2018/04/05

ナノマシン ダイエット

痩せたい!でも自分では運動したくない。
ダイエットをナノマシンに任せてみませんか?
最近はやりのダイエットだ。



あのドラマ女優や俳優さんがワイドショーでその素晴らしさを宣伝もしている。
私の友達も一回やってみようかな、なっていっていて私も気になっていた。
近うちに会社で健康診断があるし、わたしはとうとう、自分の貯金を切り崩してナノマシンダイエットを行ってみることにした。
施術は指定病院でしか行えない。
あっという間、3分も掛からなかったと思う。
ダイエットのための動作を記憶されたナノマシンを注射で注入して終了だ。
明日にはナノマシンが身体中に行き渡るとのことだ。

翌日、私はジャージに着替える。私自身は走る気はさらさらないのだが。
近くの公園まで出かける。
昨今のブームなのか、同じようなジャージ姿で女性たちが走っている。
ナノマシンで動いているのか、自分で走っているのか、傍目にはわからない。
「さて…」
ナノマシンを活性化させるには特定のワードを心のなかで思い浮かべればいいらしい。
(ランニング…1時間、開始)
そう心のなかに思った瞬間、私の身体になにか、芯が通ったかのような感覚を得る。
筋肉の1つ1つが自分の意思とは関係なく、意識を持ったような感じだ。
私の身体がゆっくりと、歩き出す。
最初の数分はナノマシンが私のカラダの筋肉の使い方を学習している、と説明書に書いてあったのでそれだろう。
しばらくすると私の身体は歩きから早歩き、そして最終的に走りに変わった。
(お、お、おおお…すごいすごい!!)
ダイエットは一度始めると自身に危険が及ばないかぎり止めることはできない...が
(く、苦しい…)
まだ五感は残っているので息苦しさや身体にたまる乳酸による苦しさはそのまま私の脳にフィードバックされる。
いくら勝手に走ってくれるからといって、それでは意味が無いという人もいるので更にオプションがあるのだ。
(終了まで…スリープモード)
そう考えると、私の意識に急に眠気のようなものが発生し、あっという間に脳は眠りに入った。

公園の入口で、汗だくになった私。
私が気がついたのはちょうど開始から1時間。ダイエットが終了したので眠りから冷めたのだ。
体中に走った疲れや気だるさは感じるものの、それが逆に心地よく感じられた。
「すごい、これなら続けられるかも…」
私は毎日毎日、走り続けた。

(あれ?今日はそんなに汗をかいてない…?)
ダイエットを始めてひと月ほど立っただろうか。
いつもどおり公園の入り口で目覚めた私はそこまで湿っていないジャージに違和感を覚える。
疲労感もそこまでないが、時計を見るとちゃんと1時間、経過している。
(身体が鍛えられて、慣れてきたのかしら)

私はさっさと家に帰ってシャワーを浴びようと思い、そう結論付けた。

―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

僕は気がついてしまったのだ。
女性たちがダイエットで使っているナノマシンの一部の不具合があることを。

ある特定の時期にプログラムされたナノマシンにはバグがある。
もちろんすぐに修復されたバージョンが配布され、古いものは回収されたのだが、わずか数日だけ世間に出回ったのだ。
いまだ公表されていないところを見ると賠償を恐れて研究機関はそれを公にせず、隠蔽するつもりらしい。
公表するつもりがないということは、ナノマシン破壊治療をされてしまう心配がないということなので僕にはありがたい。

さて、そのバグというのは外部から特定の信号を与えつつ、当人の耳から命令をすると、ナノマシンに命令をすることができることだ。いろいろ研究した結果、スマホのアプリでその信号を発することができるようになった。

「さて…そろそろくるころかな」

僕は公園を特定の日から走りだした女性に目をつけていた。
恐らくその日に施術した可能性が高く、そしてバグのあるナノマシンの可能性が高かったからだ。
そして昨日、ナノマシンに身を委ね、一心に走っている身体に向かって命令をかけたのだ。

"ランニングの代わりに僕の家の掃除をして、公園に戻る"

