Author : danna (だんな) / danna_story
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2020年の作品
[1月の作品] 生徒会長姫崎鏡花は動けない Booth

[2018-2019]まとめてパック(50%OFF) Booth

Boostしてお買い上げいただいた支援者の方にはここで厚くお礼申し上げます。

2020/01/15

ぱっとみ百合ップル 1-5(完結)

人、人、人。
あたりを見回せば人ばかり。
長い行列の先には紅葉で有名な寺院があるのだが、その行列はゆっくりゆっくりとしか進まない。

その行列の中に、2人で旅行に来てるのだろうか、仲が良さそうな女子のペアがいた。
片方はその寺院のパンフレットをじっと眺めているが、一方の女子はこの人混みが落ち着かないのか、しきりにソワソワしていた。

2020/01/13

支援作品集(まとめてパック 2018-2019) のご案内

Boothに2019年までの支援作品をまとめたものをセール価格で期間限定で公開しております。
(2020年1月以降の作品は含まれておりません)

https://dnstory.booth.pm/items/1774820
21作品で1000円 (1作品あたり約50円)

※2020年1月末までの限定販売となります(確定。正確には2/1の午前中までに販売停止処置します)
※新規の収録はありません。
※内容に変更は一切ありませんので、重複購入にはご注意ください。

毎月ご支援頂いている方には感謝しております。
今回は、完全にご新規の方にも、過去作品に多く触れていただける機会を設けたいと考えた結果となります。
ご容赦くださいますよう、よろしくお願いいたします。

2020/01/08

花梨を探して(中)

前のお話

…やられた。

私は状況を徐々に把握していく。
部屋は急に暗くなり、私は四つん這いのような姿勢になっているのがわかる。
両手を地面から離して立ち上がろうとするも、そのような動きを身体が受け付けない。骨格や肉付きからして変わってしまったようだ。

2019/12/18

花梨を探して(上)

妹の花梨(かりん)からの連絡がないと母親から連絡があった。

聞けば夏休みが開けたというのに大学にも行ってなさそうなのだという。
万が一ということもあるから、ということで同じく東京に出て就職している私のもとへ連絡があった。

2019/12/08

取扱変更届(5)

「また検査かー」
「しょうがないよ、お姉ちゃん」

魂同士の入れ替わりはまだまだ研究が進んでいない分野だ。
そのために頻繁に病院へ通う必要がある。
悠も施設と病院を往復する生活を送っているらしい。

(ほんと、最近見てないな、悠)
…というか自分の姿。

当たり前だが、物心が着いた頃から自分の顔を見なかった日なんて、1日もなかった。
それなのにもう数日も自分の顔を見ていない。
鏡を覗いてもそこに映るのは末妹の悠の顔。

次女の久遠の手を引かれて大学病院の扉をくぐる。
久遠は忙しい両親に替わって、困難になった私の生活を助けてくれている。
さすがにちょっと過保護すぎないかな、とは思うけど。

「じゃあ、終わったら迎えに来るから連絡して」
「うん」

悠が使っている幼稚園の肩掛けカバンの中には、私が使っていたスマートフォンが入っている。
この小さな手では片手で持つことができないので、椅子や床の上に置いて操作する必要があるのでかなり不便だ。

「遥さーん」
「あい」

気を抜いていたせいで幼児のような発声をしてしまう。
だが、看護師はそのへんは気にせず(気にしないようにしたのかもしれない)、私の元へやってくると、ひょいっと抱っこで持ち上げてくれた。

「きゅうにだっこされるとびっくりしちゃいます」

急激に離れていく地面は、遊園地の乗り物に乗ったのかと思うぐらいに肝が冷える。

「ああ、ごめんなさいっ。ちょっと、遠いので…」

若い看護師さんはそういいながら何時もの検査室より奥の部屋へ歩いていく。

「? 今日はなにかやるんですか?」
「ええ、ちょっとしたインタビュー…というか面接ですね」
「めんせつ…?」

ガチャリ。

「またで、申し訳ないのですが順番が来たら呼びますのでここで待っていてください」
「はい…」

ぐるり、と部屋を見回す。
専用の待合室のようで、かなり広く、部屋の隅にはソファが並ぶように置かれている。
部屋の中央にはローテーブルと一人がけのソファが4つ。
その1つに小学生ぐらいの少女が座っており、つまらなさそうにスマホで何かを見ていた。

私は部屋の入口に突っ立ったまま、じっと見つめているとその視線に気がついたのか、少女が椅子から立ち上がるとズカズカとこちらへ歩いてくる。
その歩みに同調するように長い髪をツインテールのがゆらゆらと揺れていた。

「なに?」
「あ…いや、なんでもなくて」

女子小学生といえどその身長差は頭数個分ある。
圧倒的な高さから見下されるのはすこし恐怖を覚える。

「睨んでたんじゃないのか?」
「あ、いや…そんなんじゃなくて」
「ん…その見た目でその口調。お前も入れ替わったクチか?」
「えっ。ってことはあなたも…?」

私は驚いた。
まさか、私と同じように入れ替わってしまった人と会えるとは思っていなかったのだ。

「そうだよ。入れ替わってまだ3ヶ月ぐらいいだけど」
「え、そんなに」

私なんてまだいれかわったばかりだというのに。

「いやー、ほんとめんどくさいよなー検査。もう元に戻る可能性なんてないし、適応もあるっていうのに」

てきおう…?
聞いたことのない言葉に首を傾げる。
少女はドカッっと大きな音をたててソファに座る。
短いスカートから下着が一瞬、ちらりと見える。
意外と乱雑な性格のようだ。

