Author : danna (だんな) / danna_story
状態変化、TSF、獣化の片隅にひっそり生きてます。
作品の感想は各エントリーのコメント欄にお願いいたします。返事をお約束するものではありませんが、必ず目を通しております。
本サイトで公開されている小説の無断の公開、翻訳は許可しておりません。かならず一言事前にご連絡ください。

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[7月の作品] 憧れの少女のすべてを奪い取った結果 Booth
[8月の作品] ある日を境に訪れた、身体だけが徐々に入れ替わっていくお話 Booth
[9月の作品] 健康診断でレンタルボディ Booth
[10月の作品] 白い部屋 Booth
[11月の作品] 冒険者が魔物の身体にされてしまったお話 Booth
Boostしてお買い上げいただいた支援者の方にはここで厚くお礼申し上げます。

2019/11/18

自由に入れ替われる2人

「ちょっと!!」

ドン、と大きな音と叫び声と共に教室の扉が開く。
そこにはゼエゼエと顔を赤くしつつ息を切らせた男子生徒。

その男子生徒の視線の先には、男子生徒に混じってスマホで遊んでいる女子生徒の姿があった。ポニーテールな髪型のその少女は一般的には美少女、と呼ばれて差し支えないほどの見た目をしている。

「お、サツキ悪い悪い!休み時間にゲームするって約束だったんだけど、急にウンコ行きたくなっちゃってさあ」

サツキと呼ばれた男子学生はその汚い言葉をあっけらかんと口にする少女(ユキ)を呆れた顔で見る。
周りの男子生徒たちはそのやり取りをいつものことだと思って気にしていない。
ヒソヒソと耳元でささやくサツキ。

(いいから!早くもとに戻しなさい!)
(いまそれがさ、いいところなんだよ。休み時間終わったら戻すからさあ)

そう言いながら椅子に乱雑に座っていた足を組み直す。
そこからチラリと健康的な太ももが露出する。
男子生徒たちの視線はその一瞬を見逃さない。

(ち、ちょっと。スカートから見えちゃうから…!)
(あー。わかった、わかったよ)

女子生徒が目をつぶって何かを念じる。
その数秒後、女子生徒が再び目を開き、現状を確認すると慌ててスカートの裾や姿勢の乱れを正した。
机の上に置かれたスマホをサツキが受け取ると、引き続いてゲームを続ける。
仲間の学生たちは、ゲームを代わりにやっていたいつもののこと、と思っている。

そう、サツキと呼ばれた男子生徒と、この女子生徒。
この2人はお互いの身体を交換できてしまうのだった。

家が隣で幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた2人。
その能力に気がついたのは小学生の頃。
そして高校生になった今に至るまでその不思議な現象は続いている。

「またゲームを代わりにやってあげたの?ユキのお人好しにもここに極まれりね」
「え…うん、そ、そうね」
「いい加減ビシっと言ってあげなきゃダメよ?」

ユキは男たちの群れから離れていつもの友達のところへ戻る。
そしていつもどおりに幼馴染への苦言と愚痴を展開するのだった。
ユキがその能力に対して本気で嫌がらないのには理由がある。
実はこの能力はどちらか一方が願い、もう片方が許諾しなければ発動しない入れ替わりなのだ。
今日は入れ替わった瞬間に男子トイレでパンツをおろした状態で座っているのにはさすがに驚いたのだが。

---

(…サツキ。今日から…いい?)

その数日後の夜。
ユキはベッドに寝ている状態で願う。
入れ替わりたい、と。
その願いは隣の家の幼馴染の脳内に届く。

徳田サツキはユキのその願いを断ったことはない。
返事の声が聞こえることもなく、そのまますっと入れ替わりは完了した。
どうやらサツキはテレビを見ながら筋トレをしていたようだ。
飄々としているようで、こうした自己鍛錬を欠かしていない。
寝る気満々だったユキだが、運動しはじめたばかりの身体はその欲求が0に近い。
しかたなくユキはサツキから聞いている筋トレの内容をこなすのだった。

(ん…。ああ、もう寝るところだったのか)

一方のサツキは急に真っ暗になって、シンと静まり返った部屋で横になっていることを把握する。
部屋は十分に温まって入るが、冷え性なユキの足先は冷たい。

「まったく…靴下履けっていつもいってるのに」

クローゼットから靴下を数枚取り出して履く。
その最中にじんわりと感じめた、お腹の痛み。
これが明日にでもなれば、歩くことすら苦痛になる痛みへと発展する。

ユキはその活発な見た目とは裏腹に、身体がそこまで強くない。
…そして生理がとてつもなく辛い。
薬が効きにくい体質なのか、痛み止めを飲んでもあの状態である。
思い返すだけで憂鬱にはなるが、サツキは弱音を吐かない。
なぜならこれは約束だから。
数年前に始まった生理が辛くて辛くてベッドの中で泣いていた彼女を守るために結んだ約束だから。

ユキの辛いときにはいつでも身代わりになる。
この入れ替わりの能力を使ってもいい、俺は拒否しない。
だが、そんな一方的な犠牲の押し付けはユキは承諾しなかった。
だから代わりに俺は、いつでもユキの身体を使わせてくれ、と言った。

その成立した約束をユキは律儀に守ってくれる。
だから、どんなタイミングでも俺の入れ替わりの願いを承諾してくれる。
俺はその能力を悪用するつもりはない。まあ、たまに好きな子をいじめるような、そんないたずらを仕掛けることもあるが。プールでの入れ替わりのときは戻ったときには少し泣きそうな顔をしていた。あれは悪いことをした。

ユキもそれをわかっていて受け入れる。
俺がユキの身体で真に酷いことはしない、という信頼がそこにはある。
俺はユキが入れ替わりを躊躇しないように、良心の呵責を覚えないように適度な入れ替わりを要求する。

「うー…いたっ…」

お腹をさすりながら、ゴロリ、と回転して楽な姿勢を探す。
うーん、そうだ次の入れ替わりの時は普段ユキが着ないような服を着てみようかな。フリフリのドレスなんか意外とお人形さんみたいで可愛いんじゃないだろうか。
そんなことを考えて気を紛らわさせ、睡眠に入るのだった。

2019/11/12

特攻スキル

俺はどうやら死んだらしい。
真っ白な地面とどこまでも続く地平線。
空も雲ひとつない、それどころか太陽も見当たらない…だが明るい。

そして目の前には面積の少ない服…というより布をまとった少女。
なんだろう、ここはあの世なのだろうか。

「失礼ですね。ここは私の部屋であり、そして転生の間でもあるんですよ」

そうかい。
で、俺はいったいどうなったんだ?死んだのか?

「ええ、あなたは数分前に死亡しました。ただ転生の抽選に当たりましたので」

転生。
本当にあるとは思わなかった。漫画とか小説の中だけの話だと思ってたぜ。

「ええ、ただしこれから転生する先は色々問題を抱えている世界です」

それを俺になんとかしろと?
ただの高校生だった俺に?

「もちろんスキルは差し上げますよ。好きなスキルを選んでください」

ほう。俗に言うチートスキルというやつかな。
何があるんだ?

「特攻スキルがありますね」

特攻?

「あなたの世界で言うカミカゼ的なものではなくて、条件を満たすと問答無用で倒せるスキルです」

なるほど。どんな特攻があるのだ?

「対カエル・石化特攻とかどうです?」

カエル。
転生先にもカエルという種が存在するのか。

「どの世界もだいたいテンプレから作成されていますからね。下手に尖った生物を作るとすぐ世界が壊れてしまうので…」

なんだそれは。
というかそんな対カエル・石化特攻って制限きつくないか?

「でも問答無用で、触っただけで石化させられますよ。カエル化魔法を持った冒険者と組めば無双ができるでしょう」

…いや。どうせ魔王とかその幹部は耐性もってたりするんだろう?

「…そうですか。ではこれはどうでしょう。対寄生・即死特攻」

寄生虫とか、人に憑依する幽霊に聞くのか?

「いえ、寄生されている生物に効きます」

うん、だめでしょ。

「虫を操る冒険者と組めば…」

そんな漫画の中盤に出てくる能力者みたいな冒険者嫌だよ。
燃やされたり、毒を散布されて虫が使えなくなるのは予想できる。
というかロクな能力がないな。もっとマシなのないのか?

「私はニッチなファンデッキを作るのが好きでして」

知らねえよ。
俺の第2の人生、そんな奇抜なコンボデッキにしないでくれ。

「最近は万能能力より、尖った能力を渡すのが女神の間でブームなんですよ」

…。
女神は人を転生させて別の世界の問題を解決させるのが仕事なのか?

