Author : danna (だんな) / danna_story
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2020年の作品
[1月の作品] 生徒会長姫崎鏡花は動けない Booth
[2月の作品] 取扱変更届 -芳樹の場合- Booth

Boostしてお買い上げいただいた支援者の方にはここで厚くお礼申し上げます。

2020/02/04

人間と人形の魔法少女が事件を解決する話(上)

 
一人の魔法少女が高い塔の上から、ある建物を見下ろしていた。
傍から見るとなんの変哲もないただの工場に見える建物なのだが、魔法が使える彼女から見たらそうでないことがわかる。

「うーん。やっぱり偽装の魔法ですねえ」

周囲に違和感を与えないようにする結界。
人の出入りや搬入など、そういった行動すら人の記憶に残りにくくなるような魔法の気配がする。
人払いも兼ねているのか、周囲の道路に車や歩行者がいる様子はない。

「先輩はどう思いますか?」

周囲には少女一人しかいないにも関わらず、その少女は誰かに話しかけている。

「怪人の仕業で間違いないと思う。怪人が使う能力としては珍しいけど」

ひょこっと、腰にぶら下がっていたポーチから顔を出したのが小さな小さなぬいぐるみのような人形。
頭部についているツインテールを模した明るい髪の毛のような塊がぴょこぴょこと揺れている。
まるで生きているかのように、精密に動くその人形は何を隠そう元人間、そして魔法少女だった子の成れの果てだ。
帰る家はすでに無いため、今はこの少女の部屋で居候をしている。

「どうしましょう先輩。このあたりで発生している誘拐事件に関係があるのか、ないのかだけでも知りたいですね」
「そうね…」

目撃情報が一切ない、子供の失踪事件。
犯人から身代金などの要求が来ることもなく、痕跡もない事件。
今月だけでも少なくとも3件起きており、連日のニュースで警察組織が批判に晒されている。

「隠蔽されている、と考えるのであればあの工場がピッタリだと思いませんか?」
「そうなんだけどね。怪人が使うにしては、私達の使う魔法に近い結界だなって思って」
「考え過ぎじゃないですか?今までの怪人だって魔法みたいな攻撃をしてきたじゃないですか。どちらにせよ、早いところ白黒はっきりさせないといけません。突入します?」
「猪突猛進すぎよ。下手に刺激して子供たちを人質にされたり、別の場所に移動されたら解決できるものもできなくなっちゃう」
「えー。じゃあどうするんですか?」
「戦闘になる前に子供たちの居場所の確認と救出ができればベストね。怪人の退治はそれからでも…というより戦いに集中したかったらそうするほうがいいかもしれないわ」

なるほど、一理あります、と頷いた魔法少女は杖を掲げ、帰還魔法を詠唱する。
光の粒子が少女を包んだかと思うと、一瞬にしてその姿を消したのだった。

---

自室にワープしてきた魔法少女は変身を解除する。
ふわふわとしたドレスフォームが解除され、魔法少女はどこにでもいる部屋着を着た中学生に戻った。
魔法少女になって数年たつが、そろそろあのフリル満載の姿に羞恥を感じるようになってきていた。
時間があったら変えてみようかな、とも考えている。

腰のポーチから人形が飛び出す。
ふわふわと紙飛行機のように空を滑空しながら大きなベッドの上に置かれたクッションの上に着地する。彼女のお決まりの定位置である。

「…で、どうやって調べるんですか?」

クッションの上に寝転がってからというもの、微動だにしなくなった人形に声をかける。
魔法の杖さえあれば彼女は人形の身体でも自由に動ける。
もっと言えば魔法少女化すれば人間フォームにも戻れる彼女だが、少なからず魔力消費を伴うために、家では省エネモードで過ごすことが多い。
ピクリともせず、表情も一切変わらないので、こうなってしまうと他のぬいぐるみや人形とまるで区別がつかなくなる。
両親が最近、私の独り言が多いと夫婦会議を開いているのを知ってしまい、憂鬱なのだが…。

