「トゥインクルレインボウシャワー!!」
自分の身長より遥かに長いマジカルステッキから虹色の粒子が飛び出し、目の前の黒い瘴気を吸収していく。
黒い瘴気が残らず消えたことを確認すると、少女は再びステッキをかかげ、あたりに漂う虹の粒子を回収する。
「ふう、これだけあれば数日は持ちそう」
少女の齢は身長と見た目からして10歳ぐらいだろうか。
ピンクを基調としたドレスは、私は魔法少女ですと言わんばかりのコテコテな衣装だ。ウェストからふんわりと膨らんだスカートにフリルが装飾されている。
そのスカートも決して長くはなく、膝上より短いため、少しかがめばパニエが覗く。
「いつまでこんなことを続けないといけないのかな...」
少女はふぅっと可愛い、小さなため息をつく。
「さて…帰らないと。わたしのおうち...相川大地の家に…」
ステッキを両手で持ち直し、私は空高く跳躍した。
ーー
『君は今日から魔法少女だ!!』
ゲームセンターでとった人形(以下クソ獣)が急にしゃべりだし、さらに承諾もなしに、虚空から出現したステッキをにぎらされた。
俺、相川大地は大学生で身長180cmのそこそこのどこにでもいる感じの男だったのだが、気がつくとアニメに出てきそうな少女に変身していた。
「口調もまるで小学生みたいになっちゃうなんて」
変身した俺の口から出る言葉はアニメ声みたいな特徴的な少女のものとなっており、男言葉を話そうとしても変換されて喋ってしまう。
更にとんでもないことに、俺の身体は書き換えられてしまっていて、元に戻ることができないと抜かしやがった。つまり今の身体が俺の本当の姿となるらしい。
「あたし、大学生で、大学通わないとパパに怒られちゃうんだけど...」
と情けない口調で訴える俺を見てクソ獣は
『じゃあ元の自分に変身するといいよ』
と抜かすのであった。
ーーー
なんとか魔法少女の仕事を日が登る前に片付けることができた。
「ただいま...」
俺はベランダに着陸、開いたままの窓をくぐり部屋に入る。
「おかえり、今日は集まった?」
俺の彼女の春香が帰りを待ってくれていた。
クソ獣はパートナーが必要だろうと言って俺の彼女にすべての事情を理解させた。クソ獣がパートナーじゃないのかと思ったが、あいつ俺に最低限の説明だけすると、次の適性者を探すと言って何処かへ行ってしまった。
「うん、でもまだまだ足りないかな...いつもごめんね春香」
俺は魔法少女の衣装を解除する。
ドレスは光の粒子に分解され、杖に戻る。
光が収まると、変身する前に来ていたキャミとショートパンツの姿の俺が現れる。元の俺の服はもちろん大きすぎて着れないので彼女のお古を着ている。
ステッキに貯まる瘴気がマックスになった時、魔法少女の役目が終了し、元の姿に戻れる。
ありきたりすぎて怪しいぐらいの条件だったが、それには途方もない量が必要だとわかり、俺は騙されたという気持ちで一杯になる。
俺は大学へ行くために元の男の姿に変身しているが、魔法少女業に関係ない魔法はかき集めた瘴気を消費しないと使えない。そのため平日に変身している俺のステッキはいまだ1割以上貯蓄できたことがない。
更に一度に変身できる限界は8時間。再変身にはステッキが必要だけど持ち歩くには長すぎるため、置いていかざるをえない。
ステッキと呼んではいるが、槍みたいな長さの両手杖なのだ。
「変身時間は余裕があるけど...問題は口調とか仕草だよ...」
飲み会やサークル活動の参加は難しいがそれはまだ諦めることができるので、問題ない。
問題は俺の姿に変身しても、なぜか口調や仕草は少女のそれのままなことだ。
かなり強力に意識すれば20歳の男性として振る舞うことができるが、それを常時続けるのはかなり至難だ。
おかげで大学では微妙に気持ち悪い人扱いされている。
授業でぼーっとしてる時に指名されて「ふえっ」だとか食堂で彼女に「あたしハンバーグ食べたいっ」と言ってるところを見られたらその評価も致し方がないが。
「ま、私はその姿も好きだし、いつまででも魔法少女やってくれてもいいんだけどね」
「やめてよ...あたしは元に戻りたいんだからっ」
「冗談よ、冗談」
ぷくーっと頬を膨らまし、両手で可愛いガッツポーズをとってしまう。俺は慌てて佇まいを直す。
「そんなポーズとセリフが許されるのは小学生ぐらいまでね」
春香は呆れたように言った。
ーーー
「トゥインクルマジック!!大地になーれ!!」
この日も俺は大学へ行くために元の姿に変身する。
「ふうっ、お着替えしなくちゃ」
衣装まで変化させると余分に使うため、省エネで省略している。
まあ元の俺の服は部屋に大量にあるから困ることはない。
「んっしょ、んしょ」
あまり集中してないので漏れる独り言はどこか幼い。
今年度に入ってから言えば俺は少女の姿でいる時間のほうが長くなっている。大学がある平日日中以外はすべて魔法少女の身体でいるのだから当然だ。
この歪な生活はいつまで続くのだろうか。
「大地...ちょっと相談があるの」
出かける準備をしていると春香が部屋に入ってくる。
「なぁに?...じゃない、なんだ?」
「大家さん...ううん近所の人達の間で、うちの女の子が学校へ通ってないんじゃないかって...噂になってるの」
「えっ」
確かに休日はこの姿で春香と出歩いてるし、うちへの来客もこのまま応対したりしてるけど...