「わた…俺は…もともと高校生の男だったんだよ。信じられるか?」
「え…わたしもこうこうせいだったのよ。…いもうとのからだになっちゃったけど」
「へぇ、そうなのか。俺は近所の小学生だよ」

少女の名前は凛、というらしい。
この身体の名前だけどな、と笑う。

「あなたはたちばをうけついだってこと?」

わたしは質問する。
これは私にとって他人事ではないのだ。少しでも情報がほしかった。

「…ああ。仕方なく、な」
「仕方なく?」

首をかしげる。

「聞いてないのか、適応の仕組みを」
「てきおう…」

さっきも聞いた単語だが、わたしは初耳だ。

「…入れ替わりの根本的な原因は何か、覚えているか?」
「んっと…。たましいによりてきした器に入り込んじゃう…」
「そう。お互いの魂が、お互いの器のほうが適している、と判断してしまうと起こり得る。じゃあ魂が入れ替わった今、お前の脳みそはどこにある?」

のうみそ。
脳。
記憶を司る人間のパーツ。

「ここ…」

頭を指差す。

「そうだ。じゃあお前の記憶はいま、どこにある?」
「えっ…」

わたしはいま悠の身体にいて、悠の脳みそを使って物事を考えているはず。じゃあ、記憶はここにあるんじゃないの?

「違う、お前がいま"自分"だと思っている記憶は、魂にある」
「たましい…」
「魂の記憶はだんだん失われていく。その前に新しい身体の脳に記憶を書き込んでいこうとするんだ」
「………」

つまり、私の記憶はUSBメモリかなにかの状態で、PCへコピーしている最中、というわけか。

「だけどここに問題がある」
「もんだい…」
「魂とその器は適合したかもしれないが、脳や身体はそうじゃない。相関はあって似た者…同じ年齢や性別同士絵で入れ替わった場合はそうでもないけど、俺達みたいに年齢が離れすぎていたり、性別が違ったりすると…」
「すると…?」
「記憶の移動に弊害ができるんだ。書き込みがうまく行かない」
「えっ…」

「魂の記憶は書き込めず、そして失われる。それが適応だ」
「そんな。それじゃあ」
「自分が自分だった、という記憶や人、最近の記憶は持っていけるかもしれない。でも知識や昔の記憶は消えてしまう」
「うそ…でしょ」
「うそじゃない。もうわたしは数ヶ月前にはできたはずの高校の授業内容はさっぱりわからない」

化学、物理、数学、英語。
私はまだそういった内容を思い出すことができる。これが失われていく…?

「そして、元の記憶が強くなる。…その脳にもともとあった記憶の影響が大きくなるんだ」
「………」
「わたしはもう"芳樹"と呼ばれても自分の名前だとは思えない。…わたしは…小学4年生の…凛なんだよ」

自嘲気味に笑う。

「わかるか?高校受験と部活に頑張ってた自分が、その数カ月後には朝起きたら、髪の毛を親にツインテールに結んでもらって、用意してもらった女子小学生の服とスカート。ランドセルを背負って小学校にいって、小さい子達にまざって算数をするんだ、それに対しておかしい、つらいと思わなくなってきてる自分がいる。あたりまえだ…ってね」
「………」
「その身体に引っ張られてるところ、あるんじゃないのか?」
「え?」
「オムツを履いて、粗相をしてもすぐに替えられるように脱がしやすい服を着せられて、だっこされてここまで来たんだろ?」
「………」
「夜泣きとか、してるんじゃないのか?」
「そんなことっ…」

だが、頭の中に久遠の言葉が思い出される。

"悠の身体と脳みそを使っている以上、それに引かれてしまうのは避けられないって"

…もしかしたら久遠はこの"適応"のことを知っているのかもしれない。

「…年齢の離れた入れ替わりってのは本当に稀だ。まあ、これからも仲良くしようよ」

にこり、と彼…いや彼女か。彼女は笑う。
その笑顔は屈託のない少女の笑顔だった。

----

その後、医師に呼ばれた私は口頭での面談と、ちょっとした運動能力の確認が行われた。30分後、戻ってきたときにはもう彼女はいなかった。

「久遠」
「…なーに、おねえちゃん」

迎えに来た妹に抱っこをされて家へ向かう。

「てきおうのこと」
「っ…」

ピクッと久遠の身体が震えた。

「しってたんだね」
「…ごめんね。言うか言わまいか、今の今まで悩んでたの」
「ううん。いいの」

私がもし久遠の立場だったら同じように悩むはずだから。

「わたし、そのうち悠になっちゃうのかしら」
「…記憶はちゃんと移動できるよ、きっと」
「だといいけど…そうだ」
「なに?おねえちゃん」
「悠に、あいたいかな」
「………」

久遠の沈黙が長くなる。

「その…」
「うん、わかってる。悠も…"てきおう"してるんだよね」
「…うん。幼かったせいか、魂の記憶はそんなになかったせいなのか、わからないけど」

お医者さんも驚くほどに早い適応をした、と久遠。

「会うと、お姉ちゃんが落ち込んじゃうかもって、お母さんたちが」
「そう…でも、わたしもそうならそうと、かくごをきめないといけないから」
「わかった。お母さんに連絡するね」

施設にいるというお母さんとお父さん、そしてそこにいる悠。

「…うん、うん。わかった」
「なにって?」

電話を切った久遠に話しかける。

「今から来ていいって。タクシー、乗るね」
「…うん」


2019/12/01

魔道具 - アップリケ


魔法学校3年生のサラは悩んでいた。
頭の中にあるのは卒業試験…そして進路だ。

魔法学校の卒業と同時に、魔法を学んだ生徒達は自分たちの進路へ進む。
あるものは魔法研究企業の魔法研究者に、あるものはギルドの冒険者に。
そしてあるものは王国直属の魔道士に。
いずれにしても重要なのはその試験で雇い主の目に止まる事が必要だ。