「そうねえ…私なら小さいから気が付かれずに入れるかもね」

確かに工場であればその小さな身体を隠せる場所には事欠かないだろう。

「だけど先輩、それは」
「そう。魔力がだだ漏れなのよねえ」

人形の体を動かすには、魔法の杖が必須。
彼女の精神から生み出される魔力を、杖を通じて発露させ人形の身体を動かすことで、擬似的に動くことができるのだ。
それつまりは常に微弱な魔力反応を出し続けると言うことで。

「結界に入ったら一発でバレそうですね」
「そうなのよねえ。人間フォームなんて轟音鳴らしながら進む戦車みたいなものだし、私じゃあそこを調べる方法はないわね」

彼女の手元には杖の形をしたぬいぐるみがマジックテープでピタリと止めてある。何を隠そう、これが彼女の杖なのだ。
これを剥がしてしまえば魔力が漏れることはないが、彼女はなにもできなくなってしまう。

「…じゃあもう一つの方法」
「先輩、なんかいい案があるんですか?」
「ちょっといい魔法があるのよ」

詳しく聞けば、それは彼女が元の身体に戻るために試行錯誤しているうちに編み出された魔法らしい。

「え、解呪じゃなくて…変身魔法…ですか?」

少女は首をかしげる。
人形化の魔法を解くのではなく、人間に変身。ずいぶんと回りくどいことをするなあと思う少女。

「そう。少し前に編み出したのだけど、色々欠点があってね。でも今回の条件ならぴったりだわ」
「そうなんですか。じゃあやってみてください」
「了解了解。じゃあ、お腹出して。魔法陣書くから」

服をめくっておへそを見せろ、という指示に後輩は怪訝な顔をする。

「え、私がやるんですか?先輩がやるんじゃないんです?」
「これが第1の欠点。自分を対象にできないのよ」
「…全然だめじゃないですか」

はぁ、とため息をつく。
だが、誘拐された子どもたちのことを考えると嫌だ、と拒否するのは後ろめたい。

「しょうがないですね…。はい」

シャツを少しめくりあげてお腹を見せる。
彼女はぬいぐるみの杖を使っておへその周りをなぞり始める。
園児の落書きのような、ぐちゃぐちゃにのたくったミミズのような線がおへその周りにぐりぐりと描かれる。
 

 
 
「ちょ、先輩、これ本当に魔法陣なんですか?」
「じゃあいくよ。えーい!」
「え、もうですか!?ちょっと心の準備を…!」

言い終える前に、身体がシュルシュルと縮み始めた。
着ていた服がパサリと脱げ床に落下する。
部屋が相対的にぐんぐんと大きくなっていく。
目の前にいた小さな先輩魔法少女の人形が、どんどんと大きく巨大になっていく。

「ふー。上手くいったわね。気分はどうかしら?」

特になんとも…私、小さくなっちゃったんですか?
そう口を開こうとした彼女の口から漏れ出たのは、チューチュー、という高いネズミの鳴き声だった。


おかしいの声だけではなかった。
全身をもふっとした毛が覆っていたのだ。
指は5指に別れてはいるものの、米粒よりも小さい爪が生えた獣のような手になってしまっている。

(先輩!声が出ないんですけど!!?っていうかなんですか、これ!!手が…!足が変なんですけど!)

パッと後ろを振り返ってみれば、ぴょこっと動くしっぽ。
少女は慌てて念話で目の前の巨大な人形にクレームをぶつける。

「どう?どう?私の変身魔法!」

自信満々の声、そして人形の表情はドヤ顔。





(どう?じゃないです先輩。なんでネズミさんなんですか!)
「その姿なら見つかっても怪しまれないし」
(そ、それはそうですけど…。それならもっと可愛い動物がよかったなあ…)
「で、第2の欠点なんだけど」
(え、まだ欠点があるんですか?)
「うん、この変身中は魔法が一切使えないの」
(へっ…、え?)

