Author : danna (だんな) / danna_story
状態変化、TSF、獣化の片隅にひっそり生きてます。
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2018/04/01

動物係

私の学校では中学では珍しく、2年目にみんなで生き物を飼うという慣習があります。
入学時にもパンフレットに書いてあるぐらいであり、放課後でも生き物の面倒をみるという名目で生徒が交代で学校に泊まるということを1年間続けるのです。
何を飼うかはクラスで違います…といっても地方の中学校なので数クラスしかないのですけども、過去にはかなりマニアックなものを育てたこともあるようです。



「今年のA組は豚を育てることになったわ」
担任のキヨミ先生は朝のホームルームで告げます。

「なんで豚なんだよ、犬とか、ネコがいいー」
「育てた後、豚肉にして食べてるドキュメンタリー、ツイッターでみたなあ」
「臭そうー、もっと楽なのがいいのに」
みんなはそんなことを言い合います。育てるのが面倒だと思っている私も文句を心のなかで言います。

キヨミ先生はそんな喧騒を無視し、
「放課後に豚が届きます、里中さん、放課後数人で校門前にきてください」
私はクラスの委員長をしているのでこういった雑用がよく頼まれます。
はい、と先生に返事をすると、ホームルームはそこで終了となりました。
「ナミ、豚の世話ってしたことある?」
ホームルームが終わるとすぐに親友のモエが話しかけてきます。
「あるわけがないです…、誰が係やるんでしょうね」
「さすがの委員長でもないかー、誰か経験者いれば楽なのにね」
委員長だからって押し付けられてなければいいなあと心の中で思いました。


放課後、校門前に届いた箱をキャスターにのせ、教室まで運びます。
キャスターから男子が数人で箱から檻を取り出し、教壇の横に置きました。
私もモエもみんな、檻のまわり集まります。なんだかんだいって興味はあるのです。
「あれ、寝てる?」
檻に入っている小さな豚は寝ているのか、身じろぎしません。
「ほんとだ、動かないねー」
最初の出会いとしてはなにか印象薄いなあと思っていると
キヨミ先生が教室に入ってきました。

「先生、豚起きないんだけど、死んでるんじゃないよね」
「誰が係やるのー?」
「帰りたいー」
キヨミ先生は教壇の前まで来ると、手を2回叩き、みんなを静かにさせると、
「豚の世話はみんなでするのよ」
といいます。
「係の人も1人に決めず、定期的に回していくから、そのつもりで」
えー、とみんなから声が上がりした。小学校のときの飼育当番みたいですね。

キヨミ先生はそういうと黒板に向き直り、右下…日直欄のとなりに縦書で

豚係
世話係

なんか違和感を覚える書き方をする先生です。
「世話係は最初だけ慣れないだろうから2名、豚係は1名ね。次の週からは世話係も1名でやるわ」

私は話についていけず、手をあげ、質問します。
「あ、あの、先生、豚係と世話係って何が違うんでしょう」
キヨミ先生は私を見て言います。
「何言ってるの、豚係なんだから…ああ、里中さん委員長だし、ちょうどいいわね」
キヨミ先生は黒板右下の日直を書く欄の隣に縦書で何かを書いています。
「あと世話係は…男子は井口君、女子はモエさんでいいわね。来週までにはちゃんとリスト作ってくるわ」

先生は書き終わるとチョークを置き、手を払い、教壇へ戻りました。
黒板には

豚係  里中
世話係 井口 宮本

と書かれていました。
キヨミ先生は板書した内容を自分の名簿にも書き込みます。
「あの、先生、質問の答えになってないです」
私はそう言おうとした瞬間、バタっという音とともに視界が一瞬ブラックアウトしました…がすぐ視界が戻りました。
一瞬立ちくらみでも起こしたのかと思いましたがそうではない…なにか別のことが起きたのだと感じました。先ほどまで着ていた制服や下着の感触がすっと消え、まるで裸でいるような感覚です。
すぐ目の前に檻があり…いや、見回すといつの間にか自分が四方が檻に囲まれています。
キヨミ先生の声がとても近くに聞こえます。私はいつの間に教壇の横に移動したのでしょうか…。

(あの、先生なにかへんです)
わたしはそうしゃべろうとしたのに声がでないことに気が付きます。
「…というわけで、里中さんは豚係として1週間、この豚として過ごします」
キヨミ先生は私の上の檻の蓋開け、私を担ぎ上げます。
私は簡単に持ち上げられたのに驚きつつも自分の席を見ると、自分の席で女の子が机に突っ伏してるのが目に入りました。あれは…私?