「私達二人の子供にしては大きすぎるから複雑な事情があるのかとか聞かれちゃって」
「ほ、ほら親戚の子ってことに」
「誘拐とか、虐待の線も疑われてるみたい」
そこまで...。
俺はいい考えが浮かばず言葉を出すことができない。
「それでね、大地」
春香は案を出す。
「大地は大学休学ってことにして、その姿で小学校通うのはどうかな...」
「そ、そんな!!」
「大地が魔法で近所の人の認識をごまかし続けることができるならそれでもいいんだけど」
認識阻害は常に展開する必要がある。そんなことをしたら瘴気は一生たまらない。
「し、小学校も一緒じゃない?認識阻害を...」
「女の子1人転入させるだけなら、ツテがあるから書類の力でできるわ」
春香はエヘンと胸を張る。
「それに、大地に変身しなければ瘴気も早く貯まるでしょ」
俺はその提案にグッとくる。
大学在学中に貯まらなければ就職にも影響する。働き始めれば8時間で帰れないことも多いだろう。
「で、でもやっぱりそれは」
俺は食い下がる。平日だけでも元の俺に戻れることが一種の心の拠所なのだ。
「それに...このままじゃ結婚もできないじゃない」
春香の潤んだ瞳と突然のセリフ。
「は、春香。そこまで考えてくれてるの...」
俺は感動して、両手を胸の前で合わせる。
「そんなカマっぽい大地はちょっと嫌かな」
「わ、わかった...春香の案に乗る」
俺は変身をといて春香より頭2つ分ぐらい低い、少女の姿に戻る。
春香はありがとう、というと俺に頭に手をのせて撫でる。
「まあ小学校の授業とか今更楽勝だしね」
優等生間違いなしだね!
そういう俺を見て春香は、
「あ、それなんだけどね」
頭に載せた手のひらがぼうっと光る。
「やっぱ一度怪しまれると際限ないじゃない?だからなるべく目立たないようにしたほうがいいと思うの」
魔法少女なんだし。と。
春香が俺の頭から手を離す。
「春香何したの...」
春香が手を離した瞬間、頭の中で何かが覆い隠されたような気がした。
「あの人形にもらった能力よ。本当はパートナーが魔法少女の暴走を抑える時に使う能力だけど。あなたの能力を制限できるんだって」
そんな能力があることは聞いてない。いつのまに...。
「非変身時の知識、知能制限と非戦闘時の魔法使用を制限したわ」
「う、うそでしょ」
大人になれ!!と杖を持って念じるが発動しない。
「それに知識制限って...」
「子供の体に大人の頭脳じゃクラスで浮いちゃうでしょ」
戦闘時には元に戻るから、と付け足す。
「今は小学4年生ぐらいの知識にしてるわ。ほら、大学でやってる授業思い出してみて」
俺は昨日出た講義の内容を思い出そうとするが、一切思い出せない。講義のノートを見るがまるで暗号文が並んでいるかのようだ。
「これで正体がバレることはないと思うわ。それに元に戻れば当時の知識状態で元に戻る...からすぐに復学できるはずよ」
さすがにこれはやりすぎじゃ...っと思ったが
「大地を元に戻すために私も全力で協力するわ、頑張りましょ」
とまっすぐ見つめられると頑張らないとという気持ちになる。
「う、うん頑張るよ」
「親戚の娘を預かっているって設定だからちゃんと合わせてね」
「う、うん」
こうして俺は元に戻ることを夢見て、昼は小学生、夜は魔法少女として活躍することになるのであった。
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