「どうしても私は…」

サラの家では父も、そして祖父も王国魔道士だったために、サラも…と期待されている。
もし彼らの期待を裏切ってしまったら。
想像するだけでサラは耐えられない。

だが、サラの成績は思っているより芳しくないものであった。
クラスでも下から数えたほうが早い順位。
希望である組織は難しいぞ、と教師にも再三言われていた。

ちらり、と隣を歩くクラスメイトのメルに視線をやる。
メルは魔力の量とその質が、飛び抜けてすばらしい。
教師の間では彼女は今までの生徒の中でもNo1の魔道士になると言われている。優秀すぎるために、すでに様々な組織からの打診が来ているのだという噂もある。

魔力の質は、魔法の精度に大きく関わる。
サラが10m先の転送魔法ですら1mほどのズレがあるのに対して、
メルの転送魔法は数km離れても誤差はほぼゼロだという。

そんな優等生メルと、悩める劣等生サラが訪れているのは学校から少し外れた森。卒業試験を前にして簡単な魔獣の討伐実習が行われている。

「今更こんな簡単な魔獣退治なんてねえ」
「…ええ、そうね」

メルが退屈そうに森の中を進んでいく。
一方のサラは心ここにあらずと言った感じでメルの後ろをついていく。

メルの後ろ姿を見て、サラは妬む。
彼女の才能が羨ましい。
彼女であれば自分から行きたい組織を指名することだってできるのだろう。
私だって同じぐらい…いえ、それ以上に頑張っているはずなのに。

そんな中、ぴょん、っと草陰から獣が出てきた。
前触れも、気配もなく現れたその獣に2人は驚く。
それは教科書でも図鑑でも見たことがない、変わった獣だった。
見た目は鹿のようにも見えるが異色なのがその毛の色だった。
その体毛は銀色に光り輝き、風もないのに波打つように揺れている。
その獣の視線はこちらを見て離さない。

「な…なに?こいつ」
「…みたことないな。新種の魔獣…?」

さすがのメルも少し戸惑いが見られる。
なにせ敵意があるのかすら読めない。
神の獣である、と言われれば信じてしまいそうな神々しさすら感じられる。
凶悪な魔獣の類にも見えないが…。

「とりあえずぱぱっと捕縛しちゃいましょうか」
「えっ…?戦わないほうがいいんじゃない?」
「大丈夫大丈夫。イザとなったら転送魔法で学園まで戻りましょ」

と、片手で簡単に捕縛魔法陣を呼び出すメル。
サラも仕方なく杖を構える。
捕縛の際にメルが攻撃されないように守護魔法を張る準備をする。

「ほ、本当にやるの?」
「ええ、新種の魔獣なら評価も上々よ。えいっ!」

メルは杖を振り下ろし魔獣に向かって捕縛魔法を発射する。

ピイイイイン

捕縛魔法らしかぬ音。
銀色の毛が激しく波打ち、メルの捕縛魔法を吸収していく。

「えっ…?」

パンッ!

なにかが弾けるような音と共に、銀色の魔法が獣の全身から放射されてメルのほうへ向かってくる。

「な…は、反射!?」

サラは慌てて防御陣を貼るが、その壁はまるで濡れた紙のようにたやすく貫かれ…メルも油断していたのか、自身への対処が遅れる。

パアアアアン!

銀色の魔法がメルに炸裂した。
その瞬間、あたり一面が銀色の光に覆われ、サラは視界を失った。

---

「うっ…ようやく目が…慣れてきた」

激しい光で一時的に奪われた視界がようやく戻ってくる。
前方を見れば、あの見慣れない獣はあっという間に逃げ出したのか、姿は見当たらない。そして…。

「メ…メル?」

メルの姿もなかった。
彼女の立っていたはずの場所には誰もいない。

「が…外套…だけ?メル…ど…どこにいったの…?」

彼女の羽織っていたマントを拾い上げる。
彼女の持っていた杖や持ち物は他に見当たらない。

「…ん…?これって」

羽織ったときに胸のあたりに来る部分に、手のひらサイズの刺繍が着いていたのだ。
その刺繍はメルをモチーフにしているのか、彼女の顔に似ていた。
メルの外套にこんなもの、着いていただろうか…。

「…いけない、こんなことをしている場合じゃないわ。メルを探さないと…、それとも学園に報告するほうが先…?」

サラは少し戸惑ったが、ひとまずその外套を身につけることにした。
彼女の持ち物ではあるが、あいにくしまえるようなカバンを持ってきていない。
外套が身体を包んだ瞬間、サラに不思議な声が聞こえてきたのだ。

(サラ…サラ…。助けて、お願い…)

「め、メル!?ど、どこにいるの?」

(胸…胸のところ)

「へ?…胸?」

着込んだ外套を見下ろしてみる。
そこには彼女をかたどった刺繍。

(私…私はここよ)

「えええ?」

---

「だ、駄目。解呪できないわ」

獣が放った銀色の魔法。
メルが言うには、メルが唱えた捕縛魔法を獣が吸収して反射した結果、捕縛の性質を改竄されした新種の変化魔法となったのだという。
気がつけば彼女は身動き一つできないアップリケとして、自身が着ていた外套に縫い込まれてしまっていた。

外套を木の枝に吊るして思いつく限り、できる限りの解呪魔法を詠唱してアップリケにぶつけるが、メルは元に戻る気配がない。
一旦解呪を諦めて、外套を身につける。
外套のアップリケとなってしまったメルの声は、外套を着込まないと聞くことができないようだ。

