2018/06/25

冒険士(没ネタ)

ある程度書いたものの、展開があまり面白くならないのでお蔵入りしていたものです。
中途半端な状態ですが、あまり更新がないのもアレなので公開。



魔王軍との戦いが続いて早数百年。
終わりのない争いが、人類に技術、魔術の向上をもたらした。
恩恵を受けていたのは人類だけではない。
魔王に従う魔物たちも次第に知恵をつけ始めた。


新米の冒険者が戦いに慣れぬまま、魔物たちにやられ、装備、魔導書等を奪われてしまうことが多発したため、ギルドは冒険者を資格制とし、仕事や武器の販売を制限した。
これが「冒険士」という職業の誕生の瞬間である。
野良冒険者は支援を受けられない上、国によっては逮捕もありうる状態となっている。


2人の若い男女が街はずれを歩いている。
男は戦士、女のほうはクレリックのなりをしているが、防具は汚れがなく、手に持っている武器は青銅の剣と樫の杖で安っぽい。

冒険士になるにはギルドの筆記と実技試験を通る必要があるが、
知識はともかく、実技は冒険士から教わらないと合格は難しい。
とはいえ現役の冒険士は自分やそのパーティのことで精一杯なことが多く、休暇中に無理を言って教えてもらうような人も多い。

2人は小さな村の出身のため、そのような機会も人脈もなく、しかたなく最近できたという冒険士育成機関へ向かうことにしたのだ。

1日目は簡単な応急手当や回復魔法の講義で、この程度であれば村の誰でもできるようなものであった。

2日目。

「ミーナ、この調子だとギルドの試験ってのも余裕なんじゃないか?」
「もう、レックス。すぐ調子乗るんだから」
といいつつもミーナも1日目の内容には拍子抜けであったのは確かである。
2人以外にも参加しているパーティは複数あるが、同様の感想を持っているのか表情に余裕が感じられる。

「はい、初日は自分や仲間が怪我をした場合の救助方法でした」
目の前には髭を生やした初老の男が立つ。
レックスは目を細めて男を眺める。
年齢的に引退した冒険士…それも魔術師だろうか。
手に持つのは黒く重そうな杖。ミーナの持つ樫の杖とは比べ物にならない程魔力を秘めているのが感じられ、そのくせレックスの剣より強固に見える。
(このじいさん、とんでもない使い手だよな)

「今日からは危機的状況をテーマに講義をします。このような状況にならないことがまず第一ではありますが、不測の事態というものは得てして起きてしまうものなのです」

そういうと、魔術師は杖をレックスの隣にいた別の冒険者に向ける。
「………!」
なにやらブツブツと念じた後杖から魔力を放出した。
途端に男の顔色が青くなり、男は膝と突く。

「この魔法、命にかかわりはないのですが、三半規管が正常に働かなくなり上手く歩けなくなります。最近の魔物の傾向としてレジストされやすい毒や麻痺のような魔法は唱えず、このような簡単な魔術やトラップで徐々に痛手を負わせ仕留めてくる、一種の狩りのような戦いを行ってきます」

魔術師は再び杖を掲げ、白い光を放出する。

「この場合は、実際に異常が身体に異常が起きているわけではなく、簡単なヒールライトの魔法、または気付け草を噛めば神経は回復しすぐに動けるようになるでしょう」

白い光を浴びた男はハッっとすると何事もなかったように立ち上がる。
ミーアがなるほど、とうなずく。
ミーアはヒールライトは使用できるが、気付け草は持っておいたほうがよさそうだな、とレックスは考える。

「そして先程のような搦め手で弱ってきたパーティへ本格的に攻撃を仕掛けてくる場合、次のような魔法が考えられます」

毒、麻痺、石化…。

「弱っている冒険者は魔法抵抗力が落ちます。そうすると悪意のある魔力が身体へ影響しやすくなってしまいます。普段であればほとんど成功しない石化魔法も、意識がもうろうとした中では必殺となりうるでしょう」

魔術師はミーアの前に立つ。
ミーアは一瞬ピクリとおびえたように震え、こちらを見てくる。
魔術師は気にせず杖を掲げ、呪文を唱えた。

ピシっと空気が割れるような音が響いたかと思うとミーアの身体が、白い肌が灰色へ変わっていく。
ものの数秒もしないうちにミーアは物言わぬ石像と化した。

「おい、なにを…!」
大声を出したレックスに動じることなく、男はしーっと人差し指で黙らせた。

「石化魔法は身体の成分が石となってしまうものだ…。とはいえ意識や感覚はそのまま残る。戻れなければ未来永劫、微動だにできない檻の中で生き続けることになる。注意するよう」