そんな思考の中、キヨミ先生は
「ほら、豚の里中さん、挨拶なさい」
と、私のお腹を急にギュッと押しました。
「プギィ」
私の口から豚の鳴き声発せられ、私は驚愕します。
もしかして…私、心が豚の身体に移動して…ます?
そして私は視界に入る自分の手が、短い豚の前足になっていることに気が付きました。

「あの、先生、ナミが、ナミが意識ないんだけど!」
モエの慌てた声が聞こえます。
「大丈夫よ、身体は寝てるのと同じ状態よ」
キヨミ先生は私を教室の床に降ろして、何か板書をしつつ説明を始めます。

私は立っているのに視線の低さ…20-30cmぐらいになっているのに衝撃を隠せません。
黒板を見ようとしますがどれだけ首を上にあげても先生の板書している高さが目に入りません。
諦めた私は先生の方を向き、慣れない口で必死に声を出そうとしますが、私の口からは
「ブヒブヒッ、ブヒ」
と、言語の欠片もない鳴き声がでるだけで、自分が豚になっていることを再認識させられるだけでした。

「じゃ、じゃあいまその子豚が、ナミなの?」
モエが顔を青くしてキヨミ先生に話しかけます。
キヨミ先生は
「そうよ、これがあなた達のクラスの委員長の里中さんよ」
私を再度持ち上げると教壇の上に乗せます。
クラスのみんなの視線が私に集まります。よく考えると今裸当然なのでなんか恥ずかしいです…。
「よっ…と。里中さんはいま、生後40日ぐらいの体重14kgの雄の子豚さんになってます」
お、雄?私男の子になってるということでしょうか?
「その、豚になった里中さんの世話をするってことでいいのか?」
井口君は先生に発言します。

キヨミ先生は私の頭を撫で回します。なでられる感覚が気持ちいいです…。
「そうよ、察しがいいわね」
キヨミ先生は私を見ながら、
里中さんは一週間泊まり込みってことになるわね、と私に告げます。
キヨミ先生は撫でるのをやめ、私の席へ向かい、机に突っ伏している私の身体を背負います。
「里中さん、身体は厳重に保管されるので安心して頂戴」
じゃ、今日は解散。世話係は豚を檻に入れるの忘れずに帰ってね、とだけ言うと
私の身体を背負って教室から出ていってしまいました。

わっと、クラスのみんなが教壇の私の周りに集まります。
私は今の自分の身体に対して高くなりすぎた教壇から降りることもできず、みんなに囲まれます。

「ほんとに委員長なの?」
「あ、ほんとに雄だこの豚」
「なんか喋ってみてよー、里中ならブヒを2回言ってみて!」

私はブヒブヒと2回返します。

「うわ、ほんとにナミっぺなんだ、ウケる」
「これ交代でやるの?私やだー、なんか鼻水垂れてるし…」
「あの清楚な委員長が雄豚に…」

わいわいと喧騒に包まれる中、私は自分を見ようと身体を動かしますが
その場でくるくる回るような動作になってしまい、うまく見ることができません。

「ナミ、自分を見たいの?」
モエは私に声をかけます。
ブヒ
私ははい、と答えたつもりでしたが、出るのはやっぱり豚の鳴き声です。

「はい、鏡」
モエはポケットから手鏡を取り出して、私に見せてくれました。
そこには見慣れた自分の顔ではなく、先ほど見た、檻の中にいた子豚が映るのでした。
そんな馬鹿な…と私は心のなかでぼやいたのでした。

 豚…になってしまった自分の姿を鏡で確認した私は、しばらく呆然としてしまいました。
こんな姿のまま…1週間もすごさなければいけないのでしょうか。

クラスメイトが代わる代わる私の身体を触ってくるので、否が応でも自分の姿形を感触から実感してしまいます。
前にでた鼻、顔の上にある耳、短いしっぽ、そして短い足と蹄…。
私はクラスメイトの手から逃れようとしますが不自由な身体では回避することができません。

