Author : danna (だんな) / danna_story
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2020/08/11

寝るたびに何かが書き換えられていく呪い(1-3)

 なんだよこれ。

ある朝、洗面台の前に立った俺の目に写ったのは
昨夜と全く違う髪型をした俺だった。

肩まで伸びた髪の毛。
耳は当然のように覆い隠され、頬の輪郭を隠すほどに伸びた髪の毛は揺れると軽く触れてくすぐったい。
前髪はまっすぐ切りそろえられてぱっつんになっている。
髪の毛の質もツンツンの硬目だったはずの髪の毛は、細くサラサラの流れるような髪質に変わっていた。

まるでこれじゃあ女の子みたいな…。
とにかくこんな髪型では学校にいくわけにはいかない。
まわりから笑われてしまう。

俺はキッチンばさみを持ってきてバッサリと落とそうとするが…。

「な…なんだ?これ?」

まるでハサミが駄目になってしまったのかと思うぐらいに髪の毛が切れない。
バリカンを持ち出してみるが結果は同じだった。
見た目や触り心地は髪の毛そのものなのに、それを取り除こうとすることは一切できなかったのだ。

「おにい?さっきから何バタバタしてんの?」
「わ、うわ、見るなよ!」

慌てて髪の毛を手で隠そうとするが、そんな俺を見ても妹の亜紀は驚くことなく、訝しげな顔をするだけだった。

「…?なにしてんの、おにい?髪型決まらないん?」
「え…あ…?」

呆然として手をおろし、その髪型をあらわにしたが、亜紀の表情が変わることはない。まるでこの髪型が当然、いつもの日常と言わんばかりの態度だ。
そして気がつく。

(この髪型、亜紀とそっくりじゃないか)

髪型だけ瓜二つになっていることに気がついた。

「亜紀…。俺の髪…変だよな?」
「はぁ…?いつもどおりじゃん、なにいってんのさ」
「…そ、そうか…」
「早く場所交代してよね。おにいとちがって私は時間かかるんだからー」

そういいながら亜紀はリビングの方へ戻っていった。
俺は再度、恐る恐る鏡を覗くがそこにはやはりおかしな髪型をした自分が立っているのだった。

俺の髪型を見ても父親も母親も、何も言わない。
もしかして、家族全員、俺の髪型を普通だと思っているのか?

学校へ行っても問題ないのかもしれない、と思ったがさすがにその勇気は出せない…というかそもそも切ることもできない髪の毛に恐怖を覚えた俺は、体調不良を母親に伝え、休むことにした。

特に疲れていなくても、眠くなくても横になっていれば自然に睡魔がやってくる。
俺の意識はゆっくりと沈んでいった。

ーーー

…どこだここ?
あたり一面真っ暗闇。
光が一切っ見えないなか、自分の体だけははっきりと見ることができる。
夢の中だと言うのに髪の毛は…長くなったままだった。

「なんだよここ」

歩こうにも1歩先に道があるのかもわからない。
動くことを躊躇っていると…。

『おや、早いですね…』

聞いたことのない声が響いてきた。

『ま、契約は契約です。ここに来てしまった以上は遂行させていただきますが…』
「な、なんだよ。誰だよお前」
『おや、覚えていらっしゃらないのですか…。昨日も散々説明したでしょうに』
「…き、昨日…?」
『ああ、そうでした。人というものは夢を忘れやすく出来ているのでしたね。仕方ありません、今から説明することは忘れないようにしてあげましょう』
「は……?」
『依頼主様のご依頼により、あなたはここに来るたびに1枚カードを引く必要があります。そのカードに書かれている物が、あなたに降りかかります』
「い、依頼主?カード…?」
『では、どうぞ』

眼の前にカードが10枚ぐらいババ抜きのときのように扇状になってスッと現れた。

『引かない限りあなたは目が覚めることはありません。…この世界が気に入ったのならそれでも構いませんが』
「…まて、この髪の毛になったのは…このカードのせいだというのか?」
『ええ、あなたは昨日ここでその髪型になるカードをお引きになられました』
「こんな、女みたいな…」
『いえいえ、世間からみたら童顔気味のあなたにはお似合いの髪型だと思いますよ』
「…冗談じゃないぞ、依頼主ってやつのせいか…。誰だよ」
『昨日も申し上げましたが、それは教えられません。相当恨まれているようでしたがね』

そんなもの、心当たりがない。

『さて、カードをお引きください。前回みたいに数時間粘られても結果は同じですよ』

それきり、声は一切聞こえなくなってしまった。
残されたのは俺と、カードのみ。

………
……


どれくらい立っただろか。
暗闇の、音のない世界では時間の経過がわからない。
夢の中だというのに、どれだけ自分に痛みを与えてみても目が覚める様子はない。

ゲームの選択肢のように、選択するまで世界が止まっている、そんな感じだ。

「くそっ…」

俺は仕方なくカードに手を伸ばし、震える手で1枚引き抜く。

『衣服、を引かれましたか。ではそのとおりに』
「お、おい、待てー」

世界が黒から白に塗りつぶされていく。
俺もカードも、その光に覆い隠されてー。

「はっ…?」

目を覚ます。
いつもの天井、いつもの部屋だ。
風邪のときのように身体が汗だくになっていた。

いやにはっきりと覚えている夢だった。
俺はむくり、と起き上がる。

「衣服…ってこういうことかよ」

見下ろした視界に、見慣れない柄の布地が目に入った。
今日は制服に着替えなかったので、寝間着のまま寝ていたはず。
なのにいやにすべすべとした素材の服、全身を1枚の布地ですっぽり覆うような長い丈…。
スウェットの上下は見る影もなく、ワンピースのネグリジェに変化していたのだった。

