あれから1週間。
尿意が我慢できるようになり、オムツの中で粗相をすることもなくなってきた。
春香もそろそろ外してもいいかもねと言ってくれた。
「ま、その前に、今後の対策よ」
そう言いながら春香は机の上に置いてあったノートを開く。
「考えたんだけど、やっぱり新しい魔法も必要なわけよ」
俺が使えるのは"トゥインクルレインボウシャワー"という瘴気に蝕まれた空間や人から瘴気を回収する魔法だけだ。
瘴気に取り憑かれた生物は大半が凶暴化する。だけど俺は魔力をケチっているのでその辺にある棒や石で投げたり、気を反らせたりしてなんとか、この魔法だけでやりくりしていた。
「赤い魔法少女にかけられた魔法を思い出してみて。あれは瘴気…魔力集めに役に立つと思う?」
「うーん…。ううん、思わない」
力をおしっこに変換する魔法、それが直接瘴気回収に役に立つとは思えない。
「そう、つまりこの魔法は対魔法少女に特化してるわけ」
「?とっか?」
「ああ、特化っていうのは…ああもうじれったいから変身しなさい」
春香から促され、俺は両手で杖を掲げ、呪文を唱える。
ピンク色の光が自身の体を包み込み、着ていた衣服やおむつが消え去る。
その後ピンクのゴシックロリータが俺の身を包んだ。
知能制限の枷が外されたため、ひさしぶりに頭の中もすっきりとする。
「つまり、奪うことに専念した魔法ってことか」
他の魔法少女から奪うことを主眼においた魔法。そして苦労して集めた魔力を横からかっさらっていく魔法。あの夜のことを思い出し、身につける羽目になっいるおむつの感触を意識する。
悔しくなって歯噛みしてしまう。
春香はコクリとうなずく。
「そう。結局どれだけ集めても奪われたら意味がない。対策は必須よ」
ノートに書かれいた対策その1。
・対魔法少女用の魔法を使う。
「例えば相手を転ばせるとか…眠らせる、とか?」
「そうね、ただ相手を強く拘束する魔法ほど消費する魔力は大きくなるらしいの。そうなると魔力を多く蓄えていない魔法少女と相対した時には必然、赤字になっちゃうわけ」
「ちょっとの魔力で済む魔法を考えないといけないってことね」
春香は2つ目を指差す。
・敵対しない
「…仲良くするってこと?」
「んー。ホントは協力関係が築ければ言うことないんだけど、それは赤い魔法少女には無理でしょ。第一に逃げることに主眼を置くの。自然発生した瘴気の回収だけに注力するってことね」
「ふんふん」
「理想は現場に早く直行し、回収、そしてさっさと退散、ね」
俺はノートをじっと見つめる。
「うん、決めた。わたしは2つ目にする」
春香はなぜかしら、という顔をする。
「わたしは自分の姿に戻る、という目的があって魔法少女をしてる。多分だけど、他の子達も…もしかしたら理不尽な目にあって魔法少女をしているのかもしれない。お互いが足を引っ張りあうのは違うと思ったの」
「…そうね。魔力を奪いあうために魔力を使う必要がある以上、魔法少女同士での戦いは全体でみれば非効率ね」
わたしはコクリとうなずく。
「ただ、自分からは奪わないってだけにする。もし他の子たちがわたしの魔力をとりに来るなら…逃げられないときは返り討ちにする…!」
「なるほど。専守防衛ね。いいと思うわ。で、どんな魔法にするの?」
「えっと…それはこれから考える」
(素早く動ける魔法…ううん、違う。透明になる魔法…いいかも)
なにかしっくりこない。
「…そっか。あの魔法少女とまた会った時に、なんとかできない魔法じゃ意味がない…か」
素早く動けるからと言ってあの魔法に当たらないという保証は無いし、当たってしまえば動けなくなってしまうだろう。
透明になったとしても滴り落ちる雫までは消えてくれないかもしれない。
最低でもその魔法だけは解決策を持っておかないといけない。
「…決めたっ」
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・
あれから数日。
新しく作り出した魔法で効率よく魔力をを集めることができるようになった俺は
今日も同じように瘴気の発声した現場へたどり着き、さっさと瘴気を回収する。
「…あら、最近どうも回収が早い魔法少女がいると思っていたら…あなただったのね」
声のしたほうを振り返るとそこには赤い魔法少女が立っていた。
すこし息が荒いところを見るとかなり飛ばしてここまで来たようだ。
「あまりに早すぎるからここ数日食いっぱぐれてたのだけど…どんな魔法を使ったのかしら?」
瘴気を回収し終えた俺は赤い魔法少女のほうへ向き直り、対峙する。
「…わたし、あなたみたいな魔法少女とは戦わないって決めたんだ」
「でも私はあなたの魔力が欲しいの、いただけるのかしら?」
「…ソレは無理。わたしにも目標はあるから」
「そ。じゃあ前みたいに力づくで頂くわよ」
言うやいなや、素早く跳躍して飛びかかってくる魔法少女。
慌ててバックジャンプで後方へ下がる。
(さすがにここから上手く逃げられる自信はない…)
それに。
(能力を知られたくはないし、やられっぱなしは癪だし。当初の作戦通りにやるとするか)
壁や柱を利用して飛びかかってくる赤い魔法少女をぎりぎりで回避する。
手に持った杖を鈍器のように振り回してくる。向こうも魔力はできるだけ温存したいというのは変わらないようだ。
(でも確実に当てられる状況になれば…必ず使ってくる…おっと!)