(…駄目みたいね。学園に戻って解呪専門の先生に頼みましょう)
「そ、そうね」

サラは先程から外套を着るたびに不思議な感覚を感じていた。
なにかこう、周囲のマナの動きがわかる…。そして身体に宿る魔力の質が数段あがっているような。
サラはメルに聞こえないよう、こっそりと鑑定魔法を詠唱した。
対象はアップリケになったメル。

(えっ…これ…すごい…)

魔力補正+S
魔力品質+S
威力補正+S
魔力隠蔽+S
………
……

魔力耐性+S
精神感応

ずらり、と並ぶ一級品の補正能力。
普通の魔道具にはありえないほどの補正がある。
そして最後に記載された精神感応能力。これでメルとの念話ができるのだろう。
それに…。

(魔力耐性+S…多分メルが元に戻れないのはこのせいね)

メルが持つ資質がそのまま魔道具の能力として現れてしまった為に、メルは元の姿に戻ることができないのだ。
これだけの力に打ち勝つには学園の教師では荷が重いだろう。

(魔力隠蔽+S…。生半可な反応検知なら無効化できそうね)

サラの心のなかに黒い気持ちが生まれていく。
卒業試験では不正防止のために教師がディテクト魔法で魔道具を持ち込ませないようになっている。
だが、これなら。

メルはサラの考え込む様子を不審に感じる。

(サラ?どうしたの?)
「うふふ…。うふふ…」

サラはメルからの念話を無視する。
傍目から見てもタダの飾りに見えるアップリケ。
装着者でなければ彼女と念話ができない。
つまり、「これ」がメルだと気がつく者は…皆無なのだ。

そしてこの「魔道具」を使えば。
卒業試験なんて取るに足らない通過点となる。
王国魔道士なんて目じゃなく、その部隊の頂点…魔導隊長すら視野に入る。

「うふふ、そうよ。そうよね」

彼女が行方不明になったことにしてしまえばいい。
謎の魔獣に会い、彼女は攫われ、私は決死の状態で逃げてきた、と。

「うふふ…うふふ…」
(サラ………?)

サラはふらふらと歩き出した。

---

あれから1週間。
魔獣討伐部隊が中央から派遣され、新獣の発見には至らなかったがその痕跡が認められ、メルはその魔獣との戦闘中に行方不明、ということが報告書として提出された。
これで公式にメルを表舞台から姿を消すことができた。

(サラ。悪いことは言わない。こんなことは止めなさい…)

頭に響いてくるメルの声を無視して、サラは魔法自習室の中央に立つ。胸の部分につけられたメル…アップリケを軽く撫でる。

「"これ"され…あれば」

この外套自体は学園生徒共通のものだ。
サラがメルの外套を着ていることには誰も気が付かない。

「光よ…集え」

軽く唱えた魔法。
今までにない量の光が指に圧縮されていく。

(んっ…!)

頭の中にメルの少し呻くような声が響く。
押し殺したようなその声はなにかに耐えているようだ。
サラはその声も無視してさらに魔力を高めていく。

(ああっ…あああ!)

魔力の高まりとともにメルの声も大きくなっていく。

「光よ…穿け!」
(んんんっ…あああああああ!!!!!)

バシュ、という破裂音とともに指先から細く、鋭い光線が発射された。
その光は遠く離れた的の中央を軽々と撃ち抜いた。

「すごい…こんなに強くて正確な魔法…」
(はぁ…はぁ…)

メルの息遣いが聞こえてくる。
もちろん、サラの頭の中だけにだが。

(な、なんなの…この……)

どうやら魔道具として使われると彼女の意識に快感が奔るようだ。
改めて鑑定をしてみるが、魔道具の効果に劣化は見られなかった。

「すごいわ。使いたい放題じゃない」
(や…やめて…サラ…)

光線を何度も何度も、的へ向かって放つ。
バスンバスン、と景気のいい音と同時にメルの喘ぎ声が響き渡る。

「うふふ、いいじゃない。使うとメルに性的な快感に襲われるっぽいけど…
たったそれだけのリスクだなんて。実質使い放題の魔道具じゃない」
(さ、サラ…お願い…こんな馬鹿なことは止めて。人を魔道具のままにしておくなんて)
「ただ、五月蝿いのがちょっとキズね。念話妨害の魔道具でも探そうかしら…」

さらに何度か魔法を使い続けるサラ。
最後に大きくはなった火炎魔法。
その快感にメルは耐えられずひときわ高い声を上げ…

(……………)
「あら、気絶しちゃった?」

どうやらメルが快感に耐えきれず、その意識をシャットダウンしてしまったようだ。
どれだけ呼びかけても反応がない。
そして…その瞬間、身体をブーストしていた魔道具の効果が霧散した。

「………なるほど。メルの意識が切れちゃうと魔道具としては無力になってしまうわけね。この状態で解呪魔法を唱えれば元の姿に戻りそうだけど」

もちろん、そんなことはしない。
私はこれを使ってのしあがる必要があるのだ。
メルには悪いけど、私のための道具となってもらおう。

「うふふ、まあそのかわり気絶するほどの快感をずっと感じられるんだもの。いいんじゃないかしら?」

サラはニヤリ、と笑った。



イラストは@plushifications (ぷらさん)に頂きました。
毎回ありがとうございます…!







