2018/04/11

転生症 -サキュバス-

「おはよー、タイチ」

幼馴染で彼女である私は、先月ぐらいから彼氏であるタイチを起こすのが日課となっていた。
彼の為に言っておくと彼は元々朝が弱いとか、自分では起きられない、ということは一切なかった。
だが、今の彼はどれだけ日が窓から差し込もうと、私が部屋に入ってきても起きることはない。

私はふぅ、と溜息をつくと床に膝をつき、ベッドに近づく。
私は瞳を閉じ、タイチの唇へ、自身の唇を近づけた。

「んっ…ぷは」

1分程密着していた私は耐えきれずに唇を離す。
すこし気怠い、疲労感が身体を襲う。


「…んーっ、よく寝た…」

タイチが起きたようだ。
両腕を上へ伸ばし、あくびをしながら上半身を起こすタイチ。
(どうしてこうなったんだろう)
私はそんな気持ちで起き上がったタイチを観察する。

世の女性ですらこれほど立派なものはないであろうと思われる大きな乳房。
大きくくびれたウェスト、そしてこれまた形の良いお尻と肉付きのよい太腿。
腰まである長い髪の毛、大きな瞳に整ったキレイな唇。
街中を歩いていたら女性である私ですら振り返るであろう美人だ。

そして極めつけはこめかみからちょこんと生えている2本の角と、お尻から伸びる細長い尻尾。
それが今の私の彼氏、タイチの姿であった。

タイチのような現象を転生症、と呼ぶらしい。
異世界側の人間と姿が入れ替わってしまう、そんな現象である。

研究が進んだ今判明していることは以下の通り。
私達の世界の人間が異世界に行くと異常なチート能力に目覚めやすいらしく、当初は召喚で本人ごと連れていくことが多かった。
だが、喚んだ人間がまともではないケースも多く、戦争に勝つつもりで喚んでみたものの、新しく国を興されてしまい周辺国もろとも併合されたり、英雄として喚んだつもりが魔王として降臨してしまったりと、制御できない異世界が多々あったらしい。
その後、チート能力も身体さえ異世界のものであれば発現することが確認され、その情報は異世界間でも共有されていっているようだ。
それを裏付けるかのように転生症にかかる若者は年々増え続け、いまやどこの学校でも1人は発症者がいる、そんな状況だ。逆に若者の行方不明者は目に見えるほど減っている。

そして私の彼氏が転生症にかかったのが先月。
いわゆる「サキュバス」と身体を交換されたタイチは、水泳部で鍛え上げた身体を失い、豊満でグラマラスな女性の身体となってしまった。

「ごめんね、朝どうしても起きられなくて」

タイチが申し訳なさそうに私に謝る。
入れ替えられた身体は、不便なことにその異世界で使えていただろう魔法や魔術は一切使えない…魔法に関する知識が一切わからないからだ。一方で身体や種族が持つ特性や習性は否応なしに引き継がれてしまっている。

サキュバスの場合は「夢魔」と呼ばれるとおり、夜行性であり、人から精力を奪って活動する種族だ。実際に人を襲うわけにはいかないので、彼女である私が合意の上で事を致すことになる。

「普通のご飯でお腹は膨れるんだけどねえ…どうしても眠気が」
「めんどうな身体になっちゃったよね、もう1回しとく?」
「ん、お願い…」

すっと目を閉じ、すこし口を前に出すタイチ。
(…睫毛長いなあ)
ドキドキしながら私は再びタイチと口づけを交わした。




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(・・・あれ、寝ちゃってたかな)

ぼんやりとした頭で何が起きたのか考える。
どうやらキスをしすぎて生命力を吸われすぎてしまったようだ。

目の前には心配そうなタイチの顔がある。
ふわふわとした頭の下の感触はおそらくタイチの膝枕だろう。

「あ、起きた…ごめんね」
「ううん、私なら大丈夫」

私の頭をなでていたタイチの手を触る。
私であればいくら吸われてもかまわない…。むしろ他の人の生命力は吸ってほしくない、とも思う。

「遅刻だね…学校いかないと」
「…うん」

膝枕を名残おしみながら身体を起こした私はタイチのクローゼットを開ける。
中には前に着ていた学生服と、いまの姿に合わせたセーラー服がそれぞれかかっている。

「…もとに戻れるといいよね」
「そうだね…向こうの世界で問題が解決したら戻れるケースもあるみたいだし」

チートに見合わない能力だった場合も戻れるらしい、まるで通販のクーリングオフである。
タイチの場合は既に1ヶ月そのままということを考えると、使える能力が発現したのだろう。