何回か攻撃を交わした後の攻撃で回避で体勢が崩れる。
そのタイミングを赤い魔法少女は見逃さず、俺の視界から素早く消えた。
(…!)
ぐるりと見回すが、周辺に赤い魔法少女の姿はない。
不意打ちによる殴打だけは避けねばならない。
赤い魔法少女に接近されないように意識を注力し、杖を構える。
瞬間、上空から赤い光が降り注ぎ、俺に命中した。
「き、きゃあ!」
回避できなかった俺はそのまま床に叩きつけられた。
途端にお腹から尿意がこみ上げてくる。
「なんだ、まったく成長してないじゃないの」
赤い魔法少女が上空からスタっと倒れた俺の近くに降り立つ。
「く、くうっ…」
「さて、じゃあ頂くとしますか」
俺がうずくまったまま抱えていた杖に、自身の杖を合わせようとした。
(い、いまだっ…!)
俺は新しく覚えた魔法を発動させる。
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・
俺は春香に作り出そうとする魔法の説明をする。
「まず第一に最初に現場へ駆けつけることができる魔法が絶対いると思ったの」
春香は首を傾げる。
「どこでもドアみたいな魔法ってこと?すごい便利そうだけど魔力の消費が半端じゃなさそうな感じがするわね」
「そう、だから制限をしなきゃだめ。例えば自分がマークした場所をつなげる…とか」
両手杖を地面に突き立てる。
杖から直径30cmほどの魔法陣が出現し、床に刻印がなされる。
両手杖を構え直し、魔力を集中する。
「ゲイト!」
目の前に先ほどと同じ大きさの魔法陣が現れる。
2つの魔法陣が白く輝いた後、お互いの魔法陣の空間がつながる。
「…なるほど、たいしたもんね」
「あまり大きな門を作らなければ魔力もそこまで消費はしないみたい」
「でもこんな小さな輪っかじゃ通れなくない?」
「縦にくぐれば…ほら、今の姿なら肩幅狭いし」
目の前に現れたゲートを操作し、足元に設置する。
「えいっ」
魔法陣が足元から上昇をはじめ、自分の体を通過していく。
先程設置した魔法陣から自分の通過していった身体が出現する。
頭の先まで通り終えた俺は自分がちゃんとワープできていることを確認できた。
「…なるほど。出口になる魔法陣をあっちこっちに仕込んでおくのね」
「そういうこと」
「で、これでどうやって赤い魔法少女にリベンジするのかしら」
「それはね…
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・
「…ゲイト」
持っていた杖を少しだけ伸ばし、赤い魔法少女の身体にあてがって、小さな声で呪文を詠唱する。杖が一瞬だけ白く輝き、赤い魔法少女の中へ吸い込まれていった。
「…?一体何を…」
「ふー。なんとかできた…かな」
杖を支えにしてふらふらと立ち上がる。
「さて、試してみようかな…!えいっ!」
「お、おい、お前は馬鹿か?力を入れると尿意が…!あふっ!?」
途端に内股になり、プルプル震えだす赤い魔法少女。
「ま、まさかあんた私の魔法を…反射したのか!?」
「さあ?なにか起きたんですか?」
「くっ…」
俺はしらばっくれる。
いま魔法の詳細を明かしてしまうことにメリットはない。
今後わたしと戦うことは得策ではない、と思わせることが重要だ。
わたしは続けて身体中に力を込め続ける。
赤い魔法少女の顔色がどんどん青くなっていき、とうとう限界を超えたのかとうとうしゃがみこんでしまう。しゃがみこんだ場所を中心に大きな水たまりが出来上がっていく。
「・・・ち、力をいれてないのに…!止まらない…」
延々とわき続ける尿意に赤い魔法少女は為す術もなく、手に持っていた杖も手放してしまう。
俺はその隙を見逃さす、自身の杖を接触させ、魔法を唱える。
「トゥインクルレインボウシャワー!」
赤い魔法少女の杖に貯められていた魔力が自身の杖に移動する。
ある程度吸い上げたところで魔法を止める。
「わたしから奪ったのはこれぐらいですかね」
「…?な、なぜ全部取らないの」
「わたしは奪わないと決めたんです…取られた時、悲しかったですし、非効率だから」