ショートノベル


「愛梨…!」

ガラガラ、と保健室の扉を開ける。
体育の時間に急に混乱したように喋りだして倒れた、と聞いた俺は慌てて向かった。
今朝も一緒に登校したときはそんなに体調悪そうには見えなかったのに。

保健室のベッドを囲んでいるカーテンを勢いよく開けるとそこには
上のジャージを大きくあけて、そこから覗くブラジャーの上から両手でぐにぐにと、自分の胸を揉みしだいている愛梨の姿があった。

「…な…な…愛梨、なにしてるんだ?!」
「ん…?あー、おー。なるほど、お前が彼氏か?冴えない顔してるなー」

虚空を見上げてから、こちらをちらりと見て何かを思い出すようにつぶやく愛梨。
その視線はいつもの親しげで優しい目ではなく、まるで人を値踏みするようなそんな他人の目つきであった。

「お…お前は…愛梨…じゃないな…誰だ!?」
「そうだなあぁ、愛梨なんだけど愛梨じゃないんだよなあ、なんていったらいいかわからないが、俺はついさっき、トラックに轢かれたんだよ…でも気がついたらここにいたんだ」
「俺…?トラック…?」
「だけど、俺の名前は思い出せねえ…。いや、正確に言うと思い出そうとすると小凪愛梨、っていうこの身体の名前しか思い出せねえ。俺は一体誰だったのか…」

ぶつぶつ、と呟く愛梨。その内容は俺の理解を超えている。
向こうも俺の理解を必要としていないのか、言葉をドンドンまくしたてる。

「つまりー…俺の記憶はないんだよな。ただぼんやりと夢のような感じで覚えているだけで…。いまはこの身体…愛梨の脳で考えて、思い出して…うん、そういうことだな。いやしかし俺の胸でけえなあ」

そうつぶやいている間もその手を休めることなく自分の胸揉みまくる愛梨を俺はただただ眺めることしかできなかった。

ーーー

「あれ、お前まだいたの?」

保健室の前で待っていた俺に掛けられた声。
保健室の扉を開けて出てきたのは体操服から制服へ着替えた愛梨だった。

「愛梨、元に…戻ってないのか?」
「あ?戻ってるわけねえだろ。俺もどうしてこうなったかわかんねーんだし」

「ああでも愛梨の記憶は使えるからな。着たこともないはずの女子制服もこのとおり。どうだ?」

くるり、とスカートを翻すように回る愛梨。
いつもの愛梨のようにしっかりと校則を遵守した着こなし。
セーラーのスカーフもきっちり、結んでいる。

だが…。

「うっへっへ。こんな可愛い子が俺だなんてなあ」

スカートの裾を掴んで遠慮なく捲くり上げる愛梨。
そこから白の下着が露となる。
それはいつもの愛梨なら絶対しないような行為だ。

「見てくれよ、これ。なんもねえんだぜ、ビビるよなあ」
「や、やめてくれよ、愛梨」
「お?なんだ?気にならないのか?…んー?なんだよ、お前もうこの身体見てるんじゃねえか」

どうやら記憶から俺と愛梨の深い関係について引き出したようだ。下卑た顔つきの愛梨から、俺は顔を逸らす。

「まあ、いいか。いくぞおい」
「え…?いくってどこへ」
「決まってんだろ、愛梨ちゃんの教室だよ」
「お、お前…まさかなりすますつもりか」

ああん?と怪訝な顔つきをする愛梨。

「成りすますってなんだよ。俺はどこからどうみても愛梨だろうが。教師に聞いても、親に聞いても、なんなら親友のエミに聞いたって答えは同じさ」
「ぐ…」
「それにお前だって愛梨がおかしな男に乗っ取られた、なんて知られたくないだろう?愛梨ちゃんの折角の評判が下がっちゃうぜ」
「な…脅す気か」
「いやいや、そんな大袈裟な。ただ愛梨ちゃんが元に戻るまでの間、俺がちゃんと愛梨ちゃんの代わりができるようにサポートしてくれりゃあいいのさ。記憶も全部読めるわけじゃないからな。まあ、いつ元に戻るかなんてわかんねーんだけど、な」

ぐっひっひと笑う愛梨。
笑いながら、俺の腕に"いつものように"絡んでくる愛梨。

「さ、教室にもどろ?」

一転してニコリ、と笑う笑顔はいつもの愛梨と区別がつかなかった。

2019/11/18

自由に入れ替われる2人

「ちょっと!!」

ドン、と大きな音と叫び声と共に教室の扉が開く。
そこにはゼエゼエと顔を赤くしつつ息を切らせた男子生徒。

その男子生徒の視線の先には、男子生徒に混じってスマホで遊んでいる女子生徒の姿があった。ポニーテールな髪型のその少女は一般的には美少女、と呼ばれて差し支えないほどの見た目をしている。

「お、サツキ悪い悪い!休み時間にゲームするって約束だったんだけど、急にウンコ行きたくなっちゃってさあ」

サツキと呼ばれた男子学生はその汚い言葉をあっけらかんと口にする少女(ユキ)を呆れた顔で見る。
周りの男子生徒たちはそのやり取りをいつものことだと思って気にしていない。
ヒソヒソと耳元でささやくサツキ。

(いいから!早くもとに戻しなさい!)
(いまそれがさ、いいところなんだよ。休み時間終わったら戻すからさあ)

そう言いながら椅子に乱雑に座っていた足を組み直す。
そこからチラリと健康的な太ももが露出する。
男子生徒たちの視線はその一瞬を見逃さない。

(ち、ちょっと。スカートから見えちゃうから…!)
(あー。わかった、わかったよ)

女子生徒が目をつぶって何かを念じる。
その数秒後、女子生徒が再び目を開き、現状を確認すると慌ててスカートの裾や姿勢の乱れを正した。
机の上に置かれたスマホをサツキが受け取ると、引き続いてゲームを続ける。
仲間の学生たちは、ゲームを代わりにやっていたいつもののこと、と思っている。