「どちらかというと娯楽ですかね。世界を作りすぎて問題が山積みなんですがこうするとうまく解決できるかもーって」

…もういいよ。
次の能力を教えてくれ。

結局、女神から最後まで隠し持っていた「敵のスキルをコピーする」という能力を奪い取るようにして俺は転生したのだった。

---

パッと世界が変わる。
白一色だった世界は緑が生い茂る草原に変わった。
その瞬間に殺気を感じて俺はかわす。

1人の小さな幼女が俺の脇を駆け抜けていく。
その手には小さなナイフ。脇腹を少しかすめたその刃が、皮膚の表面、その薄皮を切り裂く。白いシャツが薄っすらと赤く染まった。
交わされた幼女はこちらを向き直ると腰に挿していた太刀を引き抜く。
その佇まいはまるで達人のように見える。平和な世界の高校生だった俺では勝てる気がしない…が。

「コピー・スキル!」

その瞬間、俺の目の前と少女と同じスキルが備わっていく。
剣術【達人】、瞬足、気配察知【上級】、回避【上級】
…よく初撃を躱せたな、俺。
いや、スキルレベルは十分高いように見えるけども、どうやらチート的なスキルは持っていないようだ。
落ちていた棒きれを拾って構える。
幼女が信じられないといった表情でこちらを見ていた。
そりゃ驚くだろうな。
一刺しでいけると思った相手が急に自分と同レベルの達人になったのだから。

研ぎ澄まされた感覚が幼女以外の気配を察知する。
幼女に対して太刀を向けつつ、後ろを振り向いた。

「新しい転生者かな?うかつだったね」

その男と目を合わせた瞬間、俺の身体はピクリとも動かなくなった。
見ただけで麻痺…?こんなチートスキルあるのか!?

「いやぁ、こんなスキル押し付けられた時はどうなるかと思ったけど、意外と使いみちがあるんだよねえ」

こいつも転生者…?

「ちなみに君、詰んでるから」

はっ…?
まさか…この傷?

目の視線だけをなんとか下へ向ける。
そこには信じられない光景があった。
高校生男子の平均並にあったはずの筋肉は消え失せ、ほっそりとした枝のような頼りない腕、骨と皮だけになってしまったような胸板。
それどころではない。
膝下までしか伸びていなかった草原の草は腰辺りまで伸びている…。
草が成長したのではない。自分の身長が現在進行系で縮んでいっているのだった。

「"妹化のナイフ"」

目の前の幼女がポツリと呟く。
…何そのふざけた名前。

「このナイフで切られた人間は、幼い少女に変化する。体格の適正化及び筋力の低下。そして"妹"属性の付与」

妹属性…?

「そして僕の能力。対妹・洗脳特攻」

は?

「妹属性を持った生物に対して、最優先の洗脳をかけることができるんだ」

普段なら使えなさすぎるスキルで一笑に付すところだが。
…見事にそのコンボは俺に刺さってしまっている。

「いやーこの世界に来て最初のダンジョンでそのナイフを見つけてね。手っ取り早くこの国の歴戦の将軍を妹にして、こうして新たに来る転生者を張ってたんだ。使えそうな能力を持ったやつがいたら手に入れるためにね…。で、君の能力は?」

…誰が答えるもんかよ。

「…"敵のスキルをコピーする"…です」

幼くなった声が、自分の口から勝手に発せられた。

「あはは。君が"妹"である以上、君の意思より僕の命令が優先されるからね。しかし使い勝手がありそうなスキルだね。あの女神、使えるスキルもってるじゃないか。採用」

採用…?

「そう、採用。今日から君は僕のパーティのメンバーだ。名前は…そうだな。リリィにしようか。君にナイフを刺したその子の名前はメルル…前はなんだっけオルランドゥとかごつい名前だったけど。そうだな。俺を兄、メルルを姉として認識しなさい」

「はい…お兄ちゃん。…メルルお姉ちゃん」

口が勝手に動き、身体も勝手に戦闘態勢を解いて、目の前の男に対して寄り添うように抱きついてしまう。
俺は必死にその目の前の男のスキル「対妹・洗脳特攻」をコピーして、使用してみるが…。
「妹」にしか効かないスキルは目の前の男にはもちろんのこと、姉として認識された"メルル"にも通用しないのだった。

「こら、勝手にスキルを使わない。お兄ちゃんが使ってもいい、っていうとき以外は使わないように」
「はーい、お兄ちゃん」

こうして俺の冒険は終了した。

2019/11/09

至高のコレクションを求めて

あるところに、とてもとてもおしゃれ好きな魔女がおりました。
彼女は美しく、そして可愛い服を魔法で生み出していきます。

しかし、彼女は悩みに囚われてしまいます。
自分の頭の中にある服のイメージを全て出し切ってしまったのです。
どれだけ頑張って生み出しても、今までに出したことがあるような服ばかり。

その悩みは日に日に増していきます。
もっと魅力的な、もっと綺麗な服が欲しい。
誰もが羨むような服を生み出したい。
魔女はたまらず森から飛び出しました。
数百年ぶりに城下町の上空を飛び回ります。

みんなが着ている服はどれも同じような既製品でした。
年月がたったことで大量に同じような衣服が出回るようなっていたのでした。
たまに見かけるお金持ちの貴族が着ている服も、彼女から見れば平凡で取るに足らないゴミにしか見えないのでした。

ですが、魔女は気がついてしまったのです。
平凡な服を着ているだけの女性たちがとても輝いていることに。

魔女は街のハズレで洗濯をしている女性に目をつけます。
質素な服でところどころにはほつれがある服を着て、家事をこなしている姿。
服はみすぼらしいけど、やはり彼女はとても輝いて見えました。

魔女はつい我慢できずに、魔法を唱えます。
その対象はもちろん家事をしている女性。

きらきらと輝く光の塵が、彼女の周りを取り囲みます。
家事に集中していた彼女はその異変にようやく気が付きます。
いや、もしかしたらただのホコリと思ったかもしれません。

彼女がその光の塵に手を伸ばそうとした瞬間、その場から彼女が跡形もなく消えたのでした。
消えた彼女の代わりに地面に落ちたのは、鮮やかな赤い色のドレスでした。

魔女は地面に降り立ち、その赤いドレスを拾い上げます。
ドレスの形も、施された装飾もとてもとても満足がいくものでした。
赤いドレスが震えたように見えました。
いえ、もしかしたらただの風だったかもしれません。

魔女はその赤いドレスを腰にぶら下げていた小さな袋の中にしまいます。
その小さな袋は魔女の部屋にあるクローゼットにつながっています。
赤いドレスは彼女のコレクションの1つとなり、ラックに吊るされることになったのでした。

魔女はその場を立ち去ります。
残されたのは彼女の家事に使っていた道具だけ。
母屋のほうから女性の名を呼ぶ幼い男の子の声が聞こえますが、魔女はそんなことに興味はありません。
魔女は誰にも見られること無く、再び空に舞い上がりました。

次に目をつけたのは酒場の準備をしている若い女性でした。
仕事を終えた人たちを迎えるためにせっせと机を吹いたりしています。
魅力的に見えた彼女を魔女はためらいなく魔法を掛けます。

女性の姿があっという間に綺麗な青のスカートへ姿を変えました。
その青は魔女が今まで生み出したものより遥かに美しい色だったのでした。
魔女は満足そうにそのスカートを袋へ放り込みます。

「きゃ、きゃあああああああ!!」

おっといけない。
夢中になりすぎて誰かに見つかってしまったようです。
振り向けばカウンターの奥から驚いた顔で見ている女性がいました。
どうやらこの酒場のもうひとりの従業員のようです。

魔女はため息を付きます。
魔女にはその女性が魅力的には見えませんでした。
実際、その女性は先程の彼女に対して辛辣にあたり、イジメるようにこき使っていたのでした。
しかし見られたからには仕方がありません。
魔女は適当に杖を振り彼女に魔法をかけます。
ポトリ、女性がいた場所に落ちたのは汚い雑巾でした。

魔女はその雑巾をふわり、と魔法で浮かせると魔法をかけます。
こんなものはコレクションに必要ありません、でも無駄にするわけにもいきません。
雑巾はどこかの家庭の台所へワープしていきました。
魔女は満足気に頷きます。
これで彼女も新しい仕事に全うできるでしょう。
擦り切れ、破れてゴミとして捨てられるその時まで。

魔女は移動魔法を唱えます。
次の素敵な服を探しに行くために。

2019/11/03

失われている日常2

奈那に私の立場と姿を乗っ取られ、
私は小学5年生の少女という存在に改変された。
ご丁寧に彼女の"妹"という属性付きで。

2019/11/01

【Booth】冒険者が魔物の身体にされてしまったお話

(え…でない?)