「…手伝ってもらっていい?」
「はあ、いい加減慣れてほしいけど…いいわよ」

薄手のパジャマを脱ぎ捨てて下着だけになったタイチ。

「寝るときもブラは付けなさいっていったじゃない」
「うーん、そうなんだけど。一回外すとやっぱり着けにくくて…」
大きすぎる胸は男子高校生には取扱が難しいようだ。
「それに、なるべく肌が露出してる方が落ち着くんだよね。布があるとゴワゴワして嫌な感じ」

…これも夢魔の特性だろうか。

「まあいいわ、着けたげるから後ろ向いて」
「ん」

大きくて張りのあるキレイな胸に寄せてあげる、のような努力は相変わらず不要のようで、私は再び彼氏に嫉妬した。

「……。ちょっと触っていい?」
「え、う、うん、いいよ」
「ではお言葉に甘えて…」

ブラジャーに包まれた胸はより一層主張が激しく存在感をアピールしている。
私はタイチの背中から両手を回し、タイチの胸を挟むように揉みしだく。

「うわー…相変わらずスゴイわ」
「ん…っ、ちょ、ちょっともう少し優しく…」

いけない、ちょっと興奮しすぎたか。
理性を呼び戻し、荒れ狂う私の両手を落ち着かせる。

「それにもう学校いかないと、さすがにこれ以上の遅刻はダメだ」
「…そうだね、続きはまた夜にしようね」
「夜にするんだ…」

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セーラー服姿の2人が通学路を歩いていく。
急いでも遅刻確定なので足取りは緩やかだ。

「夢の中で、今のタイチと同じ姿…つまり元の身体の持ち主が声をかけてきたんだよね」
「うん…そうだね。このままじゃ種族が滅んでしまう、助けてほしいって」

私はタイチを横目でちらりと見る。
一緒にセーラー服を着て登校するなんて1か月前には私は夢にも思わなかっただろう。
同じセーラー服とはいえ、タイチの体型はすさまじいため、パッと見すると風俗っぽく見えてしまうから不思議だ。
1か月前にはしぶしぶ来ていた長めのスカートも、尻尾が窮屈だという理由で、膝上数十cmまで短くされている。

「助ける、って言っちゃったの?」
「うーん、夢の中だから思考がハッキリしなかったんだよねえ…。どこまでいっても夢の中って感じで、現実感がなくて、言っちゃったかもしれない」
「滅亡の危機が回避されたら戻れるってことかな…」
「多分…ね」

お互いの同意がなければ交換が成立しないことは、証言者により確認されている。
もとに戻るときも同様だ。
未だに転生症の人々が増えていく一方なのはやはり夢の中であることが大きいだろう。どこまでいっても思考が鈍る。
まだ幼くて理解が追いつかない小学生もいるだろう
小学生男子がもしタイチみたいな身体になってしまったら…想像するだけで辟易してしまう。

「お前はさ、こんな彼氏でいいの?」
「またその質問?」

立ち止まったタイチに私ははぁ、とため息をつく。

「ほら、俺って男じゃなくなっただろ?」

どうしても不安を晴らせないのだろう、タイチはこの話題をよく口にする。
その時だけ若干、元の、男らしい口調に戻る。

「私はタイチがどんな姿でもいいと思うけど…」

毎回同じように返事をするが、タイチの顔はやはり晴れない。
いい加減何回も繰り返される質問に飽き飽きしていたので考えていたことを垂れ流してみる。

「私が好きなのは、生まれたときから一緒に過ごしてきた、ちょっと臆病だけどやる時はやる、タイチだよ」

「女の子なタイチもすっごいキュートで、どっちも好き」

「外見は男の子のときとは似てもつかないけど、仕草とか、雰囲気とかそういうのがタイチだから、私は問題ない」

「タイチが私で良ければ、私はずっとタイチといっしょにいたい」

顔が徐々に赤に染まっていくタイチ。
サキュバスが羞恥を感じて赤くなるのはどうなんだろと思うと笑みがこぼれてしまう。

「愛の言葉なら夜にいくらでも言ったげるから、ね?」
「う、うん…」

手を差し出すとタイチはおずおずと手を握ってくる。
すっかり女の子みたいな反応
私も力強く握り返すと、再び通学路を歩き始める。

端からみたら仲睦まじい友達に見えるかもしれないけど、それでもタイチは私の彼氏である。


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転生症にかかると日常生活もなかなか送るのが難しい。
学校という集団生活でもそれは例外ではない。
いろいろな制限がタイチには課せられている。