慌てて魔法の杖を呼び出そうとしてみるが、その掲げた前足には何も現れない。
(へ、変身っ!)
そして、身体中の魔力を高めて開放しようとしても、その魔力が身体から出ていかないのだ。

「魔法陣が変身膜を生成して、身体中を覆うんだけど…膜は魔力を一切通さないから、魔力を出せなくなっちゃうのよね。…まあ、そのおかげで魔力探知にひっかかることはないわ」
(そ、そりゃそうでしょうけど…)

普段から魔法が使えて当然の環境にいた彼女にとって、今の状況は不安でしかない。

「そして第3の欠点」
(欠点だらけじゃないですか…)
「まあまあ。これも逆に考えれば利点よ」
(…なんなんですか?)
「お腹の魔法陣を水で洗い流すと、元に戻れるの」

人形が杖を振ると、小さな水流が現れる。
しゃーっ空中をと流れるように滑ってきた水は、少女の…ネズミのお腹にある魔法陣をスッと洗い流していく。

ぐぐっ。ぐぐぐっ。
その瞬間、身体中の毛は短くなっていき、身体がどんどんと大きくなっていく。
あっという間にネズミから人間に戻ることができた。
…もちろん服は先程脱げてしまったので裸だったが。
慌てて胸とか大事なところを隠す少女。

「お手軽でしょ。戦えそうなら魔法陣を拭いて戻ればいいし、そうでなければ脱出してから元に戻ればいいわ」
「…そうですね。でもすごいじゃないですか。変身とはいえ人間として過ごせる日も近いんじゃないですか」
「まあ、ね。でも人だと汗をかくと魔法陣がすぐ落ちちゃうのよ。結構研究したんだけど解決してないの。でもネズミや犬、猫なら汗は手や足にしか汗腺がないから、勝手に戻っちゃうことはないわよ」
「なるほど…潜入中に勝手に戻っても困りますもんね…。それにしても…日頃寝てばっかりだと思ってたんですが、ちゃんと色々やってたんですね」
「でしょう?」

ふふん、と胸を張る人形。
朝起きて学校へ行く前と、帰ってきて部屋に戻った時で1ミリも動いていない人形を見ていた少女は、すこしだけ感心する。

「人形にされて動けない間もいろいろ考えていたからね。思索に耽るときには便利よ。貴方もやってみるといいわ」
「…遠慮しておきます。気が触れちゃいそうです」

十何年も(正確には教えてくれないのだが)人形として過ごしてきた彼女の精神力は並外れているのだ、と思わされる発言であった。

「さて、じゃあ理解できたところでもう一回変身してね」
「えっ」

魔法の杖を振ると、消えたはずの魔法陣が再び浮かび上がり私の身体は再び小さなネズミに変化する。

「軽く落とした程度なら、2回目以降はイチイチ書かなくてもすむのよ。ま、お風呂とか入れば完全に落ちちゃうけど」
(…ほんとにもう勝手なんですから…。で、それはいいんですけど、どうするんですか。もう工場へ行くんですか?)

部屋の遥か上空に設置されている時計を見る。
もう日が変わるかどうかといった遅い時間だ。

「何言ってるの。特訓よ特訓」
(特訓…?)
「その身体でできること、できないことを把握しとかないと。ねずみ返しがある部屋に侵入して脱出できない、なんて嫌でしょ。その手じゃドアノブは回せないし、自動ドアも感知してくれないのよ。なるべく感覚をネズミに合わせておかないと」
(まあ、そりゃあそうですけど)
「それに配管の中とか明かりがあるわけじゃないから、今のうちになれておかないと」
(あんまり汚い所には入りたくないなあ…)

そういう臭いって元に戻ったら落ちてくれるのかな。
そんなことを考えていると、部屋の中にいろいろな部品が組み合わさってできた迷路のような建物が出現した。テレビで見たことあるようなアスレチックコースのようなものまである。

「今のあなたの身体能力…つまり握力や走力はネズミ並にしかないの。とりあえずまずはどれくらいまで走れるか、確認しましょう」

魔力に包まれたネズミの身体がふわっと浮き、勝手に運ばれる。

(ってこれって…)

運ばれた先は、回転車の中だった。

「はい、走って走って」
(え、ちょ…待って…)

勝手に回転を始めた籠が、ぐるんぐるんとネズミの身体を転がす。
早すぎる回転にゴロゴロゴロゴロと身体が振り回される。まるでドラム式の洗濯機の中のように。

(目っ、目がっ回るっ)
「ほら、回転と逆方向に走らないと」

転げまわる身体を何とかコントロールし、地面を両手両足で掴むように踏ん張り、回転方向を把握する。
(今っ!)

