に説明する。
氏名、性別、見た目そういった本来試験に関係ないはずの要素において、加点減点が行われていたことが問題視され導入された仕組みだ。
その名のとおり受験生を匿名化する。
誰が受けたか、大学側ではわからないようにしたのだ。
例えば女子を一律減点しよう、みたいな方針はこれによって取れなくなる。
「へえ、どういう仕組みなんです?」
「筆記試験については簡単だ。国から一人一人に直前にランダムに番号が振られ、大学はその番号と試験答案の組み合わせ以外はわからない。合否を記入したあとに国から氏名が送られてくる、って寸法だ」
「なるほどー。あれ、でもそれだと試験当日、番号と見た目を結びつけることはできちゃうんじゃないですか?」
「最後まで話を聞けよ。確かに試験会場が大学だからその可能性はある。だから受験日当日に匿名センターへ行くんだ」
「匿名センター?」
「お前はほんと何も知らないんだな…。まあいいか。先週受けた俺の入河大学の受験票を見せてやるよ。」
「ありがとうございます。ってなんですかこれ。顔写真は違う人じゃないですか」
受験票には番号と、1枚の写真が貼られているだけ。
その写真に写っているのは女子の顔だった。
「っていうか可愛いですね。先輩の彼女ですか?」
「いや、名前は知らない。これが匿名受験さ」
「へ?」
「受験当日に、匿名センターへ行くと、その日受験がある人同士でランダムに体を入れ替えるんだ」
「…入れ替え?」
「そう。見た目から誰か分からないのであれば大学側は贔屓ができないだろ?」
「え、先輩、女の子になって受験してたんですか?」
「…言うなよ、ちょっと恥ずかしかったんだから」
性差も合否に反映されては行けない、という観点から性別も関係なくランダムに入れ替わることになっている。
正直戸惑うどころの話ではなかったが、公正な受験を、という名目で反発がありつつも実施されているのだった
「でもこれセーラー服ですよね…」
「ああ。でも大丈夫だったよ、受験対策に最近は盛り込まれていたから」
「へ?そうなんですか?」
「お前は行ってないから知らないだろうが、受験対策の一つに異性装の練習が盛り込まれている塾がほとんどだ」
「なんか変なコスプレ大会になりそうですね…」
「だが、実際他の受験生を動揺させて蹴落とすためにギリギリな格好でくる場合もあるんだ。他の大学の受験なんか黒ギャルの格好で受けさせられたんだぞ…」
面接もこの格好で受けることになってしまい動揺は半端なかった。
「見た目で判断しないような風潮にはなってきてるとはいえ、当たり外れはある。これは運だな。…一応大学側もそういうことがあるとわかってくれているみたいだが」
いろいろ問題をはらみつつも実施されている匿名受験。
やはりというか入れ替わりにプライベートな問題ははらんでいるため、 今後はレンタルボディシステムを利用した、受験者全員が見た目がほぼ同一のアンドロイドになるという仕組みが検討されているようだ。
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