「おいおい…」

慌てて立ち上がりクローゼットを開け放つ。
どちらかというと白や黒のモノトーンで揃えていた俺のシャツやズボンは跡形もなく消え去っており、そこにあったのは色とりどりのひらひらとした布地の服や、スカートそして短すぎるショートパンツばかり。

一番端にかかっていたはずの黒の学生服は…紺色のセーラー服に置き換えられていた。

慌てて引き出しを引っ張る。
靴下は無難なものばかりだったはずなのに、どれもワンポイントやフリル、折返しがついた可愛らしいものばかりに。
そして下着は…すべて女物のショーツに変化していた。

「…ん…?」

そこでようやく、胸の周りを締め付ける違和感に気がつく。
なにかピッタリとしたものが張り付いているような感覚。
脇の下あたりに触れている布地がくすぐったい。

「まじかよ…」

男がつけるはずのない下着、ブラジャーがそこにはあった。
ぴったりと俺の身体にフィットしているサイズのものが。
当然だがカップ部分には空間ができていて、スカスカである。

履いていたトランクスも、当然とばかりにピッタリとフィットした女性者のデザインに変わっていた。女性では想定していない股間の膨らみのせいで、布地が変に伸びてしまっている。

『依頼主様のご依頼により、あなたはここに来るたびに1枚カードを引く必要があります。そのカードに書かれている物が、あなたに降りかかります』

謎の声の言っていたことを思い出す。
ここに来るたび…?
…これで、終わりじゃないのか。まさか、そんな。
 

2020/08/05

短編

「きゃっ、ごめんなさいっ…すいません、急いでるのでっ…!」
混雑した駅。飛び出してきた誰かが俺にぶつかった。
痛みも特になかったが、文句の一つでも言ってやろうと視線を向けると、そこには慌てて去っていく背広姿の男。その光景に違和感を覚え、俺は罵声を飲み込んだ。

…なんだ?なにか…おかしい。
駅ってこんなに広かったか?
っていうか俺は会社に行く途中でスーツじゃなかったか…?
なんで普通の服を…_?
ってなんだこの服装……!?

俺は慌ててトイレへ駆け込み、その姿を鏡に写す。
「……え、誰だよ、これ…」
そこにいるのは、ポカンと口を開けたまま、こちらを呆然と見つめる少女だった。




「まいったな…これからどうすればいいんだ?」

恐らくぶつかった後に走り去っていった背広姿の男…背中からしか見ていないが、あれが「俺」だったのだ。
おそらくこの身体の「少女」は入れ替わってしまったことに気が付かず、俺の身体で何処かへ行ってしまったのだ。

「入れ替わり、だなんてそんなことが」

映画や小説じゃあるまいし、と思いたくもなるがこの小さな手のひらが現実を突きつけてくる。

「…くそ、頼りねえなこの身体」

何もかもが小さい。筋肉も最小限しかついておらず、腰に手を当ててみればびっくりするほど細い身体であることを自覚させられる。
それに生まれてこの方、こんなに髪を長くしたことはない。動くたびに左右で揺れる束ねた毛がうざったい。



駅前で待っていれば自分の身体の異変に気がついた「少女」が戻ってくるかもしれない。
だが、それには困ったことが1つ。
今日は平日、普通であれば学校があるはずの時間…俺の昔の記憶が正しければ授業が始まっていてもおかしくない。
…つまり、俺がここにいるというのは…

「あー、あなた?ちょっといいかな」

補導員の手帳を見せてくるおばさんが近寄ってきた。
…やばい。
俺はこの身体のことを何も知らない。家の住所も、通っている学校も…そもそも名前も。
俺はジリジリと後ずさりをし、タイミングを見て補導員に背を向けて走り出した。

(続かない)

2020/07/27

挿絵を頂きました!