ちょうど真下に来たタイミングで全力で駆け出す。
四つ足で走ったことなどなかったが、走ろうと思った瞬間に身体が最適なフォームを取ることができた。

「お、上手い上手い。魔法少女よりネズミののほうが才能あるんじゃない?
(勝手なこと言って…!元に戻ったら杖を剥がしてしばらく放置しちゃいますよ!)
「はいはい、悪態つく暇があったら走って走って」
(ぜぇ…ぜぇっ…)

「まあ、こんなものかしら。走力と持久力は把握できた?」
(ええ…まあ…)
「じゃあ次はパイプ登り、行ってみよう!」
(ちょっとは休ませて下さいっ!)

人形とネズミの特訓は、それから数日の間続くのであった。


---

週末。
すっかり暗くなった空を、小さな杖にまたがった人形と、その人形にしがみつくように捕まっているネズミが空を飛んでいた。

「到着ー」
(ひー。さすがに心臓ドキドキしました…)

手で胸を抑えながら、人形から手を離すネズミ姿の魔法少女。
手にもさっとした毛の感触がするのが堪らなく嫌なのだが、これも子どもたちの行方を探すため、ぐっと我慢する。

「これ以上入ると、私は検知されちゃうわね」
(はい、ここからは私に任せてください)
「無理しないようにね。子どもたちの居場所が最優先。もし怪人がいて、見つかりそうだったら逃げの一手よ」
(はいっ)

工場のほうへタタタタ、と駆けていく1匹のネズミ。
それに対してフリフリと右手を振って見送ってくれる人形。
ネズミは手をふる代わりに、しっぽをふりふりと左右に振って一時の別れを告げた。

-続く-

イラストは@plushificationsさんに描いて頂きました。


2020/02/02

魔道具 - えっちな下着 幕間

数時間後。

「…すいません、まさかご飯まで頂いてしまって」
『お姫様のお口にあうか、不安だったのだけどね』
(サラの貧乏舌なんだから大丈夫でしょ)
『なによ。失礼ね』

2020/01/31

だんだん、徐々に、着々と (終)

あれから半月。

授業を終え、ホームルームも終わると、ぞろぞろと生徒たちが立ち上がり
各々部活や下校を始める。

2020/01/30

だんだん、徐々に、着々と (7)

(魔人よ。この身体に入れ)

そして目の前の人形に対して見せつけるように動いてみてくれ、と。
心の中で願い、魔人が"桜子"になった人形の中へ入った。

2020/01/29

だんだん、徐々に、着々と (6)

私の名前は…たしか、橘、桜子。

誰がつけてくれたんだっけ。
お父さん?お母さん?
あれ、なんだろう、なんか頭がぼーっとする。
目の前の…キヨヒコ君がつけてくれたんだっけ。

2020/01/27

魔道具 - えっちな下着 (魔道具 - アップリケの続編)

前作


「魔道士サラ様…ああ、いい響きね」

くるくると部屋の中を回る。
身につけているマントもその流れに乗るようにたなびく。

2020/01/15

ぱっとみ百合ップル 1-5(完結)

人、人、人。
あたりを見回せば人ばかり。
長い行列の先には紅葉で有名な寺院があるのだが、その行列はゆっくりゆっくりとしか進まない。

その行列の中に、2人で旅行に来てるのだろうか、仲が良さそうな女子のペアがいた。
片方はその寺院のパンフレットをじっと眺めているが、一方の女子はこの人混みが落ち着かないのか、しきりにソワソワしていた。

2020/01/13

支援作品集(まとめてパック 2018-2019) のご案内

Boothに2019年までの支援作品をまとめたものをセール価格で期間限定で公開しております。
(2020年1月以降の作品は含まれておりません)

https://dnstory.booth.pm/items/1774820
21作品で1000円 (1作品あたり約50円)

※2020年1月末までの限定販売となります(確定。正確には2/1の午前中までに販売停止処置します)
※新規の収録はありません。
※内容に変更は一切ありませんので、重複購入にはご注意ください。