無詠唱で念じるだけで発動するはずの魔法がでなかった。
殴られたせいでまだ精神集中できていないだろうか。
しかたなくリリアは手を掲げ、呪文を詠唱しようとして…

「ウキ…ウギッ!?」

その視界に映った自身の手、そして人語からかけ離れた鳴き声を聞くこととなったのだった。
腕にびっしりと生えた短い毛、そして人とは違う、木を掴むような動作に特化した長い手のひらと短い指はシワだらけだった。

リリアは自身を見下ろす。
つい最近、買ったばかりの魔力の込められた衣装は姿かたちもなくなっていた。
そこにあるのは腕に生えたものとおなじような茶色の短い獣毛で覆われた身体。
よくよく周りを見回してみれば森の背丈が高くなっている。
…いやこれは自分の背が小さくなっているのだ。
意識をお尻にやってみれば、長い尻尾が生えており、自分の意志とは関係なくゆらゆらとゆれているのがわかった。

リリアはそこで察する。

(私…ワイルドコングになっている!?)

支援はこちらから!
https://dnstory.booth.pm/items/1652444

2019/10/22

魔法少女の身体がぬいぐるみになってしまって負けた話(終)

さんに頂いた絵を追加しました。

 毎日、毎日変わらない景色。
窓すら見えないこの位置は、夏がきても冬がきても特段変わらない。
たまに店の奥の方まで見に来た物好きな客の服装から季節を判別できるだけ。

たまたま見かけた店員さんのカレンダーから、私が人形となって50年以上たっていることがわかった。
…私も中々にしぶといものだ。

こんな人形にならなかったら今頃私はどうしていただろうか。
魔法少女は…多分引退してたよね。
卒業して、高校や大学へ通って…もしかしたら結婚して子供ができて…孫が生まれていたかもしれない。

2019/10/20

知能制限モノ

とある家の一部屋。

「ミサ」と書かれたネームプレート。
その部屋の主である少女はいま、頭を悩ませていた。

ローテーブルに座った彼女の正面にいるのは「リミ」。
クラス1…いや学校1の問題児といっても過言ではない不良な少女。
制服の前はブラジャーが見えるほどにだらしなく開け放たれ、スカートは下着を隠す気がないほどに短い。

「リミ…さん。その、勉強を教えてくれないと困るんだけど」
「えー…。もうそのままでよくない?めんどくせー」
「い、いいわけないでしょ!」

ミサは全国模試でも名前が出るほどに勉強のできる少女だった。
…昨日までは。
今、少女の目の前に置かれている本は「さんすう」とひらがなで大きく書かれた小学校に入学したばかりの子供が使うような、文字が大きく簡単な数字しか書かれていない教科書だった。

「あなたが教えてくれないと私がおぼえられないの知ってるでしょ」
「知ってるよ。教育実習課題の子供の立場になれるか、というやつだろ?」
「そうよ…」

子供がなにがわからないのかを根本から把握するのは難しい。
だが、新しい技術がそれを身を以て体験することができるようになったのだ。
将来教師や保育士になりたいと思う人は必須になっている課題だ。

ミサの首に巻き付いている小さな首輪。
細い線のようにしか見えないソレは、ミサの見た目や思考はそのままに、知能レベルだけを一定の年齢程度までに制限できるのだ。

ミサの設定ではいま6歳…小学生に入る直前の知能レベルになってしまっている。
この首輪をつけた途端、ミサの頭の中には濃い霧がかかったかのように物事が考えにくくなった。
そして「人に教えられた事」だけがその霧を晴らすことができるのだ。
自分でどれだけ本を読もうと、自習をしようとわからないものはその場では理解できても数分後にはまた学習前に戻ってしまうのだ。

その教育する立場として指定されたのが、この問題児リミであった。
初日にさっそく勉強しようとしているのだが、リミにはまったくその気がないように見える。

「明日、学校にいったときにこまるっていってるでしょ…」

ミサのベッドを勝手に使って横になっているリミ。

「それも何回も聞いたよ。この土日での途中発表だろ?同じ課題を受けてる他の子と一緒に」
「そうよ…このままじゃ私」

なにもできないまま学校へ出向く羽目になってしまう。

「っていってもなあ。私、九九も怪しいからなあ」
「ここにあるのは簡単な足し算なんですけど!」

大きな文字で書かれている数字は一桁と一桁の足し算。
今のミサはこの問題は指を使わなければ解くことができない。

「簡単なら自分でできるだろ?」
「それは…その…」

両手の指でできる分には問題がない。
だがそれを超える、繰り上がりが出てくると途端に解けなくなってしまう。

「昨日まで全国トップレベルだったヤツとは思えないアホっぷりだな」
「ち、違います。これはこの首輪のせいで」

不思議なことにこの足し算のやり方がすっぽりと抜け落ちてしまっている。
昨日まで培ってきたすべての知識が封印されたせいで、何をとっかかりにとけばいいのかすらわからないのだ。

「えーと、なんだよ。6+7…?」
「え、ええ。ろくと・・・7だから…」

指を折っていくと10になったところでピタリと止まってしまう。
…つぎはどうするんだっけ?

「10になったらとりあえずその10を紙に書いておけばいいんじゃないのか?」

リミのその言葉により、霧がわずかだけ晴れた気がした。
教科書のとなりに10,と書く。

「ごー…ろく、なな…」

残りの指を折る。
3だ。
つまり…

「じゅうさん!」

ノートにおおきく13、と書く。

「つぎよ、つぎ!」
「もういいだろ…?みんなそれぐらいだって」

そういうとリミはめんどくさそうに立ち上がりかばんを持って帰ってしまった。

「そんな…」

結局土日でミサが解けるようになったのは一桁+一桁の足し算だけだった。

---

リミは学校へ来ていない。
いや、むしろ週末に私の家にきてくれた事自体が奇跡だったのかもしれないけど。
途中経過の確認で、私は散々たる結果となった。

同じ体験をしている子達はみな、足し算は当たり前にできていて、早い子はすでに九九まで終わらせていた。
自分の名前の漢字や、住所などかけるようになっている子も多く、ひらがなすら満足にかけない私は最下位といっていいほどの進捗だった。

「では今日は小学1年生のクラス風景をロール・プレイしてみましょう」

首輪を外されること無く、私はそのままクラスメイト達と一緒に小学1年生の授業を受けることとなった。

(く…屈辱だわ)

授業についていけない、なんてことは1度もなかったミサにとって、理解できないまま進んでいく授業(しかも内容は初歩の初歩だというのに)が苦痛でしかなかった。

「ミサさん…あなたちゃんとこの課題をやる気があるんですか?」

教師が呆れた顔でこちらを見てくる。

「いや…ちがうんです。リミさんが…その」

教師役がサボタージュしているのだ。自分ではどうにもできない以上私に責任を求められても困る。

「リミさんだって立候補してあなたの教師役になってくれたんですよ?あなたが教えてほしいという熱意が足りないんじゃないですか?」」

え、リミが…立候補?
そんな馬鹿な。あんなに教える気がないというのに?

「そ、そんな。彼女は…」
「もう。今日1日で取り戻せるとは思ってないけど、課題は1ヶ月続くんですよ。少しでも追いつくように教えてもらいなさい」
「は…はい」

教師にされたことがない顔をされて、ミサの顔は赤くなった。


家に帰ると、当然のようにリミが部屋にいた。

「…学校に来なさいよ、あなた」
「いいじゃん別に。行ったら教師にお小言されそうだし」
「…わかってるじゃない。なおさら来なさいよ」

あなたのせいで今日1日みじめだったのよ、という言葉を飲み込む。
あまりここでリミを責めても仕方がない。なるべく機嫌を損ねずに勉強を教えてもらうしかないのだ。

「だ…だから。今日はちゃんと教えて?あなた、立候補したんでしょ?」
「ん?ああ、そうだね」

立候補しましたけどそれがなにか?という返事。

「進んでなってくれたんだから、ちゃんと勉強を教えてくれてもいいじゃない」
「あはは、嫌よ」

へ?…いまなんと?