そう、サツキと呼ばれた男子生徒と、この女子生徒。
この2人はお互いの身体を交換できてしまうのだった。

家が隣で幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた2人。
その能力に気がついたのは小学生の頃。
そして高校生になった今に至るまでその不思議な現象は続いている。

「またゲームを代わりにやってあげたの?ユキのお人好しにもここに極まれりね」
「え…うん、そ、そうね」
「いい加減ビシっと言ってあげなきゃダメよ?」

ユキは男たちの群れから離れていつもの友達のところへ戻る。
そしていつもどおりに幼馴染への苦言と愚痴を展開するのだった。
ユキがその能力に対して本気で嫌がらないのには理由がある。
実はこの能力はどちらか一方が願い、もう片方が許諾しなければ発動しない入れ替わりなのだ。
今日は入れ替わった瞬間に男子トイレでパンツをおろした状態で座っているのにはさすがに驚いたのだが。

---

(…サツキ。今日から…いい?)

その数日後の夜。
ユキはベッドに寝ている状態で願う。
入れ替わりたい、と。
その願いは隣の家の幼馴染の脳内に届く。

徳田サツキはユキのその願いを断ったことはない。
返事の声が聞こえることもなく、そのまますっと入れ替わりは完了した。
どうやらサツキはテレビを見ながら筋トレをしていたようだ。
飄々としているようで、こうした自己鍛錬を欠かしていない。
寝る気満々だったユキだが、運動しはじめたばかりの身体はその欲求が0に近い。
しかたなくユキはサツキから聞いている筋トレの内容をこなすのだった。

(ん…。ああ、もう寝るところだったのか)

一方のサツキは急に真っ暗になって、シンと静まり返った部屋で横になっていることを把握する。
部屋は十分に温まって入るが、冷え性なユキの足先は冷たい。

「まったく…靴下履けっていつもいってるのに」

クローゼットから靴下を数枚取り出して履く。
その最中にじんわりと感じめた、お腹の痛み。
これが明日にでもなれば、歩くことすら苦痛になる痛みへと発展する。

ユキはその活発な見た目とは裏腹に、身体がそこまで強くない。
…そして生理がとてつもなく辛い。
薬が効きにくい体質なのか、痛み止めを飲んでもあの状態である。
思い返すだけで憂鬱にはなるが、サツキは弱音を吐かない。
なぜならこれは約束だから。
数年前に始まった生理が辛くて辛くてベッドの中で泣いていた彼女を守るために結んだ約束だから。

ユキの辛いときにはいつでも身代わりになる。
この入れ替わりの能力を使ってもいい、俺は拒否しない。
だが、そんな一方的な犠牲の押し付けはユキは承諾しなかった。
だから代わりに俺は、いつでもユキの身体を使わせてくれ、と言った。

その成立した約束をユキは律儀に守ってくれる。
だから、どんなタイミングでも俺の入れ替わりの願いを承諾してくれる。
俺はその能力を悪用するつもりはない。まあ、たまに好きな子をいじめるような、そんないたずらを仕掛けることもあるが。プールでの入れ替わりのときは戻ったときには少し泣きそうな顔をしていた。あれは悪いことをした。

ユキもそれをわかっていて受け入れる。
俺がユキの身体で真に酷いことはしない、という信頼がそこにはある。
俺はユキが入れ替わりを躊躇しないように、良心の呵責を覚えないように適度な入れ替わりを要求する。

「うー…いたっ…」

お腹をさすりながら、ゴロリ、と回転して楽な姿勢を探す。
うーん、そうだ次の入れ替わりの時は普段ユキが着ないような服を着てみようかな。フリフリのドレスなんか意外とお人形さんみたいで可愛いんじゃないだろうか。
そんなことを考えて気を紛らわさせ、睡眠に入るのだった。

2019/11/12

特攻スキル

俺はどうやら死んだらしい。
真っ白な地面とどこまでも続く地平線。
空も雲ひとつない、それどころか太陽も見当たらない…だが明るい。

そして目の前には面積の少ない服…というより布をまとった少女。
なんだろう、ここはあの世なのだろうか。

「失礼ですね。ここは私の部屋であり、そして転生の間でもあるんですよ」

そうかい。
で、俺はいったいどうなったんだ?死んだのか?

「ええ、あなたは数分前に死亡しました。ただ転生の抽選に当たりましたので」

転生。
本当にあるとは思わなかった。漫画とか小説の中だけの話だと思ってたぜ。

「ええ、ただしこれから転生する先は色々問題を抱えている世界です」

それを俺になんとかしろと?
ただの高校生だった俺に?

「もちろんスキルは差し上げますよ。好きなスキルを選んでください」

ほう。俗に言うチートスキルというやつかな。
何があるんだ?

「特攻スキルがありますね」

特攻?

「あなたの世界で言うカミカゼ的なものではなくて、条件を満たすと問答無用で倒せるスキルです」

なるほど。どんな特攻があるのだ?

「対カエル・石化特攻とかどうです?」

カエル。
転生先にもカエルという種が存在するのか。

「どの世界もだいたいテンプレから作成されていますからね。下手に尖った生物を作るとすぐ世界が壊れてしまうので…」

なんだそれは。
というかそんな対カエル・石化特攻って制限きつくないか?

「でも問答無用で、触っただけで石化させられますよ。カエル化魔法を持った冒険者と組めば無双ができるでしょう」

…いや。どうせ魔王とかその幹部は耐性もってたりするんだろう?

「…そうですか。ではこれはどうでしょう。対寄生・即死特攻」

寄生虫とか、人に憑依する幽霊に聞くのか?