毎月ご支援頂いている方には感謝しております。
今回は、完全にご新規の方にも、過去作品に多く触れていただける機会を設けたいと考えた結果となります。
ご容赦くださいますよう、よろしくお願いいたします。

2020/01/08

花梨を探して(中)

前のお話

…やられた。

私は状況を徐々に把握していく。
部屋は急に暗くなり、私は四つん這いのような姿勢になっているのがわかる。
両手を地面から離して立ち上がろうとするも、そのような動きを身体が受け付けない。骨格や肉付きからして変わってしまったようだ。

2019/12/18

花梨を探して(上)

妹の花梨(かりん)からの連絡がないと母親から連絡があった。

聞けば夏休みが開けたというのに大学にも行ってなさそうなのだという。
万が一ということもあるから、ということで同じく東京に出て就職している私のもとへ連絡があった。

2019/12/01

魔道具 - アップリケ


魔法学校3年生のサラは悩んでいた。
頭の中にあるのは卒業試験…そして進路だ。

魔法学校の卒業と同時に、魔法を学んだ生徒達は自分たちの進路へ進む。
あるものは魔法研究企業の魔法研究者に、あるものはギルドの冒険者に。
そしてあるものは王国直属の魔道士に。
いずれにしても重要なのはその試験で雇い主の目に止まる事が必要だ。

「どうしても私は…」

サラの家では父も、そして祖父も王国魔道士だったために、サラも…と期待されている。
もし彼らの期待を裏切ってしまったら。
想像するだけでサラは耐えられない。

だが、サラの成績は思っているより芳しくないものであった。
クラスでも下から数えたほうが早い順位。
希望である組織は難しいぞ、と教師にも再三言われていた。

ちらり、と隣を歩くクラスメイトのメルに視線をやる。
メルは魔力の量とその質が、飛び抜けてすばらしい。
教師の間では彼女は今までの生徒の中でもNo1の魔道士になると言われている。優秀すぎるために、すでに様々な組織からの打診が来ているのだという噂もある。

魔力の質は、魔法の精度に大きく関わる。
サラが10m先の転送魔法ですら1mほどのズレがあるのに対して、
メルの転送魔法は数km離れても誤差はほぼゼロだという。

そんな優等生メルと、悩める劣等生サラが訪れているのは学校から少し外れた森。卒業試験を前にして簡単な魔獣の討伐実習が行われている。

「今更こんな簡単な魔獣退治なんてねえ」
「…ええ、そうね」

メルが退屈そうに森の中を進んでいく。
一方のサラは心ここにあらずと言った感じでメルの後ろをついていく。

メルの後ろ姿を見て、サラは妬む。
彼女の才能が羨ましい。
彼女であれば自分から行きたい組織を指名することだってできるのだろう。
私だって同じぐらい…いえ、それ以上に頑張っているはずなのに。

そんな中、ぴょん、っと草陰から獣が出てきた。
前触れも、気配もなく現れたその獣に2人は驚く。
それは教科書でも図鑑でも見たことがない、変わった獣だった。
見た目は鹿のようにも見えるが異色なのがその毛の色だった。
その体毛は銀色に光り輝き、風もないのに波打つように揺れている。
その獣の視線はこちらを見て離さない。

「な…なに?こいつ」
「…みたことないな。新種の魔獣…?」

さすがのメルも少し戸惑いが見られる。
なにせ敵意があるのかすら読めない。
神の獣である、と言われれば信じてしまいそうな神々しさすら感じられる。
凶悪な魔獣の類にも見えないが…。

「とりあえずぱぱっと捕縛しちゃいましょうか」
「えっ…?戦わないほうがいいんじゃない?」
「大丈夫大丈夫。イザとなったら転送魔法で学園まで戻りましょ」

と、片手で簡単に捕縛魔法陣を呼び出すメル。
サラも仕方なく杖を構える。
捕縛の際にメルが攻撃されないように守護魔法を張る準備をする。

「ほ、本当にやるの?」
「ええ、新種の魔獣なら評価も上々よ。えいっ!」

メルは杖を振り下ろし魔獣に向かって捕縛魔法を発射する。

ピイイイイン

捕縛魔法らしかぬ音。
銀色の毛が激しく波打ち、メルの捕縛魔法を吸収していく。

「えっ…?」

パンッ!