「私がこのまま1ヶ月、何も教えなかったらどうなるかなーと思って」
「な…な…」

冗談じゃない。1ヶ月、まともな計算もできないまま、漢字もかけないまま過ごすなんて。
いや、学校の成績もそうだが、日常生活にも支障をきたす。

「普通にやってた1ヶ月で元の年齢程度まで学習できるんだっけ?課題の最後の方、楽しみだよな。みんなが高校生の知識レベルまで戻っているのに。本当なら一番優等生だったミサが落ちこぼれって」
「何を言ってるの。そんなこと許されるわけ無いでしょ。…このまま何もしないっていうのなら今から先生に言って担当を変えてもらうわ…」
「あはは。交代はできないわよ。私に教えてもらったことしか知識レベルが戻らないような設定をしてしまっていて、それは変えられないもの」

そういえば首輪をつけるときにそんなことを言われた気がする。
そのせいで今日の学校でのロールプレイ中、学んだはずの算数や漢字は頭の中の深い霧の中に埋もれてしまっていっている。

「まあ、さすがに何もやってないと強制的に変えられちゃうかもしれないから。少しずつ教えてやるよ。そうだな。今日は名前の漢字を教えてやるよ。1文字だけな」

2019/10/16

短編 無防備魔法少女

この世界に魔法少女は多く存在する。

その可愛らしくも美しい少女たちは、人類を脅かす魔人達を倒し平和をもたらす力でもあり、象徴でもあった。

2019/10/01

10月の支援作品です。

10月の支援作品です。

久しぶりにTSFではないお話となりました。
真面目な少女の容姿や口調が無様に変化させられ、最終的に怪しげな不思議器具まで取り付けられてしまうそんなお話です。

人気次第では後日談書きたい、と思ってます。
以下少しサンプル

ーーー

「…目を見てください。目」
「……目?それがいったいなんだって…ひっ」

一瞬見えたその恐ろしい光景に鏡を落としそうになる。
見慣れた自分の目。その中にある瞳孔。
その瞳孔が見慣れた黒ではなく、ピンク色に変わっていたのだった。
それだけではない。ほぼ円であるはずのその形は少しひしゃげてまるでハートマークのように変形していた。

「両目にハートをあしらってみましたっ」
「え……?なにこれ。こ、コンタクト?」

あはは、と無邪気に笑う佐伯さん。

「やだなあ、そんなチャッチな物を願うわけないじゃないですか。正真正銘、真壁さんの瞳孔が変化したんですよ。これなら持ち帰れるし、ずっとそのハートマークをつけて生活していくことができますね。あ、感情が高ぶれば高ぶるほど、瞳孔のピンク色は鮮やかになっていくんですよ!すごいですよね!」

冗談じゃない。こんな漫画みたいな目。

「あと、快感を感じた時に瞳孔のハートは数倍にまで大きくなりますよ!これでセックスのときに相手が悩むことはなくなりますね!」


https://dnstory.booth.pm/items/1589061

2019/09/13

メイドロボ・インストール(完全版)

エピローグを追加して全編を載せております。


AIとロボ技術が発展した未来。
人類は生活にも仕事にも汎用型メイドロボを導入するようになった。
会社では事務作業だけでなく商品の新企画や新たな技術開発に、家庭でも家事育児はもちろん、買い物から家のかんたんな補修までこなすのだ。
政治の世界でも下手な秘書を数人雇うより1台メイドロボを導入したほうが効率が良いともっぱらの評判だ。



佐渡権蔵(さど ごんぞう)国会議員も経費を削減できると聞いて最近一台導入した政治家の1人だった。いつ口を滑らせたり、裏切ったりするかわからない人間よりよっぽどうまくやってくれるのだ。
(ま、本人はそう思ってるんでしょうけどね)
サキはメイドロボが見ている映像の中から汚職につながるであろう証拠が写ったものを探している。
もちろんこのメイドロボは外部に通信をしたり、遠隔操作するような機能は削除されている。
ではサキはどうやって見ているのか。
それはサキが所属している研究所が作った機械で自分の魂をデータとして書き出し、メイドロボの根幹OSの一部に書き込んで、メイドロボのいち機能として存在しているのだ。
証拠を見つけるたびにOS領域に隠蔽ファイルとして退避してゆく。これで万が一メイドロボのストレージ部分を消されても影響を受けないし、技術者でもよほど詳しくないと見つけることはできないだろう。
(そろそろ証拠も十分ね…じゃあ)
サキはメイドロボの右足の稼働に使用しているモーターを異常回転させる。
「な、なんだ?!」
「ERROR1201 、サーボ機構の故障です。サービスセンターーへ連絡してください」
権蔵が慌てた声を出すが、メイドロボが発した音声から故障と分かると、少しイライラした様子で連絡をする。

「あー、こりゃちょっとここでは直せないですね」
すぐに訪れたサービスマンの男が根を上げる。
「なに!修理にはどれくらいかかるんだ」
「いや研究所の設備であればすぐ直せますよ。そうですね権造先生にはお世話になってますし、明日には直して持ってきますよ」
「本当か?ならいいが…。もうこいつがいないと仕事が回らなくてな」
サービスマンはメイドロボの待機状態にし、台車に載せる。
「おっと、ちょっと待て」
そういうと権蔵はメイドロボの耳の後ろにあるスロットからストレージカードを抜き取る。
「お、すいません気が付かずに」
「修理のときにデータが消えたら困るのでな、ははは」
「はい、では修理してまいりますので」
サービスマンは台車を押し、権蔵の事務所から出ていった。


「おい、サキちゃんもういいぞ」
車に乗り込んだサービスマンが声をかける。
「ふー、ようやく開放されたわ」
助手席に座らされたメイドロボが伸びをしたかと思うと急に人間臭い動きとなる。
メイドロボのAIを待機状態にするとサキに操作権限が渡るのだ。
「意外と時間がかかったな、捜査班のやつらがやきもきしてたぞ」
「権蔵がなかなか慎重でね…最初の数ヶ月は本当に雑用ばっかりだったわ」
ようやく信用に足るとおもわれたのか、表には出せないような書類が回ってくるようになったのがここ一ヶ月の話だ。
「半年も充電クレイドルと机の往復でよく気が狂わないな」
サキは、何言ってるのよと呆れる。
「最初はほぼ私の意識は眠ってたわ。充電中に少し起動してチェックして…怪しいのが出てくるまではその繰り返し。体感では2週間ぐらい残業したような感じよ」
「なるほど、しかし普通はメイドロボに服を着せると思うんだが…」
運転をしながらちらりとサキを眺める。
「あまり興味がなかったのかケチなのか、デフォルトのままだったわね」
サキは自身の服装を指でつまみ、離す。
パチンと音を立てて肌に密着するそれは、レオタードとよばれる衣装だ。人間と同じ規格の服を使えるメイドロボは納品後に購入者が与えることが多い。
メイドロボと感覚を共有していたことはほぼなかったのであまり意識をしていなかったが、いまは少し恥ずかしい。
体重は機械なので若干重いが、身長150cmの細身の体は年頃の女性体とそんなに変わらない。皮膚もよくできた人工皮膚で、耐久性は抜群である。
ただし顔はほぼ統一されており、また耳には長いアンテナも付いているため、見ればすぐメイドロボと分かる。
(権蔵の見る目はちょっといやらしかったから…わざとね)

研究所についたサキと男は、部屋で待っていた捜査班の男たちにデータをアウトプットして渡す。
「ありがとうございます」
「いえいえ、研究資金の事よろしくお願いしますよ」
研究所の所長は今回、権蔵と地位を争う政治家に協力することでこの魂のデータ化の研究を存続させようとしている。
研究員だったサキは白羽の矢で今回メイドロボにインストールされることになったのだった。
「所長、ボーナス忘れないでくださいよ」
「おう、これで資金援助があれば問題ない、任せなさい」
「やったー、で私の身体は、どこです?」
所長がパネルを操作すると、モニタに円柱の中に浮かんだ私の身体が、映し出される。
「もちろんここにちゃんと保管しておる」
「ちょっと?!裸じゃないですか!みんなに見せないでください!」
「おっとすまんすまん」
モニタはすぐに暗くなる。
「元に戻すための準備をするか。まずは転送中にトラブルが起きるとまずいからな。サキ君その身体を充電してくれたまえ」
私は視界の隅に時計と共に表示される充電率を確認する。
事務仕事とはいえ、さすがに夕方となると残り30%まで低下している。
「そうですね、フル充電まで3時間32分かかるみたいです」
メイドロボに用意されたAPIから正確な充電時間を取得する。
「よし、では20時に元に戻す作業とするぞ」
もとの体に戻って、メイドロボを元のOSに戻して権蔵に返してこの件はお終いだ。権蔵の議員生命もその時に終わるのだろう。
「はーい」
私は部屋の隅に用意された充電クレードルに立つ。
(この充電の位置が嫌なのよね)
肩甲骨付近ぐらいの高さにつけられた電極に背中を合わせるとをつけると小さくカチッと音がする。
しばらくするとクレードルの背面からお尻に向かって一本の管が伸び、人間で言うお尻の穴に差し込まれる。
(排泄部分が必要ないとは言え、ここにつけることはないでしょうに)
充電中、と大きく目の前に表示されたのを確認して、サキはサスペンドモードに入り、意識を眠らせた。
数時間後には人間の体に戻れることを夢見て。