当小説を翻訳していただいている上弦( @crensentmoon )さんより挿絵をいただきましたので、追加で記載しました。
翻訳先のリンクと合わせて紹介させていただきます。
挿絵がついた彼女たちのお話を再び読んだら面白さ倍増ですね。



彼氏が親友と入れ替わった話

「楓、一緒に帰りましょ」
「え、あ、うん。ちょっとまってて…み、美琴ちゃん」

放課後、HRが終わった途端にすぐ飛び込んできた美琴。
どうやら隣のクラスは早めに終わっていたらしい。

「おー、美琴さん。最近は前にもまして仲がいいね」
「えへへ、そうでしょ!」
「まるで恋人みたい」
「え?そうみえる?あはは」

クラスメイトの女子が美琴に話しかけてくる。
美琴の明るい性格ゆえに顔は広く、隣のクラスでも快く受け入れられている。

「ほら、早く早く」

美琴に手を引っ張られ、私はバランスを崩しながらも彼女の後についてゆく。
校門を出て二人きりになった途端、美琴は右手を絡めるように握ってくる。

「ちょ、ちょっと…」
「いいじゃない。昔はちゃんと手をつないで帰ってたのに」
「いや、あれは…」

美琴は意地悪そうな顔をする。
耳元にそっと口を近づけ、囁く。

「ー大丈夫、周りから見たら仲の良い女友達同士にしか見えないよ。キヨヒコ」
「お、おい…その名前は外では言わない約束ー」

右手にぎゅっと力を込められ、口ごもる。
しかたなく"俺"はその手を軽く握り返し、並んで帰り道を歩くことにした。

事件は数ヶ月前に起きた。
俺、キヨヒコと恋人の美琴、そして美琴の親友の楓。
3人で帰宅途中に俺と楓が事故に巻き込まれたのだ。
目を覚ました時、俺はと楓は病院で包帯を巻かれてベッドに横になっていた。
お互いの身体が、入れ替わった状態で。

ーーー

「調子はどう?楓」

俺…というか楓の身体には外傷はほとんどなく、すぐ退院となったのだが、一方の俺の身体は骨折がひどく一部は内臓にもダメージがあったため、まだ入院したままである。
月、水、金曜日にお見舞いに行くのが俺たちの今の日課だ。

「んー、大丈夫かな。元気だよ」

ニコリ、と俺の身体で笑う楓。
入れ替わった直後は憔悴しきっていた彼女も、今の状況をどうにか受け入れ、治療に専念している。

「"私"はちゃんと"私"をしてるのかな?キヨヒコ?」
「お…おう。大丈夫…だと思う、な。美琴」
「どうかなー。今日も足閉じて座るの忘れてたしなあ」
「…それは言わないって約束じゃなかったか」

入れ替わりのことは3人の秘密にしている。
これを公にすれば両親にさらなる心配をさせてしまうからだ。
俺の身体が回復次第、もとに戻る方法をなんとか探そうという算段。

…つまりそれまで"楓"として登校しなくてはいけなくなった俺は、十何年間の"男"としての生活を一時的に諦め、今時の女子高生というよくわからない生き方を強制させられているのだった。

「あはは…美琴ちゃんがいてくれて助かった、ほんと」
「それな…。フォローされまくりだよ」

男のガサツな生活では成り立たない女の子としての生活は、美琴がいなければ早々に破綻していただろう。
朝起きてからのやることや、お風呂での作業は男だった頃と比べると地獄のようにやることが多いし、1つ1つに丁寧さを求められる。

「まさか化粧する日が来るとは思わなかったよ…さすがに美琴にやってもらってるけど」
「あ、ほんとだ。上手いじゃない?」

じっと顔を見つめてくる楓。
鏡でもないのに"俺"の顔が目の前にあるというのは不思議な気分になるのと同時に、ちょっとドキドキする。

「うんうん、楓がすっぴんで学校行く、なんてちょっと嫌だからね」
「美琴ちゃんには感謝感謝、だよ」
「もとに戻ったときの為にちゃんと楓のイメージはできるだけ維持しとかないとな…って」

3人は幼馴染ではあるが、地味で目立たない俺や、活発ではあるが運動系の部活所属で着飾らない美琴と違って、楓はお洒落に人一倍の気を使っていた。
スカートの裾が変に折り目がつかないように座ったり…、あ、当たり前だが今の俺は女子の制服…楓が今まで着ていた制服をその身につけている。

「もうすぐリハビリが始まるし、それが終わったら退院だよ」
「…そうなんだ。おめでとう…っていうのもなんか変だよね」

楓と美琴が笑い合う。
俺は苦笑いをするしかない。本来であれば楓はもう学校へ通っているはずなのだから。

「じゃあ、今日は帰るね」
「うん、ありがとう」

楓に別れを告げて俺たちは病院をあとにする。

「…」

この状況になってから俺たち3人が揃っている時に敢えてしない会話があった。それは美琴と俺の仲のこと。
少し前ならどこどこへ行っただの、こんなことをしたとかしてたんだけど。

「楓のやつ、気がついてるのかな」
「…気にし過ぎだって」

ぎゅっと美琴の手が強く握られる。
身体は女になってしまったけど、美琴が好きだという気持ちは変わらないし、美琴も「外見が誰だろうと、キヨヒコが好き」と言ってくれた。
俺と美琴はその後、会話を交わすことなく当たり前のように美琴の家ヘ向い、彼女の部屋へ行く。
これからすることは楓にはとても言うことができない。