なにかが弾けるような音と共に、銀色の魔法が獣の全身から放射されてメルのほうへ向かってくる。

「な…は、反射!?」

サラは慌てて防御陣を貼るが、その壁はまるで濡れた紙のようにたやすく貫かれ…メルも油断していたのか、自身への対処が遅れる。

パアアアアン!

銀色の魔法がメルに炸裂した。
その瞬間、あたり一面が銀色の光に覆われ、サラは視界を失った。

---

「うっ…ようやく目が…慣れてきた」

激しい光で一時的に奪われた視界がようやく戻ってくる。
前方を見れば、あの見慣れない獣はあっという間に逃げ出したのか、姿は見当たらない。そして…。

「メ…メル?」

メルの姿もなかった。
彼女の立っていたはずの場所には誰もいない。

「が…外套…だけ?メル…ど…どこにいったの…?」

彼女の羽織っていたマントを拾い上げる。
彼女の持っていた杖や持ち物は他に見当たらない。

「…ん…?これって」

羽織ったときに胸のあたりに来る部分に、手のひらサイズの刺繍が着いていたのだ。
その刺繍はメルをモチーフにしているのか、彼女の顔に似ていた。
メルの外套にこんなもの、着いていただろうか…。

「…いけない、こんなことをしている場合じゃないわ。メルを探さないと…、それとも学園に報告するほうが先…?」

サラは少し戸惑ったが、ひとまずその外套を身につけることにした。
彼女の持ち物ではあるが、あいにくしまえるようなカバンを持ってきていない。
外套が身体を包んだ瞬間、サラに不思議な声が聞こえてきたのだ。

(サラ…サラ…。助けて、お願い…)

「め、メル!?ど、どこにいるの?」

(胸…胸のところ)

「へ?…胸?」

着込んだ外套を見下ろしてみる。
そこには彼女をかたどった刺繍。

(私…私はここよ)

「えええ?」

---

「だ、駄目。解呪できないわ」

獣が放った銀色の魔法。
メルが言うには、メルが唱えた捕縛魔法を獣が吸収して反射した結果、捕縛の性質を改竄されした新種の変化魔法となったのだという。
気がつけば彼女は身動き一つできないアップリケとして、自身が着ていた外套に縫い込まれてしまっていた。

外套を木の枝に吊るして思いつく限り、できる限りの解呪魔法を詠唱してアップリケにぶつけるが、メルは元に戻る気配がない。
一旦解呪を諦めて、外套を身につける。
外套のアップリケとなってしまったメルの声は、外套を着込まないと聞くことができないようだ。

(…駄目みたいね。学園に戻って解呪専門の先生に頼みましょう)
「そ、そうね」

サラは先程から外套を着るたびに不思議な感覚を感じていた。
なにかこう、周囲のマナの動きがわかる…。そして身体に宿る魔力の質が数段あがっているような。
サラはメルに聞こえないよう、こっそりと鑑定魔法を詠唱した。
対象はアップリケになったメル。

(えっ…これ…すごい…)

魔力補正+S
魔力品質+S
威力補正+S
魔力隠蔽+S
………
……

魔力耐性+S
精神感応

ずらり、と並ぶ一級品の補正能力。
普通の魔道具にはありえないほどの補正がある。
そして最後に記載された精神感応能力。これでメルとの念話ができるのだろう。
それに…。

(魔力耐性+S…多分メルが元に戻れないのはこのせいね)

メルが持つ資質がそのまま魔道具の能力として現れてしまった為に、メルは元の姿に戻ることができないのだ。
これだけの力に打ち勝つには学園の教師では荷が重いだろう。

(魔力隠蔽+S…。生半可な反応検知なら無効化できそうね)

サラの心のなかに黒い気持ちが生まれていく。
卒業試験では不正防止のために教師がディテクト魔法で魔道具を持ち込ませないようになっている。
だが、これなら。

メルはサラの考え込む様子を不審に感じる。

(サラ?どうしたの?)
「うふふ…。うふふ…」

サラはメルからの念話を無視する。
傍目から見てもタダの飾りに見えるアップリケ。
装着者でなければ彼女と念話ができない。
つまり、「これ」がメルだと気がつく者は…皆無なのだ。