鏡をしまった私の友人のモエは先生から受け取った育成マニュアルらしき冊子を読んでいます。
「えーとね、授業は通常通り受けさせること、夜は所定の飼育部屋に戻して鍵をかけること、だって」
この姿でノートをとったり、体育ができるわけがないと思うんですけども…。
というか本当に1週間ずっとこのままなのですね…。日中は戻れたりするのかもと淡い期待を抱いていたんですが、期待を裏切られてしまいました。

「とりあえずもう放課後だし、飼育部屋運ぼうか」
もう一人の世話係の井口君が私を持ち上げ、カゴに入れます。
急に持ち上げられたため、私は「きゃっ」と声をあげた…と思ったのですが、出たのは「ピギィ」という獣の鳴き声でした。うう…恥ずかしい。

解散ムードとなり、クラスメイトは次々と帰宅していきます。
私も本当なら家に帰るはずなのに…。まあこのまま帰ってもお母さんとかびっくりしちゃうでしょうけど。
井口君とモエは私の入っているカゴを台車にのせ、教室から少し離れた飼育部屋へ運びました。

「あれ、A組は豚なんだ?」
飼育部屋には、B組の男女が2名いました。
「誰が入ってるの?男子?」
「委員長の里中さんだよ、そっちは何してんの?」
井口くんが答えます。
「うへっ、あの里中さんが…豚に…」
B組の男子生徒はちょっと衝撃を受けたような仕草をしました。
私は恥ずかしくなってしまい、顔を下に向け極力、男子生徒の方を見ないようにしていました。
女子生徒は奥にあるカゴをこちらに見せながら
「B組はニワトリなのよ。雌鳥が2羽!すごいでしょ」
カゴの中のニワトリは私と同じように顔をこちらに向けません。
ああ、ニワトリも誰かが係をしているのですね、と私は思いました。

「え、2匹ってことは当番も2人なの?」
モエは驚いた顔をしながらニワトリを覗き込みます。
「そうそう、タクミ君とアサヒちゃんが当番なのよ」
「おー…、B組名物の幼なじみカップルが…」
「今は雌同士だけどね」
女子生徒は苦笑しながらカゴを元の位置に戻します。
「どっちがどっちかわかんねーな」
井口君はそんなことをぼそりといいます。
確かに同じ雌鳥に見えます。
「もしかしたら姉妹雌鳥なのかもしれないねー」
モエはそんなことを軽く言いながら、私のカゴの中に餌入れを入れ、その上に食事をどばどば載せていきます。
こんもりと盛られたのは…飼料を固めた何か…です。こ、これがご飯…?

「並べておいていーい?」
モエは返事を聞く前にB組のニワトリのカゴの隣に私を運びます。
私は幼なじみカップルだったニワトリと目が会いますが、気まずくなって目をそらしてしまいました。
「いいよいいよ、ニワトリと豚同士って話できるのかな?」
「ナミ、話できるの?」
できるわけがありません。
私は首を横に振りました…が首が短いので顔全体が横に揺れます。
「無理みたいねー」
「ま、動物同士、1週間仲良くやってよ」
「やっぱニワトリも豚もちょっと臭いかな、手がちょっと臭うかも」
「さ、帰ろ帰ろ」
世話係の4人は勝手なことを言いながら出ていきます。
ドアが締まり、ガチャリ、という音がしました。

ふぅ…。これからどうしたものでしょうか。
ニワトリの方へ目を向けると片方のニワトリは座り込み、もう片方のニワトリがそれを慰めるような体勢で、お互い目を合わせています。
見た感じ、座ってるほうがアサヒちゃんでしょうか。確認するすべはないのですけど。

私はモエが置いていった餌入れの前まで移動すると、臭いを嗅いでみます。
フガフガというハズカシイ音が出てしまい、顔を覆いたくなりましたがそもそも手が顔まで届きません。
餌は穀物のいい匂いがします。いや、普段なら多分こんなものを「いい匂い」だとは思うわけ無いのですが…
これも豚になってしまった影響なのでしょうか。
私はいい匂いがするこの食べ物をむしゃむしゃと食べ始めました。
意外と美味しいもので、食べる勢いが段々早くなります。
気がつけば私はガフッガフッという食べる音と空気の漏れる音が出るぐらい夢中になって食べていました。
空になった餌入れを見て我に返り、食欲を理性が抑えきれなかったことに愕然とします。