「ちゃんと私の言う通り、着てきた?」
「う…うん」

おずおずと制服を脱ぎ、その下に着ているシャツも脱ぐ。
楓がここにいたらなんて思うだろうか…とても見せられない。
楓の手入れが行き届いた肌が露となる。
美琴が買ってきてくれた黒をベースとした少し大人っぽいデザインの上下おそろいの下着。
さすがに恥ずかしくなってすこし隠そうとする姿勢になる。

「うんうん、よろしい」

美琴がニッコリ笑うと、同じように制服を脱ぐ。

「え…」
「えへへ、どうかな」
「どうって」

美琴が着ていたのは黒の下着。
というか今、俺が身につけているものとサイズは違いの全く同じものだった。

「ペアルックー」
「………」

俺は恥ずかしくなってしまって顔を背ける。
そんな俺の肩を美琴はぐっと押して、二人倒れ込むようにベッドへ。
女同士になってしまった今、運動部の彼女の力には抗うことができない。
美琴に両手を抑え込まれて、その肢体をじっと眺められている。

「…なんだよ」
「なにって。期待してるくせに」
「…楓の身体なんだぞ」
「もうそのセリフも何回も聞いた。楓もわかってくれてるって」
「………」

すっと美琴の顔が近寄ってくる。
普段であれば俺が主導権を握っているはずなのに、今は美琴が積極的にしてくる状況だ。
抵抗するすべがない俺は、瞳を閉じてその口づけを受け入れる。
唇と唇が触れ合ったかと思うと、ニュっと舌が口内へ侵入してくる。
そしてツンツン、と歯に軽いノック。
仕方なく隙間を開けるとそこから待ってましたとばかりに俺の舌に絡み合い始める。
少し前までは小さな可愛い舌だったのに、この身体になってからというもの、その舌は、自分のものと同じかそれ以上の大きさに感じる。

(んっ…)

そしてキスをされるだけで体中が火照っていくのは俺の身体では、なかった症状だった。血流がめぐり、ピリピリとすごい弱い電流が全身を覆っていく。
長い長いキスが終わると美琴は馬乗りのなったままこちらを見下ろす。

「はぁ…はぁ…」
「んふ、すっかり出来上がってるねー。"カエデ”」
「俺は…キヨヒコだよ」
「私の知ってるキヨヒコはこんなものぶら下げてたかなあ」

ムニュっとそのふくよかな双丘に手が伸びる。

「あんっ…」
「ほーら、その喘ぎ声のどこがキヨヒコなのよ」

この身体でこうしているとき、美琴はとても意地悪になる。
背中に手を回され、ホックを外されるとそこには美琴より大きな胸が現れる。

「まったく。彼女の胸より大きい彼氏なんて…ってもう出来上がってるじゃない」

あは、と笑う美琴。
ピンと大きく突き出た乳首が、美琴の前戯にどれだけ反応しているかを素直に伝えてしまっていた。

「うう…」

恥ずかしさと、楓への申し訳無さが心にのしかかるがそれ以上に、美琴と愛し合いたい、受け入れたいという気持ちが勝ってしまい、脳が何も考えられなくなる。

美琴がショーツの方へ手をのばす。
俺は引っかからないように、軽く腰を浮かせた。

………
……


ーーー

「ーって感じかなー」
「ふーん。本当にオンナを感じちゃってるね、キヨヒコ」

アハハ、という笑い声が病室を満たす。

今日は火曜日。
私が部活を遅くまでするから病室へ行かない日…となっている。キヨヒコにとっては。

私、美琴は部活を終えた後、軽くシャワーを浴び面会時間ギリギリの病室へ駆け込む。
挨拶もそっちのけでキヨヒコの姿をした楓の唇へキスをする。

「もう、美琴ちゃん。性急すぎ」
「ごめんごめん、我慢できなくて」
「うーん、まあいいけど。私の身体もちょっとそろそろ我慢できないし」

楓の悩みは、身体が治っていくに連れて高まっていく性欲だった。
普段感じたことのない、理性を奪いかねない男の凶悪な性欲に押し負けそうだったのだ。私の顔を見るとその欲求は更に大きくなっていったそうだ。

それを以前、それをキヨヒコが席を外しているときにこっそりと私へ告白してくれた。その悩む顔が愛しすぎて、キスをしてしまった。
そして立ち込める、ツンとした臭い。
慌ててキヨヒコが戻ってくる前に、早漏な身体の後始末をして…。
楓には明日また来るね、と伝えたのだった。

治りかけといえど激しい運動はできないので、基本的にはキスと、私が手で処理してあげるだけ…。
ようするに私は節操なく、二人を恋人にしてしまっているのだった。

キヨヒコの身体でそういうことをしてしまうことに対して、楓はキヨヒコに顔向けができないと考えていたようで、
「じゃあ楓の身体としてきていい?」という私の提案に対して、少し悩みながらOKをくれたのだった。…それはキヨヒコには伝えてないけど、そっちのほうが悩むキヨヒコが見れるから。

(まあ、中身は楓だけど…外見はキヨヒコだし)
キヨヒコには「外見が誰だろうと、キヨヒコが好き」と伝えてはいるが、別にキヨヒコの顔や身体が嫌いなわけではなく、むしろ好きである。
心がキヨヒコな楓の身体と、心が楓のキヨヒコの身体。
毎日楽しめて私はとても幸せ。