そしてこの「魔道具」を使えば。
卒業試験なんて取るに足らない通過点となる。
王国魔道士なんて目じゃなく、その部隊の頂点…魔導隊長すら視野に入る。

「うふふ、そうよ。そうよね」

彼女が行方不明になったことにしてしまえばいい。
謎の魔獣に会い、彼女は攫われ、私は決死の状態で逃げてきた、と。

「うふふ…うふふ…」
(サラ………?)

サラはふらふらと歩き出した。

---

あれから1週間。
魔獣討伐部隊が中央から派遣され、新獣の発見には至らなかったがその痕跡が認められ、メルはその魔獣との戦闘中に行方不明、ということが報告書として提出された。
これで公式にメルを表舞台から姿を消すことができた。

(サラ。悪いことは言わない。こんなことは止めなさい…)

頭に響いてくるメルの声を無視して、サラは魔法自習室の中央に立つ。胸の部分につけられたメル…アップリケを軽く撫でる。

「"これ"され…あれば」

この外套自体は学園生徒共通のものだ。
サラがメルの外套を着ていることには誰も気が付かない。

「光よ…集え」

軽く唱えた魔法。
今までにない量の光が指に圧縮されていく。

(んっ…!)

頭の中にメルの少し呻くような声が響く。
押し殺したようなその声はなにかに耐えているようだ。
サラはその声も無視してさらに魔力を高めていく。

(ああっ…あああ!)

魔力の高まりとともにメルの声も大きくなっていく。

「光よ…穿け!」
(んんんっ…あああああああ!!!!!)

バシュ、という破裂音とともに指先から細く、鋭い光線が発射された。
その光は遠く離れた的の中央を軽々と撃ち抜いた。

「すごい…こんなに強くて正確な魔法…」
(はぁ…はぁ…)

メルの息遣いが聞こえてくる。
もちろん、サラの頭の中だけにだが。

(な、なんなの…この……)

どうやら魔道具として使われると彼女の意識に快感が奔るようだ。
改めて鑑定をしてみるが、魔道具の効果に劣化は見られなかった。

「すごいわ。使いたい放題じゃない」
(や…やめて…サラ…)

光線を何度も何度も、的へ向かって放つ。
バスンバスン、と景気のいい音と同時にメルの喘ぎ声が響き渡る。

「うふふ、いいじゃない。使うとメルに性的な快感に襲われるっぽいけど…
たったそれだけのリスクだなんて。実質使い放題の魔道具じゃない」
(さ、サラ…お願い…こんな馬鹿なことは止めて。人を魔道具のままにしておくなんて)
「ただ、五月蝿いのがちょっとキズね。念話妨害の魔道具でも探そうかしら…」

さらに何度か魔法を使い続けるサラ。
最後に大きくはなった火炎魔法。
その快感にメルは耐えられずひときわ高い声を上げ…

(……………)
「あら、気絶しちゃった?」

どうやらメルが快感に耐えきれず、その意識をシャットダウンしてしまったようだ。
どれだけ呼びかけても反応がない。
そして…その瞬間、身体をブーストしていた魔道具の効果が霧散した。

「………なるほど。メルの意識が切れちゃうと魔道具としては無力になってしまうわけね。この状態で解呪魔法を唱えれば元の姿に戻りそうだけど」

もちろん、そんなことはしない。
私はこれを使ってのしあがる必要があるのだ。
メルには悪いけど、私のための道具となってもらおう。

「うふふ、まあそのかわり気絶するほどの快感をずっと感じられるんだもの。いいんじゃないかしら?」

サラはニヤリ、と笑った。



イラストは@plushifications (ぷらさん)に頂きました。
毎回ありがとうございます…!







