「レンタルパーツバイト…?」
「そうや、未成年のお前には夜働かせられへん。これで稼ぐんや」
父の会社が倒産し、大量の借金を返すため、
取立人から斡旋れたのは見たことも聞いたこともないバイトだった。
これなら高校を辞めずに返済も手伝える…。
せめて高校は出ておきたい私にとって、学費が払えず退学という想定もしていたため、断るという選択肢はなかった。
「信じられないけど…体の部分を貸すなんて」
半信半疑…いやほとんど疑っていたこのバイト。
実際に私の小さな右手がレンタルされ、私の右手がブクブクに太った毛むくじゃらの右手に変わるのを目にして、信じるしかなかった。
登録したパーツ部位とレンタル可能時間で単価が決まるこのシステムに、私はまずは右手だけを1時間登録してみた。
しばらくの応答待ちの後に、単価が表示される。1時間のバイトに比べると破格の金額が表示される。
これでレンタル希望者がいると私には手数料を除いた残りが手に入る…すべて返済に回るので手元には回ってこないが。
「私の右手…なにされているんだろう」
貸している間に怪我をしても元に戻るときには治っている、とのことなので返ってきたら右手が骨折していた、ということはなさそうだが、
代わりについている右手から持ち主を想像するに、あまりよろしいことには使われていなさそうだ、と思う。
1時間後、終了のお知らせがスマホに届くともに私の右手が元に戻る。
何かを握っていたような感覚が残っている右手に、私はあわてて洗面所に駆け込み手を洗った。
私は学校から帰ってから朝起きるまでの両手、両足をレンタル登録してみた。
お風呂に入るときに力士みたいな腕と太腿を交換されたときは思わず叫び声をあげてしまったが、
1日の半分、4か所をレンタルすることで返済が順調に進むように見えた。
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
しかしこの考えはすぐに頓挫することになる。
他にも同じことをしている女性は多いようで、この時間はほかにも出品が増えるのだ、
日によっては1回もレンタルされない、ということもあった。
「平日の昼間にも貸してみるしかないのかな…?」
試しに日中に、左手を出品してみたが夜に比べて高めの査定が表示され、出品とともに、すぐレンタルされた。
学校では足をレンタルするのは危険なことは容易に想像ができる。
短いスカートから覗いている足が脛毛だらけのごつごつした足に変わればすぐに周りに知られてしまうだろう。
手も授業中はともかく、休み時間や体育のときにばれてしまうかもしれない。
「どうにかなりませんか」
返済先の取立人に連絡を取る。
「なるほど、姿形が大きく変わってしまうと困ることもあるわな」
取立人は一息つくと
「多少手数料があがっちまうが、代替ボディサービスをつかうとええぞ」
交換サービスアプリの設定を見てみると
なるほど、代替ボディサービスという項目がある。
「あなたの体型を変えずに別の物質で置き換えることで日中のレンタルを容易にします…」
物質はなるほど、いろいろあるようだ。
ゴム、シリコンというただの物質に置き換えるものと、動かしたりすることができるものもあるようだ。
とりあえず私は一番手数料が一番安いゴムを選択してみた。
左手がレンタルされると、いつもならばレンタル者の左手がつくところが、
私の左手がそのまま真っ黒、ゴムになったのを確認した。
「う…うん…と。やっぱり左手は動かせないのね」
やはり形だけ置き換えているので機能の代替にはならないようだ。
全く動かなくなった左手に感触は若干存在するようだが、自分の意思ではピクリとも動かず、もう片方の手で形を整えてやる必要があった。
私は考えた結果、細かく部位を分けて出品設定をし、
体育以外の時間で左腕、左手、おなか回り、両足だけを貸すように設定した。
脚は厚めのタイツをはいておけば大丈夫だろう。
これなら学業にも、周りにも支障なくできる…。
「うっ」
レンタルが開始されたようだ。
私の左腕は机の上にのったまま動かなくなる。
制服の袖をめくればそこには黒い腕が見えるはずだ。
肩から手の先にかけてゴムとなっている私の左腕は、もし私が立ち上がればだるんと垂れ下がることだろう。
そう思ったのもつかの間左手も動かなくなる。