「いえ、寄生されている生物に効きます」

うん、だめでしょ。

「虫を操る冒険者と組めば…」

そんな漫画の中盤に出てくる能力者みたいな冒険者嫌だよ。
燃やされたり、毒を散布されて虫が使えなくなるのは予想できる。
というかロクな能力がないな。もっとマシなのないのか?

「私はニッチなファンデッキを作るのが好きでして」

知らねえよ。
俺の第2の人生、そんな奇抜なコンボデッキにしないでくれ。

「最近は万能能力より、尖った能力を渡すのが女神の間でブームなんですよ」

…。
女神は人を転生させて別の世界の問題を解決させるのが仕事なのか?

「どちらかというと娯楽ですかね。世界を作りすぎて問題が山積みなんですがこうするとうまく解決できるかもーって」

…もういいよ。
次の能力を教えてくれ。

結局、女神から最後まで隠し持っていた「敵のスキルをコピーする」という能力を奪い取るようにして俺は転生したのだった。

---

パッと世界が変わる。
白一色だった世界は緑が生い茂る草原に変わった。
その瞬間に殺気を感じて俺はかわす。

1人の小さな幼女が俺の脇を駆け抜けていく。
その手には小さなナイフ。脇腹を少しかすめたその刃が、皮膚の表面、その薄皮を切り裂く。白いシャツが薄っすらと赤く染まった。
交わされた幼女はこちらを向き直ると腰に挿していた太刀を引き抜く。
その佇まいはまるで達人のように見える。平和な世界の高校生だった俺では勝てる気がしない…が。

「コピー・スキル!」

その瞬間、俺の目の前と少女と同じスキルが備わっていく。
剣術【達人】、瞬足、気配察知【上級】、回避【上級】
…よく初撃を躱せたな、俺。
いや、スキルレベルは十分高いように見えるけども、どうやらチート的なスキルは持っていないようだ。
落ちていた棒きれを拾って構える。
幼女が信じられないといった表情でこちらを見ていた。
そりゃ驚くだろうな。
一刺しでいけると思った相手が急に自分と同レベルの達人になったのだから。

研ぎ澄まされた感覚が幼女以外の気配を察知する。
幼女に対して太刀を向けつつ、後ろを振り向いた。

「新しい転生者かな?うかつだったね」

その男と目を合わせた瞬間、俺の身体はピクリとも動かなくなった。
見ただけで麻痺…?こんなチートスキルあるのか!?

「いやぁ、こんなスキル押し付けられた時はどうなるかと思ったけど、意外と使いみちがあるんだよねえ」

こいつも転生者…?

「ちなみに君、詰んでるから」

はっ…?
まさか…この傷?

目の視線だけをなんとか下へ向ける。
そこには信じられない光景があった。
高校生男子の平均並にあったはずの筋肉は消え失せ、ほっそりとした枝のような頼りない腕、骨と皮だけになってしまったような胸板。
それどころではない。
膝下までしか伸びていなかった草原の草は腰辺りまで伸びている…。
草が成長したのではない。自分の身長が現在進行系で縮んでいっているのだった。

「"妹化のナイフ"」

目の前の幼女がポツリと呟く。
…何そのふざけた名前。

「このナイフで切られた人間は、幼い少女に変化する。体格の適正化及び筋力の低下。そして"妹"属性の付与」

妹属性…?

「そして僕の能力。対妹・洗脳特攻」

は?

「妹属性を持った生物に対して、最優先の洗脳をかけることができるんだ」

普段なら使えなさすぎるスキルで一笑に付すところだが。
…見事にそのコンボは俺に刺さってしまっている。

「いやーこの世界に来て最初のダンジョンでそのナイフを見つけてね。手っ取り早くこの国の歴戦の将軍を妹にして、こうして新たに来る転生者を張ってたんだ。使えそうな能力を持ったやつがいたら手に入れるためにね…。で、君の能力は?」

…誰が答えるもんかよ。

「…"敵のスキルをコピーする"…です」

幼くなった声が、自分の口から勝手に発せられた。

「あはは。君が"妹"である以上、君の意思より僕の命令が優先されるからね。しかし使い勝手がありそうなスキルだね。あの女神、使えるスキルもってるじゃないか。採用」

採用…?

「そう、採用。今日から君は僕のパーティのメンバーだ。名前は…そうだな。リリィにしようか。君にナイフを刺したその子の名前はメルル…前はなんだっけオルランドゥとかごつい名前だったけど。そうだな。俺を兄、メルルを姉として認識しなさい」

「はい…お兄ちゃん。…メルルお姉ちゃん」

口が勝手に動き、身体も勝手に戦闘態勢を解いて、目の前の男に対して寄り添うように抱きついてしまう。
俺は必死にその目の前の男のスキル「対妹・洗脳特攻」をコピーして、使用してみるが…。
「妹」にしか効かないスキルは目の前の男にはもちろんのこと、姉として認識された"メルル"にも通用しないのだった。

「こら、勝手にスキルを使わない。お兄ちゃんが使ってもいい、っていうとき以外は使わないように」
「はーい、お兄ちゃん」

こうして俺の冒険は終了した。

2019/11/09

至高のコレクションを求めて

あるところに、とてもとてもおしゃれ好きな魔女がおりました。
彼女は美しく、そして可愛い服を魔法で生み出していきます。

しかし、彼女は悩みに囚われてしまいます。
自分の頭の中にある服のイメージを全て出し切ってしまったのです。
どれだけ頑張って生み出しても、今までに出したことがあるような服ばかり。