これで今後、彼女がランニングを開始し、スリープモードに入る度に、僕の家にきて掃除をしていくことになる。

ガチャっと扉を開く音が聞こえる。
部屋から覗くと、ジャージ姿の女性が無心で廊下を雑巾掛けしているのが見えた。

「くくく・・・」
面白いおもちゃを手に入れてしまった僕は思わずほくそ笑む。
彼女はこれから毎日、僕の家を綺麗にして、公園に戻って目を覚ますのだ。

「掃除ばっかりさせるわけがないけどね。でもしばらくは掃除ロボットとして頑張ってもらおうか」
そのうちメイド服でも用意してあげようか。

この機能、こっそりネットで流すのも面白いかもしれない。
実験する対象にも困らないし、これからがいろいろ楽しみだ。

【成績優秀な委員長の場合】
ここは一体…?
クラスの不良、翠(みどり)に呼び出されて廊下へ出た筈なのに、はっと気がついたら校舎の屋上に立っていた。

「…なんで屋上?」

急に変わった視界に私は戸惑いを隠せない。
この意識を瞬間手放す感覚は私は感じたことがある。
数カ月前から使っているナノマシンダイエットの起動だ。

(ナノマシンが勝手に…?いや、あれはネットの噂のはず)

ネットで流れている噂、ナノマシンを外から操作できるアプリが出回っているというやつだ。
実際に手に入れた人もいるが、実際には外から操作などできなかったガセネタということでニュースサイトとかで流れていた。
ナノマシン企業もそのようなバグは存在しないと否定したこともあり、私は安心していたのだが…。

「う、動かない?」
ひとまず屋上から離れようとした私だが、身体が全く動かないことに気がつく。
私の身体は、筋肉に棒が通ってしまったかのようにびくともしない。
私が主だということを忘れてしまったかのように、身体は直立したままだった。


「アハハ…委員長、どうしたの」
背後から、私を呼び出した翠の声が聞こえる。
反射的に振り向こうとしたが、身体は応えてくれなかった。

動けない私の背後から翠が手を伸ばし、私の視界にスマホを見せる。
「ふふ、まさかこのアプリ、委員長に効くとは思わなかったわ」
私の友達には効かなかったんだよねえ。と目の前でアプリ画面を見せてくる。

「動いていいよ」

瞬間、先程まで微動だにしなかった体中の筋肉が緩み、私は膝をつく。
そしてその現象に愕然とする。

「ね、委員長もナノマシンダイエットやってたんだ?
そんなに太ってないのに」
「翠さん、お願い、そのアプリを消して頂戴」
私は懇願する。
「ナノマシン、どこまで命令聞いてくれるのか、知りたくない?」
翠は膝をついたままの私を見下ろしながら呟く。
「やめて、おねがい、やめて」

そんな私の願いを無視して、翠はアプリを再び起動し、呟く。
「四つん這いになりなさい」
私の体がビクンと震えると、膝立ちだった私の体は両手を床につき、膝を浮かせ、両足のつま先で立ち上がりそのまま硬直した。
「う、うそでしょ。そんな...」
「自由に動いていいわよ」

硬直が溶ける。
すぐに立ち上がろうとするが、体が立ち方を忘れてしまったのかのように、バランスを崩してまた両手を床についてしまう。

私は顔を上に向け、翠を睨む。
「こんなことをしてただで済むと思ってるの...人権侵害よ」
翠はハッと一笑すると
「なんでも私の思い通りに動くしかできないアンタに何ができるの、いつもいい子ちゃんぶって、私をさげずんでたアンタが、まるで犬みたいになっちゃって、何ができるの」
「このまま警察に訴えるわよ」
「四つん這いのまま。交番まで行くのかしら。後ろから見たらスカートの中が見えちゃってるわよ」

私ははっとして両手でおしりを隠そうとしたが、床から手を離した私の体はバランスを崩して倒れるだけった。

(この格好でもいい、逃げて助けを求めないと...)

私は屋上から構内へと続く階段に向かって四つん這いのまま走りだず。
「おっと、さすが委員長判断が早いね」
でもね...
「戻っておいで!!」
アプリを起動し、命令を叫ぶ。
私の耳に入ってきたその命令を、ナノマシンは私の意志とは関係なく実行する。

ドアまであと一歩だった私の体はその勢いのままUターをし、翠のもとへと獣のように駆け戻った。
「うう...」
「そんな急いで戻ってくるなんてよほどこのままでいたいんだね」
「違う、これは...!!」
「もう、うるさいなあ」
翠はアプリを起動すると私に命令をかけた。