ううっ。今日はもう寝てしまいましょう。
ニワトリな2人も、既に寄り添いながら座り込んで目をつむっています。
私は前足と投げ出し腹ばいになると、顎を地面につけ目をつむりました。

―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

うとうとしていた私は、となりが少し騒がしくなったのに気が付き、目をゆっくり開きます。
飼育部屋の中にある壁掛け時計は朝4時を指しています。ちょっと肌寒い感じがします。
私はニワトリのほうを見て、「どうしたの」としゃべろうとして声がでないことに気が付きます。
ああ、そうでした、私は豚になっているのでした。
「ブヒ」と一声鳴きましたが、2人は焦っているのか、こちらに気が付きません。
どうしたんでしょう、2人共たったままクルォォォォと低い声で鳴いています。
病気…だったらどうしましょう…そんなことを考えているうちに、
2匹はやや中腰になりました。力んでいるように見えます。痛いのでしょうか…。

…あ!も、もしかして…
と思った瞬間、足の間からコロンと白い塊がでてきます。
続けてもう片方のニワトリからもコロンと…。

そうでした。雌鳥だから卵を毎日産むんですね…。
2匹は卵を産んだ後、卵からぱっと離れ座り込んでしまいました。
それはそうです。自分がもしニワトリ係で、産卵しなければ…考えると、想像するだけでハズカシイです。
そういう意味では豚はマシなのでしょうか…。

私は時計をみてまだモエの登校まで時間があることを確認すると
再び床に伏せ、目を閉じて眠ることにしました。


人間と動物の違いはなんでしょうか。
私は今、どちらなのでしょうか。
道具を使える、言葉を使える、社会を形成する…人間の定義はいろいろあります。
今の私は全てを失っている状態です。

一般的に豚は、人間とは扱われないでしょう。
クラスメイトは、私が豚になっていることを知っているので、人間として、友達として接してくれるはずです。
私が人間かどうかを決めるのは私ではなく、周りの人たちなのです。
私は今、人間なのでしょうか。

―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

「ナミ?おはよ、起きて」
身体を揺らされ私は目を開けます。
考え事をしていて、いつの間にか寝てしまっていた私の目の前にモエが居ました。

目をこすろうとしてあげた手が目の前より上にあがらず、
私はモエに向かって手を差し出したみたいな形になります。
モエは私の手の蹄の部分を掴むと手触りを確認するかのように触ります。
よく考えるとこの構図は豚がお手をしているように見えますね…。
私は恥ずかしくなって手を引っ込めます。

「B組の2人はもう連れだしたみたいね」
モエはとなりの空になったカゴを見ます。
明け方に産んでいた卵はもうそこにはありませんでした。
あの卵は果たしてダレが食べるのでしょうか…。

空のカゴを見ていた私にモエが話しかけます。
「ナミ、えーとね、朝の散歩だよ」
さ、散歩?え、外にでるんでしょうか。い、いやですね。
私は首を降ると後ずさりします。
モエは私の手を掴見直すと、手元へ引っ張ります。
私をずるずると手前に引き寄せ、クビの周りに何かを巻きつけます。
「ごめんね、一応ルールで首輪してリードつけないといけないんだって」
いや、そもそも散歩はしたくないんです。…と言っても伝わらないんでした。
首輪にリードを付けられ、ペットみたいな扱いをうけて私はげんなりします。

豚の身体では、人間の言葉を使うことができません。
自分の意思を他人に伝えることができないことがかなり苦痛であることを実感します。
残りの期間、私は耐えられるのでしょうか。

モエのリードに引っ張られる形で、私は学校の校門から出ます。
この姿で学校の外に出ることはかなり抵抗がありましたが、リードに引っ張られる私はどうにもできません。
モエが言うには、学校の周りの道路が散歩コースとして決まっているようです。
そういえば去年も生徒が動物を連れているのを何回か見たことがありました。こういうことだったんですね。

朝が早いのか登校中の生徒もまばらです。
ただ豚の散歩は目立つのかみんなチラチラとコチラに視線を投げてきます。
「1年生がいるところでは正体を隠すんだって」
モエが部屋から出るときに言っていた言葉です。
(1年生は豚の中身が人間だとは知らなくて…3年生は知ってるのよね)
そう考えると確かに1年生は珍しいものを見るかのような好奇心の視線ですが、3年生はなにか含みを持った、少し嘲笑が入った顔でこちらを見ています。
中身が誰か、なんてわからないとは思いますが私は顔が熱くなる感じがして、下を向いてなるべく生徒達の顔を見ないように歩きます。