体育が最たるものだ。
着替えは男子、女子どちらでもすることができない。
私達女子からすればもう女の子みたいなもの(というより自分達よりはるかに女性の身体)なので気にはしない子は多いのだが、学校側が職員更衣室を使うように指示している。

そして受験先も男子校の受験は不可能になってしまった。
差別かもしれないが、他の男子受験生からしたら堪ったものではないだろう。
一方で女子校は大丈夫なところとそうでないところで二分される。
宗教系やお嬢様学校はダメという傾向が強いようだ。

当のタイチはもともと水泳部の強豪校を狙っていたのだけど、頭の角に尻尾に胸と、どうしても水に抵抗が出来てしまう身体になってしまったのでタイムも伸びず推薦は絶望的のようだ。運動神経や筋肉は人並み以上なんだけどね、とタイチは悲しそうな顔をして愚痴っていたのを覚えている。
とはいえ諦めてはいないようで、タイチは元の身体に戻るため、研究施設へ入るために勉強を始めている。
なんとかしてこちらの世界からも術式を行えないか、科学的な見地からアプローチをしている研究所があるようだ。

私も将来、転生症で困っている人達を助ける仕事につきたいと思っている。
もし、そういう仕事につくことができれば、追っていろいろ報告をする予定だ。



【とある異世界】


「あっ…!いい!」
「もっとちょうだい…!おねがい!」
「ああっ…!すごいいいぃ…」

とある部屋。
1人の若い男と5人のサキュバスがベッドの上で汗だくでまぐわっている。

「ええ、いいわよ、この身体と能力があればどれだけでもいけるわ」


サキュバスが増えすぎ、世の男が絶滅した世界。
放っておけば自分たちサキュバスも近いうちに同じ運命をたどると思われていた世界。
「タイチ」の身体はそんな世界へ召喚された。

「子種は無限にあるようなものね…!」

サキュバスがよがりながら「タイチ」から放出されるエネルギーを存分に受け止める。
タイチの身体に発現したスキル、無限体力と無限射精。
その名の通り無尽蔵の体力と性欲である。

「ふー、あの子には悪いけど、この身体は返せそうにないわねえ」

扉の向こうには数えきれない程のサキュバスが子を為そうとして待っている。
この現状が改善するのは10年か20年か…それともそれ以上か。

「ま、私の身体もなかなかの上物だし、いいわよね」




タイチ
種族:サキュバス/女性 (元人間)
身体:リリカ
年齢:120歳(人間20歳相当)
3サイズ: B86 W56 H83
魔法:魅了系の魔法全般が使用可能(本人は知識がないため発動できない)
能力:エナジードレイン(粘膜接触による生命力吸収。魔力に変換される)
種族特性:魔族のため生命維持には通常の栄養とは別に魔力を必要とする

備考:どうにかして戻りたいとは思っているが、一度約束してしまった手前ある程度は仕方がないと思って割り切っている。幼馴染からエナジードレインをしているが、時々道行く男性の生命力を無性に欲してしまうときがある。今のところそのたびに幼馴染の顔を思い浮かべてやり過ごしている。
困っていることは肌を露出させないと落ち着かないこと。歩いているときの人から視線。

リリカ
種族:人間/男性(元サキュバス)
年齢:15歳
身体:タイチ
能力:無限体力/無限射精(無制限に湧き出る性欲と体力。SEX以外では発動しない)
備考:身体を返すつもりはないのだが、人間の寿命は気になっている。




1 件のコメント:

  1. お題箱でリクエストした者です
    旦那さんの作品の中でも転生症はとくに好きな作品でしたので、投稿していただきありがたく思います

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