慌てて身体を確認する。
さっき憑依した高原さんに比べて随分と小柄のようだ。
立ち上がってみると高原さんの頭1つ分ぐらい背が低い。
「どうだい、私の妹の身体は」
どうやら高原さんの妹さんの身体のようだ。
…自分の妹を実験体に差し出すなんてとんでもない姉である。
自分と姉の胸元を交互にじっと眺める。
………。
うん、胸はこれからに期待ってことかな。
「…で、なぜ妹さんの身体に?」
高原さんは何を言ってるんだ、という顔をする。
「制限時間を調べる、と言っただろう」
どうやら高原さんに憑依して確かめると思っていたのは間違いだったらしい。
高原さんがやれやれという顔をする。
「ずっと私の身体を自由にさせるわけがないだろう?」
「…妹さんならいいんだ」
「私がちゃんと見張るからな。問題ない」
「…いいのかなあ」
「憑依されている間の記憶はないんだろう?問題ない。それに妹に男を連れ込んでいる、などと知られるのもあまり気持ちがいいものではないからな」
高原さんはやはり強引だ。
「高原さん、頼みたいことがあるといってたけど」
「ちょっと待て」
「…なに?」
こちらの話を静止してくる高原さん。
「その身体で高原さん、と呼ばれるのはどうにも違和感があるな。いつも通り呼んでくれ」
「いつもなんて知らないぜ」
「…奈々ちゃん、だ」
「ええぇ…」
高原奈々。そういえばそんな名前だったな。
「奈々、ちゃん」
口に出してみると案外恥ずかしい。
顔がカーっと熱くなっていくのが分かる。
「なんか初々しいくていいな…」
高原さんも同じように顔を赤くしている。
「…!あ、本当はそんな風に呼ばれてないな!?」
「バレてしまったか。いつもは単にお姉ちゃん、だ。どちらで呼んでも構わないぞ」
「金輪際、絶対に呼ばない」
まったく。
「…で、話を戻すけど」
「うむ。頼みたいこと、だったな」
高原さんは妹のベッドに腰掛ける。
「取り返したいものがあってね」
「取り返したいもの?」
「うむ。クラスに、舞島さんがいるだろう」
ある意味、学内では高原さんより有名な人の名前だ。
クラス1…いや学年1の不良といって差し支えない。
校則なんて知らない、聞いたことがないという感じで服装も髪形も自由奔放だ。
「私は彼女と仲があまり良くなくてね」
「そうなんだ?確かにあまり話しているところを見たことがないかも」
高原さんが困ったような顔をする。
こんな顔を見るのは初めてかもしれない。
「多分、今君が想像しているより数倍は険悪だと思ってくれたまえ」
「そうなのか?取っ組み合いの喧嘩とかするぐらい?」
「そんな大っぴらな物じゃないよ。女子の世界にはいろいろあるんだ」
怖い。女子の世界。
「…で、まあ当初は普通だったんだが、彼女があんな…不良な感じになってからは私の成績とか振る舞いが気に入らないらしくてね」
「仕返しがしたい、とか?」
「まさか。貸したものを返してもらいたいだけさ」
どうにもこうにも相手が険悪になるため言い出しにくいのだという。
「そんな大事な物なのか?」
「まあね。他の人から見たら他愛のない物だけど…。多分彼女の家にあるはずだから」
なるほど。彼女自身になればそれも可能だろう。
でもそれには…。
「なるほど、だから効果範囲、対象指定と時間…か」
そう、と高原さんはうなずく。
「射程が10mである以上、家に帰った彼女に憑依するのは難しい。だが一旦憑依すれば効果は100m。ということは学校で憑依して、家に帰り、物を取り返すまで…。できるだけ余裕をみても半日は時間が欲しいところだな」
「学校から家まで100m以上あるだろ?」
さっきの実験では学校から出る前に解除されてしまっている。
「なんとかして君の身体を運ぶしかないな。理想は君が舞島さんの身体で、自分の身体を背負って歩くことなんだが」
「…俺の社会的立場が死ぬな」
舞島さんが男の身体を持ち運んで歩けるほど力があるようには見えない。
それに舞島さん自身も、その後困ることになるだろう。
「どれぐらい余裕があるかによってとれる対応が違う。例えば無限に憑依できるのであれば、夜まで学校に残って暗闇の中運び出す、という手も取れなくはない」
「なるほどね…理解したよ。じゃあ俺は今日このまま過ごせばいいんだな」
高原さんの妹さんには悪いけど、文句は姉に言って欲しい。
「俺もこんな長時間憑依するのは初めてだからなあ…何が起きるかわからないぜ」
「なるべく家から出ないように、私の目の届く範囲にいてくれ」
「そうするよ…でもこれ、妹さん宿題してたんじゃないのか?」
憑依したときのポーズと言い、目の前に開かれた問題集とノートと言い。
もし憑依が朝まで続くようであれば彼女は宿題をこなせずに明日学校へ行かなければいけない。
「君がやったらどうだ?中学生の問題なら簡単だろう」
「筆跡が変わっちゃうんだよ」
「…なるほど」
実際はある程度は似る。
何かをするにあたってその身体の慣れや癖、みたいのは多少は出る。
髪の毛を払う仕草や、腕を組む癖、咳払い…。
何気なくしている動作であればあるほど意識しなくてもできるのだが。
「文字は無理だな。逆に俺が書いたってバレてもおかしくない」
「それはよくないな。…よし」
じっとやりかけのノートを眺める高原さん。
「把握した。私がやる」
ペンを持つとさらさらとノートへかきこみ始める。
「筆跡とメモや計算の際の癖を把握した。ちょっと量が多いが、教科書にチェックが入っているのが宿題の範囲だろう、…あと30分もあれば終わる」
妹とはいえ、他人の筆跡真似るとかナニモンだよ、高原さん。