サキはおよそ3時間の充電の後目覚めた、はずだった。
(あら?)
なぜか充電クレードルの扉が締められれ、ロックされている。
輸送時や長期保管のための機構ではある扉は、普段は閉じられないものだ。
カプセルのような中に閉じ込められている形となっている。
(まあ、内部から開けることは可能だけど…)
短距離無線通信モジュールを起動し、扉の解除を行う。
特に問題もなく、プシューという排気音と共に扉が開く。

研究所の明かりは落とされていた。
もしかして、なにか問題があって作業は延期となったのだろうか。
そうだとしたら自分に一言もないのはちょっとひどいのではないか。
そう思いながら、ふと現在時刻を確認し驚愕する。
(え、24時間も経ってる…?)
表示された日付は、自身が回収されクレードルに入った日から1日たった20時であった。
タイマー設定を間違えたのだろうか、いやそれでも所長達が外部から起動するはずだ。
(何かあったのね)
部屋の照明のスイッチを通信から起動させる。
「なっ…」
整理整頓されていた部屋は一変していた。
書類はあたりに散らばり、棚のガラスはことごとく粉砕されている。部屋の壁には弾痕、そして-
(血痕…)
サキは振り返り、自身が入っていたクレードルを確認する。
(…扉をこじ開けようとした後があるわね)
どうやら私が充電クレードルに入った後、なにやら事件があったようだ…。
恐らく研究所員が私を守ろうとクレードルの扉をロックしたのだろう。
研究所の研究対象であったメイドロボは、トップシークレット扱いのため、このクレードルは盗難防止も兼ねていた。外部からの強い衝撃から守られ、クレードル自体も徹底的に固定されているため、私はトラブルに巻き込まれずに済んだようだ。
…果たして所長達は無事なのだろうか、この血痕がそうでなければいいのだが。
「っていうか…!私の身体は大丈夫なんでしょうね…!?」
そうだった。今、自分は機械の身体なのだ。
もし襲撃のときに元の身体に危害が加えられていたら…。
考えたくない予想に寒さを感じることのない身体がブルっと震える。

落ち着いて研究所のネットワークが生きていることを確認する。
研究所自体が強固なセキュリティで構築されており、停電時でも解錠ができないゾーンが存在する。身体もそのゾーンの奥深くに置かれていたはず。
セキュリティコンソールを呼び出し、扉のステータスと解錠ログを取得する。
(ステータスオンライン、解錠ログは試行規定回数に達してマスターロック中。解錠の形跡はナシと。セキュリティカメラは全てオフライン…破壊されてるみたいね)
どうやら侵入しようとした輩は居たようだが、解錠はされていないようだ。
とはいえカメラは破壊されてしまっており、研究所内の現在の状況は未だ不明だ。
(ひとまずは私の身体の無事を確認して、もとに戻らないと)
あれから1日、すでに所内に侵入者はいない可能性があるが、もしいた場合、この身体では対処するすべがない。OSに根本から設定されている「人間への攻撃の禁止」があるからだ。私の意識データはメイドロボOSに追記する形で書きこまれており、その制限から逃れることは出来ない。
(あった…!私の身体は無事!)
侵入の手が及んでいない地下カメラへアクセスし、私の身体を発見する。
帰ってきたときに見たときのまま、液体に満たされたガラスの筒の中に浮かんでいる。
私は研究室の扉から外の確認し、人の気配がないことを確認する。
「では地下室へいきますか…!」

荒らされて物が倒れ、散乱している廊下を辿り、細い階段を降りる。
地下の研究室へ通じる扉はやはりこじ開けようとしたあとがあり、塗装が剥げ、大量の引っかき傷が刻まれていた。
私は30桁のマスターコードを入力し、扉を解錠する。
「ふう、どうやら元に戻す機械も無事みたいね」
ガラス越しに見る自身の身体に異常は見られない。モニターのバイタル監視も正常である。

「やれやれ、ようやく目覚めてくれたか」
低い声が部屋の入口から聞こえ、私ははっと振り向く。
「…権蔵!」
そこには半年間調査をしていた対象…政治家の佐渡権蔵が立っていた。
地下室を再度マスターロックしなかったことに悔み、歯噛みする。
「あなたが研究所を襲ったのね…」
「いかにも。表に出せない仕事を任せてから少しして故障。まあ政治家であるなら怪しまないやつはいない。とはいえ…今回は間に合わんかったのだがね」
そう、汚職に関する情報は戻ってきてすぐにパトロンである政治家へと渡っている。恐らく検察の手にも渡り、捜査の手が及ぶのも時間の問題、となっているだろう。
「…とはいえやられっぱなしでは私も終われないからね、研究所を訪問させてお礼をさせてもらったよ」
手で銃の形をつくり、バーンと撃つ仕草をする権蔵。
そして権蔵は視線を奥にある私の身体へと向ける。
「ここはずいぶん面白いことを研究していたようだね。魂、意識のデータ化…そしてOSへの書き込み…なるほど、セキュリティスキャンをすり抜けるわけだ」
「…で、この機械を奪いに来たのかしら」
「ふふ、機械自体には興味が無いよ、俺はもうすぐ逮捕されるからな、持っていってもしょうがない」
興味があるのは…と視線を再度奥へ向ける権蔵。
「君の身体だよ」
「…どういうこと?意識のない身体をいたぶるのが趣味なのかしら」
「ははは、そんなことはしないさ。ただ、俺を失職させて、刑務所にぶち込むような真似をしてくれた人物に興味があっただけさ」
「そう…」
私は部屋のドアロックが生きていることを確認する。
"攻撃"に値しない程度に突き飛ばし、部屋から追い出す。これが恐らく残された唯一の作戦だ。
「しかしこう暗くてはよく見えんな…」
権蔵が部屋の明かりのスイッチを押そうと私から視線を外した瞬間を狙って私はダッシュしようとする-が。
「おい、明かりはどこだ」
『ライトを点灯します』
私の口が勝手に言葉を発する。
そして通信モジュールから部屋の明かりをつけてしまう。
(…!しまった、マスター権限が)
半年前、納品された段階で行われたマスター認証で、佐渡権蔵をマスターとして登録している。
本来であれば研究所に戻った段階で解除しておくべきだったが、悔やんでもも遅い。
私と並列で稼働しているAIが命令を実行してしまう。

権蔵はにやりと笑う。
「やはりまだ私がマスターのままのようだな、これは手間が省けたわい。おい…動くな。そこに立て」
全身に一瞬だけ振動が走ったかと思うと、駆け出そうとした姿勢を解除し、ピシっと直立し、身体が一切動かなくなった。
(う、動けない…)
まるで身体が硬い殻に閉じ込められてしまったかのように硬直してしまう。
「この研究に書かれた内容が事実だとすれば、俺は逃げることができる。罪に問われるのはこの佐渡権蔵ではなく、佐渡権蔵の身体なのだからな」
権蔵は書類を投げ捨てる。
「だが、残念なことに若い奴らが研究所の所員をみなやっちまった。扉をあけることも、恐らくこの機械を動かすこともできなくて焦っていたんだ。あと数日もすれば俺の居場所もバレるだろうし、そうしたら俺は破滅が確実だからな。望みはあのカプセルに入っていたお前だけだったんだよ、お前が動き出し、元の身体に戻ろうとするのを待っていた」
「あなたが、この汎用メイドロボの機体に入ると…?」
「まさか、何故俺がそんなロボットの身体を使わねばならんのだ」
権蔵が高笑いする。
「お前はどうやってあの身体に戻るつもりだったんだ?」
「OS領域から意識部分を分離、コンバーターで復元し脳へ書き込みを…」
喋りたくないのに、AIがペラペラと情報を発してしまう。
「それだ、それはつまり」
権蔵はにやりと笑う。
「俺の意識を、あの身体に書き込むことも可能、なんだろう?」
権蔵は親指で指さす先には私の身体。
「……まさか、私を乗っ取るつもりなの」
「俺の人生を台無しにしたんだ、それぐらいいだろう。おい、装置を稼働させろ。俺の意識を書き出して、あの女に書き込むんだ」
「や、やめて…!機械を経由しない、生身の身体から身体への書き込みはまだ研究すら…!」
直立していた身体が勝手に歩き出す。
全身に力を入れて踏ん張るが、それ以上の力で身体は端末の前まで移動してしまう。
「その座席に座り、頭にヘッドセットを装着してください」
権蔵は言われるまま椅子に座り、読み出し装置を装着する。
「オートパイロット正常に稼働しました。書き出しから転送までおよそ1時間となります、よろしいですか」
「問題ない、さっさとやれ」
「では開始します」
自分の身体に権蔵に明け渡す処置を設定していくメイドロボを止めることができない。
(やめて、とめて!ううう、だめ、命令が強すぎる…!)
私の手はスタートボタンをあっけなく押してしまう。
その後、転送が終わるまでの1時間、私はそのままの姿勢で立ち続けた。