「%&($@/&(?"」
喋ろうとした私の口から出たのは、むちゃくちゃな発音で言語とも言えないような音だった。
「へー、黙ってろ、じゃなくて会話できないようになれって命令するとそうなるのね」
心なかでは普通に思考できるのに、声に出そうとすると口の筋肉や声帯がおかしな動きをし私の言語化を阻害する。私の口から発せられるのは壊れた機械のようなノイズだ。

私は四つん這いのまま、言葉も奪われ絶望に涙した。

「おっと、そろそろ帰らないと、遊びに行く予定があるんだ」
翠はそういうとアプリを起動する。
「歩行制限解除」
(も、元に戻してくれるの?)
私は淡い希望にすがった..。

「私の手下としてついてきなさい」
私の体はゆっくり立ち上がる。そして翠が差し出した彼女のかばんを持ち、歩きだした翠の後ろにひっつくように動きだした。

「ふふ、こんな便利なもの、手放すわけ無いでしょ」

私は自分で涙も流せなくなった体の中で、涙した。

翠のカバンと自分のカバンを2つ持って、翠の1,2歩後ろを歩く私は、
はたから見たら舎弟か、手下か、はたまたいじめに見えているのかもしれない。
助けを求めてしゃべろうとしてもまともな言語を発せられないのでどうすることもできず、
命令を勝手に実行してしまう身体に身を委ねるしかなかった。

繁華街を歩いているとちらちらと視線を感じる。
優等生で清楚な私と、ギャルな格好をしている翠が並んで歩くというのは微妙にギャップがあるようだ。
「委員長、その恰好だとここじゃ浮いちゃうっしょ」
翠が歩みを止め、こちらを振り返る。
「ちょっとカスタムしちゃおっか?」
「%#$JKSW'(!!」(やめて!!)
「はは、何言ってんのかわかんねー」

翠は私の腕を引っ張ると、ゲームセンターの方へ向かっていく。
(ちょっと…この時間にこんなところに入ったら補導されちゃうでしょ!)
そんな私の意思をくみ取ることもなく、私の身体は抵抗することなくゲームセンターへ足を踏み入れた。
翠は空いているプリクラ機の中へすっと入っていく。
私が、私の脳が、足を踏ん張って、といくら命令を出してもとそれを聞き入れてくれない。
私の身体はまるで母鳥を追うように、翠の後へ続く。

「こっち向いて」
入ってきた私は翠の方をじっと見るように直立する。
今この瞬間にも逃げ出そうと、駆けだそうとしているのだが…私は顔色1つ変えずに人形のように気を付けを取っている。
「スカートを短くした方がいいっしょ。私と同じくらいにして」
私はまじめで通っているけど、やはり今時の女子高生だから若干校則より短くはしている。膝上数cmぐらい。それに対して翠はもう見えてしまうんじゃないかというぐらい、まで短くしている。若干長めのベストの裾からわずかに見えるスカート、という感じだ。
私はスカートのベルトを外し、ウェスト部分を胸の下あたりに持ってきて、そのままベルトで止める。上にあげたぶん、スカートの位置が単純に上昇する。
あっという間に翠と同じようなスカートの長さになってしまう。
「はっは、似合ってんなー委員長」
普段着でもゆったりした服を着る私は、ここまで足を露出させたのは体育のときを除けば、小学生以来。すこしでも動けば見えてしまいそうになるスカートをもとに戻そうと手に力を入れるが、もちろん身体はうんともすんとも言わない。
「リボン緩めて、ボタン外して」
まるで家に帰ったときのように、シュルっとリボンをゆるめ、胸元のボタンを外し、緩める。
「うーん、服装はそれっぽいんだけど、やっぱメイクとか髪型だなー。ま、それはそのうちでいいか」
(そのうち…って、私にどこまでやらせるつもりなのだろう)
「じゃ、とりあえず1枚とっとこか、笑って笑って」
全身写るタイプで、私のミニスカ足丸出しを撮られる。
私は恥ずかしくて泣きだしそうなのだが、私の顔は強制的に笑顔にされ、まるで翠と親友みたいな感じで写真が出てくる。