「…」
「それに魔力が空っぽになっちゃうと、日常生活に支障がでるでしょ?」
そう、おそらくこの赤い魔法少女も本来の姿があるはずだ。
俺は大学生だからまだ融通がついて、元の姿に戻らずとも済んではいるが、
もしまっとうな社会人だったり、高校生だったりしたら元の姿で生活するために魔力が必ず必要となるのだ。
「……甘い考えね」
「そうかもしれません。まあでも次攻撃してきたら考えなおすかもしれないです」
「脅しってことかしら?」
「不毛なことはしたくないんです」
「…」
いま彼女の中では俺がどんな魔法を使ったのか、考えを巡らしているだろう。
そして魔法反射なんてものを使われたら勝ち目がないことを悟るはずだ。
考えている最中も股間からは止めどなく水分が流れ続けている。
少女の周辺だけ雨がふったように地面は濡れ、そして若干アンモニア臭い。
「わかった。あんたには手を出さない」
(できれば他の魔法少女にも手を出さないでくれると平和なんだけど…まあいっか)
「はい、ありがとうございます」
俺は立ち上がり、赤い魔法少女に背を向けて立ち去ろうとする。
「…で、魔法は解いてくれないのかしら」
「あなたが自分の魔法を解けば、解除されますよ」
嘘は言っていない。
「それは参ったな。私の魔法は最低でも1日続くんだ」
「…ふう、しょうがないですね。あなたが私の視界からいなくなったら解除します」
そもそもこっちは長時間維持することが難しいのだ。
「…わかった…よっと」
フラフラと力なく、杖を支えにして立ち上がる。
びっしょり濡れたスカートやスパッツを気にすることなく、ヨタヨタと去っていった。
姿が見えなくなったことを確認して魔法を解除する。
プシャっという音とともに自身の股間から液体が流れ始めた。
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・
俺が唱えた魔法はゲイト。
この現場の近くにワープしてくるのに使用した魔法と同一のものだ。
違いは、魔法陣が指輪ほどの大きさであること。
入り口は俺の尿道に。出口は彼女の膀胱に設置したことだ。
なんのことはない。
俺が排出した尿がそのまま魔法陣を通って彼女の膀胱に転送されていただけのことだ。
「…なんで自分の膀胱に魔法陣セットしなかったの?」
「ぎゃ、逆流の可能性があったから…」
お互いが我慢し続ければどちらかが決壊することになる。そんな状態は避けたかった。
その結果、俺は全力で身体に力を入れ続け、おしっこを自然に垂れ流しつづけることで相手の膀胱に送り続けることに成功したのだ。
「ふーん、それなりに考えてたのね」
「ま、まあね。あの子が上空に飛んだのは見えてたし、魔法もわざと食らって…」
「それなんだけどさ」
「ん?」
「飛んだ方向も、魔法が飛んでくる方向もわかってたなら"ゲート"を使って相手の魔法をワープさせて、相手に当てることも可能だったんじゃないの?」
「…あっ。…い、いや難しいかな~事前に魔法陣セットしないといけないし…」
「あっ。って聞こえたけど」
「なるべく魔法もバレたくなかったし…」
「はいはい、そういうことにしときましょ。おむつ替え終わったわよ」
「…」
「夏美、ありがとうは?」
「あ、ありがとう…」
折角のトイレトレーニングも昨日の戦いで台無しである。
俺は再びオムツ漬けの生活を強いられている。
受難はまだまだ続きそうである。
[[rb:空間接続 > ゲイト]]
事前に設置した魔法陣を用いて離れた空間同士を接続する魔法。
距離を無視して一瞬でワープが可能だが、制限上訪れたことのない場所には移動できない。
魔法陣の大きさにより魔力の消費や設置にかかる時間は異なるが、数cm程度であれば一瞬で設置できる。
同時に設置して置ける魔法陣の数は今のところ5つが限界である。
また魔法陣は使い切りのため、都度再設置が必要な点は注意。
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