転生症2 -エルフ-
「わ…!」
「きれい…」
「相変わらずすごいな、あれ」
登校する学生たちの中でひとり、他より頭一つ背が高い女性が見える。
ただ単に背が高いわけではない。
腰まで伸びた長い金色の髪は染色ではだせない、本物であるのがひと目見てわかる。
スタイルも抜群で制服の上から艶めかしい肢体が想像できる。
スカートから伸びる脚はとても長く、モデル以上にモデルな体つきをしていた。
これだけでも十分日本人…いや地球人からかけ離れているのだが、
一番目立つのはそのピン、と横にとんがったように長く伸びる耳であろう。
そう、少女はいわゆるエルフなのだ。
(うーん、この視線にはいまだに慣れないな)
まとわりつくような視線。
好意、羨望、嫉妬、崇拝…
エルフになってから、色々な感情を色のようなもので捉えることができるようになった。
視線に含まれる感情は多種多様で朝っぱらからこの波に気持ち悪くなりそうにもなるが堪える。
「コウ君、大丈夫?」
「あ、うん、だいじょうぶだよ」
コウ、と呼ばれたエルフの少女の顔を見上げるようにしているのは、恋人の絆(キズナ)だ。
彼女の周りの空気は心配と不安の色が漂う。
「そう?つらかったらいつでも言ってね、わたし彼女なんだし」
「うん、もちろん、ありがとう」
コウは強くうなずく。
別にこの二人は同性カップルではない、正確にはではなかった、という過去形なのだが。
名前からもわかるようにこのエルフの少女は本来、男性である。
「でもコウ君、誘われても同意なんかしないよって言ってたのに」
「…でもあれだけ追い詰められた声で助けを求められちゃうと…」
「でも!ネットじゃ半魚人にされちゃって窒息死しちゃったりとか
…」
異世界の種族が、異能の力を得るためにこの世界の人間と「身体だけ」を入れ替える魔法。
それをキズナは色々調べたのだろう。
「その…戦争で傷ついて五体満足じゃない身体になっちゃったりとか…」
もちろん全ての召喚がまともであることはない。
政府は安易な要請に同意しないように、という警告を出しているが若者の転生症率は増加する傾向にある。
現状の姿に不満がある若者が、転生症を利用して美男美女になることを夢見るのだ。
「僕は別に流行りに乗ったわけじゃないんだよ」
ニコリと笑いながらキズナの頬を撫でる。
キズナの顔がほんのりと赤く染まる。
「私の国が、外敵に攻められててもう猶予がない、みんな死んでしまう、なんて言われちゃうとね」
「コウ君はやさしすぎるよ!優柔不断だよ!」
もう、とため息をつく。
お互いの手をつなぎ、学校への歩みを再開する。
「あとは僕の身体がその争いに打ち勝てる能力であることを祈るだけだよ」
「もう、コウ君その人の心配ばっかり。自分の心配もしなよ」
「ああ、うんそれはもう」
たはは、と困った顔をしつつスカートの端をつまむ。
「別に元の体の制服でもよかったんだけどね、脚が長くなりすぎてまさかあんなになるとは…」
エルフの身長はこの世界の女性と比べると若干平均より高いぐらいではあるが、
身体のバランスは別物であった。
ものすごく腰の位置が高い。
胴長短足気味な日本男子の体型とは全く違うのだ。
「あー、あれは面白かったねえ…」
結局四苦八苦して着込んだ制服は、上は肩幅が違いすぎて斬ることができず、下はスネが丸見えな上、お尻がでかすぎて横皺が目立ってしまい諦めたのだった。
それを見ていた親が、新しく学生服を買うぐらいなら、と女子生徒の制服を揃えたのだった。
とはいえ、エルフみたいな体型にあう制服をすぐに用意できるわけでもなく、
ウェストサイズに合わせて買ったスカートは標準丈であるのに関わらず、ミニ気味になっているし
制服も少し伸びをしたら色々見えてしまうそうで、キズナには時々行動を窘められている。
「後はそうだね、もうこの身体になって1週間、慣れてはきたけどやっぱり力の無さは困るね」
「そうだねえ、そんなに腕細いもんねえ…」
透き通った白の絹のような色をした腕は細く頼りない。
一緒につなぐても私と同じぐらいかもしかしたら細いかもしれない。
転生症でエルフになる確率は実は高い。
力が弱いので他種族に迫害されやすい為助けを求めるのだ、というのが研究者の見解。
また、魔術に長ける種族であるため、儀式を行いやすいのだろう、とも。
「コウ君の姿見てるとお姫様、って言われてもおかしくないもんね」
「…やめてくれよ、一応男だったんだから…」
「ごめんごめん、力の無さが、って意味で」
魔術に長けた身体を得ても、魔術は使えない。
これはこの世界に魔術の源となるモノが無いから、とか術式が複雑だからなどと諸説ある。
転生の儀式の制限なのでは、という声もあるけどまだまだ研究が必要な分野だ。
一方で種族の特性は引き継いでしまう。
これは一概によい、わるいとはいえないものだ。
例えばハーピー族になれば空をある程度跳ぶことができる。(本来は魔術と組み合わせるともっと飛べる、らしい)
さっきも言ったけど陸上では生きられない種族になってしまうと死の危険すらある。
「あー、私も男のエルフに召喚されないかなあ」
「おいおい、なんでだよ」
「だってこのままじゃ結婚できないじゃない」
「戸籍はそのままだよ、だから大丈夫だよ」
「…そういう意味じゃなくて、子供とか…」
ああ、うん、と二人共顔を赤くしてうつむいてしまう。
「…でも、やめてくれよ。同意しちゃった僕がいうのもなんだけど、キズナがキズナじゃなくなったら悲しい」
「私の見た目が好きってこと?」
「そ、そういう意味じゃなくて、好きなのは全部だよ全部」
「私もコウ君の全部、好きだったんですけど!」
「あう…」
タジタジになるエルフの少女。
その仕草をみてキズナは笑う。
「なに?」
「や、ね。その姿になってもコウ君だってわかるのが嬉しいの。照れるときの仕草とか表情とかで」
「そうなの?」
「これは愛ね、愛!」
「恥ずかしいこと言うなあ…」
「ま、向こうの世界の問題が解決したら元に戻ることもあるんでしょ?死ぬまでに戻ってくれればいいわ」
「気長だね」
「それまでずっと一緒にいてあげるって意味よ、馬鹿」
「あ…なるほど、あはは」
そう、いつか再び元に戻れるかもしれない。
そうだったらいいな、と思いつつ実はこの姿も満更ではないコウなのであった。
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コウ
種族:エルフ/女性 (元人間男性)
身体:ラエルノア
年齢:?歳(外見:18歳相当)
3サイズ: B79 W58 H90
魔法:自然を操る魔法全般が使用可能(コウ本人は知識がないため発動できない)
能力:感情識別(生命体が持つ感情を色の波で視覚化できる)
種族特性:不老不死(寿命による死がない)
備考:顔、身長など総じて悪くない(むしろ好き)と思っているが胸が小さいのに対してお尻が大きすぎるのを気にしている。
ラエルノア
種族:人間/男性(元エルフ女性)
年齢:15歳
身体:コウ
能力:?????(不明)
備考:一族を襲う敵に対抗するためコウの身体を召喚した、エルフの国の王女。
退けることができたかどうかはいまのところ定かではない。
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