「よし、じゃあ今日はこれで帰っていいよ、言葉もしゃべってよし」
「あの!もうこんなことしないでおねg」
「やっぱり黙って」
「…」
私の口からは空気が漏れるばかりで声が出なくなってしまう。
「あのさ委員長、今の立場わかってないから言うけどー、もう私のおもちゃなんだから逆らうようなことしたらどうなるかわかってる?」
その言葉にわたしはビクッとする。どうなる…?
「あんたのナノマシンを操作できるのは私だけ。例えばずっとスリープモードにして、ナノマシンの自動操縦にしたら誰か気が付いてくれるかな?」
(そ、そんなことされたら…意識がないままずっと…になっちゃう)
それはほとんど死と同義だ。身体をナノマシンが生かし続け、私の意識は表に出ることはなくなる。もちろん正常なナノマシンであればスリープモードや自動操縦に限界時間が設けられていて、長時間の利用はできないはず…だけど、今私の中に潜んでいるナノマシンは果たしてその機能が生きているのだろうか。

「はい、しゃべっていいよ」
「……私をどうしたいの?」
翠の機嫌を損ねないよう、落ち着いた声で、慎重に質問をする。
「そのうちわかるよ」
翠はにやっとして私を見つめる。
「ああ、そうだ1つだけ命令しておこうかな…少しだけスリープモードに入って」
「おねがい!やめ…」
私の意識はブラックアウトした。

…と思ったらすぐに視界がフェードインする。
腕時計を見るとそこまで時間は経過していない。
「今日はもう帰って」
翠はもう私には興味がない、と言わんばかりの態度。
私は床に置いてある自分のカバンをとり、帰ろうとする。
「委員長、そのままでいいの?」
「……なにが?」
私は一刻も早くこのゲームセンターから立ち去りたかった。
そのままでいい、とは何のことだろうか。
私は翠に何も声をかけず踵をかえして、プリクラ機から出て、そのままゲームセンターから去る。

そんな私を見つめる翠の次の声は、私には聞こえなかった。
「その服装のままで、いいの?」

私は足早に繁華街を自宅に向かって歩き出す。
周囲の視線が、私に向いている気がする。
やはりこの時間に学生がここを歩くというのは珍しいのだろうか。
「ねーねーお嬢ちゃん、ちょっとこっちで話してかない?」
…時計を見るともうかなり遅い。ガラの悪い人たちが多いのだろう。
身の危険を感じながらも声をかけてきた人を無視する。
「ちっ、なんだよそんな誘うような服装しといてよー!」
…服装?
私は歩きながら自分の制服を見直す。
いつも通り膝上30cmのスカートに、上のボタンを全部外したシャツだ。
何もおかしいところはない…はず。
頭のおかしい人がいるのも繁華街だししょうがない、と思う。やはり真面目な私はこんなところにくるべきじゃない。脅されてゲームセンターに付き合ったのが間違いだった。早くお家に帰ろう…。

ちなみに帰宅したときに、父親と母親が私を見て、目を丸くしていた。
「何があったのか」と聞かれたが、「同級生に脅されて繁華街に連れていかれた」などと言えるわけもなく、私は「なんでもない」と答えることしかできなかった。


ゲームセンターに残った翠は、ほくそ笑む。
「いや、ほんと笑えるわ。あの委員長があんな格好で歩きまわるなんて」
もし、たまたま生活指導の教師が見回りに来ていたら、今頃大問題になっているだろう。それはそれで面白いなーとつぶやく。

翠が、委員長の意識がない時に命令した内容は2つである。
1つ目は、

 ・あなたの今の服装はそれが"普通"

翠は深く考えていなかったが、本人の意思に反して歩けなくしたり、会話できなくできるということは、考えや意識にまでナノマシンが影響を及ぼすことができるとだ。
いま、委員長は自分の服装がおかしいのではないか、と思考をしようとした瞬間、ナノマシンが脳の思考の信号を妨害し、伝搬させなくしてしまう。
これは本来、自分が苦手なもの、嫌いなものの意識を変えるために使われる機能の1つであったが、悪用されてしまうとこのようなことになってしまうのである。
委員長は明日、いやこれからずっと卒業するまで、翠と同じような格好で登校することになるだろう。なぜなら彼女にとってはそれが普通、当たり前なのだから。

2つ目は
 
 ・ナノマシンのことは翠が話題に出すまで思い出さない

この命令で委員長はもう、翠の支配下にいないときに自分でナノマシンを除去したり、無効化したりしようとは思わないだろう。なぜなら自分がナノマシンを使用していたことすら思い出すことができなくなっているのだから。
今日の、屋上からゲームセンターまでの出来事は、恐らく無理やり命令されて断れず…という意識にすり替わってしまっているであろう。

「明日は委員長に何をしてあげっかなー」
翠はスマホをいじりながら、繁華街の中に消えていった。

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