2018/04/07

映し身

※取り留めのないお話です。



彼女のキリカと些細なことから喧嘩をした。

きっかけは本当に、本当に些細なことだったのだが、喧嘩になると出るわ出るわ非難の嵐。
歩くのが早いだの、疲れてるのを察してカフェで休憩しない、自分だけ先に食べ終わって急かす。

悪かった、気が効かなかった、次から気をつける。
なんど謝っても怒りは収まることがない。
じゃあ俺はどうしたらいいのだ、なんでもするからとキリカに聞いてみる。
キリカはそのセリフを待っていたかのようにニンマリと笑うと、1枚の紙切れを取り出した。

「マナブはそっちをもって。私はこっちをもつから」

色のついた長方形の、短冊のような紙切れ。
墨で書かれた文字がたくさんあるが、読みとることはできない。

「…こうか?」

差し出されたほうを親指と人差し指でつまむ。

「うん、じゃあ…いくよ」
キリカはそういうと、紙をつまんだまま手首をひねる。

ビリリ…という音とともに紙は2枚に別れた。
別れた瞬間、指先からビリビリとした電気が走る。
突然の衝撃に俺は思わず目を閉じる。


「もういいよ」
「…?」

周りを見回す。
何も変わらず、キリカの部屋だ。
持っていた紙は…跡形も無く消えている。

(ん?あれ?)

…先程まで着ていた学ランの黒い袖ではなくなっている。
紺生地に白い3本のラインが入ったカフス、そしてそこから伸びる白い袖口。

(ん?んん?)

慌てて自身を見下ろす。
視界には女子制服のセーラー襟。

「ななな…なんだこれ!?なんで俺が女子の…って声もなんかおかしい…」
普通に発生しているのに自身の口からは高い、ソプラノボイス。
「うふふふ…ほら、手もよく見て?」

掴まれた手をよく見ると、太くて浅黒かったはずの手が白く細く変わっていた。
指先にちいさくちょこんとついている小さな爪も、自分ものではなかった。

「キ、キリカなにをしたんだ?」
「はい、鏡」

ドレッサーの前に手を引かれる。

そこには女の子が2人。
…いや違う。

「キリカが…2人?」

まったく同じ顔、同じ服装をした2人が写っていた。

「双子の御札。破った人の姿をコピーしちゃう呪いのお札♪」
「呪いのお札♪…じゃないよ!!どうすんだよこれ…」
「大丈夫、私達、元から双子ってことになってるから」

すっとセーラーの胸ポケットに手を入れられる。
ふよんとした感触を一瞬感じたが、意識しないようにする。

「ほら、生徒手帳」
「…立花…マナカ?」

「マナブ+キリカってところ?可愛い名前じゃない」
「嘘だろ、元に戻せるんだよな?」
「破った御札がここにあります」

キリカの手には2枚の破れた御札。

「これを破れた切り口を合わせれば戻れるらしいよ」
「じゃ、じゃあ元に…」
「ちゃんと、女の子の気持ちが分かったら、戻したげる」

ニコニコと笑いながら、御札を机にしまうキリカ。

「そんな…」
「まあ、女の子ライフを1ヶ月ぐらいすればわかると思うよ」
「い、1ヶ月も!?」
「いい機会だと思って双子姉妹ライフ楽しんじゃないよ」
「そ、そんなこといわれても」

「あら、二人共まだ着替えてないの?」
ガチャリと開いたドアからキリカの母親が顔を覗かせる。
「お、おば…い、痛っ」
おばさんと呼びかけそうになった俺の尻をキリカが力強く撚る。
「はーいママ、着替えまーす」
「ご飯できたから、さっさと着替えておりてきなさい。もう、いつまでも遊んじゃうんだから…二人の部屋をそろそろわけたほうがいいのかしらね?」
と、ため息を付きながら階下へ降りていった。

「あ、一緒の部屋なんだ」
キリカがそう呟く。

「え、へ?」
「だから、マナカと私の部屋。ちゃんとベッドもダブルサイズに変わってる」
「う、嘘だろ、困る」
「今は別に女の子同士だし、姉妹だから問題ないじゃない」
「そ、そりゃ見た目はそうなんだけど、心は男だぞ」
「はいはいそうですねー。あ、クローゼットは別々だね。おそろいのペア下着がある!これは楽しみだね!」
「は!?なんだよそれ!?」
「まあ双子だし」
「いや、ちがうだろ!?なんで俺が女の下着なんて」
「胸のサイズも一緒みたいだし…」
「む、むね!?お、おいキリカやっぱり早く元に」

『はやくしなさーい、ご飯冷めるわよ!』
階下からおばさんの苛立った声が聞こえてくる。

「あ、いかなきゃ」
「おい、話を逸らすな、俺の話を」
「あ、ルームウェアもお揃いだね!」
「お、お、おそろい!???」
「着替えよ?」
「っておい眼の前で脱ぐな…!」


元の姿に戻るまであと30日。






0 件のコメント:

コメントを投稿