その悩みは日に日に増していきます。
もっと魅力的な、もっと綺麗な服が欲しい。
誰もが羨むような服を生み出したい。
魔女はたまらず森から飛び出しました。
数百年ぶりに城下町の上空を飛び回ります。

みんなが着ている服はどれも同じような既製品でした。
年月がたったことで大量に同じような衣服が出回るようなっていたのでした。
たまに見かけるお金持ちの貴族が着ている服も、彼女から見れば平凡で取るに足らないゴミにしか見えないのでした。

ですが、魔女は気がついてしまったのです。
平凡な服を着ているだけの女性たちがとても輝いていることに。

魔女は街のハズレで洗濯をしている女性に目をつけます。
質素な服でところどころにはほつれがある服を着て、家事をこなしている姿。
服はみすぼらしいけど、やはり彼女はとても輝いて見えました。

魔女はつい我慢できずに、魔法を唱えます。
その対象はもちろん家事をしている女性。

きらきらと輝く光の塵が、彼女の周りを取り囲みます。
家事に集中していた彼女はその異変にようやく気が付きます。
いや、もしかしたらただのホコリと思ったかもしれません。

彼女がその光の塵に手を伸ばそうとした瞬間、その場から彼女が跡形もなく消えたのでした。
消えた彼女の代わりに地面に落ちたのは、鮮やかな赤い色のドレスでした。

魔女は地面に降り立ち、その赤いドレスを拾い上げます。
ドレスの形も、施された装飾もとてもとても満足がいくものでした。
赤いドレスが震えたように見えました。
いえ、もしかしたらただの風だったかもしれません。

魔女はその赤いドレスを腰にぶら下げていた小さな袋の中にしまいます。
その小さな袋は魔女の部屋にあるクローゼットにつながっています。
赤いドレスは彼女のコレクションの1つとなり、ラックに吊るされることになったのでした。

魔女はその場を立ち去ります。
残されたのは彼女の家事に使っていた道具だけ。
母屋のほうから女性の名を呼ぶ幼い男の子の声が聞こえますが、魔女はそんなことに興味はありません。
魔女は誰にも見られること無く、再び空に舞い上がりました。

次に目をつけたのは酒場の準備をしている若い女性でした。
仕事を終えた人たちを迎えるためにせっせと机を吹いたりしています。
魅力的に見えた彼女を魔女はためらいなく魔法を掛けます。

女性の姿があっという間に綺麗な青のスカートへ姿を変えました。
その青は魔女が今まで生み出したものより遥かに美しい色だったのでした。
魔女は満足そうにそのスカートを袋へ放り込みます。

「きゃ、きゃあああああああ!!」

おっといけない。
夢中になりすぎて誰かに見つかってしまったようです。
振り向けばカウンターの奥から驚いた顔で見ている女性がいました。
どうやらこの酒場のもうひとりの従業員のようです。

魔女はため息を付きます。
魔女にはその女性が魅力的には見えませんでした。
実際、その女性は先程の彼女に対して辛辣にあたり、イジメるようにこき使っていたのでした。
しかし見られたからには仕方がありません。
魔女は適当に杖を振り彼女に魔法をかけます。
ポトリ、女性がいた場所に落ちたのは汚い雑巾でした。

魔女はその雑巾をふわり、と魔法で浮かせると魔法をかけます。
こんなものはコレクションに必要ありません、でも無駄にするわけにもいきません。
雑巾はどこかの家庭の台所へワープしていきました。
魔女は満足気に頷きます。
これで彼女も新しい仕事に全うできるでしょう。
擦り切れ、破れてゴミとして捨てられるその時まで。

魔女は移動魔法を唱えます。
次の素敵な服を探しに行くために。

2019/11/03

失われている日常2

奈那に私の立場と姿を乗っ取られ、
私は小学5年生の少女という存在に改変された。
ご丁寧に彼女の"妹"という属性付きで。

2019/11/01

【Booth】冒険者が魔物の身体にされてしまったお話

(え…でない?)

無詠唱で念じるだけで発動するはずの魔法がでなかった。
殴られたせいでまだ精神集中できていないだろうか。
しかたなくリリアは手を掲げ、呪文を詠唱しようとして…

「ウキ…ウギッ!?」

その視界に映った自身の手、そして人語からかけ離れた鳴き声を聞くこととなったのだった。
腕にびっしりと生えた短い毛、そして人とは違う、木を掴むような動作に特化した長い手のひらと短い指はシワだらけだった。

リリアは自身を見下ろす。
つい最近、買ったばかりの魔力の込められた衣装は姿かたちもなくなっていた。
そこにあるのは腕に生えたものとおなじような茶色の短い獣毛で覆われた身体。
よくよく周りを見回してみれば森の背丈が高くなっている。
…いやこれは自分の背が小さくなっているのだ。
意識をお尻にやってみれば、長い尻尾が生えており、自分の意志とは関係なくゆらゆらとゆれているのがわかった。

リリアはそこで察する。

(私…ワイルドコングになっている!?)

支援はこちらから!
https://dnstory.booth.pm/items/1652444

2019/10/22

魔法少女の身体がぬいぐるみになってしまって負けた話(終)

さんに頂いた絵を追加しました。

 毎日、毎日変わらない景色。
窓すら見えないこの位置は、夏がきても冬がきても特段変わらない。
たまに店の奥の方まで見に来た物好きな客の服装から季節を判別できるだけ。

たまたま見かけた店員さんのカレンダーから、私が人形となって50年以上たっていることがわかった。
…私も中々にしぶといものだ。

こんな人形にならなかったら今頃私はどうしていただろうか。
魔法少女は…多分引退してたよね。
卒業して、高校や大学へ通って…もしかしたら結婚して子供ができて…孫が生まれていたかもしれない。