※取り留めのないお話です。
彼女のキリカと些細なことから喧嘩をした。
きっかけは本当に、本当に些細なことだったのだが、喧嘩になると出るわ出るわ非難の嵐。
歩くのが早いだの、疲れてるのを察してカフェで休憩しない、自分だけ先に食べ終わって急かす。
悪かった、気が効かなかった、次から気をつける。
なんど謝っても怒りは収まることがない。
じゃあ俺はどうしたらいいのだ、なんでもするからとキリカに聞いてみる。
キリカはそのセリフを待っていたかのようにニンマリと笑うと、1枚の紙切れを取り出した。
「マナブはそっちをもって。私はこっちをもつから」
色のついた長方形の、短冊のような紙切れ。
墨で書かれた文字がたくさんあるが、読みとることはできない。
「…こうか?」
差し出されたほうを親指と人差し指でつまむ。
「うん、じゃあ…いくよ」
キリカはそういうと、紙をつまんだまま手首をひねる。
ビリリ…という音とともに紙は2枚に別れた。
別れた瞬間、指先からビリビリとした電気が走る。
突然の衝撃に俺は思わず目を閉じる。
「もういいよ」
「…?」
周りを見回す。
何も変わらず、キリカの部屋だ。
持っていた紙は…跡形も無く消えている。
(ん?あれ?)
…先程まで着ていた学ランの黒い袖ではなくなっている。
紺生地に白い3本のラインが入ったカフス、そしてそこから伸びる白い袖口。
(ん?んん?)
慌てて自身を見下ろす。
視界には女子制服のセーラー襟。
「ななな…なんだこれ!?なんで俺が女子の…って声もなんかおかしい…」
普通に発生しているのに自身の口からは高い、ソプラノボイス。
「うふふふ…ほら、手もよく見て?」
掴まれた手をよく見ると、太くて浅黒かったはずの手が白く細く変わっていた。
指先にちいさくちょこんとついている小さな爪も、自分ものではなかった。
「キ、キリカなにをしたんだ?」
「はい、鏡」
ドレッサーの前に手を引かれる。
そこには女の子が2人。
…いや違う。
「キリカが…2人?」
まったく同じ顔、同じ服装をした2人が写っていた。
「双子の御札。破った人の姿をコピーしちゃう呪いのお札♪」
「呪いのお札♪…じゃないよ!!どうすんだよこれ…」
「大丈夫、私達、元から双子ってことになってるから」
すっとセーラーの胸ポケットに手を入れられる。
ふよんとした感触を一瞬感じたが、意識しないようにする。
「ほら、生徒手帳」
「…立花…マナカ?」
「マナブ+キリカってところ?可愛い名前じゃない」
「嘘だろ、元に戻せるんだよな?」
「破った御札がここにあります」
キリカの手には2枚の破れた御札。
「これを破れた切り口を合わせれば戻れるらしいよ」
「じゃ、じゃあ元に…」
「ちゃんと、女の子の気持ちが分かったら、戻したげる」
ニコニコと笑いながら、御札を机にしまうキリカ。
「そんな…」
「まあ、女の子ライフを1ヶ月ぐらいすればわかると思うよ」
「い、1ヶ月も!?」
「いい機会だと思って双子姉妹ライフ楽しんじゃないよ」
「そ、そんなこといわれても」
「あら、二人共まだ着替えてないの?」
ガチャリと開いたドアからキリカの母親が顔を覗かせる。
「お、おば…い、痛っ」
おばさんと呼びかけそうになった俺の尻をキリカが力強く撚る。
「はーいママ、着替えまーす」
「ご飯できたから、さっさと着替えておりてきなさい。もう、いつまでも遊んじゃうんだから…二人の部屋をそろそろわけたほうがいいのかしらね?」
と、ため息を付きながら階下へ降りていった。
「あ、一緒の部屋なんだ」
キリカがそう呟く。
「え、へ?」
「だから、マナカと私の部屋。ちゃんとベッドもダブルサイズに変わってる」
「う、嘘だろ、困る」
「今は別に女の子同士だし、姉妹だから問題ないじゃない」
「そ、そりゃ見た目はそうなんだけど、心は男だぞ」
「はいはいそうですねー。あ、クローゼットは別々だね。おそろいのペア下着がある!これは楽しみだね!」
「は!?なんだよそれ!?」
「まあ双子だし」
「いや、ちがうだろ!?なんで俺が女の下着なんて」
「胸のサイズも一緒みたいだし…」
「む、むね!?お、おいキリカやっぱり早く元に」
『はやくしなさーい、ご飯冷めるわよ!』
階下からおばさんの苛立った声が聞こえてくる。
「あ、いかなきゃ」
「おい、話を逸らすな、俺の話を」
「あ、ルームウェアもお揃いだね!」
「お、お、おそろい!???」
「着替えよ?」
「っておい眼の前で脱ぐな…!」
元の姿に戻るまであと30日。
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