2018/04/06

レンタルパーツA

太った中年と変わったりすることを考えると、代替オプションは付けておいたほうがよさそうだ。

手数料はなるべく抑えるように安いオプションを指定しておく。
収入は減ってしまうが、美意識がそうなることを避けたのだ。

「…出品」
私は震える手でスマホのボタンを押す。
完了、というメッセージと共に、出品中の画面に切り替わった。

「…あれ
出品したばかりなのに「購入済み」と出ている。
もう買われたのだろうか。
しかし体が変わった形跡はない。
制服から覗く腕も、足も元のままだ。
「そっか。専有だからって常に変えるわけじゃないのね」
ずっとゴムのまま1日を過ごすことを覚悟していたので拍子抜けする。

そのとき玄関のインターホンがなる。
「佐々木さーん」
この声は…
「伊集院さん
私はドアを開ける。目の前には背の低い、ぽっちゃりとした女子高生が立っていた。
「最近学校にいらっしゃらないので、どうしたのかしらと思いまして」
伊集院さんはこの辺一帯を占める企業の一族の娘だ。
名前は豪華だか見た目は貧相でチビで、そのくせよく食べるので太っているのだが。
私と伊集院さんはあまり話をしたことがない…というか普段話さない。

何をしに来たのか知らないが、私は自分がいつゴム人間に変わってしまうか、気が気でないのでさっさと伊集院さんに帰ってもらおうとする。
「どうしたの、佐々木さん、そんなに慌ててしまって」
「いや、そういうわけじゃ…」
「まるで人に見られたくないみたいですわねー」
「お願いだから帰っ…」
「ふふ、実はですね」

伊集院さんは私にスマホを向ける。
「わたくし佐々木さん、借りてしまったの」
は…頭の整理が追いつく前に伊集院さんはスマホをタップする。
「まずは足ですわ」

一瞬の痺れと共に私の足がゴム化する。
伊集院さんの身長がすっと伸び、私と目線が同じくらいまで高くなる。
私の足は力が入らなくなり伊集院さんにもたれかかるように倒れてしまう。

「あら、代替サービスをご利用ですのね。私の脚と交換するのも一興だったのですが」

しょうがないですわね、とつぶやいて
伊集院さんはスマホを再びタップする。
私の腕から先の感覚がなくなり、伊集院さんの腕と手がすっと伸びる。
ひょいっと私の体を持ち上げると、抱えたまま私の部屋の中へ入っていく。

「おもーい」
どさっと私を床に落とす伊集院さん
「ちょ、ちょっと…」
四肢がゴムとなってしまい、力が入らない私はそのまま人形のように床に転がる。
あきらかに悪意のある人間に対して抵抗することが出来ない状態を設定してしまったことを悔やむ。

「佐々木さん、プロポーションがいいので、ずっと狙っていたんですの」
狙っていた…
「ああ、長い脚っていいですわね」
伊集院さんは私を見下ろしながら椅子に座り、足を組む。
「このレンタルパーツサービス、私の父の会社ですのよ」
「佐々木さんがうちへ登録したことは、すぐわかりましたので、全身を登録する日を待っていたのです」
そんな…

「さてさて…残りも交換してしまいましょうか」
そういうと、スマホを操作し、残り…胸やお尻、股間…首からすべて下がレンタルされてしまう。
私の体はすべてゴムと化し、なんとか顔だけを伊集院さんのほうに向ける。
「く…っ」
「すばらしいですわ、この豊かなお胸、くびれたお腹、ふくよかなお尻」
伊集院さんは自分の体をさわり、感触を楽しんでいる。

「ふふ、佐々木さんは同じ体型とはいえ、ゴム臭い体ですわね」
私からレンタルした足で床に転がっている私を蹴飛ばす。
私の身体は勢い良く仰向けにポムっと転がった。
「これはあんたが…
「レンタルに出したのはあなたですわ」
この状態はたしかに屈辱だが、レンタルに設定したのは今日だけだ。
1日我慢すれば…

「…1日だけ、と思っておられるのかしら
伊集院さんは私の制服のスカートや上着のポケットを漁る。
「えっ、ちょっと…
動けない私はその動作を止めることができない。
スマホの指紋認証を私の手で解除されてしまう。
「不用心ですわね、ちゃんとスマホは管理しないといけませんよ」

「お顔も登録しましょうねー」
スマホで私の顔をパシャリと撮影する。
そんな、自分のものしか登録できないんじゃ…

「ふふ、今の私の体と、あなたのお顔は同じ人間のものですよ」

「さすがにおしゃべりできないと退屈ですので、オプションをつけてあげますわ」
代替を機能性ゴムに変更…と、伊集院さんはつぶやく。
「お顔は最低限の機能がつきますわ、よかったですね」

伊集院さんはその手でスマホをタップした。

その瞬間私の視界は薄いゴムで覆われたかのように暗くなり、焦点が合わなくなる。
「ぅぁ…な、なにが、お、おこったの・・・
しゃべる声は低くかすれた音しかでない。

「なにがって…お顔を交換したのですよ、ほら」
私の顔を両手でつかまれ、持ち上げられた視線の先には
「ぇ…ゎ…ゎたし…
「はい、佐々木さんのお顔ですね」
目の前にはおそらく私の顔で、私の声をした伊集院さんがいるのだろう。
耳もゴムとなってしまったのか、音も鈍く反響し、聞き取りにくい。
伊集院さんがぱっと手を放すと私の体は力なく崩れ落ちる。

「そ、そん…な…」
視線を動かす力もなく床を見つめるだけの私。

「そしてー、レンタル日数を10年に変更しましょうか」
(え、ちょっと…うそでしょ)

「ゴムの手数料をいれても借金が返せてさらにおつりが出ますわ、よかったですわね
「あ、もちろん余った分の支払いはさせていただきますわ、受け取れればですけど」
わたくしがつかっちゃうかもしれませんね、とつぶやく。
「なにせ、いまは私が佐々木さんですから。この手足、顔、髪の毛1本まで…ね」

ああ、安心してくださいと付け足す。
私の身体がパチンと指を鳴らすと、外から黒服の男たちが入ってきて、私の身体を持ち上げる。
「あなたのそのゴム臭い身体はちゃんと我が社で保管させていただきますわ、厳重に。ああ、お仕事がしたいなら斡旋しますわよ、そのお体を生かして、ダッチワイフとかいかがです

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