「君は自由にしていてくれ」
「…そうする」
部屋をざっと見まわし、本棚に注目する。
あまり数がないけど漫画でいいか。
少女漫画と少しの少年漫画が1列だけあったのでそこから読んだことない本を数冊取り出す。
机は高原さんに占拠されてしまったので、妹さんのベッドを拝借する。
ベッドに沈み込む身体の感触から、体重が軽いことを意識させる。
「…そういえば」
高原さんがすごいスピードでノートに書きこみながら話しかけてくる。
「その状態からさらに誰かに憑依することはできるのか?」
「…いや、できない。一旦は戻らないと」
「そうか、それは残念だ」
漫画をぺらぺらと捲る。
あまり面白くなかったせいか、横になっていたせいか、
俺は知らず知らずのうちに眠ってしまっていた。
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・
「美々、起きるんだ」
「…う…ううん?」
身体をゆさゆさと揺らされている。
「う、あ…?高原…さん?」
目の前には高原さん。
「…なんだ、君のままか」
「あー、うん」
そうか、妹さんに憑依したまま寝てしまったのか。
「君が意識を失ったときにどうなるか聞いてなかったから」
高原さんは苦笑する。
「美々も、隣の部屋もどちらも寝ている感じだったからな」
「ああ、ごめん…。自分も寝たらどうなるか、知らなかった」
いままでずっと短時間の憑依に留めていたので寝たらどうなるか、なんて試す機会もなかった。
「結果としては寝てもそのまま、ということだな」
「…みたいだね。どれくらい寝てた?」
高原さんは壁に掛けられた時計を指さす。
「えっ、そんな寝てたの」
時計は20時を回っている。
すでに3時間程憑依し続けていることになる。
「…妹さん、疲れてるんじゃないかなあ」
まだすこし身体に気怠さを感じる。
「高原さん」
「…なんだ」
「トイレ行きたい」
「…しまった。考えていなかった」
他人の身体で尿意を感じるのも初めてである。
女性ということもあってか、すでにかなり限界に近い。
「一回憑依を解除するか?」
「うーん…。仮に3時間だとすると放課後に憑依しないと行けなくなるし、いろいろギリギリだ」
「この尿意もギリギリなんですけど」
「…うん、どうせ舞島さんになったときも同じ問題は起きるのだろう、今のうちに慣れてしまえ」
「そんな無茶な」
多感な年ごろの妹さんの気持ちはどうなるのか。
いくら覚えていないとはいえ、勝手に用を足してしまうのはさすがに気が引ける。
「このあとどうせお風呂も入るんだ。実験に犠牲はつきものだ」
「風呂入るの!?」
自分の目的のために妹さんをトコトン犠牲にしようとし始めている。
「…せめて目隠しで」
「そうか。こっちとしては構わないが」
「俺が構うし、妹さんに悪いよ」
「しょうがないな…」
結局、トイレで目隠しをさせてもらい、色々任せることにした。
竿のない股間からチョロチョロと流れる、慣れない感触に戸惑いつつ用を足し終える。
高原さんに紙で拭いてもらい、自分で直接触らないようにする。
「美々のオムツは変えたことはあるが、まさかこの年になって同じようなお世話をすることになるとは思わなかった」
「…黙っててくれるかな」
「美々の声で貶されるのは新鮮だな」
「………」
高原さんはクールに見えるけど実はかなりの変態なのでは。
この後、「2人でお風呂に入るのは数年ぶり」と若干興奮した感じの高原さんと一緒に
お風呂に入り、着替えまですべてやってもらった。
「もし起きたときに美々のままだったらどうする?宿題やってて気が付いたらベッドだったって混乱するかもしれないぞ」
あとは寝るだけ、となったタイミングで高原さんに確認をする。
「…とりあえずタイミングをみて自分の身体に戻ってくれればいい。あとは私がなんとかするさ」
「元に戻ったらどうすればいい?」
「ん?ああそうか。朝ごはんはここに運んでおくから、食べたら窓から出てってくれ」
「そんな、間男みたいな…」
「美々に見つかるわけには行かないだろう」
「そりゃ、まあ」
男連れ込んで1日過ごした、なんて姉としては立場がまずいだろう。
そして俺の立場もまずい。
「私としては君の身体をあらかじめ庭に転がしておいてもいいのだが」
「やめてください、風邪ひくし、ご近所に見つかったら大事にある」
お隣の庭に男の死体がある、みたいなトラブルは避けたい。
「よし、じゃあ寝るか。パジャマの着心地はどうだい」
「いつもこんなの着てるのか?」
今俺が着ているのは動物の姿を模したパジャマでご丁寧に犬の耳付きフード。
「中々にファンシーだろう?」
鏡に映るのは可愛らしい着ぐるみパジャマをきた可愛らしい少女なのだ。
これが可愛くないのだったら一体なにが可愛いと言えるのか。
「…ま、まあ似合ってるな」
裾の部分を両手で横に引っ張ってみる。
男がやると気持ち悪いポーズも、この少女がやれば天使のような癒しの効果がある
「んー?なんだい、君もなかなか少女の振る舞いってものがわかってるじゃないか」
「…はっ」
俺は我に返ると、自分の…(この場合は妹の)部屋へ駆け込む。
「くそ、ついうっかり…屈辱だ」
布団を頭から被る。
さっさと寝て忘れるとしよう。
話は皆可也面白いが、大勢が未完成なので正直と言えば、残念です。当然時間が懸りますですが、もう少し夫々の話を済ませば幸いです~
返信削除この話とは言え、超気になるので半年ぐらい更新していないは辛いww
これからもよろしくおねがいします~!