ショートノベル


「愛梨…!」

ガラガラ、と保健室の扉を開ける。
体育の時間に急に混乱したように喋りだして倒れた、と聞いた俺は慌てて向かった。
今朝も一緒に登校したときはそんなに体調悪そうには見えなかったのに。

保健室のベッドを囲んでいるカーテンを勢いよく開けるとそこには
上のジャージを大きくあけて、そこから覗くブラジャーの上から両手でぐにぐにと、自分の胸を揉みしだいている愛梨の姿があった。

「…な…な…愛梨、なにしてるんだ?!」
「ん…?あー、おー。なるほど、お前が彼氏か?冴えない顔してるなー」

虚空を見上げてから、こちらをちらりと見て何かを思い出すようにつぶやく愛梨。
その視線はいつもの親しげで優しい目ではなく、まるで人を値踏みするようなそんな他人の目つきであった。

「お…お前は…愛梨…じゃないな…誰だ!?」
「そうだなあぁ、愛梨なんだけど愛梨じゃないんだよなあ、なんていったらいいかわからないが、俺はついさっき、トラックに轢かれたんだよ…でも気がついたらここにいたんだ」
「俺…?トラック…?」
「だけど、俺の名前は思い出せねえ…。いや、正確に言うと思い出そうとすると小凪愛梨、っていうこの身体の名前しか思い出せねえ。俺は一体誰だったのか…」

ぶつぶつ、と呟く愛梨。その内容は俺の理解を超えている。
向こうも俺の理解を必要としていないのか、言葉をドンドンまくしたてる。

「つまりー…俺の記憶はないんだよな。ただぼんやりと夢のような感じで覚えているだけで…。いまはこの身体…愛梨の脳で考えて、思い出して…うん、そういうことだな。いやしかし俺の胸でけえなあ」

そうつぶやいている間もその手を休めることなく自分の胸揉みまくる愛梨を俺はただただ眺めることしかできなかった。

ーーー

「あれ、お前まだいたの?」

保健室の前で待っていた俺に掛けられた声。
保健室の扉を開けて出てきたのは体操服から制服へ着替えた愛梨だった。

「愛梨、元に…戻ってないのか?」
「あ?戻ってるわけねえだろ。俺もどうしてこうなったかわかんねーんだし」

「ああでも愛梨の記憶は使えるからな。着たこともないはずの女子制服もこのとおり。どうだ?」

くるり、とスカートを翻すように回る愛梨。
いつもの愛梨のようにしっかりと校則を遵守した着こなし。
セーラーのスカーフもきっちり、結んでいる。

だが…。

「うっへっへ。こんな可愛い子が俺だなんてなあ」

スカートの裾を掴んで遠慮なく捲くり上げる愛梨。
そこから白の下着が露となる。
それはいつもの愛梨なら絶対しないような行為だ。

「見てくれよ、これ。なんもねえんだぜ、ビビるよなあ」
「や、やめてくれよ、愛梨」
「お?なんだ?気にならないのか?…んー?なんだよ、お前もうこの身体見てるんじゃねえか」

どうやら記憶から俺と愛梨の深い関係について引き出したようだ。下卑た顔つきの愛梨から、俺は顔を逸らす。

「まあ、いいか。いくぞおい」
「え…?いくってどこへ」
「決まってんだろ、愛梨ちゃんの教室だよ」
「お、お前…まさかなりすますつもりか」

ああん?と怪訝な顔つきをする愛梨。

「成りすますってなんだよ。俺はどこからどうみても愛梨だろうが。教師に聞いても、親に聞いても、なんなら親友のエミに聞いたって答えは同じさ」
「ぐ…」
「それにお前だって愛梨がおかしな男に乗っ取られた、なんて知られたくないだろう?愛梨ちゃんの折角の評判が下がっちゃうぜ」
「な…脅す気か」
「いやいや、そんな大袈裟な。ただ愛梨ちゃんが元に戻るまでの間、俺がちゃんと愛梨ちゃんの代わりができるようにサポートしてくれりゃあいいのさ。記憶も全部読めるわけじゃないからな。まあ、いつ元に戻るかなんてわかんねーんだけど、な」

ぐっひっひと笑う愛梨。
笑いながら、俺の腕に"いつものように"絡んでくる愛梨。

「さ、教室にもどろ?」

一転してニコリ、と笑う笑顔はいつもの愛梨と区別がつかなかった。