---

若くして政治の道へ踏み込み、気がつけばもうすぐ50という歳。
自身の政策の遂行する為に少しでも良い地位を奪い合う弱肉強食、魑魅魍魎の世界を生き抜いてきた。勝ち抜くためには世間には言えないようなこともやらなければいけない。
1つの汚点を隠すために2つ、3つと表には出せないことが増えていく。
この件が明るみに出なければあと数年で大臣、ということもあったかもしれない。
だがその闘いに俺は負けたのだ。

異変に気がついたのは、俺が再度サポートに問い合わせようとしたのがきっかけだ。
その時は単純に明日の何時に来るのか、確認をしようとしただけだったのだが。
サービスマンを呼ぶ時、メイドロボが繰り返し発声していた番号へかけたのだが、改めて自身で調べてみれば、サイトにはそれとは異なる番号が記載されていたのだ。嫌な予感は当たるもので、そこへかけてみれば"そんな修理対応は受けていない"とコールセンターからは回答された。
慌てて履歴に残っていた番号や、事務所内の監視カメラ映像から偽サービスマンの車のナンバーを割り出し、所属を突き止める。
そいつの所属研究所は、何かと意見が衝突する政治家が関与している施設だった。
俺は天を仰いだ。恐らく証拠となりうるデータはすべて渡ってしまったと見てよいだろう。
長い間やってきた政治家の終わりなんてあっけないのだ。

自暴自棄になったわけではないが、タダでは終わらせるものか、と思った。
表には出せないことの1つである裏の連中共を率いて、研究所を襲撃させた。
ヤツにとっては失っても痛くも痒くない研究所だろうと思っていたが、研究内容をみて俺は驚いた。意識のデータ化、これはつまり不老不死を目指す研究ではないか。そしてある程度カタチになっている。
かき集めたレポートによれば不老不死にはまだ課題があるようだが、データ化、そして機械へのインストールは現段階で可能、と書かれている。そして読み進めていくうちに実験の一環と、上からの命令を兼ねて、あのメイドロボに人間の意識を埋め込んでいたことを知る。そしてその人間の身体がこの研究所に保管されていること、そして元に戻るための手段は既に確立していることも。俺は悔やむ。重要区画はロックされたまま、その操作をできる所員達はすでにこの世にはいない。
いや、だが1つだけ可能性があった。所長だった男がロックしたと思われるカプセルだ。
連中にこじ開けさせてもどうしても開かなかったカプセルには恐らく、あのメイドロボがいる。
恐らく、意識を元の人間に戻していない可能性が高い。
俺の考えが正しければ、俺は残りの人生を刑務所で過ごさなくても済む。
そう、この老いた身体を捨て、新しい身体に移ることができるかもしれないのだ。
…まあ、中に入っていたのが女の意識だとは思いもしなかったが。


真っ暗だった視界に弱い光を感じる。
徐々に、自分が水の中に漂っている、ということも感覚で分かってくる。
あの後俺は、メイドロボに機械を操作させたはずだ、成功したのだろうか…?
ピーという電子音と共にゴボゴボゴボと液体が排出され始める。
液体の代わりに自身の両足で身体を支える。
浮力を失い、水から出たにも関わらずその身体はやけに軽く、それでいて力強さを感じた。
俺はこの段階で賭けに勝ったのだと確信した。
胸には大きな異物と重さを感じる。男のときにはなかったモノだろうと想像がつく。
チューブ越しでしか見ていないが、なかなかの大きさだったことを思い出す。
薄っすらと、恐る恐る目を開け、俺は自分がチューブの中にいることを確認する。
チューブ内から見る研究所内は薄暗く、オペレーティングルームの様子もよくわからないが、そこにはあのスイッチを押したメイドロボが待機しているはずだ。
両手を目の前に持ってくる。
白く、細い腕、そしてしなやかな手、指。
男の時のような毛むくじゃらな手はそこにはなく、若い女の手がそこにはある。
視線を下に向ける。
そこには大きな2つの山が、床への視界を遮るように存在していた。
(ほほう、これは…)
その山を、それぞれの手で触れてみる。
乳房を見下ろすという視界、女性の手で触る感触、自身の膨らみがさわられる感触、すべてが新鮮で、いままでに体験したことがないものであった。
乳房が自身の下半身を遮ってしまうので、身体を捻って見てみる。
腰の細いくびれや、そして女性らしい丸みをもった大きなお尻、太腿、長い足。
若干、お腹に肉がついてぽっこりしているのも、逆に愛嬌がある。
そして股間には元の身体ではあるべきだったモノはない。
年老いた男の身体と全く違うその容姿を、自身の目と手で堪能する。
「んっ…」
思わず高い声が自身から漏れる。
そうか、これが俺の今の声なのだ。
(ふむ…男の身体ではないことに最初は気に食わなかったが…若い女の身体というのもなかなかよいではないか)
そう、そもそもまた政治家をやる必要などないのだ。
政治家時代に築いた地盤や地位は失ってしまうが、稼いだ金や資産の一部は隠してある。
この身体は若さ…生命力が満ち溢れているのだ、残りの人生、この身体で過ごすのも悪くはないのではないだろうか。
俺は裸のまま、オペレーティングルームへと足をすすめる。
「それに…」
俺の接近に気がついたメイドロボはスイッチを押したままの姿勢を解除し、こちらへ向き直る。
「ここに俺の世話をしてくれそうなメイドロボがいるしなぁ?」

「おい」
待機姿勢を取り続ける少女型のメイドロボに話しかける。
「はい、なにか御用でしょうか」
「お前のマスターは誰だ?」
「佐渡権蔵様、あなた様でございます」
なかなか賢いな。AIでも、目の前で起きた現象を把握できるものなのだろうか。
「いいえ、本AIでは本事象を判断し、ササノサキの身体へマスターが移っていることを判断することはできませんでした」
「では、なぜお前は判断できたんだ?」
「本機には、人間の意識がOSの一機能として組み込まれており、物事把握、判断にサブシステムとして利用可能です」
なるほど、このメイドロボの中にいる女の意識が、入れ替わりを判断したからAIもそれに従ったということか。
「ありがとうよ、サキちゃん」
「…」
メイドロボは反応しない。
おもしろくない。俺はメイドロボに命令を下す。
「首より上のセンサー系の優先権をサキへ回すんだ」
「了解しました」
一瞬の停止とともに、無機質だったメイドロボの顔が、キッとこちらを睨む表情に変わる。
「…あなた、なんてことを…!」
「なんてことを、とはこちらのセリフだ。俺の政治家人生をめちゃくちゃにしたのは君だろ。代償として君の身体をもらうよ」
「悪いことをしてたのはあなたでしょ!…くぅ、なんで身体が一切動かないの…!」
必死な顔をして自身の身体を動かそうとしているようだが、手を前にして待機状態の姿勢からぴくりとも動かない。
「君を廃棄するか、連れて行くかは迷っていたんだが…」
びくっ、とメイドロボの顔が一瞬恐怖で引きつる。
「…そんなの、いや。お願い、もとに戻して…」
「嫌だね、俺はそこのくたびれた身体に戻る気はさらさらない。ましてやメイドロボにもな。君があの身体に入りたい、というのなら考えてやってもいいが」
俺は元の身体を指差す。まだまだ若い、とは思っていたが、客観的に見ればシワも多く、皮膚もカサカサ、髪の毛も薄い。50という歳を感じられる身体だ。
20代、ピーク真っ只中のこの身体と比べれば、どれだけ老いていたのかが分かる。
「…」
「まあそれは後でいい、とりあえず服を持ってきてくれ。あのチューブに入る前に着ていたのがあるだろう?」
『命令受領しました。衣類の場所をサブシステムサキからロードしました』
口ではないところから、音声が発せられた。メイドロボの外部スピーカーだろうか。
「な、なんで私がそんな、ちょっと、勝手に…」
微動だにしなかった姿勢から一転、きびきびと部屋の奥へ歩いて行った。