退院したら…この状況をキヨヒコに伝えて…そうね、3人でするってのも楽しいかもしれない。
「っていうわけで楓ともしちゃってたの」
って伝えた時、キヨヒコはどんな顔をするだろうか。
私はこれからの生活に思いを馳せ…幸せだと感じた。

2020/06/01

フトマロの首輪

「…あんたなの、このふざけた手紙よこしたの」

私は目の前の男に向かって白い封筒を投げる。
理科室の机をすぅと滑って男の前に止まった。

「全く…お前みたいなやつが差出人だってわかってたら来なかったのに…。一応聞いてやるけど、なんの用なの?告白とかなら間に合ってんだけど」
「………」

2020/05/06

彼女の悩みを解決できるなら

「今日も、いい?」

ベッドに座る僕の隣に並び、すっと身体を寄せてくる真夏。
その手が僕の肩と膝に触れ、小さな柔らかい指の感触が伝わってくる。
腕に、彼女のその豊かな胸がむにゅっと押し付けられる感触。

「いや…それは、でも」

入れ替わって1ヶ月ぐらいたった二人

「ね、ねぇ…」

おどおどした男子生徒が、クラスの中でもひときわかわいい女子生徒に話しかけている。
女子生徒は一瞬どうしようかなと、悩んだ仕草をしたあと、誰にも聞こえないような小声で休み時間に屋上で、と返した。

2020/03/18

異世界転生モノ。

二人の男女が、朝の市場で賑わう町中を、かき分けるように進んでいく。
先頭を歩いているのは身長140cmほどの少女。
無表情に人混みを突き進んでいくのその少女のすぐ後ろには、周りに謝りながらも逸れないように必死になっている少年。
顔がどことなく似ている二人は兄妹だろうか。

2020/03/14

コウくん 2日目

翌日。

目が覚めたコウはいの一番に鏡の前に立つ。

「も、戻ってる…?」

不自然なほどに大きくなっていたヒップはその痕跡すらのこさずきれいに戻っているようだった。
パジャマの上から見えるとシルエットにおかしなところはない。
手で腰からお尻のあたりを手で擦るが、ゴツゴツとした筋肉質な感触で、昨日のような脂肪に包まれたようなものではなかった。

「よ、よかった…」

原因はわからずとも元通りになったことにして安堵するコウ。
しかし再度鏡を見たときにまたわずかに違和感を感じとったのだった。

それが何かわからず、コウは周囲を見回す。
部屋に違和感。
いや、部屋はいつも通りだし、鏡もいつもの鏡だ。

「背が…伸びてる?」

違和感の正体に一歩近づくコウ。
慌ててパジャマを脱ぎ捨てる。
部屋の冷えた空気が素肌を撫でる。

「あっ…」

違和感の原因はこれだ。
コウの足から太腿までが、すっかりと変わってしまっていたのである。

部活で鍛えた足についていたはずの筋肉は削ぎ落とされるように消失しており、かわりに柔らかな感触を持つ脂肪へと置き換わっていた。

ごつごつと角ばっていて、ところどころ傷があり、日にあたって浅黒く焼けていたはずの足が。
まるで純粋培養で育った白いスラリとした足に変わっていたのだ。

太腿を眺めてみればそこには無造作に生えていた毛一本すらなく、足先の爪もきれいなピンク色で、汚れなど一切ないように見える。

「いやいや、これは…」

ゴクリ、とコウは唾を飲む。
それはどこからどう見ても艶めかしい女性の脚だったのだ。
スラリと伸びた脚は、サッカーをしていたコウの短足気味な足と比較するまでもなく長い。

つまりはこれが原因で周囲に違和感があったのだ。
身長が十数センチ伸びたがための、視界の変化である。

パン、と太腿を叩いてみる。
ぷるん、と脚に乗っている脂肪が波打つ。
その感覚はやはり昨日までのものと全く違う。

「くそ、こんどは脚かよ。なんだっていうんだ」

どうして良いかわからず、部屋の中をぐるぐると歩くコウ。
そして先程は気が付かなかったが、足の長さや筋肉の付き方が変わったせいかものすごく歩きづらい。昨日のおしりといい勝負の変化である。

だが悩んでいても何も解決はしない。
コウは仕方がなく学生服を着る…が。

「んげぇ…」

足の長さが極端に変わったせいで、ズボンの短いのだ。足首どころかその上まで見えてしまっている。
まるでサイズがあっていない。

そして太ももの肉付きも筋肉質で締まっていた昨日と違って一回りほど太くなっている。
そのために股下まわりの生地がパツンパツンだ。

…昨日はお尻だったので上着の裾でぎりぎり隠せていたのだが、これは流石に目立つのではなかろうか。

「…でも学校、行くしかないよなあ」

生真面目な正確なのか、それとも非日常的現象に対して混乱しているのか、コウ自身もわからないまま
登校をするのであった。

ーーー

コウはたくさんの視線を感じている。
今日は体育はないものの課外授業で全員がジャージに着替えるひつようがあった。
学生ズボン同様、ジャージの丈も足らなずに足首は広く見えており、さらにそのジャージから浮き出るおいしそうな太もものラインは、男子生徒からの視線を集めるには十分だった。