魔術師はレックスに金色の針を手渡す。

「その針は石化を解くことのできる魔道具。使い捨てではあるが石化魔力を吸い出すことができるのだ。彼女に刺してみなさい」

レックスはミーアに針を恐る恐る刺す。
コツッっという音と共にミーアから針へ魔力が流れ込み、放出される。
数十秒でミーアは元の人間に戻った。

「はぁ…はぁ…」
さすがに恐怖を感じていたのか、座り込み右手で胸を抑えて動悸を抑えるミーア。

「いまのように戻すには少し時間がかかる。かならず周囲の安全を確保して行うように。もし腕や足が捥げるなどしまえば、戻った時に大けがは避けられん」


5日目

「パーティというものはお互いの欠点を補うためにある…だが欠点は欠点のまま残し続けてはいけない」

魔術師は自身が来ていた外套を脱ぐ。
そこには老けた顔からは想像できないような鍛え上げた肉体があった。

「魔導士だからといって剣を扱えない、足が遅くてよいわけはない。戦士だからといって簡単な魔法が使えなくてもいいわけではない。冒険士は何かに秀でつつもオールラウンダーでなければいけない」

たしかに敵から逃げなければいけない、といったときに足手まといになってしまうかもしれず、それを考慮すると必然行ける場所も限られてきてしまうだろう。
レックスはミーアをちらりと見る。
線が細い彼女は確かに顕著で筋肉といったものに縁がないようには見えるが、村の子供たちの中でも一番運動が出来ていたはず。
だから大丈夫かもしれない、と思った。

「人間は自分が完璧だと思い込みたい気持ちがある。自身の欠点という気が付いたときには手遅れだった、ということにならぬよう今から体験をしてもらおう」

魔術師が杖を大きく掲げると白い光が受講生たちを包み込んだ。

目が慣れてくる。
レックスは薄目を開けて光が収まっていることを確認する。
そして自身を見下ろして…悲鳴を上げ、その悲鳴がものすごく高い声だったことに驚き黙る。

レックスは気が付くとミーアになっていた。
ミーアは気が付くと、レックスになっていた。
お互いの身体が入れ替わったのである。

レックスは自身の手や足を動かしてみる。
…女の子らしい、と言ってしまえばそれまでだが、思っていた以上に筋肉がない。村一番と言っても所詮はそれまで、女の子だったということだろう。

ミーアは自身の手や足を動かしてみる。
ひょいひょいと動く手足は力強く、安定感があった。
駆けだせばどこまでも行けそうな奥底に潜む力強さも感じる。
だが…魔力は体中をかき集めてもスプーンですくえる程度しかない。
回復魔法を1回打てるかどうかも怪しい。

「敵の中にはこのような罠を張り、パーティの混乱を起こすこともある。この時必要なのは慣れない器に入れられても慌てず、取れる行動を増やすことだ」

ミーアは腰に刺さった青銅の剣を抜いてみる。
持ったことのない剣のはずが、しっくりと手に馴染む感覚がある。
だがどう振ればよいのかがわからない。

レックスは杖を握ってみる。
身体に感じたことのない嵐のような魔力の流れを感じるが
それをどのように扱えばいいのかわからない。
この細腕では青銅の剣は振るうことはできない。

「魔術師の身体になってしまったからと行って、魔法を使わなければいけないわけではない。元が戦士であれば短刀や弓を使うという手もある。そのために、後衛職とは言え最低限の身体づくりはしておかなければいけないのだ。そもそもとして身体が入れ替わった時点で撤退を考えるべきで、逃げ足を鍛えておくべきかもしれないな」

ホ、ホ、ホと魔術師が笑う。
結局その日はその身体を使ってみて欠点を伝えよということで全員元の身体に戻してもらえなかった。


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このあとはカエル化の魔法をかけられた訓練をしたり…。
最後は実はこの訓練所が偽物で、
魔物と身体を取り換えられ、自分と戦う訓練と称しつつ魔物のまま倒されてしまうというオチだったんですが、イマイチだったのでここで終わりです。


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