2018/05/09

魔王討伐、その後(完)

「…まさか最後の最後でこんな呪いなんて」
魔法使いのマリアがため息をつく。
「禁呪に近い魔術のようで…私レベルの解呪でもびくともしません」
神官のメリッサも同じ困り顔だ。
「でもよう、ほんと無事でよかったぜ」
パーティ1の屈強な戦士、モーガスは酒を浴びるよう飲む。
「…すまない、みんな」
勇者が3人に謝罪する。
「どうか顔を上げてください、勇者様」
勇者様と呼ばれているのは女性だ。その服装は街で買った庶民の安い服なのだが、その服ではごまかしきれない美しさが見て取れる。それもそのはず、その女性はアストリア王の一人娘、王女ミアであった。
そして勇者様と呼んだこの青年はというとアストリア国の騎士団の精鋭、王から直々に魔王討伐を依頼された勇者そのものであった。
「しかしミア、僕は…君の身体を…」
王女が勇者をミアと呼び、勇者が王女を勇者様と呼ぶ。
お互いがお互いの名前で呼び合うこのおかしな状況には、理由があった。



あの時…魔王の死体から溢れでた黒い霧に覆われた後、気が付いたら勇者は牢獄に中にいた。慌てて鉄格子に駆け寄り、手をかけるが己の手が細く白いものに変わっていることに勇者は驚く。
驚いて身体を見下ろすと、足元が見えないくらいの大きなふくらみが2つ目の前に現れる。
薄汚れてはいたが王家のドレスを着ており、頭に手をやると長く細い髪がさらさらと流れた。
勇者の嫌な予感はその後、自分の顔をしたなよなよとした仕草の男と、その3人の仲間が駆け付けたことで確信に変わったのだ。

「…まさか、二人が入れ替わっちゃうなんてねえ…」
魔王城に一番近い(といってもかなり離れてはいるが)街にようやく戻ることができた5人。魔王がいなくなっても魔物が消え去るわけではなく、帰還は命がけとなった。
なにせ勇者の身体には、いままで戦うといったことを知らない争いに無縁だった王女様が入っていたからだ。肝心の勇者もそんな蝶よ花よで育てられた身体では自身の愛刀レーヴァテインを振るうことが出来なかった。
仕方なく残りの3人が2人を護衛する形での帰還となった。

「ある意味、帰還のほうが魔王よりも厳しかったぜ」
苦笑するモーガス。
ようやく安心して酒が飲めるとあって、飲むペースが速い。
「…でもどーするよ。メリッサの解呪でも、この街の教会でもダメだったんだろ」
メリッサはコクリとうなづく。
「私も解呪は専門外だけど…これは普通じゃないわよね。魔法の理に乗っ取った術じゃなくて、憎しみ、怨念といった感情に魔王の魔力が上乗せされ、力づくで発動した魔術…いえ、奇跡といったほうが近いかもしれない」
マリアもお手上げといった感じだ。
ふむ、とモーガスは遠征で伸びに伸びた髭を片手でなでる。
「とはいえ、魔王を倒し、姫様を救ったんだ。いつまでもここにいるわけにはいかねえ」
ミアの身体の勇者も同意する。
「そうだ。アストリア王国へは遅滞なく戻らないといけない。これ以上、王や民を不安にさせてはいけない。今回は間に合ったけど、王族の身体を生贄に捧げて封印を解き、魔界との扉を開かせることは絶対に防がねばならない」

いままで静かに聞いていたミアもコクリと頷く。
「…魔王が死んだとはいえ、追手がこないとも限りません。彼らも1枚岩ではありませんでした。また再び、私を攫おうとする者がいてもおかしくはありません」
「確かに、いま襲われたらちょっと私の魔術とモーガスだけじゃ厳しいわねえ」
「ということで1日でも早く帰還するべく、明日は早朝からアストリアへ向かう。各自休息をとってくれ」
「あいよ」
モーガスはぐびぐびと酒を空ける。
「…でもよ、今日の夜の護衛はどうする?」
「ミアの護衛か?僕とモーガスじゃダメなのかい?」
「おいおい、忘れんなよ。次にさらわれるとしたら…勇者の中の姫様じゃなくて、お前なんだぜ」