「おい、コウ…お前…」
「な、なに?」
「い、いや…なんでもない…」

男子も女子もみんな、コウを見ては微妙な顔をしつつも、その視線はジロジロとコウの太ももへ注がれるのだった。





2020/03/12

コウくん1日目

1日目

身体が重い。
コウがそんな異常に気がついたのはとある朝だった。

2020/03/02

人間と人形の魔法少女が事件を解決する話(下)

小さな檻に閉じ込められて数時間。
未だに打開できるような兆しは見られない。

藁とおがくずで敷き詰められた地面には使えそうなものは見当たらず、設置されている給餌用のトレイと水飲み用のチューブでは何もできそうにない。

「お腹が減ったら食べていいのよ」

人間と人形の魔法少女が事件を解決する話(中)


私は外灯の根本に隠れるように様子を伺う。
工場の敷地はかなり広く、目当ての建物まではかなり距離があった。
車は1台も止まっていない駐車場と芝生が1面に広がっており、隠れるような場所はない。

2020/02/04

人間と人形の魔法少女が事件を解決する話(上)

 
一人の魔法少女が高い塔の上から、ある建物を見下ろしていた。
傍から見るとなんの変哲もないただの工場に見える建物なのだが、魔法が使える彼女から見たらそうでないことがわかる。

「うーん。やっぱり偽装の魔法ですねえ」

周囲に違和感を与えないようにする結界。
人の出入りや搬入など、そういった行動すら人の記憶に残りにくくなるような魔法の気配がする。
人払いも兼ねているのか、周囲の道路に車や歩行者がいる様子はない。

「先輩はどう思いますか?」

周囲には少女一人しかいないにも関わらず、その少女は誰かに話しかけている。

「怪人の仕業で間違いないと思う。怪人が使う能力としては珍しいけど」

ひょこっと、腰にぶら下がっていたポーチから顔を出したのが小さな小さなぬいぐるみのような人形。
頭部についているツインテールを模した明るい髪の毛のような塊がぴょこぴょこと揺れている。
まるで生きているかのように、精密に動くその人形は何を隠そう元人間、そして魔法少女だった子の成れの果てだ。
帰る家はすでに無いため、今はこの少女の部屋で居候をしている。

「どうしましょう先輩。このあたりで発生している誘拐事件に関係があるのか、ないのかだけでも知りたいですね」
「そうね…」

目撃情報が一切ない、子供の失踪事件。
犯人から身代金などの要求が来ることもなく、痕跡もない事件。
今月だけでも少なくとも3件起きており、連日のニュースで警察組織が批判に晒されている。

「隠蔽されている、と考えるのであればあの工場がピッタリだと思いませんか?」
「そうなんだけどね。怪人が使うにしては、私達の使う魔法に近い結界だなって思って」
「考え過ぎじゃないですか?今までの怪人だって魔法みたいな攻撃をしてきたじゃないですか。どちらにせよ、早いところ白黒はっきりさせないといけません。突入します?」
「猪突猛進すぎよ。下手に刺激して子供たちを人質にされたり、別の場所に移動されたら解決できるものもできなくなっちゃう」
「えー。じゃあどうするんですか?」
「戦闘になる前に子供たちの居場所の確認と救出ができればベストね。怪人の退治はそれからでも…というより戦いに集中したかったらそうするほうがいいかもしれないわ」

なるほど、一理あります、と頷いた魔法少女は杖を掲げ、帰還魔法を詠唱する。
光の粒子が少女を包んだかと思うと、一瞬にしてその姿を消したのだった。

---

自室にワープしてきた魔法少女は変身を解除する。
ふわふわとしたドレスフォームが解除され、魔法少女はどこにでもいる部屋着を着た中学生に戻った。
魔法少女になって数年たつが、そろそろあのフリル満載の姿に羞恥を感じるようになってきていた。
時間があったら変えてみようかな、とも考えている。

腰のポーチから人形が飛び出す。
ふわふわと紙飛行機のように空を滑空しながら大きなベッドの上に置かれたクッションの上に着地する。彼女のお決まりの定位置である。

「…で、どうやって調べるんですか?」

クッションの上に寝転がってからというもの、微動だにしなくなった人形に声をかける。
魔法の杖さえあれば彼女は人形の身体でも自由に動ける。
もっと言えば魔法少女化すれば人間フォームにも戻れる彼女だが、少なからず魔力消費を伴うために、家では省エネモードで過ごすことが多い。
ピクリともせず、表情も一切変わらないので、こうなってしまうと他のぬいぐるみや人形とまるで区別がつかなくなる。
両親が最近、私の独り言が多いと夫婦会議を開いているのを知ってしまい、憂鬱なのだが…。