左手は袖に隠れるようにおいていたため(いわゆる萌え袖とかいうやつだ)周りからも怪しまれることはないだろう。
そしてその後、おなか周りと太腿の感覚も消えた。
(あっ…全部レンタルされちゃうなんて、想定外かも)
日中の需要を見くびっていたが、レンタルされてしまったものは仕方ない。
脚がすべてゴムとなってしまったため、休み時間に立てなくなってしまったのは誤算だった。
脚はもっと細かく設定するしかなさそうだ。
動かせる機能もそのうち試してみよう。
だんだん慣れてきた私は、試しに胸と股間をレンタルしてみることにした。
ほかの出品者を見るとそういった部位のレンタルも決してないわけではない。
代替オプションであれば形は崩れないし、大丈夫だろう。というか男性のモノがつくのは勘弁してほしい。
自分の部屋で自分の部位を撮影する。
アプリで認識が行われ、それぞれ手足に比べても数倍という高額な査定が表示された。
その額に目がくらんだ私は思い切って出品する。
しばらくすると購入された通知とともに胸にずしんとした感覚が走る。
胸元をのぞき込むと、白いブラジャーに包まれていた肌色の塊は、黒く弾力があるゴムへと変質していた。
恐る恐る触ってみると先端もちゃんと再現されているようだ。
胸が触られている感触はほとんどない。指には普通の胸にはない固い弾力が押し返してくるのを感じ取ることができた。
(ブラジャーしてなくても垂れなさそうな固い胸…不自然ね)
不自然な動きをする胸を見たら何か詰めているか豊胸していると思われるかもしれない。
そしてその数分後、股間にムズムズとした感触が走る。
どうやら股間もゴムに変わったようだ。
(ん、ちょ、あれ、漏らしてる!?)
注意書きに股間は上位の機能オプションを推奨するという文面を見落としていた私は、
膀胱付近の筋肉もただのゴムに置き換わってしまい、止めるものがなくなった液体を盛大に撒き散らしてしまったのであった。
1時間後、本人の元へ戻ってきた胸と股間は
うっすらと熱を帯びており、何をされたかしていたか、いろいろと察せられてしまうのであった。
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「全然減ってないじゃない…!」
私は驚愕する。
1か月の間不便に不便を重ねたこの生活、借金の残額をみて私は絶望する。
元本が少々減ってる…ぐらいだった。
「そら利息っつうもんもあるしなあ」
取立人がさも当たり前のようにいう。
「それにあんた、貸してる部位がみみっちいねん、同じ部位ばっかり出してたら飽きられるで」
取立人が見せてくれたスマホの画面には
「体全部…!?まとめて貸してる人がいるの!?」
査定には私が普段出品するパーツの2桁上の数字が表示されている。
「年齢によっても価格はまちまちやが、若くてプロポーションが良ければもっと高い値段がつくこともあるんやで」
「この専有オプションってなに?」
私は購入欄に書かれた備考について聞く。
「ああ、これはな…通常ならレンタルしたら即交換、なんだが任意のタイミングで交換したり戻したりできるオプションや、まあその人を独占することができるってことやな。使ってない間に別の人に借りられることもない」
価格もその分高くなるぞと取立人。
「……」
「ねーちゃんプロポーションいいからまとめて貸せばもっと返せるんちゃうかい」
取立人は私の体を嘗め回すように見る。
高校生の中ではたしかに恵まれた体型をしている私だ、可能性はある。
「…考えておくわ」
しかし次の日、帰宅すると父親が消えていた。
すまない、という書置きとともに、私には借金だけが残された。
元本を減らすためには、悩んでいる暇はなく、やるしかなくなってしまった。
今日は学校へ行くのをあきらめ、私は出品画面とにらめっこする。
「首から下全部…専有で」
査定を通す。高校生というステータスが反映されたのか、査定結果は先程の他人の出品より高めの判定がされた。
かなり高額だ。
交換して男の体になるなんて嫌なので代替オプションを指定するかなやんだが、
A:
太った中年と変わったりすることを考えると、代替オプションは付けておいたほうがよさそうだ。
B:
手数料を考え、なしにした。
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