モーガスに指をさされポカンとする勇者。
「…僕?」
「少なくとも分かっているのが、生贄に必要なのは王族の身体ってことなんだろ?」
「…あ、そうか」
「そうですね…本来であれば勇者様とモーガス様で交代で守っていただければ心強かったのですが…」
「お前はその姫様の身体を…その身体で守らないといかん。できるか?」
「…」

弱弱しい両手をまじまじと眺める勇者。
この街に戻るまでの間でもこの身体にはかなり過酷だった。
手はもちろん、腕や足にも生傷が絶えない。
俺はフルフルと首を横に振る。

モーガスはため息をつく。
「おい、マリア」
「…まぁ。しゃーないわね。お肌に悪いから気が進まないけど、あなたと私の交代で」
「…すまない、マリア」
「ミア様の顔でそんな表情されちゃたまらないわね…」
「あ、ああ、すまない」

「あの、わ、わたくしも…!」
ミアがおずおずと手を挙げる。
「わ、わたくしも見張りぐらいなら…できます。だからお手伝いさせてください」

マリアとモーガスがポカンとする。
「で、でもよう…」
「そうねえ…さすがに見た目は勇者とはいえ…ミア様にそんなことをさせるわけにはいかないわ」
「そんな…」
落ち込むミア、そこにメリッサがまあまあ、と割って入る。
「今日は二部屋とってますから…。王女様の身体の警護を王女様にやっていただきましょう」

「どういうこと…でしょう」
「今までは野宿でしたが、勇者様とて男性、王女様の身体でよからぬことをしないとは限りません」
「そ、そんなこと…!」
勇者は頬を真っ赤にする。ちらりと自分の胸を眺め、さらに赤く染めた。

「ね?マリアもそう思うでしょ?」
「そうね、ミア様そうしましょう」
「…わかりました。でも勇者様…信じておりますからね?」

こうして勇者とミアで一部屋を使うことになった。

「あと…このまま王国まで戻っても、すぐに呪いを解決できるとは限りません。王女様、今のうちから王家の嗜みというものを少しずつ勇者様に教えて差し上げてください、これは王女様にしかできません」
「…そうですね、頑張ります!」
「おい…」
勇者が抗議の声を上げるが、ミアの喜ぶ顔(自分の顔だが)を見て何も言えなくなる。
「それじゃ、解散しましょうか」
メリッサの声でマリアとメリッサは部屋へ、モーガスは酒場から出て行った。
監視に適した場所があるようだ。

「それではわたくしたちも…戻りましょうか」
「ああ…」

勇者と王女が同じ部屋に入っていくのをみた店主が、よからぬ妄想をしてしまったのは致し方がないことである。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・


「うむ、そなたの陳情は把握した。早急に井戸を作る用に手配しよう」
「ありがとうございます…!」

玉座の間。
アストリア王が地方の村の長からの訴えに対して解決を示す。
「ミアよ。そなたもこの仕事に同席するようになって1か月。王とはどうあるべきか、わかってきたかな」
「…はい。しかしまだ私にはお父様のような振る舞いは難しいと思います」
「まだよい。民が何に困っていて、どうすれば不平等感なく解決するのか。そこをまずは考えなさい」
「はい、お父様」

謁見の時間は午前中で終了する。
王は午後からは各部門大臣との会議へ向かう。

「ミア王女。今日は乗馬と楽器のお時間でございます」
「…はい、問題ありません」
「そういえば先ほど、ミア王女のお抱えの、勇者殿とその仲間たちが帰還されたようですぞ」