「そうねえ…私なら小さいから気が付かれずに入れるかもね」

確かに工場であればその小さな身体を隠せる場所には事欠かないだろう。

「だけど先輩、それは」
「そう。魔力がだだ漏れなのよねえ」

人形の体を動かすには、魔法の杖が必須。
彼女の精神から生み出される魔力を、杖を通じて発露させ人形の身体を動かすことで、擬似的に動くことができるのだ。
それつまりは常に微弱な魔力反応を出し続けると言うことで。

「結界に入ったら一発でバレそうですね」
「そうなのよねえ。人間フォームなんて轟音鳴らしながら進む戦車みたいなものだし、私じゃあそこを調べる方法はないわね」

彼女の手元には杖の形をしたぬいぐるみがマジックテープでピタリと止めてある。何を隠そう、これが彼女の杖なのだ。
これを剥がしてしまえば魔力が漏れることはないが、彼女はなにもできなくなってしまう。

「…じゃあもう一つの方法」
「先輩、なんかいい案があるんですか?」
「ちょっといい魔法があるのよ」

詳しく聞けば、それは彼女が元の身体に戻るために試行錯誤しているうちに編み出された魔法らしい。

「え、解呪じゃなくて…変身魔法…ですか?」

少女は首をかしげる。
人形化の魔法を解くのではなく、人間に変身。ずいぶんと回りくどいことをするなあと思う少女。

「そう。少し前に編み出したのだけど、色々欠点があってね。でも今回の条件ならぴったりだわ」
「そうなんですか。じゃあやってみてください」
「了解了解。じゃあ、お腹出して。魔法陣書くから」

服をめくっておへそを見せろ、という指示に後輩は怪訝な顔をする。

「え、私がやるんですか?先輩がやるんじゃないんです?」
「これが第1の欠点。自分を対象にできないのよ」
「…全然だめじゃないですか」

はぁ、とため息をつく。
だが、誘拐された子どもたちのことを考えると嫌だ、と拒否するのは後ろめたい。

「しょうがないですね…。はい」

シャツを少しめくりあげてお腹を見せる。
彼女はぬいぐるみの杖を使っておへその周りをなぞり始める。
園児の落書きのような、ぐちゃぐちゃにのたくったミミズのような線がおへその周りにぐりぐりと描かれる。
 

 
 
「ちょ、先輩、これ本当に魔法陣なんですか?」
「じゃあいくよ。えーい!」
「え、もうですか!?ちょっと心の準備を…!」

言い終える前に、身体がシュルシュルと縮み始めた。
着ていた服がパサリと脱げ床に落下する。
部屋が相対的にぐんぐんと大きくなっていく。
目の前にいた小さな先輩魔法少女の人形が、どんどんと大きく巨大になっていく。

「ふー。上手くいったわね。気分はどうかしら?」

特になんとも…私、小さくなっちゃったんですか?
そう口を開こうとした彼女の口から漏れ出たのは、チューチュー、という高いネズミの鳴き声だった。


おかしいの声だけではなかった。
全身をもふっとした毛が覆っていたのだ。
指は5指に別れてはいるものの、米粒よりも小さい爪が生えた獣のような手になってしまっている。

(先輩!声が出ないんですけど!!?っていうかなんですか、これ!!手が…!足が変なんですけど!)

パッと後ろを振り返ってみれば、ぴょこっと動くしっぽ。
少女は慌てて念話で目の前の巨大な人形にクレームをぶつける。

「どう?どう?私の変身魔法!」

自信満々の声、そして人形の表情はドヤ顔。





(どう?じゃないです先輩。なんでネズミさんなんですか!)
「その姿なら見つかっても怪しまれないし」
(そ、それはそうですけど…。それならもっと可愛い動物がよかったなあ…)
「で、第2の欠点なんだけど」
(え、まだ欠点があるんですか?)
「うん、この変身中は魔法が一切使えないの」
(へっ…、え?)

慌てて魔法の杖を呼び出そうとしてみるが、その掲げた前足には何も現れない。
(へ、変身っ!)
そして、身体中の魔力を高めて開放しようとしても、その魔力が身体から出ていかないのだ。

「魔法陣が変身膜を生成して、身体中を覆うんだけど…膜は魔力を一切通さないから、魔力を出せなくなっちゃうのよね。…まあ、そのおかげで魔力探知にひっかかることはないわ」
(そ、そりゃそうでしょうけど…)

普段から魔法が使えて当然の環境にいた彼女にとって、今の状況は不安でしかない。

「そして第3の欠点」
(欠点だらけじゃないですか…)
「まあまあ。これも逆に考えれば利点よ」
(…なんなんですか?)
「お腹の魔法陣を水で洗い流すと、元に戻れるの」

人形が杖を振ると、小さな水流が現れる。
しゃーっ空中をと流れるように滑ってきた水は、少女の…ネズミのお腹にある魔法陣をスッと洗い流していく。

ぐぐっ。ぐぐぐっ。
その瞬間、身体中の毛は短くなっていき、身体がどんどんと大きくなっていく。
あっという間にネズミから人間に戻ることができた。
…もちろん服は先程脱げてしまったので裸だったが。
慌てて胸とか大事なところを隠す少女。