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

なんてこと、まさかあの男が私の身体を…。
私の意識とは関係なく、私の身体はロッカールームから自身の衣服を取り出し始める。
身体を動かしている感覚、手に衣服が触れる感触、それらはあたかも自分であるかのように感じられるが、一切自身の意思が反映されることはない。
歩みを止めようとしても、衣服を振り払おうとしても身体は意思に従わない。
微動だにせず、淡々と命令をこなしているだけだ。

このメイドロボに搭載されているAIは私の意識を判断に組み込んでいるらしい。
先程の音声から把握するに、マスター権限の判断も私の衣服の所在も、私の意識を読み取っているようだ。
まだ発展途上の研究の弊害…というかまさかこんな状況になるなんて想像できるわけがない。

一般に、AIには学習が必要である。
学習には、情報と正解を与える。
AIはその情報を元に膨大な試行回数を繰り返し、正解にいちばん近い結果をだした行動を覚え、実行するのだ。
故にAIに正解が与えられていない場合、AIは判断を正常にすることができない。AIが正解を自ずから予想することは難しい。
"扉に鍵がかかっていて、床に鍵が落ちている"
これは人間であれば経験から何をすればよいか分かるが、「扉を開ける」という正解が与えられていないAIは何も出来ない。似たような、例えば「窓を開ける」学習をしていれば可能かもしれない…人間であればそれは「経験」と呼ばれるものだ。
それをAIが簡単に利用できるとなれば…。「正解」は人間の意識から取れる、となれば。
(人類が夢見たAIが何でもこなせる世界が…。でも人間の意識を閉じ込めるなんてそんな)
この研究所は不老不死の研究をしていたはずが、恐ろしい物を作り出していたのではないだろうか。もはや真相は定かではないが。
…だが、どれだけ考えても、今の私にはもうどうにもできない。
今、『私の身体』は女性の衣服、下着を抱え、"私の身体"の元へと運んでいる。
私ができるのは考えることだけ。
どうやったら、自分の身体に戻ることができるか、である。

裸のまま、コントロールルームの中に立っている女性に服を差し出す。
「着せてくれ、女ものの服は着方がわからん」
『かしこまりました。着用方法をサブシステムサキからロードします』
「…」
"私の身体"に下着、ブラジャーをテキパキと着けていく。
「さっきから黙り込んでるな、もとに戻る算段でも練っているところか?」
「…」
この身体では自由に動けない。
直接元の身体へ戻るのは不可能だろう、権蔵は絶対にそれを良しとしない。
自由に動く身体…。視線をちらりと部屋の隅へやる。
そこにはヘッドセットをつけたまま床に倒れ込んだ男、権蔵の身体がある。
(嫌だけどあの体に入れば…私の身体を押さえつけて…)

「ふう、女の服ってのは窮屈なんだな」
白いブラウスに上下合わせたスーツ、タイトスカートを身に着けた私がそこにいる。
着替えさせが終わった私の身体は、再び手をヘソのあたりで重ね、待機状態へ移行する。
「しかもこのスカートとやらはほとんど足がひらけないじゃないか、歩きづらくて仕方ない」
がに股気味に足を開き、スカートの裾をどうにか伸ばせないかしている権蔵。
自身の身体が情けない、慎みの欠片もない体勢を取っているのを見ていることだけしかできず、悔しさだけが募る。
私は権蔵の身体に戻してくれ、と頼もうとする。
「あ、あの…そこの身体に…」
「ああん?身体…?ああ、人間の身体に戻りたいのか?」
「え、ええ!そう、そうです」
「さっきから考えていたんだが…君の意識を利用することで他のメイドロボより有利となれば、捨て置くには勿体ないと思わないかね」
ニヤリ、と私の顔が腹黒さを感じられる微笑みを作る。
権蔵は室内に置いてあるガラス器具を手に取ると、座り込んだままの男の体に向けて振り下ろす。
パリン!という大きな音とともにガラスが砕け散り、男の身体から赤い血がドクドクと流れ出す。
「な、なにを-…!」
「研究所からの連絡がなくなって1日、あの野郎がどんな馬鹿であってもここに何かがあったとバレているころだ。」
再び実験器具を手に取るとバキッと男の顔へ振り下ろす。
「だが、レポートを見る限り、お前がメイドロボに入っていることはここの研究所所員しかしらない、そしてその生き残りは…お前しかいない」
バキッっと再び振り下ろされる。
「佐野権蔵は恨みをもってこの研究所を襲い、暴れまわり、皆殺しにした。そして研究所には火を放ち、自殺。研究所所員は全員行方不明、研究内容も装置も焼失。その後、近くの建物に閉じ込められていた女性所員1名だけが救出…どうだろうか」
「そんな、もとに戻して…あやまります、お願い…」
「顔の制御権をAIに戻せ」
『了解』
顔が一瞬こわばると、無表情へ移行する。
私は視線を動かすことも、喋ることもできなくなる。

「で、さっき言ったことはできるのか」
『命令受領…エラー、建造物内に生命反応あり、本機体は人間へ危害を加える事を禁止されています』
「あん?ああ、この身体まだ生きてるのか」
権蔵は部屋に設置してある消化器を持ち上げ、頭へドスンと落とした。
グシャリ、という音とと共に床に血溜まりが出来る。
『実行可能、建造物内に生命反応なし』
「よし。火を放った後、お前も建物から離れてサスペンドモードへ移行しろ、俺が来るまでな」
『命令受領、では権造様、倉庫の方へ移動願います』
「ああ、もう1つ命令だ」
『なんでしょうか』
「俺のことは権蔵と呼ばず、身体の名前でよべ。えーと…ササノ、サキだったか」
『命令受領、今後マスターのことはサキ様とお呼びします。ではサキ様、倉庫の方へ』

夜の22時。明かりのない研究所から1体のメイドロボと、1人の女が出ていった。

---

あれから3年。
山奥の研究所で起きた事件は新聞の片隅に「製薬会社所有の研究所の事故」と「政治家、佐渡権蔵の死」いう大きな見出しで取り上げられたものの、それ以上深く報道されることもなく、あっという間に世間の記憶からは忘れ去られた。

 「お、おい…俺をどうするつもりだ!?」

とある一室。
質のいいスーツを着た中年の男がカプセルの中からドンドンと叩く。カプセルから繋がれたケーブルは無機質なメイドロボに接続されている。

「サキ様。A0025号機にAI意識の書き込みを行いました」

モニタの前で作業をしていた女性が、後ろの方でふんぞり返って座っている女性に報告する。

「よし、では書き換えを開始する。A0001。作業を開始しろ」
「了解しました」

A0001、と呼ばれた女性は無表情なままキーボードを叩き始める。

「あっ、がっ…」

カプセルの中の男が一瞬苦しんだかと思うと、ぐったりと脱力する。
その数秒後、意識を取り戻したといった感じで目を開けた。

「A0025、人間体への書き込みに成功しました。またメイドロボ体にも意識の書き込みが成功しています」
「よし…。A0025。お前は今日から政治家石渡だ。いいな」

先程まで抵抗していたはずの男は、うやうやしく頭を下げる。

「はい、かしこまりました…サキ様」

サキの身体を奪った権蔵だが、その引き換えに失ったものはそれまでの政治家としての地位であった。

保険金や補償でサキとして生きていくに困らないだけの蓄えがあったが権蔵はそのまま隠居の道を選びたくはなかった。それは自分を貶めたあの男に敗北したことを意味するからだ。だが政治というものに縁がなかったサキという人間では政治家として返り咲くには、時間も労力もかかる。
権蔵は研究所から持ち去った技術資料と、メイドロボ…この身体の本来の持ち主であるサキが持っている知識を利用して復讐を企んだのだった。

まずはメイドロボを製造し、そのメイドロボに権力者たちの意識を閉じ込める。そして空いた身体にはサキに作らせた人間の脳に書き込めるAIモジュールをインストールすれば権蔵の手足となった政治家の完成だ。

サキと同型のA0002号を作成し、はじめに犠牲になったのは、権蔵をあの憎き政治家であった。そして次々とその派閥にいた政治家も同じように入れ替えていき、20名ほどいた敵対者たちを、権蔵の意思のままに動く物にすげ替えることに成功したのだった。

政治家を閉じ込めたメイドロボは、元の自分の身体の秘書として働かせている。いい気味だ。
権蔵は表舞台に自ら立つことなく、この国を制圧しつつあったのだった。

「A0001」
「はい、サキ様」

権蔵は作業をしていたA0001…サキを閉じ込めているメイドロボを呼ぶ。
この3年で大分酷使しすぎたのか、可動部からモーターやサーボの音や金属が擦れ、軋む音が聞こえるようになってきた。
最新型と比べれば機能も少なく、バッテリー稼働時間もいまいちだ。