勇者の名を聞いたミアの顔がはっとなる。

「……!乗馬の時間を遅らせるように先生にお伝えください。あと彼らを私の部屋へ呼んでください。報告を聞きます」


「やっぱ、ガセネタだったわ」
モーガスがガハハと笑う。
マリアが申し訳なさそうな顔をして弁解する。
「まあ元々怪しげな宗教団体だったし…。どんな呪いでも解く聖跡、なんて聞いたことなかったしね…」
「…だけど僕らは少しでも可能性があればやらないといけない」
ミアの姿の勇者がため息をつく。
「ああ、でも勇者様、王女様の剣術も様になってきたのですよ」
メリッサが勇者(ミア)の肩をたたく。
ミアは勇者のほうを向き、笑顔を向ける。
「そうなのかい?」
「ええ。いつまでも皆さんの足手まといにはなってられませんから」
勇者も笑顔を返す。

…そう。
アストリアに戻った一行であったが、結局教会の司教でも呪いを解くことは叶わず、2人は入れ替わったままであった。
5人は相談をし、周囲に入れ替わったことを伏せたままにすることにした。
王女が王女でないとあらば、後継者の問題が発生する。
魔王を倒して平和になったところへ、新たな火種を持ち込みたくなかったのだ。

ミアになった勇者はアストリア城で王政を学ぶこととなった。
残された4名のうち、残った4名はミア王女の直属となり、世の中の珍しいものを献上するという名目のもと、裏で解呪のアイテムを探し続けることになった。

「…僕もまだ数か月だけど、勉強に乗馬とかお茶会…いろいろ覚えてきたよ」
マリアがニヤリと笑う。
「仕草もだいぶ、王女様っぽくなってきたしね」
そうかな…と姿見を見るミア。
謁見の格好のままなので、豪華なドレスに身を包んでいる。
きらびやかな装飾に負けない程の大きな胸と、ウェストの細さに目がいってしまう。
大きく膨らんだスカートも1か月前には自分が着ることになるとは思わなかったものだ。

「さて…お姫様。次はどうするよ」
モーガスが机に大きな地図を広げる。
「そうだな。北の滅びた王国。ここは昔は占術が盛んな国だったらしい。すごい積雪で未だに手つかずになったままの宝物がある」
ミアの細い指で、地図の隅にある今は亡き国の名が書かれた地名をさす。
「遠いし、寒そう。準備に時間をかけたほうがよさそうね」
マリアとメリッサが必要なものを試算し始める。

こんこん、と扉がノックされ、5人は慌ててたたずまいを直す。
どうぞ、とミア王女が声をかけると侍女が入ってきた。

「…ミア王女。乗馬の先生がしびれを切らしておりますが」
「あっ…。すぐ向かいます」
侍女が一礼をして出ていく。

他の4名はくすくすと笑う。
「…そういうわけで申し訳ないけど、続きは任せるよ」
勇者がコクリとうなづく。
「マリア、メリッサ、モーガスさん、続きは街の宿屋で行いましょう。…勇者様…じゃなかった、ミア王女、また後日お会いしましょう」

勇者姿のミアと3人がすくっと立ち上がり、部屋から出て行った。
見送ったその姿は男らしく、少し前には感じられなかった芯のようなものが見えた。

「…ふう、いつまで続くんだろうな、この生活…」

ミアの姿で今日何度目かのため息をついた。

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「王家の儀式…ですか?」

ある日、アストリア王に呼び出され玉座に向かったミア王女。
王から告げられたのは儀式を受けよというものだった。

「そなたももう成人である。本来であれば成人前に行う儀式であるが、魔王の件があったので行えなかった。だがそろそろ行っておくべきだろう」
「ミア、あなたが将来、この国の女王となるために、心と体を清める必要な儀式なのですよ」

詳しく聞くとどうやら王家ゆかりの地にある聖域に祈りをささげることで、王家の継承の資格が得られるという古くからの習慣のようだ。

(そんなものがあったとは…)