「お手軽でしょ。戦えそうなら魔法陣を拭いて戻ればいいし、そうでなければ脱出してから元に戻ればいいわ」
「…そうですね。でもすごいじゃないですか。変身とはいえ人間として過ごせる日も近いんじゃないですか」
「まあ、ね。でも人だと汗をかくと魔法陣がすぐ落ちちゃうのよ。結構研究したんだけど解決してないの。でもネズミや犬、猫なら汗は手や足にしか汗腺がないから、勝手に戻っちゃうことはないわよ」
「なるほど…潜入中に勝手に戻っても困りますもんね…。それにしても…日頃寝てばっかりだと思ってたんですが、ちゃんと色々やってたんですね」
「でしょう?」

ふふん、と胸を張る人形。
朝起きて学校へ行く前と、帰ってきて部屋に戻った時で1ミリも動いていない人形を見ていた少女は、すこしだけ感心する。

「人形にされて動けない間もいろいろ考えていたからね。思索に耽るときには便利よ。貴方もやってみるといいわ」
「…遠慮しておきます。気が触れちゃいそうです」

十何年も(正確には教えてくれないのだが)人形として過ごしてきた彼女の精神力は並外れているのだ、と思わされる発言であった。

「さて、じゃあ理解できたところでもう一回変身してね」
「えっ」

魔法の杖を振ると、消えたはずの魔法陣が再び浮かび上がり私の身体は再び小さなネズミに変化する。

「軽く落とした程度なら、2回目以降はイチイチ書かなくてもすむのよ。ま、お風呂とか入れば完全に落ちちゃうけど」
(…ほんとにもう勝手なんですから…。で、それはいいんですけど、どうするんですか。もう工場へ行くんですか?)

部屋の遥か上空に設置されている時計を見る。
もう日が変わるかどうかといった遅い時間だ。

「何言ってるの。特訓よ特訓」
(特訓…?)
「その身体でできること、できないことを把握しとかないと。ねずみ返しがある部屋に侵入して脱出できない、なんて嫌でしょ。その手じゃドアノブは回せないし、自動ドアも感知してくれないのよ。なるべく感覚をネズミに合わせておかないと」
(まあ、そりゃあそうですけど)
「それに配管の中とか明かりがあるわけじゃないから、今のうちになれておかないと」
(あんまり汚い所には入りたくないなあ…)

そういう臭いって元に戻ったら落ちてくれるのかな。
そんなことを考えていると、部屋の中にいろいろな部品が組み合わさってできた迷路のような建物が出現した。テレビで見たことあるようなアスレチックコースのようなものまである。

「今のあなたの身体能力…つまり握力や走力はネズミ並にしかないの。とりあえずまずはどれくらいまで走れるか、確認しましょう」

魔力に包まれたネズミの身体がふわっと浮き、勝手に運ばれる。

(ってこれって…)

運ばれた先は、回転車の中だった。

「はい、走って走って」
(え、ちょ…待って…)

勝手に回転を始めた籠が、ぐるんぐるんとネズミの身体を転がす。
早すぎる回転にゴロゴロゴロゴロと身体が振り回される。まるでドラム式の洗濯機の中のように。

(目っ、目がっ回るっ)
「ほら、回転と逆方向に走らないと」

転げまわる身体を何とかコントロールし、地面を両手両足で掴むように踏ん張り、回転方向を把握する。
(今っ!)

ちょうど真下に来たタイミングで全力で駆け出す。
四つ足で走ったことなどなかったが、走ろうと思った瞬間に身体が最適なフォームを取ることができた。

「お、上手い上手い。魔法少女よりネズミののほうが才能あるんじゃない?
(勝手なこと言って…!元に戻ったら杖を剥がしてしばらく放置しちゃいますよ!)
「はいはい、悪態つく暇があったら走って走って」
(ぜぇ…ぜぇっ…)

「まあ、こんなものかしら。走力と持久力は把握できた?」
(ええ…まあ…)
「じゃあ次はパイプ登り、行ってみよう!」
(ちょっとは休ませて下さいっ!)

人形とネズミの特訓は、それから数日の間続くのであった。


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週末。
すっかり暗くなった空を、小さな杖にまたがった人形と、その人形にしがみつくように捕まっているネズミが空を飛んでいた。

「到着ー」
(ひー。さすがに心臓ドキドキしました…)

手で胸を抑えながら、人形から手を離すネズミ姿の魔法少女。
手にもさっとした毛の感触がするのが堪らなく嫌なのだが、これも子どもたちの行方を探すため、ぐっと我慢する。

「これ以上入ると、私は検知されちゃうわね」
(はい、ここからは私に任せてください)
「無理しないようにね。子どもたちの居場所が最優先。もし怪人がいて、見つかりそうだったら逃げの一手よ」
(はいっ)

工場のほうへタタタタ、と駆けていく1匹のネズミ。
それに対してフリフリと右手を振って見送ってくれる人形。
ネズミは手をふる代わりに、しっぽをふりふりと左右に振って一時の別れを告げた。

-続く-

イラストは@plushificationsさんに描いて頂きました。