「今日から俺の世話はA0025に任せる。今までご苦労だった」

ぴしっと姿勢よく立っていたメイドロボの手がピクっっと動いた気がした。

「そうですか。サキ様。いままでありがとうございました」

ギギッと少し錆びつかせた音を関節から発生させながら、深々とお礼をこちらにしてくる。
くくっと権蔵が下品な笑いを漏らす。
これから捨てられるというのに、律儀なことだ。

サキの知識部分はすでに移植が完了しており、新しいA0025はサキの人格なしでその知識が利用可能となっている。
そもそもこの3年で技術レベルも大幅に更新され、その知識が重宝されることはもはやない。

「サキの人格をロード。いろいろ役に立ったからな。最後に望みを聞いてやろう。お前はどうなりたい」

サキの人格を表に出してもメイドロボの表情は変わらない。
3年も自分の意思で動けず、自分の身体を世話し続ける光景を眺めさせられれば、その心が壊れるのも当然か。

「…もどして、もどして、もどして…もどして…」
「ふん、つまらん。これじゃあどちらが機械かわからんな」

"もどして"としか言わない人形に興味がなくなったのか、権蔵は電話をかける。
その数分後、A0001は数人の男たちによって電源をオフにされ、外へ運ばれていったのだった。

---

10年後。

工事をしている道路の先にキィッ、キィッっと軋んだ音をたてながら黄色に光る棒を持って右手を振り続けている古びたロボットがそこにいた。かつてA0001と呼ばれたメイドロボだ。
その中にサキ、という女性の意識が閉じ込められていることなど誰も気が付かなかった。

左腕は何かが勢いよくぶつかったような跡があり、腕の途中からケーブルや骨格がむき出しになったままぶら下がっている。
バランサーが壊れて、まともに立てなくなった脚はすでに撤去され、かわりにカカシのように柱にくくりつけられている。
声帯ユニットは何者かに剥ぎ取られてしまい、声を出すことはない。

交通安全、と書かれた薄汚れた反射材のついたベストを着たまま、無表情で手を振り続ける。
その横をびゅんびゅんと車は通り過ぎていく。

1台。
若者が乗っていた車が、前方不注意で回避が遅れた。
ガシャーン!

大きな音をたてて車のボンネットが凹む。
ロボットの頭と胴体、そして手が分解してバラバラになって空を舞う。

事故をした男が、聞こえるはずのない声を聞いたという。

「……ありがとう」と。

2019/09/08

魔法使いの姉はめんどくさがり

僕の姉は魔法使いだ。
魔法使い、という言い方が正しいかどうかはわからない。
なぜなら姉以外にこんな不思議な力が使える人を見たことはないからだ。
魔法、以外に例えようがないので僕は心のなかでそう呼んでいる。

姉の魔法があれば世界は変わるのではないか、と思う。
一瞬で他の場所へ行ったり、物を作り出したり。
1日に使える回数が決まってるのよ、とはいっているがそれでも世界はひっくり返るだろう。
だが、姉はそういうことをしない。
家族以外にその魔法の力を見せびらかすようなことをしなかったのだ。
親も平穏を望む姉の願いを叶えるためにその力に頼るようなことをしていない。

僕の姉はめんどうくさがりだ。
怠惰という言い方が正しいだろう。
彼女はなにをするにもやる気がなさそうに動く。
昔、ご飯を食べるのもめんどくさがって、直接胃に栄養分を転送させているのを見たことがある。
その姉は最近さらにその怠惰を加速させてしまったのだ。

「…姉ちゃん起きてる?」

姉の部屋の扉を開けて僕はふう、とため息をつく。
僕と姉の部屋は隣同士で、夕飯を食べ終えた僕は部屋に戻る前に姉の様子を確認するのが日課だ。

「んあ。起きてるよー」
「今日もその恰好なんだね…」
「んーこのほうが楽だしー」

ベッドの上に寝転がっているのは大きなぬいぐるみ。
姉の姿に似たそのぬいぐるみは、うつ伏せで本を読みながら不思議なことにパタパタと脚を動かしている。そして姉の声はそのぬいぐるみから聞こえている。
…そう、姉は自分の魂を、自分に似たぬいぐるみに移しているのだった。

「もう。びっくりするからやめてよ…」

僕は今でこそなれてきたが、最初はもふもふの大きなぬいぐるみが、もぞもぞと動いているのをみて腰を抜かしたものだった。
…あのときは部屋が暗かった、というのもあるが。

「えーでも。この格好だとお腹減らないし…」

そう、面倒くさがりな姉は食事すら面倒臭がる。
お腹の減らない無機物に変身して本を読み続けるのが趣味になっている。

「汚れないしー」

ぬいぐるみは汗のような分泌物は一切でない。
お風呂を面倒臭がる彼女にとってその身体は好都合なのであった。
世界を変える可能性をもっていた姉は、その力を自分の怠惰のためだけにつかっているのだった。

「トイレいかなくてすむし」

食べなければ出ない。
…そもそも排泄をするための器官をぬいぐるみは備えていないのだが。

「とはいえ…」

ちらり、と部屋の隅にまるで物のように置かれている"姉"を見る。

「自分の身体をここまでぞんざいに扱えるなんて…」

足を広げたまま壁にもたれかかり、虚ろな視線を天井に向けている"姉"の身体だ。
姉の魔法でこの身体の時は停止している。
まばたきもしなければ呼吸もしていない。
まるでマネキンのように放置されているのだった。

「んー?別にいいじゃない。自分の身体をどう扱おうと」
「そりゃそうなんだけど…」

身内の贔屓目ではあるかもしれないが、姉の容姿はかなりよい。
そんな美少女といって差し支えない姉が、身動きを一切せず物のように置かれているのは…もやもやするものがある。

「っていうか最後に戻ったのいつ?」
「えー?先月?…いやもっと前かな?忘れちゃった」

そういう僕も、この姉が最後に動いているのを見たのはいつか、正確には思い出せない。

「ほら…埃かぶり始めてるじゃん」

キレイな黒髪の上にうっすらと白い繊維のクズがたくさん。
手でぱっぱと払うとふわりと舞い上がる。

「いくら時を止めてるからってホコリとか汚れみたいなのはつくんだよ?ほら、この服もちょっと黄ばんできてる」
「んもー。うるさいなあ。我が弟くんは」

読書の邪魔をされて苛立ったのか姉は本をパタン、と閉じる。

「そんなにいうならその身体、綺麗にしといてよ」
「え?拭いたりはしてるよ?」
「いやいや、そうじゃなくて」

ぬいぐるみの手がポン、と柏手を打つような体制をとった。
目に見えない力がそこに発生したのが、なぜかわかった。

「はい、あとはよろしくー」
「え…?」

姉のぬいぐるみは再びベッドに横になって読書を再開し始めた。
いったいなにがおきたのだろうか?

ふと、僕は壁にもたれかかってる"姉"の身体を再び見た。

「ってえええ?」

"姉"の身体だったその置物は、いつもまにか別のものにすり替わっていた。
髪の毛は短いし、身長…体型は一回り小さい。
姉に似たその顔つきの人物は…

「え?僕?」

え?じゃあ今の自分は…。
ふと、隣の姿見に目をやる。
そこには久しぶりに動いている姉の姿があった。

「え?え?」
「もう、うるさい!さっさと綺麗にしてきて」

そこらじゅうから何かが飛んできて僕の顔や身体に巻き付く。
そして背中を謎の力で押されて部屋から追い出された。
床に落ちているのは姉の着替えとバスタオル。

「…まさか自分の身体を人に洗わせるなんて」

一体どこまで怠惰なんだろう。
僕はため息を付いて、着替えとタオルを拾う。
姉の部屋ドアをノックしても返事はないし、ドアは開かない。

どうやら事を済ませるまで、姉は僕の身体を人質にしているようだ。

「まったく…とんでもない姉だよ」

再び僕は深くため息を付いてバスルームをトボトボと歩き出した。

2019/09/02

特殊クエストで金属化

突如目の前に大きく表示された特別クエストの文字。

このゲームでは無数にあるクエストからランダムでプレイヤー別にクエストが配布されることがある。
レアなイベントであればもちろん報酬も特別であり、みんな優先的に消化しているものだ。

(表示されたピンはこのへんだけど…)

2019/09/01

9月の支援作品

9月の支援作品です。

多分全年齢。 
レンタルボディの設定を利用したシェアワールドストーリーですが、レンタルボディが実用化される前の研究段階でごく一部だけに利用されていた…という設定です。 

 高校生を娘にもつ父親の清彦が、とある出来事によって同じ年頃・性別のボディになってしまったら? 
そんなお話です。

以下少しサンプル