部屋に戻り、文献を漁るとミアの祖先が建国の際に祈りをささげた祠があるという。
祈りをささげるとそこへまばゆい光が降り注ぎ、王の器として神からの祝福があったとのことだ。
これはもしかすると…祈りを捧げれば、呪いが解ける祝福となるかもしれない。
信ぴょう性の低い噂なんかよりよほど可能性は高い。
早速とばかりに侍女を呼び寄せると、4人を寄こすように指示を出した。

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「勇者殿、ミアをよろしく頼みますぞ」
「は、はい!」

膝をつき、頭をたれる勇者。
知ってる者が見ると父親にかしずいている娘の図で大変に滑稽である。

祠までは魔物に襲われる必要はないが、最低限の護衛は必要。しかし王国も魔王との闘いで疲弊している上、各地は復旧の最中で盛大に騎士団も借り出されており人手不足である。そんな経緯もあり、王からは簡単に4名の同行の許可をもらうことができ、送り出された。

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勇者にとって5人で歩くのは数か月ぶりのこと。

「勇者様、本日は軽装でいらっしゃいますのね」
うふふ、と、隣を歩くメリッサが耳打ちしてくる。
事情を知っている仲間しかいないため、振る舞いも元に戻る。
いつも装飾が多くついた、スカートが地面をするぐらい長いドレスを着ているのだが、さすがに今回は動きやすい服を用意してもらった。
「まあな。あれから武道も少しやったし、この身体でも多少は動けるよ」
「まあ、心強いですわね。でも王女様がそんなに軽装だと男達が困ってしまいますわ」
「…そうなのか?これ以上ゴテゴテすると疲れやすいんだよな。モーガスどう思う?」
「…俺に聞くなよ」
「ミア、どうなんだ?」
「え、ええと…」

少し困ったような顔をするミア。
「ま、まあ普段そんな足を出すようなことはしなかったので…少し恥ずかしいです」
そうなのか…。そんなに露出しているつもりはなかったのだが。
上質な皮鎧は上半身はきっちり(大きな胸も)カバーし、下半身も短いが太腿までは垂があるが、そこからは露出している…。とはいえ結婚前の王族がその肌をなるべく人目に晒すわけにはいかないので、黒い薄手のタイツを履いているのだが。
(膝上の露出でもダメだったか…)

「そ、そうかすまない。事前にミアに聞くべきだった…」
「いえ…勇者様が選んだのでしたら間違いないのでしょう、大丈夫です…。でも私の時と比べるとずいぶん…」
「ずいぶん?」
「その…魅力的?というかスタイルがよいというか…」

それもそのはず。
数か月前の魔王城からの帰還の際には足手まといになってしまったが、今日のようなことに備えていろいろ習い事をこなして、貧弱だった身体を鍛えていたのだ。
目下の悩みとしては、胸も一緒に成長してしまっていることである。

顔を徐々に真っ赤にしつつ、チラチラとこちらを覗くミア。
そんな様子をみて、なぜか勇者も顔を赤くして伏せる。

「なんか勇者みてると、本当にお姫様…女の子になっちゃったみたいに見えるなあ」
「…マリア、それは姿がミアだからだろ?」
「うーん、それもそうなんだけど…前と比べて振る舞いとか、仕草がねぇ…」

マリアが思案顔でこちらをジッと見てくる。

「そ、それはあれだ、王族の立ち振る舞いの練習とかがあって…」
「だといいけど、案外女の子で生きていくのに慣れてきたんじゃない?」
「…かもしれないけど…」
「ま、まあバレないのはいいことですよ」
ミアがフォローを入れる。