「あ、モエじゃん」
声がした方を向くと、私達のクラスの中では少し素行の悪い、立花ユイがいました。
「立花さん、早いね」
「あ?いやー親とけんかしてさ、さっさと出てきた」
モエと立花さんは普通に話していますが、私とはあまり喋ったことがありません。
立花さんも普段は私には用がない限りは話しかけてきませんし。

立花さんは周りを見渡し、1年生がいることを確認すると、私の前にしゃがみ込み
「トンキチも元気そうだね、ちゃんと散歩してウンコしなよー。アハハ」
といい、私の頭をぐしぐしと荒くなでます。
トンキチってそんな男の子みたいな…と思ったところで、私はこの豚の体が雄だと言っていた先生の言葉を思い出します。
(そっか、私はいま男の子なんですね…ってそれよりも…!)
散歩はただの運動解消ではないのですね、排泄を…しないとなんですね。
「(見ててあげよろうか?里中さん)」
立花さんは私の頭部の耳へ、私だけが聞こえるように耳打ちします。
私はカッとなってブヒ!と吠えるように鳴くとモエの後ろに隠れます。
立花さんはそれ見ると、ちょっと笑った後、手をひらひらさせながら、校門のほうへ歩いて行ってしまいました。
モエはそれを見ながらため息をつくと、
「さ、それはそれとして…さっさと教室戻りたいから、出すもん出しちゃって」
う、やっぱり…そうなりますよね。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・

「うひゃー、意外と豚って出すモン大きいんだね、く、臭っ」
モエはワーワー叫びながら、わ、私の出したものを処理施設へ運びます。
は、初めてだらけの体験でした…。
男の子としても、動物としても、初めての体験で私はぐったりつかれたように校門まで歩きます。
(お、屋外で…、さらにお尻まで拭かれてしまって…恥ずかしくて死んじゃいそう)
「私も自分の番が怖いよ、ホント。あんまりその身体太らせないでよ」
モエが苦笑しながら戻ってきます。

「あれ、モエさん?」
散歩の帰り道、校門まであと少しのところで、私は聞き慣れた感じのする声が聞こえました。
聞き慣れたというか…すこし自分に似たこの声は…・
「アミちゃん、お、おはよう」
モエは少し慌てた感じで返事をします。
そう、この声は私の小学生6年生の妹、アミの声です。
「この子豚さん、かわいい!この豚さん、学校で飼ってるんですか?」
「う、うん。授業の一環でね」
モエは私にちらっと視線を送ってきます。
アミは実はこの豚が姉なのだとは気がつけるわけがないので…大丈夫なはずなのですが、
もしかしたら…と考えるととても不安な気持ちになります。
私が豚だと知ったら、アミはどういう態度をとるのでしょう…。
アミはそんな私の心境を知らず、小さな手で私の頭をなでます。
「いいなあ、あ、お姉ちゃんもいま当番なんですよね?なにしてるんですか?」
「夜のご飯当番とか、体調崩したりしないように夜も泊まりでお世話してるよ」
目の前の豚やってます…とは言えないのでモエは適当にでっち上げます。
「朝はモエさんが担当なの?」
「そ、そうよ。ナミはいま小屋の掃除してると思うよ」
「そうなんだー…」
アミは私の耳を掴んでパタパタと折ったり開いたりします。

アミは顔を私の横っ腹に近づけるとスンスンと匂いをかいで
「ちょっとクサっ」
そういって立ち上がると
「モエさん、またねー!」
小学校のほうへ走って行ってしまいました。

「ふう、ちょっとドキドキしたよ…」
モエはほっと息を吐くと
「さ、そろそろ授業始まるし、教室行こう」
私のリードを引っ張って玄関へ向かいます。

豚係の1日はまだ始まったばかりです。

数学教師が板書を薦めて説明していく。
私はノートを取ることはもちろんできず、またわからないところがあっても挙手することもできない。

豚になった私はカゴにいれられた状態で、元の私の席の椅子の上に置かれた状態で授業を受けています。
勉強をちゃんとできたとは思えないのですが、大丈夫なのでしょうか。
体育も皆が球技をしている中、首輪のリードと柱を繋がれたまま見学するだけ。
朝の散歩しかしない豚の身体は、初日より少し、太った感じがします。