でも最近お風呂とかトイレとかも何も考えずに処理できるようになっちゃったんだよな…と勇者は思ったが言わないことにした。

「ここが、祠…」
「ずいぶんあっさりついちまったな」

魔物の残党に襲われることも、盗賊に会うこともなく祠についた5人。

「ここからは王族のみ?なんだっけ?」
マリアが確認をする。
「王族以外は入れないバリアみたいですね」
メリッサが祠の扉の魔力を検知したようだ。

「…ああ、だがこの場合は…どうなんだろうな」

ミアと勇者が見つめあう。
王族の身体は勇者が動かしてはいるが、王族の魂-ミアの意識―は勇者の身体に入っている。

「…触れてみるか」

ミアの手が祠の扉へ触れるが、何も起きない。

「…あかないな。ミア」
「はい」

交代でミアが扉へ手を触れる。

「…ダメみたいです」
「困ったな」

心と身体が一致してないとダメなのか。

「2人で触ってみたらどうだ?」
モーガスの提案に従い、2人で同時に扉へ触れる。
するとブウウンという音共に2人の姿が消え去った。

「…消えた!?」
モーガスは慌てて武器を手に取り警戒態勢に入る。
「…!大丈夫です。2人は中に転送されたようです」
メリッサが落ち着いて現状を報告する。
「これが祠の仕掛けってわけね。でも同時に触ればOKって結構ザルねぇ」


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「で、本当に呪いが解けたってわけか」
「…ずいぶんあっさりね」
「さすが王家ゆかりの…ということでしょうか」
3人が口々に感想を述べる。
ミア王女がコクリとうなずく。
「…祈りを捧げると光が差し込まれて…気が付くと元に戻っておりました」
「いや、しかし遠征してた俺たちが間抜けみたいだな」
モーガスがやれやれといった感じで愚痴る。
アストリア城からそう離れていないこの祠が答えだったのだ。

「…勇者様。これまでのこと改めてお礼を述べたいと思います。魔王城から救っていただいたことから、今回のことまですべて」
「あ、ああ…。ミアの為なら当然だよ」
勇者が照れくさそうな、困ったような顔をする。
「また、改めて王城にてお話をしましょう。…その、2人の将来のこともありますし」
「そ、そうだね」

ヒューっとモーガスが囃し、それをメリッサが肘でモーガスの脇腹を小突いて窘める。

「…はっ。コホン、それでは皆様…王城まで護衛をお願いいたします」


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・


その夜、勇者は王城の城下一望できるバルコニーにいた。

「こんばんわ、勇者様」
マリアもバルコニーへ出てくる。
いつもの魔導士の服装ではなく、ラフでゆったりとしたローブを羽織っていた。

「ああ、マリア呼びつけてすまない」
「…ここはいい風が吹くわね」
「ああ」
「…で、何の用かしら。夜のお誘いではなさそうだけども」
「……」

勇者は目をつむったまま何も答えない。

「あててあげましょうか、勇者様。…いえ、ミア王女」

勇者がハッっとして目を見開く。

「気が付いていたのですか?」
「まあ、ね。短い期間とはいえあなたと一緒に冒険したんだもの。違いは分かるわ」
「…そうですか」
「そして、あのミアが本物のミア王女であることも、ね」
「はい」

勇者は口をキュッと噛みしめる。

「…儀式で祈りを捧げたのは勇者様でした。光が降り注いで…気が付いた彼はまるで…まるで本当の私のような振る舞いで…。勇者様としての記憶も…なくて」
「そう。王族としてのあるべき姿にされてしまった、ということなのかしら」
「そうかもしれません」
「で、あなたは勇者としてふるまうことにした?」
コクリ、と勇者は首を縦にふる。
「私が祈りを捧げても祠は反応しませんでした。そして帰りのワープも勇者様だけで作動したのです。…つまりはそういうことなのでしょう」
「儀式も一種の呪いみたいなものね…2つの呪いを解除するのは…さすがに絶望的かしら」
「…今日の晩餐前に、勇者様…いえ、ミア王女から婚姻の申し出がありました」
「受けるってこと?」
「私は王族として国のため、民のために役に立ちたいと思う気持ちは変わりません」
「そう、で、私を振りに来たってわけね」

マリアは予想していた、といった感じだ。

「ごめんなさい。勇者様とあなたが…その、お付き合いをしているのは知っていたのですが」
「ミアは妹のようなものだ、って前から言ってたのにね」
「…本当にごめんなさい」
「…」

マリアは踵を返して出て行った。
「私はあきらめないわ」
と一言残して。

終わり


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