土日の休みの間も、井口君とモエが世話をしてくれました。
休みの間は授業もなく、ただゴロゴロと過ごすだけです。
モエが気を使って本を読んでくれたりしましたが、とても暇でした。

そして月曜日の朝、カゴに入れられ、教室へ運ばれます。
今日、このタイミングで私は元の体に戻り、次の係に交代することになるのです。

キヨミ先生が私の身体を運んできて、席につかせます…意識はないのでもちろんグタっとしてますが…。
大丈夫なのでしょうか、私の身体。
「1週間お疲れ様、里中さん」
私はブヒ、っと返事をします。
最初は恥ずかしかった豚の鳴き声も大分慣れてきてしまいました。
「あら、まだ豚さんでいたいのかしら?」
キヨミ先生は茶化します。
私はブンブンと首を振ります。
「ま、さすがに1週間以上は親御さんも心配されるからね」
先生はそういうと、名簿を眺めます。

「えーと、今週の豚係は、立花さんにお願いしようかしら」
「げ、マジっすか…」
先生に呼ばれた立花ユイは心底嫌そうな顔を先生に向けます。
「で、世話係は元に戻った里中さんがやってあげてちょうだい」
私はブヒ、とうなずきます。
ちょっと不良の立花さんが豚になったら、やんちゃな豚さんになりそうですね。
立花さんはぶつくさとやりたくない、とかめんどくさいとかつぶやいてます。
私だってできればもうやりたくないですね。

キヨミ先生はなにやらマニュアルを見ながら
「うーん…とこう書けばいいのかしら…。この動物係のオマジナイもよくわからないのよねえ」
なにやら不安げな様子で名簿に書き込みをします。
一週間前、先生があの名簿に書き込んだ瞬間、私は豚に乗り移っていました。
そして今、次の係を書き込んだタイミングで私は元に身体に戻るはず…でした。

…?
私の視点は変わりません。
かごに入れられたままです。
見下ろすとこの1週間で見慣れた蹄の前足が目に入ります。

その傍らでバタッっと音がして立花さんが倒れます。
立花さんの意識はなくなったのに、私はまだここにいるのは何故でしょう。

「あ、あれ…?」
元の私の席から、聞き慣れた声が聞こえてきます。
私がそちらへ視線を向けると、信じられないことに私の身体が起き上がったのです。
モエが私の身体に「戻れてよかったね」と話しかけています。
(まだ私は豚のまま…!)
私は慌てて声を出そうとして、でもその言葉がでないことに焦ります。
いざという時に、意思の疎通ができないというのは絶望しか感じられません。

起き上がった私の身体は周りを見回し、教卓の上にいる豚の私と目線が合います。
しばらく視線を合わせていた私の顔が一瞬ニヤっとした顔になったかと思うと
「1週間、お世話してくれてありがとう、モエ」
と私の身体はモエに向かってそう言ったのでした。

私は、ものすごく焦ってブヒブヒ声を出して訴えるのですが
「立花さん?ちょっと焦りすぎよ、落ち着きなさい」
と先生にたしなめられます。

私はすべてを察します。
私の身体に立花さんが入って、私は豚のままなのです。
「じゃあ、立花さんの身体は預かっておくわね」
まって、私は元に戻れてないんです!先生!
先生は立花さんの身体を担いで教室の外に出て行ってしまいます。
いま、叫んでいる私は、客観的に見たら自分の身体が持っていかれる豚の立花さんにしか見えてないのでしょう。

「いやー助かった、先生がなんか間違えたのかね?」
朝礼後、私の身体が私の元にやってきて囁きます。
身体は里中ナミですが、この口調や仕草は間違いなく立花さんです。
「ま、豚なんかやりたくないし、バレたら困るからちゃんと委員長を演じてやるよ」
「あーでも、この黒髪はなんかイモくさいなあ、染めていい?」

ブヒ!ブヒ!(やめて、ちゃんと先生に説明して元に戻して!)

必死に訴える私の豚の鳴き声に、立花さんは
「ダメですよ、立花さん、ちゃんと豚として1週間頑張りましょう!」
と私の口調を真似するのでした。

豚の1週間がまた、始まるのでした。